見出し画像

『大魔神逆襲』(1966年12月10日・大映京都・森一生、特撮監督・黒田義之)デジタル4K修復版 妖怪・特撮映画祭で上映

五反田イマジカ第1試写室で、妖怪・特撮映画祭で上映『大魔神逆襲』(1966年12月10日・大映京都・森一生、特撮監督・黒田義之)デジタル4K修復版初号試写を見せて頂く。

画像1

春(4月)『大魔神』、夏(8月)『大魔神怒る』に続く三部作の完結編は、冬(12月)に封切られた。一年間で3本、しかも常に前作を上回るクオリティ、丁寧な作りの特撮時代劇が作られたことは、映画史上、この前にもこの後にもない、空前絶後のこと。

この年は1月にTBSで「ウルトラQ」が始まり、4月に『大魔神』(安田公義)『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(田中重雄)が二本立て公開。7月にはフジテレビで「マグマ大使」、TBSで「ウルトラマン」、8月には前作『大魔神怒る』(三隅研次)が公開され、東宝では『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(本多猪四郎)が公開され、10月にはNETで「悪魔くん」がスタート。特撮映画、テレビ史上、最高の年となった。

そうしたなか、撮影技術的にも、作品的にも高い評価を受けてきた「大魔神」の第三作、『大魔神逆襲』が鳴り物入りで製作された。この三部作がすごいのは、いずれもテイストが異なり、それぞれ創意工夫を凝らしていること。

さて、これまで戦国時代の争いに巻き込まれ、圧政に喘ぐ領民のために怒りを爆発させてきた大魔神だが、今回の主人公は子供たち。これは森一生監督のアイデアだという。それゆえに、少年観客たちにも「わかりやすい」作品として受け入れられ、三部作のなかで、最も充実した作品となっている。

しかもトップシーンが素晴らしい、大魔神が思う様暴れるクライマックス的スペクタクルから始まる。倒壊する建物、魔神に畏敬を抱く人々、大地は裂け、雷鳴轟き、大自然は猛威をふるう。荒ぶる神の怖さを存分に描くが、大魔神は手しか映らない。前2作をふまえてのサービス・シーンが、観客の期待を高めてくれる。

木樵をしている父親や兄たちが、密かに武器製造所を建造している悪い武将・荒川飛騨守(安部徹)とその腹心・松永大膳(名和宏)たちに拉致されて、地獄谷で強制労働を強いられている。そこから逃げ出した・三平(仲村隆)は、魔神の山を越えて命からがら戻ってきて、拉致の実態が明らかになる。

父が捕らえられた鶴吉(二宮秀樹)と幼い弟・杉松(長友宗之)、兄・庄八(山下洵一郎)が捕らえられた大作(堀井晋次)、金太(飯塚真英)の四人は、大人に内緒で、地獄谷に向かう。

子役の演技が素晴らしい、「マグマ大使」のロケット人間・ガム役で、子供たちに親しまれていた二宮秀樹さんは、第一作で青山良彦さんの少年時代を演じていたが、この時は「マグマ大使」前夜。今回は、少年スターとしてキャスティングされ、この撮影のためにガム役は、吉田次昭さんが代役を務めることに。

この四人の少年が、晩秋の険しい山道を「スタンドバイミー」よろしく冒険をしていくのがメインストーリー。危機また危機、次々と襲いかかるピンチ、勇気と知恵で乗り越えていく。ジュブナイル映画としても優れている。

途中、武神の山の入り口で、山を守っているかね(北林谷栄)が出てきて警告を発するシーンが、ちょっとしたブレイクになっている。北林谷栄さん、出てくるだけで、空気を一変させてしまう。本当にすごい女優さん。

今回は、武神に仕える鷹が登場。子供達のピンチを救ってくれる。地獄谷に行くために、急流を即席の筏で下るシーンのサスペンスや、飛騨の守の配下の侍たちに追いかけられたり。大魔神が出てくるまで、子供の観客が飽きないようにあの手この手が用意されている。

そして初雪が降り、雪の中で眠った子供たちに死の影が覆いかかる。鶴吉が武神に祈りを捧げ、自分を犠牲にして、弟や仲間を助けようとするシーンは、何度観てもグッとくる。

そしていよいよ、大魔神登場! 今回は雪の中で、穏やかな武神から憤怒の形相へと変化する。前作は水、今回は雪。ヴィジュアル的にも斬新! そしていよいよ、大魔神が地獄谷で喘ぐ人々を解放すべく現れる。今回も、視界が開けるヴィジュアル、屋台崩し、実物大と着ぐるみの巧みな使い分け、森田富士郎さんと、今井ひろしさんの撮影は、創意工夫の連続で、まさに眼福。

画像3

逃げ惑う飛騨守・安部徹さんを、大魔神が追い詰めていくプロセスは、映画的興奮に満ちている。逃げても、逃げても、追い詰めてくる。実物大の大魔神の手が、飛騨守を鷲掴みにするのだ!

全てが終わり、大魔神が武神に戻っていくラスト。鶴吉を慈愛の表情(といってもマスクは変わらないがそう見える)で見つめる大魔神。少し頷くのが堪らない。荒ぶる神だけど、子供の味方。そんな風に見えてしまう。

本作の成功により、翌年3月公開の『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年・湯浅憲明)の主人公が少年になったのかもしれない。そんな風に思いながら・・・

この夏、妖怪・特撮映画祭で上映! ぜひ、スクリーンで体感して欲しい!


画像2


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。