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娯楽映画研究所ダイアリー 2021年9月27日(月)〜10月3日(日)

9月27日(月)【佐藤利明の娯楽映画研究所】生誕120年 円谷英二 “円谷特撮黄金時代”

9月27日(月)『クーリエ:最高機密の運び屋』(2020年・英・ドミニク・クック)・『七人の侍』(1954年・東宝・黒澤明)

『クーリエ:最高機密の運び屋』(2020年・英・ドミニク・クック)を遅ればせながら。ドミニク・クック監督の演出は正攻法で冷戦下のスパイ映画を堪能。実話の映画化なので、ケレン味はないが、1960年代のイギリス、ソ連の空気感を楽しむ。ベネディクト・カンバーバッチは、当然ながら、うまい。中年太りのビジネスマンかま、激痩せしていく後半へ、演技を楽しんでるんだろうなぁと。シャーロックの青年は、いつしかマイケル・ケインのポジションに…

CIAのエージェントを演じたレイチェル・ブロズナハン。なかなか良かった。後半は、カタルシスが待っているとはいえ、精神的にはツラい展開。とにもかくにも正攻法。『さらばベルリンの灯』『寒い国から帰ったスパイ』などなどがまた観たくなった。ハリウッド映画には出せない苦い味わいもまた、スパイ映画の魅力。スパイ映画も時代劇になったなぁとしみじみ。

『七人の侍』を観ようとDVDを出してきた。アウターケースに橋本忍先生のサインが入っていた。先生のお宅にお邪魔したときにサインをお願いしたら、マジックではなく、先生の書斎の筆ペンで描いてくださった。内心、マジックの方が・・・と思いましたが、そおっとシュリンクに戻して15年ほど経ちました。経年による擦れも味わいということで、心して拝見します。

久しぶりに3時間27分、至福の時を過ごす。やはり、前半の「侍集め」のシークエンスは何度見てもワクワクする。もともと「武士の一日」→「剣豪伝」の企画が頓挫したときに「昔、百姓を助けた侍がいた」話を、本木荘二郎プロデューサーから聞いた、橋本忍先生と黒澤明監督が「剣豪伝の侍たちが、農民を助けたら?」と、物語の骨子が出来上がった。橋本忍先生に伺った話では、宮本武蔵や塚原卜伝が次々と登場する「クライマックスの連続」「剣豪伝」のシナリオを読んだ黒澤明監督が「見せ場だけじゃしんどいね」と言ったとか。

「ビフテキにバターを塗って、蒲焼をのせた映画」と黒澤明監督が語っているように、六人の剣豪+菊千代(三船敏郎)が、野武士たちの襲撃に悩まされる百姓を助けるプロットは見事で、ダイナミックな活劇と人間ドラマが見事に絡んで傑作となった。クライマックスの雨のバトルシーンは、ハリウッドの西部劇には雨が降らない、ならば豪雨の中の戦いにしよう、という発想で作られた。

「大忠臣蔵」第18話「分裂」(脚本・柴英三郎、監督・西山正輝)に、早川保さんと牧紀子さん。松竹レアものなカップル登場。

9月28日(火)『用心棒』(1961年・東宝・黒澤明)・『荒野の用心棒』(1964年・伊・セルジオ・レオーネ)

金曜日にNHKラジオ「武内陶子のごごカフェ」の2時台「カフェトーク」「時代劇のススメ」と題して、三宅裕司さんとご一緒にゲスト出演するので、『用心棒』(1961年・東宝・黒澤明)を娯楽映画研究所シアターで久しぶりに。娯楽映画としての完成度の高さはもちろん、時代劇で「ハードボイルドをやろう」という黒澤明監督の狙いが素晴らしい。

上州・馬目宿で、反目し合う、二つのやくざ組織、それぞれに入り込んでぶつけ合って壊滅させてしまう。前年の岡本喜八監督『暗黒街の対決』(1960年・東宝・大藪春彦原作)も同じプロット。その原点はダシール・ハメットの「血の収穫」であることは、後年、黒澤明監督も認めているが、とにかく北関東の宿場町のセット、雰囲気、やくざたちが素晴らしい。『羅生門』以来となる、大映の名キャメラマン・宮川一夫さんを招いて、的確なマスターショットに、黒澤組の斎藤孝雄さんの躍動感のあるカメラ。この按配がいい。

