Orchestra Wives『オーケストラの妻たち』(1942年・未公開・FOX・アーチー・メイヨ)
6月19日(日)の娯楽映画研究所シアターは、ハリウッド・ミュージカル史縦断研究。全盛期のグレン・ミラー楽団をフィーチャーしたミュージカル・メロドラマ『オーケストラの妻たち』(1942年・未公開・アーチー・メイヨ)をアマプラからスクリーン投影。
『グレン・ミラー物語』(1954年・ユニバーサル・アンソニー・マン)のレビューにも書いたが、1940年代はじめ、グレン・ミラーサウンドが全米を席巻した時に、20世紀FOXと契約。グレン・ミラー・オーケストラをフィーチャーした二本の音楽映画が作られた。銀盤の女王、ソーニャ・へニーのアイススケートとミラー・サウンドのコラボ『銀嶺セレナーデ』(1941年)と、楽団の妻たちのてんやわんやを描いた『オーケストラの妻たち』(1942年)。いずれもFOXらしいミュージカルだが、なんといってもご馳走は、本物のグレン・ミラー楽団の演奏シーンがふんだん盛り込まれていること。
また、黒人タップダンサー兄弟、ニコラス・ブラザースの超絶タップがクライマックスのアトラクションとして登場するのも共通している。RCAレコードでビッグヒットを飛ばし、スイング・ジャズ、ビッグ・バンド時代を牽引していたグレン・ミラーの動く姿は、貴重な映像の記録となっている。
前作は他愛のない恋のさやあてを描いたものだったが、こちらは「ジャズマンの妻たち」の確執、嫉妬、喧嘩、そしてそれが原因でバンドが絶体絶命の危機に陥る。わりとシリアスなメロドラマで、ジョージ・キューカーの”The Women”『ザ・ウィメン』(1939年・未・MGM)を多分に意識しての「妻たちの不満」をテーマにした異色作でもある。
『グレン・ミラー物語』が製作された1954年、FOXは本作をリバイバル公開、大ヒット。改めてグレン・ミラー・サウンドが再注目された。本作では、ヒロインのアン・ラザフォードのボーイフレンド役で冒頭と後半に、ソーダファウンテンの男の子が登場する。このカリー・アンダーソンを演じているハリー・モーガンは、のちにヘンリー・モーガンと改名。『グレン・ミラー物語』では、グレン(ジェームズ・スチュワート)の親友のピアニスト、チャーミーを演じている。なので立て続けに観ると不思議な気分になる。
とにかくトップシーンからグレン・ミラーのあの曲、このフレーズが次々と演奏されて、眺めているだけでも至福。タイトルバックのオープニングは、グレン・ミラーの1939年のブレイクのきっかけとなった「ムーンライト・セレナーデ」。
新曲は『銀嶺セレナーデ』同様、マック・ゴードンとハリー・ウォレンのチームが担当。前作での「チャタヌガ・チュー・チュー」のナンバーにあたる”(I've Got a Gal in)Kalamazoo ”「カラマズー」はショー・ストッパー。『グレン・ミラー物語』にも出演したモダネアーズのコーラスに、マリオン・ハットンのキュートなヴォーカル、テックス・ベネキーのテナーサックス!そしてニコラス・ブラザースの超絶タップ! とにかくサウンド、ハーモニー、ダンスの三位一体が気持ちいい。アカデミー賞ではオリジナル歌曲賞にノミネートされた。
ヴォーカルが心地良い”People Like You and Me”、スピーディな”Bugle Call Rag”、前作に続いての”At Last”の美しいハーモニー、”Serenade in Blue”のゴージャス。どの曲も素晴らしい。”At Last”が映画のモチーフとして全編に流れる。またグレン・ミラーとビリー・メイが映画のために書き下ろした”Boom Shot”は、前半、ソーダファウンテンのジューク・ボックスのレコードとして流れ、アン・ラザフォードとハリー・モーガンが演奏会でダンスを踊るシーンで流れる。また、映画のために”That's Sabotage"なども書かれたが最終的にオミットされたが、シングルとしてSP盤がリリースされて大ヒット。『銀嶺セレナーデ』のセッションとともに、本作のサウンドトラックは、コンピレーション・アルバムなど、さまざま形でリリースされた。
僕も10代の頃、この映画に恋焦がれてRCAからリリースされたサントラ・セッションのLPを繰り返し聞いていた。なのでイントロがスネークインしてくるだけで「あ!この曲だ」と身体が反応してしまう。
