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太陽にほえろ! 1973・第44話「闇に向って撃て」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第44話「闇に向って撃て」(1973. 5.18 脚本・市川森一 監督・斎藤光正)

 型破りの鮫島勘五郎(藤岡琢也)刑事初登場。殿下との交流が描かれる。今回もマカロニはお休み。藤岡琢也さんはNHK「事件記者」の後期に出演、やはり後期の「社長シリーズ」で三木のり平さん、フランキー堺さんのパートを演じて一躍人気者に。「太陽〜」では、鮫やんこと鮫島勘五郎として出演。出演エピソードは以下の通り。

第44話「闇に向って撃て」(1973年)
第67話「オリの中の刑事」(1973年)
第89話「地獄の再会」(1974年)
第156話「刑事狂乱」(1975年)
第205話「ジョーズ探偵の悲しい事件簿」(1976年)
第252話「鮫島結婚相談所」(1977年)
第394話「鮫やんの受験戦争」(1980年)
第472話「鮫やんの大暴走」(1981年)
第711話「ジョーズ刑事の華麗な復活」(1986年)

 さて、今回のお話である。ある晩、ボスと赤提灯に入る長さんと殿下。店の前で鮫島がヤクザをボコボコにしている。「藤堂やんけ」「相変わらずだな」通行人相手にゴロ巻いていたチンピラを伸していた。関心する長さん、呆れる殿下。「城北署の歴戦の勇士だ。総監賞も俺よりもらっている」とボス。

 BGMは村田英雄さんの「人生劇場」。「でもあの分じゃ始末書もずいぶん書かされているんでしょうね」「総監賞の倍は書かされているだろう」。ボスの見る目は優しい。

 大久保界隈。鮫島刑事がパトロール中。アパートから女性の絶叫。「痴話喧嘩か」と一旦は離れそうになるが、泉アパートに踏み込む。逃げ出す男。女は気を失っている。鮫島は男を追うが、待ち伏せしていた男に殴打されてしまう。その頃、城北署管内では連続暴行絞殺魔が新聞を賑わしていた。鮫島刑事が取り逃したのもこの男だった。

 被害者・山口泰子が、結婚間近と新聞で知り、ショックのシンコ。殿下は「どんな人間なんだろうな」。シンコ「人間じゃないわ」。そこで一係へ電話。「なに?場所は?」とボス。またしても絞殺魔だ。被害者は婚約中の20歳前後の女性。これで四人目、全て婚約中である。鮫島はボスに被害者の歯を調べて欲しいと頼む。「嫁入り前の女性は大抵歯を治しているからな」

 現場からフラフラで出てくる殿下。「お宅では婦人警官を現場検証に連れてくるのか?」「まともな神経ならあれが普通だよ」。ボスと鮫島は仲がいい。鮫島は目を負傷して自由に動けない。「刑事クビになったらアンマでもやったろか」「けど、今はまだ刑事やで。手術までの一週間、まだ刑事や。わしはどうしてもこの手であのホシをあげたいんや。わかってくれ藤堂」ボスは鮫島の希望を受け入れて、殿下を鮫島のサポートにつける。

 しかし殿下は嫌がる。シンコやゴリさんが申し出るが「俺は殿下に頼んでいるんだ」とボス。ここに鮫島と殿下のコンビが誕生。警察病院にいく殿下。いきなりロープで病室から抜け出そうとする鮫島(笑)その勢いに押されて手伝う殿下。「ああ、えらい人と組まされちゃったなぁ」。

 被害者が三人とも通っていたのは、同じ歯医者だと判明する。東都歯科医大出身者の医師だと鮫島。その医師を突き止めるべく、歯科医めぐりをする鮫島と殿下。目の見えない鮫島にトランシーバーで指示をする殿下。鮫島は目が不自由なことを気取られたくないのだ。「あんた、わいの顔に見覚えないのか」といきなり歯科医(勝部義夫)に聞く鮫島。勝部義夫さんは東宝のバイプレイヤーで「ウルトラセブン」の通信員の人。

 この要領で歯科医めぐりをする二人。夜になり殿下は「僕はやはり精神異常者のリストを当たるべきだと・・・」と提案するが他のものがやっていると却下。馴染みの居酒屋で親父と喧嘩する鮫島。その無茶苦茶に、もうやってられないとボスに降りたいと頼む殿下。

 「いいだろう。その代わりこれを奴に渡してくれ」と七曲署管内の被害者が通っていた歯科医のメモを渡す。花巻歯科医院が、鮫島の探していた歯科医だった。しかし院長は男でなく女性(岸井あや子)なので、鮫島の読みは空振りか? 殿下は地理的に同じ歯科医に通うのは不自然でないから、他の線を当たろうと鮫島に提案する。

 鮫島は「さあ行ってみよう」と花巻歯科へ。「先生、わてのタイプやね。ちょっと痩せすぎやけど。痩せた子は大好きやねん」の鮫島に怒る院長。「太ってたんかいな」ところが、歯科技工士の久保(明石勤)が、鮫島をみて血相を変える。久保をホシと断定した鮫島、殿下は、久保のいるスナックへ向かう。夜の街のBGMは、この年3月発売の石川さゆりさんのデビュー曲「かくれんぼ」。