特にすごいのは、三十郎(三船敏郎)が馬目宿についたばかりのシーンで、犬が手首を咥えて歩いてくるショット。遠景からずっとその手首にピントが合っている。ピント送りの名人と呼ばれた、撮影助手・木村大作さんの渾身の撮影。アップになると手相まで! この手首を造形したのは、役者としても出演している大橋史典さん。

三船敏郎さんの殺陣が実に「お見事!」十人を10秒で斬ってしまう。本当にカッコいい。これでは、セルジオ・レオーネが、頂きたくなってしまうのはよくわかる。『用心棒』は製作時から話題となっていて、アクション帝国日活が、その公開二日前の昭和36(1961)年4月23日に、宍戸錠さんと二谷英明さん主演のアクションコメディ『用心棒稼業』(舛田利雄)を封切っている。ちなみに『用心棒』の併映は、東宝名物、森繁久彌さん主演の人気シリーズ『社長道中記』(松林宗恵)

というわけで、続いて、クリント・イーストウッドの出世作『荒野の用心棒』(1964年・伊・セルジオ・レオーネ)。今回は完全版DVDで、山田康雄さんの吹き替えでスクリーン投影。本家を見たあとだけに、その共通点、差異が楽しい。キャスティング、キャメラ、エンニオ・モリコーネの音楽。そのどれをとってもマスターピース。完璧なリメイク(当初は盗作だったが、のちに訴訟、和解で正式に)として、マカロニウエスタンというジャンルを確立したマスターピースとして堪能。

9月29日(水)『椿三十郎』(1962年・東宝・黒澤明)

渾身というのもなんですが、かなり濃密なブックレットになりました。原稿用紙50枚書きました。CDのライナーでは異例の分量です。ブックレットを眺めながら、岸井明さんの「のほほん」とした歌声をお聴き頂くと、「戦前」に対するイメージが少し変わると思います。のんびり、癒し、楽しい、岸井明さんの歌声のヒーリング効果、なかなかです。

note「佐藤利明の娯楽映画研究所」で展開している「世紀のエンタティナー 岸井明フィルモグラフィー 戦前・戦中篇」は、このCDをより楽しく、深く味わって頂くために、執筆しております。他に資料がなければ、ここで作成してしまおう!という娯楽映画研究所のポリシーです。

昨夜の『用心棒』に続いて、今宵は、急遽制作された姉妹篇『椿三十郎』(1962年・東宝・黒澤明)。会社から「次も三十郎もので」と依頼された。もとは黒澤明監督が弟子の堀川弘通監督のために企画、脚本を準備していた、山本周五郎原作「日々平安」の主人公を、三十郎に置き換えたもの。小林桂樹さん主演を想定していた。前作がハードボイルドとすれば、今回は喜劇。加山雄三さん、田中邦衛さん、江原達怡さんの「若大将」トリオ、平田昭彦さん、土屋嘉男さん、久保明さん、太刀川寛さんたち、お馴染みの東宝若手スターが「金魚のフン」のように三十郎に付き纏うのがおかしい。

『用心棒』では10秒で十人斬りをした三船敏郎さん、今回はなんと三十人斬りをやってのけてしまう! これがカッコいい。息を止めて、一気に三十人、次から次へと斬り倒していく。

ラストの、三十郎(三船)と室戸半兵衛(仲代達矢)の決闘シーンは壮絶。脚本にも「とても筆では書けない」と具体的な描写がなかったシーン。酸素ボンベを地面に置いて、室戸半兵衛の身体にホースを巻き付け、三十郎が斬るタイミングに合わせてスタッフがスイッチを押した。仲代達矢さんによれば「あんなに血が飛び出すとは思わなかった」。ともあれ痛快娯楽時代劇とヴァイオレンスな殺陣。アクション映画の新たな地平を開いたエポック作品。

9月30日(木)『壬生義士伝』(2003年・松竹・滝田洋二郎)

いよいよ、10月6日「幻の映画復刻レーベル DIG LABEL」から中平康監督『砂の上の植物群』(1964年)がリリース!2014年に発売アナウンスされながら中止となった幻の作品。WEBで読めるデジタル・ライナーノーツを執筆しました。

