『殺人計画完了』(1956年5月24日・日活・野口博志)
野口博志『殺人計画完了』(1956年5月24日・日活)。裕次郎のスクリーンデビューとなった『太陽の季節』(5月17日)の翌週封切。レンガ積み公開だったので、二本立てで観た観客も多い。化粧品メーカーを隠れ蓑に麻薬密売をしている清水将夫一味。その秘密を知った元軍医・三橋達也と清水に囲われていた多摩桂子が、大阪から東京へ逃亡。新橋の安ホテルへ潜伏。隣室では一味の大阪志郎がケガをしていて…
というフィルムノワールで、清水将夫の腹心、植村謙二郎がなかなかいい。タイトルほど、緻密な犯罪計画ではないけど、逃亡カップルが、大阪→横浜→竹芝桟橋に向かう前半。三橋達也がかつての軍医の先輩・天草四郎の向島診療所を訪ねるシーン。ロケは江東区の新田橋!
成瀬の『稲妻』(1952年・大映)で中北千枝子が住んでいたあたり。映画では向島という設定だが、新田橋は、江東区の大横川に架かる人道橋で、洲崎神社への参道でもある。名前の由来は、大正時代に木場5丁目で開業していた医師・新田清三郎にちなんだもの。新田医師は、失業している人や生活が苦しい人々を無償で治療したり、自宅に住まわせていた。おそらく、この映画で天草四郎が演じた医師のキャラクターは、新田先生をイメージしたものだろう。この新田橋は、のちに『事件記者 仮面の脅迫』(1959年・日活・山崎徳次郎)のトップシーンに登場する。
さて、月島から新宿行きの都電に乗った三橋が一味のクルマにつけられて、銀座四丁目で降りて、銀座通りの人混みを逃げるサスペンス。このロケがたまらない。都電の車窓からは、三原橋の映画館、銀座四丁目の鰻屋・竹葉亭などの風景が味わえる。四丁目の交差点からライオンビアホールの前を通って、七丁目へ。三橋が逃げ込む電機メーカーのショウルームは銀座七丁目エスヤ電器具店。清水宏『都会の横顔』(1953年・東宝)にも出てきた店。ここから新橋までの逃亡シーンがたまらない。
組織の悪党・高品格たちが、店に入ってきて、三橋達也は絶体絶命。追い詰められる。ここで三橋は、ソケットを万引きして、保安員に「事務所までご同行ください」と言われて、二階の事務所へ。アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンスのような「勧進帳」的な逃げのシーン。保安員・河上信夫に説諭され、解放される三橋達也。しかし、屋上に昇った高品格たちが、上から大きなブロックを落下させるが、間一髪、三橋達也は無事。これもヒッチコック的なケレン。
で、三橋達也が大阪志郎とバッタリ会うのが、新橋、線路脇の歓楽街。『警視庁物語 追跡七十三時間』(1956年12月11日・東映・関川秀雄)の舞台となった焼き鳥キャバレーがある! で、いよいよ殺人計画。ラッシュアワーの銀座線・新橋駅に、三橋を連れ出して、17時発の渋谷行が入線したときに、突き落とせ!というもの。え?
だけど計画をボスが部下に伝えるシーンがいい。おもちゃの電車と駅にチェスの駒を置いて、説明。いかにも犯罪映画!ムード。雑すぎる計画だけど。国鉄新橋駅から銀座線に降りる階段。ラッシュアワーで混雑するなか、大阪志郎が三橋達也を連れ出し、改札口へ。もちろん悪党たちも周りを固めている。盗み撮りではないだろうが、昭和31年のホワイトカラーの人々の表情がいい。17時、渋谷方面へのホームに入線する銀座線。そういえば駅に着く前、切替で一瞬車内が暗くなったなぁ。基本的には、現在も同じホームなので、より時層探検の気分が盛り上がる。
大阪志郎がポン中でジャンキー演技がいい。で、クライマックスは、ボスの東京での屋敷へ、三橋達也と大阪志郎が、囚われの身の多摩桂子を救出すべく死地に乗り込む。大阪志郎はドグ・ホリディのように悪に立ち向かう! ああ、西部劇だったのか!そこでの銃撃戦がなかなか見もの。ハリウッドのギャング映画を意識しての派手な撃ち合い。さらに警察の包囲陣が迫り、覚悟を決めた清水将夫がショットガンを構えて応戦する。さらに、多摩桂子も拳銃を手にして、敵に鉛の弾をぶち込む。清純派かと思っていたら、戦う日活ヒロイン! なかなか楽しい時層探検映画!