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『図々しい奴』(1961年・松竹・生駒千里)

 ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」。続きましては、柴田錬三郎原作、生駒千里監督『図々しい奴』(1961年・松竹)。大映テレビ部の丸井太郎さん、東映の谷啓さん版に先駆けての最初の映画化。構成は井手雅人さん、脚色は飯坂啓さん、安田重夫さん。キャメラは川又昂さん。

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 昭和14年、岡山から青雲の志を抱いて上京する戸田切人の戦中戦後の図々しい人生。主演は杉浦直樹さん。テレビと東映版で、男爵・直政を演じることになるが、杉浦直樹さんの良い意味での軽い演技は、翌年の「ニッポン無責任時代」の植木等さんの先駆けのような「スーダラ」っぷりが爽快!

 切人の後見人的な存在の伊勢田直政に津川雅彦さん。なよなよした危なげな感じがいい。物語は原作通り、赤坂の老舗の羊羹屋「黒屋(とらやがモデル)」に奉公した切人が、直政のバックアップで独立起業。近衛師団に美人羊羹を売り込むも、赤痢騒動で大失敗するが懲りない。

 という谷啓さん版でもお馴染みの展開だが、軍隊に入隊後からが面白い。押しかけ女房・多嘉(高千穂ひずる)が軍医に不合格を頼む工作も虚しく、入隊。直政とともに南方に出撃するが… 高千穂ひずるさんがとてもチャーミング、切人に惚れ抜いてサポートしていく妻なのだが、戦前というより1960年代の女性の理想のようなヒロイン。

 後半は、東映版では「続図々しい奴」で描いていた進駐軍相手に、多嘉とともに儲けていく、パワフルな切人のバイタリティが楽しい。植木等さんの「日本一の裏切り男」(1967年)によく似た味わい。杉浦直樹さんのドライな感じが、ピカレスク喜劇的に楽しい。

 直政の生涯の恋人となる、黒屋の娘・美津子(牧紀子)さんが、ツンデレタイプでなかなか良い。直政への横ビンタのリフレインが、前半と後半を繋ぐ。予定調和の展開ではなく、あれよあれよのテンポも含めて、クレージー映画は時代の要請だったと、1961年の空気感に触れる思い。

 前半に出てくる、東野英治郎さんのやんごとなき方の御親戚・浅田公爵の「あっそう」に大爆笑。羊羹を食べる高貴な表情!

 先日の『大穴』といい、松竹時代の杉浦直樹さんのピカレスクでドライな軽さ、ウイットはなかなかカッコイイ。

 向田邦子さんのドラマ「あ・うん」で杉浦直樹さんが演じた門倉さんのルーツを終始感じながら88分を堪能!佳作!


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