『クレージーだよ 奇想天外』(1966年5月28日・東宝・坪島孝)
深夜の娯楽映画研究所シアターは、東宝クレージー映画全30作(プラスアルファ)連続視聴。
14 『クレージーだよ 奇想天外』(1966年5月28日・東宝・坪島孝)
4月20日(水)は、東宝クレージー映画で谷啓さん初主演作『クレージーだよ 奇想天外』(1966年5月28日・坪島孝)をアマプラ東宝チャンネル(お試し)からスクリーン投影。この映画が封切られた昭和41年は、ルーキー新一さん的には「エライことですよ」な年。テレビでは「ウルトラQ」が1月にスタートして、「オバケのQ太郎」「おそ松くん」が大ブーム。TBSの日曜夜8時には、渥美清さんの「泣いてたまるか」が4月にスタートした。
ビートルズが6月末に「ヤァ!ヤァ!ヤァ!」とやってくる。そうしたなか、子供たちにもクレイジーキャッツが定着して、加山雄三さんの若大将、ゴジラともども「子供も楽しめる娯楽映画」となっていた。そこでなんと、本作は古澤憲吾監督の『アルプスの若大将』と二本立て公開。ゴールデンウィークというわけではなく、5月28日の封切りなのに、東宝映画の興行記録を打ち立てたエポック作品。
谷啓さんと坪島孝監督、そして田波靖男さんの「ハリウッド喜劇」趣味が一致して、谷啓さんの個性・趣向・キャラクターを最大限に生かして佳作となった。これまでの「スーパーサラリーマン喜劇」とは一線を隠した「SFコメディ」でもあり、そういう意味では(当時としては)異色作なのだけど、坪島孝監督のクレージー映画における谷啓さんのホンワカしたキャラクターは、この後もどんどん拡大していく。
植木等さんはあくまでも脇役に徹していて、遊星α(アルファ)の長官役=コントの老人キャラと、後半の国会「平和法案」委員会に乱入する自称「総理大臣」の二役。出番は少ないが、観客が期待する植木さんのキャラクターの両面が観られて、一粒で二度美味しい(笑)
地球文明よりも発達した遊星αから、人類に「戦争をやめさせるため」に来訪したM7ミステイク・セブン(谷啓)の活躍を描くというプロットは、『鋼鉄の巨人 スーパージャイアンツ』や『地球の静止する日』などでお馴染み。
で、田波靖男さんの脚本が優れているのは、一見「子供向き」「ファミリー映画」のテイストでありながら、「愛はお金で買えるもの」と、ヒロインの星由里子さんが、社長・ハナ肇さんの契約愛人だったりすること。風刺という視点を明確にして「ドライな現代女性のセックス感覚」とか、政財界の「平和法案とは名ばかりの戦争法案」、ベトナムへの弾薬提供する「死の商人」としての日本企業を描いていること。
『アルプスの若大将』と二本立てだから、星由里子さんの澄ちゃんと、本作のヒロイン和子のキャラクターは、当時の子供たちにとって「大人の女性って?」と感じさせたに違いない。いずれも清純ヒロインとしてはいささか問題ありなので(笑)
103分という尺も、これまでのクレージー映画では『大冒険』と並ぶ長さ。坪島監督の笑いのセンスと谷啓さんの笑いの趣向がピッタリあって、エピソードの羅列の前半、楽しいのなんの。
なんたって冒頭、酒に酔っ払った鈴木太郎(桜井センリ)さんが交通事故の衝撃で、ミステイクセブンに乗り移るというのは、この2ヶ月後に地球に来訪する「ウルトラマン」とハヤタのファーストコンタクトを先取りしている。しかもセンリさん、酔っ払って鼻歌を歌っているのが「オバケのQ太郎」の主題歌。作曲は、この二本立ての両方の音楽担当の広瀬健次郎先生!
内田裕也さんのチンピラ→男性アイドル・ジミー健の転身も、この時代の即席タレント誕生をカリカチュアしていておかしい。谷啓さんが下痢のジミー健に変わって、人気歌手・タロー鈴木となり「イヤダイヤダと云ったのに」を大ヒットさせるモンタージュで、谷啓さんが着流しで、助六のような鉢巻姿になる。これは谷啓さんに伺ったのだけど「演歌歌手のような、唄とは関係ない仰々しさ」を表現したくて、自分で考えたとか(笑)
野川由美子さん&藤田まことさんのコンビもこの時代ならでは。そしてこの年の後半、「マグマ大使」で二代目・ガムを演じる吉田次昭くん! どこを切っても昭和41年の空気が楽しめる。
そして谷啓さんの歌う主題歌「虹を渡ってきた男」(作詞・田波靖男)の素晴らしさよ!