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太陽にほえろ! 1973・第32話「ボスを殺しに来た女」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第32話「ボスを殺しに来た女」(1973.2.23 脚本・鎌田敏夫 監督・澤田幸弘)

 ゲストはのちに「大都会-闘いの日々-」で深町軍団を率いる佐藤慶さん。脚本の鎌田敏夫さんは「飛び出せ!青春」のメインライターで、「太陽〜」はこれが初参加。以降、折々で傑作をものしていく。

 サブタイトル「ボスを殺しに来た女」は、かなりセンセーショナル。ある日の七曲署。マカロニがボスにカードマジックを披露している。シンコがすぐにタネを見抜いてしまう。のどかの昼下がり。そこへ美しき女性がボスを訪ねてやってくる。ボスに二人きりで話があるという、思い詰めた表情の彼女はバッグから拳銃を取り出し空砲を撃ち続ける。

 女は逃亡し、七曲署の階上から転落。瀕死の重傷となる。女の名前は慶子。演じているのは、水島道太郎と元タカラジェンヌの山鳩くるみの娘・小林夕岐子。本多猪四郎監督の『お嫁においで』(1966年)でスクリーン・デビュー。「ウルトラセブン」の「アンドロイド0司令」のアンドロイド少女や、ゴジラ映画『怪獣総進撃』(1968年)や『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦南海の大怪獣』(1970年)などに出演。なんと言っても、山本迪夫監督の『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』(1970年)のヒロインをつとめた綺麗な女優さん。

 捜査一係へ、血相を変えて飛び込んできたのは、ボスの友人で本庁キャリアの石田刑事(佐藤慶)。「なぜすぐに知らせてくれなかったのか?」とボスを詰る。「女が意識を取り戻したら、すぐに知らせてくれ」と居丈高。マカロニを見て「髪を切らせてくれすぐに」と虫のいどころが悪い。

 さらに捜査一係へ「女は助かるのか?」と男から電話。逆探知開始。僕らは「太陽〜」で逆探知を知った。男は「どうして怪我をさせた!」と怒っている。鑑識課員(北川陽一郎)によれば、慶子の銃は「青龍会」から流れたものと判明する。青龍会幹部・ 西山(高橋明)を問い詰める山さんとゴリさん。

 「お宅から流れた拳銃でボスが狙われた」と。慌てた西山は拳銃を持ち出した組員を、捜査一係へ連れてくる。組員によれば慶子はキャバレー「不夜城」で勤めていた。慶子の部屋には「明夫ちゃん やっとあなたのところへ行けます」と遺書が・・・謎が深まるばかり。そこへ「女は生きているのか?」と電話。

 「君は明夫くんか?」とボス「お前のところの刑事に殺されたんだ」。マカロニが病院に駆けつけると石田刑事が、病床の慶子に取調べをしようとしている。なぜ石田刑事が焦っているのか? こういう時の佐藤慶さん、悪い表情するよな。マカロニに「おい、長髪。髪を切れと言ったはずだ」。ああ、嫌な奴!

 殿下が坂口明夫の身元を確認。一年前、城東銀行を襲った一人で、逃走中に踏切で電車に跳ねられて轢死していた。電話の男は「刑事にやられた」と言っていた。事件の担当は、当時七曲署にいた石田刑事だった。これでテレビの前の良い子は、佐藤慶さんのクロを確信。石田刑事、病室で煙草吸うなよ!

 マカロニは向かいのビルから慶子の病室が拳銃で狙われていることを察知。石田刑事も慶子もことなきをえる。狙撃者を追うマカロニ。沢田監督の回は、アクションのキレがいい。四谷界隈を走るショーケン! やがて狙撃者はビルの工事現場へ逃げ込む。大野克夫さんの音楽もビート感があって最高!

 狙撃者VSマカロニ。緊迫感のある撃ち合い!中盤にアクションを入れるのは「視聴者をダレさせないように」という監督の狙いでもある。狙撃者はライフルを残して逃走。石田刑事「逃したのか? 馬鹿野郎。貴様はそれでも刑事か!」と激怒する。「俺が七曲署の係長でいたら貴様の頭を坊主にしてやる!」

 ああ青春の敵だね。悪い大人だよ。これは鎌田脚本の特徴でもある。若者VS大人。大人はちっともわかっていない。青春学園ドラマにも通底しているテーマ。喫茶店で坂口明夫について石田刑事に訊くボス。城東銀行事件以前から、石田刑事は明夫を知っていた。2年前、別の強盗事件の容疑者として明夫を取調べていたがシロで釈放した。ところが一年前に本当に城東銀行を襲ったという。「どっちみち、そうなる奴だったよ。クズみたいな奴だった」。あーあ、嫌な言い方だ。

 マカロニに「長髪!」と言った時と同じ賎民意識による侮蔑を感じる。ボスは推測であると前置きし「あの女が殺しにきたのは僕ではなくあなたじゃないかと考えられます」「この女はおそらく七曲署の捜査第一係長を襲いに来たのだと思います」「するとライフルの的もこの俺だと言うのか?」そらそうだろ。狙撃者と明夫の関係はボスにもわからない。「それからな藤堂くん。あのフーテンの髪は切らせろと言った筈だ」何様だよ!嫌なやつだよ。

 キャバレー「不夜城」で慶子の交友関係を聞きこむ殿下のプレイボーイっぷり(笑)呆れるマカロニ。殿下にデレデレするホステスは第9話「鬼刑事の子守歌」で殿下がお持ち帰りをした川口節子さん!慶子に岡惚れしていた呼び込みの寺本という男が浮かび上がる。果たして寺本は狙撃犯なのか?