試写以来、十八年ぶりに滝田洋二郎監督『壬生義士伝』(2003年・松竹)を娯楽映画研究所シアターで。三宅裕司さんは、南部藩家老・大野次郎右衛門を好演。。南部藩家老としての立場と、脱藩して新撰組に入った吉村菅一郎(中井貴一)の親友としての葛藤を見事に演じている。クライマックス、おにぎりを握るシーンは泣ける。2時間半の長尺は、映画というよりドラマスペシャルのようなわかりやすさだが、中井貴一さんの朴訥とした演技が、実に魅力的。

10月1日金曜日。NHKラジオ第一「武内陶子のごごカフェ」14時台「カフェトーク・時代劇のススメ」に、三宅裕司さんと、ご一緒にゲスト出演します。三宅さんとは久しぶりなので、楽しみです!

10月1日(金)『007/スペクター』(2015年・英・サム・メンデス)

NHKラジオ「ごごカフェ」「カフェトーク」のテキスト版です。ちなみに「七人の侍」の村は、9箇所で撮影されました。時代劇のススメ|読むらじる。|NHKラジオ らじる★らじる 2021/10/01 「武内陶子のごごカフェ」 三宅裕司さん(俳優・演出家)、佐藤利明さん(娯楽映画研究家)

6年ぶりに『007/スペクター』(2015年・英・サム・メンデス)を100インチスクリーン投影、ヘッドフォンで爆音視聴。メキシコでのオープニング、ローマのスペクター会議、ウィーンでの雪山アクションまではワクワク。タンジールからスペクター基地でトーンダウン。派手な筈なのに地味な感じに。『トゥモローネバーダイ』的な弱さを感じて。

多分、ブロフェルドが、ショボイからなんだろうね。ボンドへの私怨のレベルが、昔の『カジノロワイヤル』で、ウディ・アレンが演じたドクター・ノア=ジミー・ボンドのレベルだからか?

やはり、ボンドの巨悪は大言壮語の大風呂敷じゃないとなぁ。ブロフェルドは、基本、ホームズにおける「犯罪界のナポレオン」モリアーティ教授みたいじゃないと、面白くないと、昔から思っているので。

そういう意味ではCを演じているアンドリュー・スコットが「シャーロック」のモリアーティ役だったから、良い線行ってるんだけどなぁ…『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の予習を兼ねての復習で。なんだかんだ言いながら、ボンド映画は、やっぱり、イイね!

10月2日(土)『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年・英・キャリー・フクナガ)・『女王陛下の007』(1969年・英・ピーター・ハント)

これから『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年・英・キャリー・フクナガ)。気分を盛り上げてサントラ聴いてたら、二曲目でああ!そうか!と。すでにご覧になった皆さんが「女王陛下〜」だと仰ってたのは、そういうことかと。「次郎長三国志」のお蝶だもんなぁ。トレシー・ボンドは…などと巡らす007脳。これから観るぞ!が一番楽しい時間。

ボンド映画。とは言わずに昔は007(ゼロゼロセブン)映画と言ってました。大人たちは007(ぜろぜろなな)とも。 僕の劇場デビューは50年前、小学生2年の暮れ『007/ダイヤモンドは永遠に』でした。日比谷映画で親父と観て、以来公開の度に、日比谷映画で観ました。その時のワクワクが今も!

『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を観ました。大傑作。ダニエル・クレイグのボンド最終章に相応しい、心揺さぶられる結末。スペクターを凌駕する敵の創出も素晴らしく、久しぶりの派手なクライマックスは、愛の物語と相まって『女王陛下の007』の作品テーマを踏襲していく。ボンド映画の集大成。見事なエンドゲーム! 「愛はすべてを超えて」!

『ノー・タイム・トゥ・ダイ』をご覧になる前に、前作『スペクター』を復習されておくとイイです。完全な続きです。『帝国の逆襲』なので。あと、ハートの部分を味わうためにも『女王陛下の007』はマストです。感激がさらに倍加します。ダニエル・クレイグ完結篇としては、最高のボンド映画になったと。

『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』をボンド映画の集大成と感じたのは、あの手この手、あのシーン、このシーンがさりげなく原作小説だったり、過去作品だったりのリフレインやツイストで、それが過剰じゃないのもいい。『カジノ・ロワイヤル』の冒頭で殺しのライセンスを持ったクレイグ・ボンドの半生が、この五部作だったのか!の感無量も!

