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『ドミニオン』(2005年・ワーナー・ポール・シュレイダー・未公開)
2023年9月16日(土)、兄・レナード・シュレイダー脚本『男はつらいよ寅次郎春の夢』がオンエアされたが、娯楽映画研究所シアターでは、同時間帯に弟・ポール・シュレイダー監督『ドミニオン』(2005年・未公開)をU-NEXTから投影した。
『エクソシスト』(1973年・ウィリアム・フリードキン)でマックス・フォン・シドーが演じたメリン神父が、なぜ悪魔祓いになったのか? を描く前日譚として、ジョン・フランケンハイマーが演出予定だったが、急逝により、シュレイダーが演出することに。
しかし完成作品を観たワーナーとモーガンズ・クリークは「興行的に厳しい」と、レニー・ハーリンによるリテイク版を製作。それが2004年の『エクソシスト:ビギニング』だった。ハーリンは、同じキャスト、セット、シチュエーションで、シュレイダー版とは全く異なる作品となった。
アクションとバイオレンスを強調して、仕切り直したハーリン版は、すこぶる評判は悪く、ゴールデンラズベリー賞になるほど。そこでワーナーとモーガンズクリークでは、制作費を回収すべく、翌年にシュレーダー版『ドミニオン』を公開するも、こちらも評判は散々だった。
というわけで、2本とも興行的に失敗した「呪われたエクソシスト前日譚」で、ぼくも『ビギニング』は観たものの、日本未公開の『ドミニオン』は実は未見のままだった。
で、先日、午前十時の映画祭で『エクソシスト ディレクターズカット』を久々に観て、いろいろ関心があって、スクリーン投影。
やー、同じキャスト、同じシチュエーションなのに、こうも違うのか!と、面白かった。しかもシュレーダーは、メリン神父(ステラン・スカルスガルド)の第二次対戦中の「原罪」をトップシーンに描いて、メリン神父の、この心の傷に悪魔がつけ込んでいくという構成にしている。
1944年、ナチス親衛隊・ケッセル中尉(アントン・カメーリング)は、占領下のオランダの小さな村の教区司祭、ランケスター・メリン神父にドイツ軍兵士殺害への報復をすべく、「懺悔を聞いているはずだ」と、殺害犯の名前を言うように命ぜられる。しかしメリンはそれを拒む。見せしめで村民が銃殺され、名前を言わなければ十人射殺すると脅され、村民を守るために犯人を指差してしまう。
神に仕える者としてあるまじき「見て見ぬ振り」をしてしまった後の惨劇。それがメリンのトラウマとなって、信仰を捨てていた。それから三年、1947年のアフリカ、英領ケニアのトゥルカナ地方の僻地・デラディ。考古学に傾倒しているメリンは、五世紀、キリスト教布教前のビザンチン教会の遺跡発掘調査に参加。
そこにローマから若きフランシス神父(ジェームズ・ダーシー)が赴任、イギリス軍のグランヴィル少佐(ジュリアン・ワダム)、かつてナチの収容所にいた医師・サラ・ノヴァック(イザベラ・スコルプコ)が加わってドラマが動き出す。
シュレダーは、人間ドラマに重点をおいて、それぞれの微妙な立場と、それぞれの「原罪」を描いていく。そして砂の中から出てきた遺跡には、かつて「悪魔封じ」をした痕跡があって・・・
村から追放された障害を持つ若者チェチェ(ビリー・クロフォード)が腕と足を骨折、瀕死の状態で、サラの診療所に運び込まれるが、発掘調査が進むにつれて、少年の怪我が奇跡的に回復していく。それを神の奇跡だと興奮するフランシス神父だったが・・・
というわけで、この若者に悪魔「サタン」(セリフではそう言っている)が取り憑いて、メリン神父は、その悪魔と対峙することになる。
後半の悪魔が憑依したチェチェのメイクや「ハムナプトラ」的なスペクタクルはいささかチープだけど、そこまでの描写がなかなかいい。特に英国軍の兵士たちが、遺跡を警護していて、「お宝」に目が眩んで宝石を奪おうとして・・・。最初の被害者となるのだけど、そのシークエンスは本編の白眉でもある。
思っていた以上にシュレイダー版『ドミニオン』は、ドラマパートがしっかりしていて「お!」となりました。
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