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太陽にほえろ! 1974・第77話「五十億円のゲーム」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第77話「五十億円のゲーム」(1974.1.4 脚本・小川英、武末勝 監督・児玉進)

西山署長(平田昭彦)
永井久美(青木英美)
警視総監(藤田進)
社会部デスク(草薙幸二郎)
ウラン研究者(高原駿雄)
さくら銀行支店長(奥野匡)
森川三郎(重松収)
田村勝彦
前田哲郎
日本原子力研究センター所長(片山滉)
山本武
関口真砂子
斉藤英雄
七曲署幹部(入江正徳)

小林恭治さんのナレーション
「強力な放射性物質をせしめ、政府を、警察を、国民を、放射能の恐怖に導く。そのラジカルな脅迫の裏側に、完全犯罪への幻想と、五十億円のロマンが漂う。次回「五十億円のゲーム」どうぞご期待ください。」

 1974(昭和49)年1月4日放映、この年最初の「太陽にほえろ!」は、濃縮ウランを奪取して、日本政府を脅迫する知能犯グループと、七曲署・捜査第一係の対決を描く、正月らしいスケールのパニック篇。警視総監役で、戦前からの東宝男性スター・藤田進さんが登場。平田昭彦さんも出席する対策会議シーンを見ていると東宝特撮映画のようなヴィジュアルが楽しめる。

 この頃、銀行のキャッシュカードが登場。全国どこからでもATMで預貯金ができるシステムは画期的だった。小川英さんと武末勝さんによるシナリオは、この新システムの盲点をつくものだったが、現在ではいささかムリがある。それでも説得力を持ってしまうのは、犯行グループの真意を推理するボス=石原裕次郎さんの堂々たる演技があればこそ。

 エド・マクベインの「87分署シリーズ」をイメージしてスタートした「太陽にほえろ!」らしく、今回は「87分署」の「キングの身代金」をベースにした黒澤明監督『天国と地獄』(1963年)を意識した現金受け渡しシーンもある。正月最初の放送にふさわしく、ボスを中心に七曲署のメンバー全員が活躍するのも楽しい。

マンションの一室。若者たちが密談している。顔は映らない。

「で、どうなんだい? そろそろ結論が出てもいい頃だぜ」
「ああ、どうやらなぁ」
「(女の声で)もったいぶらないで早く言ってよ」
「考えるのはお前の仕事だけどなぁ。俺たちだって随分働いたんだぜ、資料集めに」
「成功率は90%」
「まあまあだな。それで、儲けは?」
「(女、水割りを飲んで)そうよ、問題はそれよ」
「(男、スペードのエースを切って)一体、いくら入るんだ?お前の計算だと」
「(ライターの火を付け)50億円」
「ハハハ、オタオタするなよ、たかが一億円の50倍だぜ(タバコに火を付ける)」

 捜査第一係。ジーパンが寒そうに入ってくる。宿直のゴリさん、早起きして新聞を読んでいる。「しかしひどいな、水爆だよ。またも核実験、強行だってさ。そうかと思えば、海も川も汚染されて、そのうち魚も食えなくなっちゃうだろうって。夢も希望もないね」「全くゴリさん、食い物の心配しかしないんだから」とジーパン。「当たり前だよ、食い物が一番大事なんだよ」。

 「日本原子力研究センター」の輸送車がウランを運んでいる。その後ろを高級車がつけてくる。住宅街で道路工事の看板があり迂回する原研の輸送車。2台の車が行ったあと「この先 道路工事中 通行禁止 七曲警察署」の看板を若者が動かして、道路を封鎖。輸送車の行手に、自転車が倒れ、女性がうつ伏せに倒れている。車を止め、原研の職員が降りた瞬間に、後ろから薬を嗅がされて意識を失う。女性は立ち上がり、高級車へ向かって歩き出す。

 一係に電話。ゴリさんが電話を出る「何?濃縮ウランを奪われた?」。原研職員「奪われたんです。薬を嗅がされて・・・早く、すぐに手配してください。原子力研究センターのライトバンごと盗まれたんです」。

 犯人たちが奪った原研の輸送車と、黒い高級車が都内を走る。輸送車、ガソリンスタンドで保冷車に積み込まれて、そのままどこかへ。

 一係。日本原子力研究センター所長(片山滉)が輸送車の行方不明に苛立っている。ボスは「通行禁止の標識で誘い込み、薬を嗅がせた手口から見ても、これはかなり計画的です。奪ったクルマをそのまま走らせるようなヘマなことはしないでしょう」。ボスは所長に濃縮ウランの輸送方法が無防備すぎると正直に意見を言う。「無防備過ぎる?われわれは法規通りに」と反論する署長。「つまりその法律にも、盗難予防の心得は書いてないと言うことですか?」。想定外のことだった。濃縮ウランを盗むなんて馬鹿げている。「なぜです?」と山さん。所長は「一文にもならんからですよ。ウランというだけで、原子爆弾を盗んだつもりになるのは、実は滑稽な話でね。要するに無用の長物です。これが馬鹿げてなくて、なんですか」。