ジョン・バリーの曲をポイントでちりばめるハンス・ジマーのサントラもたまらないし。Qとマネイペニー、ビル・ターナー、Mたちの連携も、チームものの楽しさに溢れている。奇を衒うようでいて王道。2021年にもボンド映画が成り立つじゃないですか!の感動もありまして。

あと、観る前、観終わった後、これまでのシリーズのダイジェストのこの動画の印象の変化も含めて、たまらないなぁ・・・。『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』2時間40分超える長尺だけど、それを感じないほど手に汗握って観てました。

『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の興奮が冷めやらず。何も手につかないので、一年前に観たばかりの『女王陛下の007』「月曜ロードショー」日本語吹き替え版のDVDを観て、気を鎮めようと思う。他に観る映画あるんだけど、今日は、まあ、仕方ないね(笑)

ピーター・ハント監督『女王陛下の007』(1969年・英)を、「月曜ロードショー」吹替版DVDをスクリーン投影。当時、衝撃のラストに賛否両論(否が多かった)あったが、今ではボンド映画の傑作の一つになっている。ジョージ・レーゼンビーを広川太一郎さん、ダイアナ・リグを田島令子さん。つまり「600万ドルの男」「バイオニック・ジェミー」のカップルでもある。1979年4月2日にTBS「月曜ロードショー」で放映された。

三船プロ「大忠臣蔵」第20話「哀しき士魂」第21話「女間者」第22話「第一の脱落者」。裏切り者の汚名を着ることになる高田軍兵衛(田村高廣)三部作は、見応えがあった。

討ち入り派の急先鋒、軍兵衛は妹・おその(真屋順子)を女中として吉良邸へ送り込む。しかし、おそのの夫で浪士・島彌助(田村亮)は嘆き悲しむ。おそのの身元が露見しそうになったとき、島彌助は自害して、それを食い止める。

夫の死を無駄にしないために、おそのは吉良上野介(市川中車)の夜伽の相手をして、重要な情報を探り出すが、最後は夫の墓前で自害。なんて奴だ!高田軍兵衛は!と、ついつい思ってしまうが、第22話で、軍兵衛とその伯父で旗本・内田元知(堀雄二)が、大石内蔵助たちを守るために、ある行動をとる。柳沢吉保の目を逸らすために、軍兵衛は赤穂浪士から脱落し、内田の養子となり、生き恥を晒す覚悟をする。

いやぁ、田村高廣さんも、堀雄二さんも素晴らしい! こういうサイドストーリーをじっくり描いてくれる「大忠臣蔵」病みつきになるわけだ^_^

10月3日(日)『忠臣蔵』(1958年4月1日・大映京都・渡辺邦男)・『黄金獣』(1950年11月4日・新東宝・志村敏夫)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、大映オールスター大作、渡辺邦男監督『忠臣蔵』(1958年4月1日・大映京都)。大映京都の総力を結集しての一大絵巻。緊張感も薄く、映画的なエモーションは今ひとつだが、お馴染みの「忠臣蔵」の物語をゆったりと、ご存知のエピソードで綴っていく166分。つまり『ノー・タイム・トゥ・ダイ』とほぼ同じ尺^_^

続きましては、島田一男さん原作、笠原良三さん脚本、志村敏夫監督のスリラー『黄金獣』(1950年11月4日・新東宝)。新橋で歯科医をしている堀雄二さんが、二日酔いで目が覚めると、技巧室で女が死んでいた。知り合いの刑事・高田稔さんに電話するが不在。そこへ、明後日結婚式を挙げる恋人・久我美子さんがやってきて…

ヒッチコック式の巻き込まれ型サスペンスで、昭和25年の新橋、銀座、月島界隈のロケーションがたまらない。堀雄二さんは髪の毛フサフサの若者で、久我美子さんは可愛いいのなんの! 謎めいたショウダンサー・月丘千秋さんは肉感的!

黄金獣というくらいだから、どんな獣が出て来るのだろうと、ずっと昔から漠然と思ってた。今回、テレビ初放映、もちろん初見。百聞は一見にしかず。

クライマックスの細かいモンタージュに、志村敏夫監督の意気込みを感じる。千秋実さん、伊藤雄之助さん、田崎潤さん、いずれも若いが、すでに完全体!後のイメージはすでに確立している。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。