 スナックでは、梶芽衣子さんの「怨み節」が流れている。1972年12月発売、東映「女囚さそり」シリーズの主題歌としてヒット、街角に流れていた。奥の席には久保が座っている。カウンターでコーヒーを飲む鮫島。ミルクを間違えてソースを入れてしまう。「メクラになったってのはホントなんだな。鮫島の旦那」と馴染みのチンピラたち(戸塚孝・荻原紀ら)が笑う。その様子を見ている久保。例によってチンピラ相手に大暴れする鮫島。

 しかし目が見えないので勝手がわからず劣勢に。そこへ殿下が助っ人に「この人は、あと四、五日後に手術で治るんだ。警察病院で聞て見るんだな」。それを聞いている久保。夜の住宅街、久保を追い詰める殿下と鮫島。しかし殿下は巻かれてしまう。一人残された鮫島は、久保に襲われてしまう。「止まれ、止まらんと撃つぞ」「撃て!かまわんと撃て!」威嚇射撃をする殿下に「アホンダラ!根性叩き直したる。明日出てこい」

 翌日、造成地で鮫島から拳銃指南を受ける殿下。射撃の腕前は一流の殿下。「それだけの腕があったら、手でも足でも好きなところ撃てたはずやないけ」「我々の拳銃は人を撃つためにあるんじゃありませんよ」「お前は臆病なんじゃ。人を撃つのが怖いんや!」と鮫島。ビールびんを持って「島、これ撃ってみい」と殿下の勇気を試す。

 しかし殿下は、外してしまう。なかなか当たらない。鮫島「ドアホ!当たるまでやるんじゃ!」。ところでここで拳銃を撃っていいのかなぁ? 最後の一撃でビール瓶が炸裂。殿下やったね。七曲署でボスに報告する殿下。「証拠が何もないじゃないか。思えた。見えた。じゃ証拠にもならんぞ」「しかし動機があります」。

 男の名前は久保清。婚約者がいたが、一年前に逃げられている。婚約破棄の理由は、久保が過度の神経症だったのが原因だったと殿下はボスに話す。神経質な久保のモンタージュ・イメージがなかなかシャープ。「復讐か自己満足か。いずれにせよ、婚約中の女性にのみ異常な関心を持つという根拠は、過去の体験にあるということ」「彼なら技工士と患者という関係で、容易に被害者に近づけるということ」「学生時代に空手部に席を置いていたということ」この3点が根拠であると殿下。

 ボスは「不足だな。確証にはならんよ」。殿下は婦人警官を一人貸して欲しいとボスに頼むが、「囮捜査は認めんぞ」とピシャリ。それを聞いているシンコ。「おい殿下、もうこっち帰ってきていいぞ」「いえ、サメさんとやります」そんな殿下に「私、ちょうど直したい歯があるんだけど」とシンコ。

 シンコは、結婚目前で無惨にも殺されてしまった被害者の無念を晴らすために「人間ではない」犯人逮捕のために、自ら囮を申し出たのだ。冒頭のシンコと殿下の会話がここで生きてくる。市川森一脚本は、こうした「人の痛み」を視聴者である僕たちに、さまざまな形で教えてくれた。

 しばらくして、海で久保とシンコが遊んでいる。シンコは来月に結婚すると久保に話している。そんなシンコに「あんた何にも感じないんですか?昨日初めてあったばかりの男と海に来て、婚約者に悪いと思わないんですか?」「別に、いけないかしら」。二人を遠くから見ている殿下と鮫島。殿下は拳銃を手にしている。

 久保に車で送られてくるシンコ。「今夜12時、新宿要町の”どん底”でデートの約束をしたわ」。”どん底”は新宿3丁目にある老舗のバーで、黒澤明監督や三島由紀夫さんも通った店で昭和26年に創業。殿下は翌日に手術を控えた鮫島を気遣い、シンコと二人で久保逮捕に向かう。「新宿24時か」と”どん底”に到着する殿下。寺山修司さん作詞、浅川マキさんの「13日の金曜日のブルース」が店内に流れている。1970年発売の浅川マキさんのデビューアルバム「浅川マキの世界」に収録された名曲。

 しかし久保は来ない。久保は”どん底”の前に駐車してあった殿下の車を奪って、そのまま夜の街を走り出す。他の客にナンパされるシンコ。その時店員が「表の青い車お持ちの方おりませんか?」。そこで気づく殿下。

 しかし、久保の運転する車が警察病院の下へ。鮫島は殿下と思い、まんまと久保の罠にハマり、ロープで階下へ降りようとする。その姿をみてニヤリと笑う久保。殿下とシンコがタクシーで警察病院へ向かう。久保と目の見えない鮫島の戦い。久保の不気味な笑い。その手には青酸カリが・・・。「なぶり殺しがいいか、それともひと思いに・・・。はやくどちらかに決めろ」完全なサイコパスだね。

 「それはどっちもダメだ!」とボス。おお、カッコいい!「鮫島刑事は大事な目撃者だ。死んでもらっちゃ困る」「藤堂!」。ゴリさん、殿下、みんなが久保を追う。逃げる久保に銃を向ける殿下。「撃て!島!」。久保を仕留める。「殿下、大したもんだな」とボス。鮫島、久保に手錠をかける。

 翌日、署長に呼び出されるボス。手柄を城北署に持って行かれたからカンカンの署長(今回は出てこない)。そこへ鮫島がやってくる。「捜査第一係はどこですか?」鮫島は殿下に気づかない。ゆっくり歩いて一係までの歩数を鮫島に伝える殿下。鮫島の顔をここで初めて見る。そこへ「こいついい男だろ」とボス。なかなかいいラスト!

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