『街は春風』(1937年・パラマウント・ミッチェル・ライゼン)
プレストン・スタージェス研究。昨夜は、スタージェス脚本、ミッチェル・ライゼン監督のスクリューボール・コメディの傑作『街は春風』(1937年・パラマウント)をDVDからスクリーン投影。
僕はこの映画を観る前から、ビリー・ホリディやエラ・フィッツジェラルドが歌ったスタンダード”Easy Living”(作詞・作曲・レオ・ロビン、ラルフ・レインジャー)に親しんできた。レコードに映画『街は春風』主題歌とクレジットされていて、いつかは観たいと思っていた。
やはり三十年近く前に、確かWOWOWで放映されて初見。あまりの面白さと、テンポの早さにノックアウトされた。プレストン・スタージェスがハリウッドの寵児となっていくのは、この一作を観るだけでもわかる。パラマウントの中堅監督、ミッチェル・ライゼンの演出もさることながら、本作にはのちのスタージェス監督作品の「あらゆる手」が詰まっていて、その才気を堪能できる。これだけの情報量、展開を88分に収まるハリウッド黄金時代のクオリティ。素晴らしい!
『7月のクリスマス』や『レディ・イヴ』同様、ワン・アイデアで突進して、さまざま人物の思惑と、そんなことある?の運命の急展開と、不運と思いもよらぬ幸運が入り乱れて、最後に「ストン」と落ちる。その味わいがすでに確立している。
ア メリカで三番目の大金持ち、銀行家のジョン・ボール(エドワード・アーノルド)は、執事やコックも唖然とするほどの吝嗇家。しかも頑固で他人の意見などの耳を貸さない。遊んで暮らしている(と父が思い込んでいる)息子・ジョン・ボールJr.(レイ・ミランド)に「金利が勿体無いからクルマはローンで買うな」と説教、浪費家の妻・ジェニー(メアリー・ナッシュ)が黒テンのコートを勝手に買ったと激怒。
その黒テンのコートを屋敷の窓から投げ捨ててしまう。そこに通りかかった二階建てバス。雑誌「少年の友」勤務のメアリー・スミス(ジーン・アーサー)の頭上にコートが落ちてくる。真面目なメアリーは、バスを下車して、ジョン・ボールの屋敷へ、毛皮を届けに行くが、ボール氏は「お前にやる」と不遜な態度。メアリーはそれより「帽子の羽根が折れた」とクレーム。しかもバスと途中下車したから10セント貸して欲しいとボール氏に訴える。
ボール氏は、高級帽子店でメアリーに、毛皮に似合う帽子を見立ててプレゼント。ボール氏が若い娘と不倫していると思い込んだ帽子屋の主人、隣のホテル経営者ルイ・ルイ(ルイ・アルバーニ)に噂話をする。ルイ・ルイは、ボール氏の銀行から借金をして返済不能、差し押さえ寸前なので「ボール氏の不倫」をネタに起死回生を図ろうとする。
高級毛皮を見知らぬ紳士から貰ったことでモラルを問われて「少年の友」編集部をクビになったメアリーに、ルイ・ルイは「我がホテルのインペリアル・スイートに住んでください」と依頼。なんと1週間1ドルで済むことに。ルイ・ルイとしては不倫の密会場所に、自分のホテルを使えば、借金はチャラになる筈と皮算用してのこと。
高級ホテル住まいになっても、手持ちのお金は10セントしかないメアリーは空腹に耐えかねて、オートスナックへ。そこではなんとジョン・ボール・Jr.がバイトをしていて、彼女のためにこっそり食事を無料で提供。しかしそれが警備員にバレて大騒動となって…
このオートスナックでのドタバタ。スラップスティックとしてもかなりの狂騒曲となる。オートスナックとは、なんでも均一料金で、コインを入れると窓が開き、好みの料理をピックアップ。その窓を開放してしまったために、他の客も殺到してしまい大混乱となる。
人の良いメアリーは、ホテルにジュニアを泊めてあげることに。一方、暴君の夫に愛想をつかしてジョン・ボール夫人はフロリダへ、一人で屋敷にいても仕方ないのでジョン・ボール氏はルイ・ルイのホテルに泊まりに行って、メアリーと再会するが…
とにかく「あれよあれよ」と目まぐるしく展開していく。メアリーに取り入れば、借金がチャラになるとルイが思ったように、ジョン・ボール氏に取り入れたい連中が次々と宝石、洋服、16台もの高級車をメアリーにプレゼント。事情がさっぱりわからないままシンデレラになっていくメアリー。
ここからの展開はご覧いただくのが一番だが、プレストン・スタージェスの脚本がとにかくお見事。後半、株式仲買人がメアリーに「鉄鋼株が上がるか下がるか」のアドバイスを求めてきて、Jr.の言うままに「雨の日は下がる」と言ったために、株価が乱高下してマーケットが大混乱していく。
で、もう誰も彼も追い詰めらて「もうだめ!」のクライマックス!見事なオチに向けて、映画は突進していく。ジョン・ボール氏とメアリーの不倫記事をすっぱ抜くゴシップコラムニスト、ウォーレス・ホイッスル役には、スタージェス映画でお馴染みとなるウィリアム・デマレスト。ルイ・ルイを演じたルイ・アルバーニの思い込みキャラもおかしい。若き日のレイ・ミランドのコメディ演技もなかなかのもの。
なんと言ってもジーン・アーサー!とにかく可愛くて、とぼけた味が最高。大金が手に入るとわかったら、途端に、子供の頃から夢だった大型犬2匹を買いにペットショップへ。ついでに鸚鵡と金魚まで買ってくる。しれっとした感じも含めてチャーミング。ジーン・アーサーと、エドワード・アーノルドは、スタージェス脚本の『ダイヤモンド・ジム』(1935年・エドワード・サザーランド)の主演コンビでもある。