『クレージーメキシコ大作戦』(1968年4月27日・東宝・坪島孝)
深夜の娯楽映画研究所シアター。東宝クレージー映画30本(プラスα)連続視聴。
21『クレージーメキシコ大作戦』(1968年4月27日・東宝。坪島孝)
4月28日(木)と29日(金)は、二夜連続で、世紀の超大作『クレージーメキシコ大作戦』(1968年4月27日・東宝・坪島孝)を堪能した。前年、上映時間二時間三十七分、プログラムピクチャーのコメディとしては、初めての一本立て興行(短編映画を併映)を実現した『クレージー黄金作戦』(坪島孝)の大ヒットを受けてのこと。
この年は、あの東京五輪から四年後、メキシコ・オリンピックが10月に開催されることになり、日本でもメキシコブーム、南米ブームに沸いていた。テレビでも「少年サンデー」に連載されていた川崎のぼるのレスリング漫画「アニマル1」も4月1日からフジテレビ系でスタート。「目指せメキシコオリンピック」ムードが高まっていた。というわけで、今回のロケ地は、サンフランシスコ〜メキシコシティ〜アカプルコと豪華版。
田波靖男さんの脚本は、坪島監督との相性がいいということもあって、本当によくまとまっている。前作で歌舞伎「三人吉三」の手法で、植木等さん、谷啓さん、ハナ肇さんのキャラクターを均等に描いて、海外への出発までのドラマを前半でじっくり描いていく。前作では「ギャンブル好きの破戒僧」「日本に見切りをつけた医者」「汚職まみれの代議士」の三人の物語で、サラリーマン映画のバリエーションだったが、今回はヒッチコックの殺人喜劇や『ハリーの災難』を意識しての「死体いじり」ネタも投入して、かなりブラックユーモア度が高い。それゆえコメディとしても面白い。
植木さん演じる、酒森進は、大酒飲みの「無責任男」。詐欺師ならぬ詐話師として口八丁で小銭を稼いでは大酒をあおっている。久しぶりの弾けたキャラクター。そのパートナーの美大生・村山絵美(浜美枝)は、冴えない眼鏡っ子でツインテールの女の子。男言葉をつかって、植木さんのことを「酒森クーン」と呼ぶのが可愛い。で、彼女はメガネを取ると美人、脱ぐとグラマーというキャラクター。おそらくクレージー映画史上、浜美枝さんのキャラで一番、この村山絵美が魅力的かもしれない(個人的感想です・笑)。でこの酒森進は、芸能プロモーター伊沢(藤岡琢也)の望みで、絵美をアメリカにダンサーとして売り飛ばしてしまう。
ハナ肇さん演じる、清水忠治は前科十三犯のヤクザ。親分・花岡平造(田武謙三)の身代わりで出所してきたばかりで、デパートのメキシコ秘宝展に展示されている石像を盗むように指示される。で、清水忠治が惚れているのは、幼馴染で、今は親分の秘書をしている秋本光子(大空真弓)に惚れ抜いている。親分が彼女に手をつけようとしているので気が気じゃない。さらには親分の女房でバーのマダム・由香利(春川ますみ)が、光子と親分の間を嫉妬して大騒ぎ。ならばと、親分は若頭・松村(中丸忠雄)を使って由香利を殺害、何も知らない清水忠治に罪を着せてしまう。
で、このマダムの遺体の始末に困った忠治は、真面目な銀行マン・鈴木三郎(谷啓)のクルマの後部座席に、マダムを置いてきてしまう。この鈴木は、出世しか頭にない男で、高級料亭の仲居・相川雪子(園まり)という恋人がいるにも関わらずに、銀行の大林常務(十朱久雄)の娘・令子(浦山珠実!)と結婚することに。雪子は「式場で睡眠薬を飲んで自殺する」と怖いことを言うし。で、結婚式の直前、三郎は令子とのデート中に、マダムの遺体をクルマに遺棄されたので、これは大変と、橋の上からマダムを投げ落とす。その時、警官(高木ブー、荒井注)に職質されたために、殺人犯の汚名を着せられることに。
で、朝目覚めたら、ベッドにマダムの遺体が転がっていて、驚いた酒森進。冗談じゃないと、あろうことか大学病院へ研修用に、マダムの遺体を売りに行く。この辺りのアンモラルさ、ブラックな笑いが、本作の魅力でもある。坪島監督の手にかかると、いやらしくなく、さらっと描いているのがいい。しかし、酒森は大学病院で、がん治療の権威・中村博士(藤田まこと)と間違えられて、マフィア一味に拉致されてサンフランシスコへ。瀕死のボス・ルウ・コステロ(テッド・ガンサー)の脳外科手術をさせられることに。
