太陽にほえろ! 1973・第31話「お母さんと呼んで」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第31話「お母さんと呼んで」(1973.2.16 脚本・田波靖男、四十物光男 監督・澤田幸弘)
新宿駅前の修理屋(夏木順平)に靴底を直してもらうマカロニ。右足を直し始めたところに、挙動不審の美しき人妻が挙動不審で歩いてくる。片足で彼女を追うマカロニ。貴金属店で女性を見失う。
なんとその女性・秋津夏江(赤座美代子)は、ボスの昔馴染み。「なっちゃん、君結婚したの?」と気安い(笑)赤座美代子さんは俳優座「花の十五期生」の一人で、その後、文学座研究生となり、山本薩夫監督の『牡丹燈籠』(1968年)のお露役に抜擢された。東宝の『俺たちの荒野』(1969年)や『誰のために愛するか』(1971年)が印象的。「太陽〜」にも4回ほど出演することになる。綺麗な女優さん!
夏江はマカロニを誘拐犯の一味と間違えてしまったのだ。秋津みどり(青木英美)が昨夜に誘拐され5000万円の身代金を要求されているという。で、刑事に見えないマカロニと殿下が秋津家に詰めることに。秋津大四郎(河村弘二)は土地ブームで大儲けした実業家。夏江はその後妻に入ったのだが、みどりはソリが合わないようだ。取引現場に向かう大四郎は、夏江に心を開いていないのか、場所を告げずに出ていく。大四郎を追うマカロニと殿下。車から小田急バスに乗り換える大四郎。
バスの車内でチンピラ(戸塚孝、大島光明)がタバコを吸ってる。隣の女性客(桂木美加)がたまりかねて注意をすると、チンピラが女性に因縁をつける。どこかで見た光景。田波靖男さんも脚本に参加した『大学の若大将』(1961年)のバリエーション。見て見ぬふりしている乗客たち。あやうし丘隊員! そう。桂木美加さんは僕らの世代にとっては「帰ってきたウルトラマン」(1971年)の丘ユリ子隊員なのです!
そこへ若大将ならぬマカロニが「よしなさいよ」と割り入り、結局乱闘騒ぎに。これじゃ殿下も見てみぬふり(笑)走行するバスの車内で三人の乱闘シーン。手持ちキャメラで密室のアクションが展開される。さすが澤田幸弘監督!
この騒ぎで犯人たちは姿を見せずに大四郎は無駄足に。「お前警察に知らせたな」と夏江を詰る大四郎。「所詮、お前とみどりとはなさぬ仲だよ」。秋津家にボスがマカロニを連れて謝罪にやってくる。「犯人が警察の動きを知った以上、徹底的に捜査しないと」とボス。しかし大四郎は警察に頼ろうとしない。
そこへ犯人から「サツに手を引かせろ」と電話。大四郎「みどりにもしものことがあったら、お前のせいだぞ」と夏江に吐き捨てるように言う。嫌な夫だ。大四郎を演じた河村弘二さんはベテランで徳川夢声主演『彦六大いに笑ふ』(1936年)でデビュー。『日本沈没』(1974年)では建設大臣を演じている。この頃は女子高生も憧れるロマンスグレイのおじさまになっていた。
さて、捜査一係ではシンコが秋津みどりを補導したことがあると話す。そこでみどりの交友関係を洗うことに。ボスは秋津家に張り込んだまま。果たしてバスに犯人は乗っていたのか。マカロニはボスにみどりが補導されたことがあることを、さりげなく伝える。
娘とのコミニュケーションがうまく行っていない夏江は、そのことでまた大四郎から詰られる。ああ、嫌な亭主だなぁ。マカロニも同じことを考えて夏江に、夫婦仲について訊く。夏江から語られる秋津家の内情。「結局、私は二人の間に入り込んだ邪魔者だったのかしら」「大丈夫・・・」マカロニ優しいね。
みどりの学校で、彼女が家庭に不満を持っていたことを知ったマカロニとシンコ。コインロッカーで女学生たちに声をかけ、みどりについて訊く。深夜にジャズ喫茶「クレオ」にいたことがわかる。秋津家に電話をかけてくる誘拐犯を演じているのは林ゆたかさん。ヴィレッジ・シンガーズのドラマーから俳優になって、特撮方面では『ゴジラ対メガロ』(1973年)に出演している。
マカロニは誘拐後にジャズ喫茶にみどりがいたことを不審に思って、改めて夏江に事情を聞くが空振り。ボスは大四郎を尾行するが空振りに。ボスの命令でマカロニは夏江を尾行することに。ここから物語が大きく動き出す。夏江が現金を持って、くだんの「ジャズ喫茶」に。店の外にいた誘拐犯から「鞄を置いて帰れ。娘は後で返す」とウィンドウ越しに文字でメッセージが。鞄を持って立ち去る林ゆたかの後をつける夏江、そしてマカロニ。今回は、ヴィレッジ・シンガーズVSテンプターズでもある(笑)誘拐犯は北海道銀行に入るが、これはブラフだった。
しばらくすると出てきて、引き込み線の跡地から新宿ゴールデン街を抜ける。沢田監督の演出は街の情感や位置関係もきちんと撮影して、見ていて東京探検が出来る。マカロニは、ゴールデン街の「貸店舗」が怪しいと睨む。アジトの犯人たちは、みどりのボーイフレンドたちだった。
「飛び出せ!青春」のマキ役で大人気の”イケてる”青木英美さんの「ツンデレ系」の魅力がここでも炸裂。何度かトークやテレビの仕事で青木英美さんとご一緒したことがあるが、あまりにも美しいので結構ドキドキしました(笑)ここで誘拐事件はみどり自身が「パパの気持ち確かめるため」の狂言と判明する。
「あたし帰る!」とアジトを出て行こうとするみどりに「冗談じゃない。せっかく苦労して手に入れた金だ」と林ゆたかさんがナイフならぬフォークを突きつけ、本性をあらわす!「お前は家に帰れば済むけどな、俺たちは誘拐犯で追っかけられる」そら、そうだ。
みどりと誘拐犯の争う声を聞いた、夏江が「貸店舗」のスナックへ飛び込む。そこで林ゆたかさんに夏江が刺されてしまう。あーあ!お母さん! そこへショーケンが入ってきて大乱闘! このアクション演出に相当気合が入っている。スナックのセットを縦横無尽に壊しながらショーケンVS林ゆたかのバトルが延々続けられる。物語としては、後妻にパパを取られやしまいかと悩む娘心のいたずらから始まった狂言誘拐で青春ドラマの展開なんだけど。ハードアクションになってしまうのがいい。最後はみどりと瀕死の夏江が理解し合う。
しかしなぜボスが夏江を知っていたのか? なんとボスはバーに勤めていた夏江の客だったのだ!さて、夏江から誘拐犯はみどりに唆されたのだから情状酌量を頼まれたマカロニに、ボスはきっぱり「奴らも一人前の大人だ。やったことの責任は取ってもらう。お前も一人前の刑事になりたかったら、人を甘やかすな。そんなことをしていたらいつか、自分も甘えるようになるぞ」と言い放つ。
よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。