A主演はトランペット奏者にジョージ・モンゴメリー、その妻となるファンの女の子にアン・ラザフォード、シーザー・ロメロがプレイボーイのピアニスト。キャロル・ランディス、リン・バリ、ヴァージニア・ギルモアたちが”オーケストラの妻たち”を演じている。グレン・ミラー、モダネアーズ、レイ・エバール、ボビー・ハケット、ニコラス・ブラザースが本人役で出演している。ノンクレジットで、ベース奏者にジャッキー・グリーソン、ハリー・モーガンなどが出演。ジェイニー(リン・バリ)の吹替は、前作に続いてパット・フライデー、ジョージ・モンゴメリーのトランペットの吹き替えは、ミラーのサイドマンであるジョニー・ベストが担当。シーザー・ロメロのピアノは、グレン・ミラー楽団のチャーミー・マクレガーが吹き替えた。
なので『グレン・ミラー物語』でチャーミー・マクレガーを演じたヘンリー・モーガンがノンクレジット出演して、ロメロの吹き替えをチャーミーがしている。
小さな田舎町の女の子、コニー・ハワード(アン・ラザフォード)は、大ファンであるジーン・モリソン(グレン・ミラー)オーケストラの屋外演奏会に、ボーイフレンドのカリー(ヘンリー・モーガン)に連れて行ってもらう。カリーが休憩時間にコーラを買いに行っている間に、バンドのトランペッター、ビル・アボット(ジョージ・モンゴメリー)にナンパされ、翌日、結婚してしまう。そのまま全米ツアーに同行することになったコニーは、早速”オーケストラの妻たち”のいじわるの洗礼を受ける。
特にバンドのヴォーカルで、まだ独身のジェイニー(リン・バリ)は、ジーンと長年付き合っていたので、彼の変わり身に嫉妬するも、コニーには優しくして、すぐに仲良くなる。しかし、妻たちの悪意で、コニーは夫とジェイニーの過去の関係を知ってしまい、事態は最悪に。反撃に出たコニーは、妻たちの悪行を洗いざらしに話して、バンドは解散のピンチに。果たしてこのままジーン・モリソン・オーケストラは終わってしまうのか?
ヒロインが、悔しさから、妻たちの色々なことをバクロしたための不協和音。ビルはそのことでコニーを攻め、ジーン・モリソンも「あんな女!」と怒りまくる。おいおい、それはないだろうと思うのだけど「ジャズマンの妻は多少のことは目を瞑れ」みたいなアンモラルが正論になっていく展開は、どうかと思うが、これも1940年代の感覚。
ラストは、コニーの父で医者のドクター・ウォード(グラント・ミチェル)が大活躍。コニーの最大の理解者でもあるピアニストのシンジン(シーザー・ロメロ)とコニーたちが、バンドメンバー、モリソン、妻たちをもう一度リユニオンさせるための大作戦を展開。これがなかなか気持ちいい。
そして、ニューヨークのナイトクラブで、再結成したGMオーケストラの新曲”(I've Got a Gal in)Kalamazoo ”のスペクタクル・ナンバーで大団円を迎える。
【ミュージカル・ナンバー】
♪アット・ラスト At Last
作曲:ハリー・ウォレン 作詞:マック・ゴードン
演奏:グレン・ミラー楽団
唄:レイ・エヴァリー、リン・バリ(吹替:パット・フライデー)
♪ビューグル・コール・ラグ Bugle Call Rag
作曲:ジャック・ペティ、ビリー・マイヤーズ、エルマー・ショーベル
演奏:グレン・ミラー楽団(インスト)
♪カラマズー (I've Got a Gal in) Kalamazoo
作曲:ハリー・ウォレン 作詞:マック・ゴードン
演奏:グレン・ミラー楽団
唄:テックス・ベネキー、マリオン・ハットン、ザ・モダネアーズ
唄&ダンス:フェイアード&ハロルド・ニコラス・ブラザース
♪ピープル・ライク・ユー・アンド・ミー People Like You and Me
作曲:ハリー・ウォレン 作詞:マック・ゴードン
演奏:グレン・ミラー楽団
唄:テックス・ベネキー、レイ・エヴァリー、マリオン・ハットン、ザ・モダネアーズ
♪セレナーデ・イン・ブルー Serenade in Blue
作曲:ハリー・ウォレン 作詞:マック・ゴードン
演奏:グレン・ミラー楽団
唄:リン・バリ(吹替:パット・フライデー)
♪ムーンライト・セレナーデ Moonlight Serenade
作曲:グレン・ミラー
タイトルバックの演奏
♪チャタヌガ・チュー・チュー Chattanooga Choo Choo
作曲:ハリー・ウォレン
演奏:グレン・ミラー楽団(レコーディング・スタジオでのウォームアップ)
♪ブーム・ショット Boom Shot
作曲:グレン・ミラー、ビリー・メイ
ジュークボックスのレコード
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