 寺本に電話をするゴリさん。「不夜城」のBGMは山本リンダさんの「じんじんさせて」。もちろん「歌のない歌謡曲」である。電話を切る寺本。これで寺本が狙撃犯と確定。病室で慶子は石田刑事の尋問に「七曲署の捜査第一係長」と明夫が言っていたと答える。横にいたボスが石田刑事を睨む。俺も思わず睨むよ。

 明夫は「いつか殺してやる」と死ぬ時も言っていたと。慶子によれば、明夫は無実の罪なのに、つきまとわれて、真面目に働いていても、警察がやってきて仕事がダメになって「とうとう本当に銀行強盗をやってしまったの」。ああ『暗黒街のふたり』のアラン・ドロンだね。

 「共犯の疑いがあったから仕方なかったんだよ」とボス。「違うわ、取調べの時にひどいこと言われて、明夫ちゃん、唾をひっかけたのよ。係長さんの顔に」。マカロニの悲しそうな顔。憮然とする石田刑事。「そしたら、お前のようなクズは立ち直れないようにしてやるって」明夫は殴られ、執拗に付き纏われたと慶子。

 ボスは「君の拳銃から弾を抜いた男」「君を殺人犯にさせまいとした男」は誰か?と訊く。「俺をライフルで狙った男だ」と石田刑事。お前が悪いんじゃないか!「あの人は関係ないのに・・・」寺本を庇う慶子。

 「ひとこと言っておこう。坂口明夫が憎んでいた捜査第一係長ってのは俺だよ」と石田刑事。ああ、冷徹な表情!「惚れた男のためにつまらんことをして」「つまらんことで綺麗な顔を台無しにしたな」ああ、腹が立つ!そこでボスが石田を諫める。断罪されるべきは石田刑事。鎌田敏夫脚本はその矛盾をついてくる。

 ボスは「明夫って男は本当に共犯の疑いがあったんですか?それとも付き纏ったのは、唾を引っかけられた恨みですか?」「忘れたね、そんな昔のこと」。病院の宿直室に電話。また、例の男が慶子の容体を聞いてきたのだ。ここで寺本が慶子を守るために弾を抜いたことが明らかになる。

 石田刑事はすぐに寺本を「挙げよう」。ボスは「証拠がないと拒む。「証拠を出せ。星がわかっていてもいつもそれだ」と石田。「それが刑事の仕事ですよ石田さん」とボス。石田刑事は佐野刑事(柿木恵至)に慶子の証言テープの編集を命じる。汚い手を使うね。それで寺本を病院へ誘き出そうと言うのだ。

 慶子の言葉を拾って「あ・い・に・き・て」と編集したのだ。寺本は偽名で貝塚将司(井上博一)で、元ライフル選手であることが明らかになる。慶子を思うあまりの犯行だった。その気持ちが理解できない石田刑事。ボスもマカロニも、そのやり方が承服できない表情。そらそうだ。

 しかし慶子は、自らリンゲルを外して自殺してしまう。あまりにも切ない展開。それでも慶子のテープで貝塚を誘き出す石田刑事。「卑怯だよ、こんなことは!」マカロニは石田に怒りをぶつける。そら、そうだ。一方、意を決した貝塚は、自らの腕にナイフを括り付け病院へ。それを追うゴリさんと殿下。

 新宿京王デパートから西口へ。国電に乗って貝塚は病院を目指す。なんと虚しいクライマックスだろう。「よし、女の病室でやろう」と石田。「あわせてやれよ」と怒るマカロニを黙って制するボス。病室で慶子の亡骸と対面する貝塚は、そっと慶子に触れようとする。そこへボス、石田刑事が入ってきて・・・

 「俺は止めたんだ。死んだ男のことなんか忘れろって言ったんだ。でもこの女は忘れなかった」とことの次第を話す貝塚。慶子を心の底から愛していることが伝わってくる。捜査第一係長が変わっていたことを知っていた貝塚は、慶子を逮捕してもらい、犯行を未然に防いで欲しかったのだという。

 逮捕され連行される貝塚。階段で身につけていたナイフで石田刑事を襲う。もみ合いになる。「やめろ!」とマカロニが拳銃を構えるが尚も抵抗するので、咄嗟に発砲。倒れる貝塚、目に涙をため放心状態のマカロニ。石田は倒れた貝塚を払い除けるが、ボスは貝塚に駆け寄る。「どうしてこんなことをした。女は関係ないって言ってたじゃないか」。ボスは貝塚の遺体を「女の部屋に運んでやれ」。どこまでも優しいね。

 「お前を少しは見直したよ。やっぱり刑事だ」と石田刑事がマカロニを褒める。そこでマカロニ、石田に一撃を食らわせる。「奴にやらしてやりたかったよ、もし、俺が刑事じゃなければな」。ほんとだよ。

 全てが終わって、石田刑事に「長髪!危ないところを助けてもらったし、貴様の反抗的な態度は今回だけは見逃すよ。その代わり、その髪は切れ。切らせるんだ藤堂」とさらに居丈高に振る舞う。そこでボス「捜査以外のことで、あなたの指図は受けません。お帰りください。もう終わったんだ。何もかもね」とキッパリ。あースッとした。裕次郎さんカッコいいね!

 「ボスも出世できそうにないっすね」「お前みたいな刑事が一緒だからな」。タバコに火を付けるボスとマカロニ。この回は、現時点での最高傑作でしょう!










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