一方の忠治は、自分をマダム殺しの真犯人と確信しているが、ボスはサンフランシスコのマフィアに光子を伴って渡米したと知り、貨物船に乗り込んで密航。現地で親分を刺して、自分も死のうと物騒なことを考えている。
またまた一方の鈴木三郎は、結婚式場に塚田刑事(犬塚弘)が逮捕にやってきたので、新婚旅行の航空チケットを持って羽田空港へ逃げ出す。そこで料亭の女将から客の裏金1000万円を預かって欲しいを頼まれて、そのまま飛行機へ。結果的に殺人犯の容疑者が横領して高跳びしたことになってしまう。
おかしいのは、大学病院から拉致された酒森進が目覚めると、サンフランシスコのアルカトラズ刑務所の中で、マフィア一味の日系人ケン(桜井センリ)から「ボスの手術を成功させないと命はない」と脅かされる。ほとんどコントのシチュエーションだが、植木さんのオーバーな演技で、見ているこっちも納得してしまう。
と言うわけで、中盤、サンフランシスコで植木さん、谷さん、ハナさんの三人が再開。ボスと親分が狙っているのは、メキシコのオルメカ遺跡のピラミッドにある財宝だった。その地図を酒森が記憶しているらしい、ということで、舞台はメキシコへ。メキシコでは秘宝の在処の地図を知っているマリア(アンナ・マルティン)と三人組が出会って大冒険となる。このメキシコシークエンスも、フィリップ・ド・ブロカの『リオの男』(1964年)みたいな冒険映画として楽しい。
マリアと三人組が、秘宝を狙う山賊たちに捕らえられる。山賊の頭領に天本英世さん、子分に広瀬正一さん、桐野洋雄さん。これがなかなか様になっている。で、忠治が持っていた親分と心中用のダイナマイトを、鶏にくくりつけて「特攻隊」と称してゲリラを全滅させる。コンプライアンス上、今では絶対NGな描写だが、当時はこれで劇場が湧いた。ゲリラ部落の爆破シーンは、東宝特技陣が手がけている。井上泰幸さんがデザインしたセットを大爆破!
というわけで、ディティールが豊かなのと、展開が面白いのでダレることなく、二時間四十二分の長尺を楽しむことができる。音楽シーンは、後半、無一文となったクレージーの面々が、メキシコ国立劇場でショーを展開する(夢想)シーン。ここは企画・構成が「シャボン玉ホリデー」などを手がけていた放送作家の河野洋さんと田村隆さん。振り付けがお馴染み小井戸秀宅さん。演出が小谷承靖監督。「VIVA!CRAZY」のナンバーには、ザ・ピーナッツ、中尾ミエさん、クレージーが出演してメキシコ民謡「セリト・リンド」をコント仕立てで演奏する。
主題歌は、トップシーン、タイトルバックで、時代劇のお殿様スタイルの植木さんが歌う「人生たかが二万五千日」(作詞:田波靖男 作曲:萩原哲晶)。トラ箱の看守(人見明)も夢の中に登場。このシーン、ノンテロップで観たい!
で後半に財宝を手にして大金持ちとなった植木さん、谷さん、ハナさんがアカプルコへ向かうハイウェイで歌う「ハイウェイギンギラマーチ」(作詞:田波靖男 作曲:宮川泰)の爽快さ。歌詞は「人生たかが二万五千日」のバリエーション。
そしてラスト、帰国した植木さん、谷さんがそれぞれのパートナーと結ばれてクレイジー七人組でメキシコレストランを開業。そこへマリアが恋人(沢田研二)と一緒にやってくる。そこでクレイジーが演奏して植木さんが歌うのが「ギンギラマーチ」(作詞:田波靖男 作曲:宮川泰)で大団円。
全体的にバランスが良く、作品的には『クレージー黄金作戦』よりもよく出来ている。しかし、興行的には苦戦してしまい(といっても前作のヒットが凄すぎた)クレージー映画は、次第にスケールダウンしていくこととなる。
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