 そこへ電話。「濃縮ウランの盗難を扱っているのは、そちらですか?」犯人グループの犯行声明である。「濃縮ウランの売値は50億円。もちろん払うのはあんたじゃない。日本国政府だ。濃縮ウランを酸性のある種の溶液に溶かして、水源地にぶち込めばどうなるか?」。イヤホンで会話を聞いた原研の所長が青ざめる。

ボス「どうなるんです?」
所長「濃縮ウランは水には溶けない。ある種の溶液になら溶ける。そんな毒物が水源地に放り込まれたら?それが水道の水に混入したら?」。

 七曲署・捜査会議。ウラン研究者(高原駿雄)が説明する。濃縮ウランが体内に入れば、即死はしないが、放射能障害を引き起こす。盗まれた濃縮ウランは「約4キロ」。つまり石炭1万二千トン分のエネルギーである。「これはいわば警察への挑戦だ。国家への反逆ですよ。こんな連中を図に乗らせたら、警察の権威は地に落ちますよ」。西山署長(平田昭彦)はあえて公開捜査に踏み切ると宣言する。しかしボスは「待ってください。私は公開捜査に反対です」。ボスはその理由を言う前に、研究者に質問をする。

「犯人たちが濃縮ウランを貯水池に放り込む場合、彼ら自身に危険はありませんか?」
「もちろん危険です。誰よりも彼ら自身が放射能を浴びるわけですから」
「実際に濃縮ウランが投げ込まれたとして、発見と同時に、その貯水池を使用中止とした場合、実害はほとんどないんじゃないですか?」
「なにしろ莫大な水の量ですから、実際にその水を、二、三日飲んだとしても、人体に対する影響は、軽微なものと言っていいでしょう」

 相手は放射能だから、そんなことにでもなったらパニックになると七曲署幹部(入江正徳)。ボスは「仰る通りです。そしておそらくそれが、そのパニックそのものが、犯人の狙いなんです」「ウランを投げ込むのは単なる脅しで、実行することはありえないのか?」との質問にボスは「ないとは言えません。しかし、その実害よりも、そのことへの社会不安の方が、はるかに強大だと思います。それが犯人の狙いだとすれば、ここで事件を公表すれば、犯人の罠にみすみす嵌ることになります」とボス。署長は「いやに大上段の物言いだが、それは未公開のままで、犯人検挙の成算があると言うことだな。捜査については俺に任せろ、と言うことだな」とボスに指をさす。「そうです」とボス。

 一係。非公開のまま捜査を続けることになり、一同ホッとしている。セリフでは「未公開」だけど、株じゃないんだからやはりここは「非公開」で。「ボスの言う通り、公表してもパニックが起きるだけだ」と山さん。「しかもその一方では英雄視する連中も出てくるし」と長さん。ジーパンもシンコはボスの「成算の中身」を聴きたがるが、ボス「あれはただのハッタリだ」。久美もがっかり「そんな!ボスの推理、聞こうと思っていたのに」。ボスは「こういうスタンドプレイの知能犯には盲点だあるんだ。地味で目立たない部分で、必ずボロを出すんだ。そしてそれを見つけ出すのが・・・」。

 そこで電話が鳴る。「ほら、おいでなすったぞ」。逆探知開始。「いやに手間取ったな、逆探知や録音なんてしたって、無駄だぞ」「ところで、50億円支払ってもらう前に、あんた方をテストする。まず、使用済みの一万円札で一億円、今日中に揃えてもらいたい。大型ボストンバッグに詰めて待機しろ。明日の明け方4時に支払う場所を教える」。そこで電話が切れる。

 七曲署・首脳陣。ボストンバッグを用意する。バッグの底には精巧な発信機を仕掛けている。犯人の動きはこれで追うことができる。西山署長得意気に「本庁からの贈り物だ」と捜査チームに渡す。「藤堂くん、これで失敗したら、バチが当たるよ」。時計は午前四時を指している。犯人から電話がかかってくる。西山署長、逆探知スタート。ボスが受話器を上げる。「新宿花園神社前の歩道橋に、午前5時ピッタリに来い。現金を持ってくるのはお宅ののデカ二人だ。あとは誰も来るな。俺たちを怒らすとどうなるか? よく考えるんだぞ」。ゴリさんとジーパンが花園神社前に向かうことに。新聞紙の紙幣をバッグに詰める二人の刑事。

 午前5時。花園神社の向かいのビルの屋上から長さんが双眼鏡で確認。無線で「そろそろ時間ですが、誰も現れません。クルマが一台停まっているだけです」。歩道橋の上にゴリさんとジーパンが歩いている。花園神社の前には、あの黒い高級車が停まっているが、誰もいない。「品川56 た44ー15」。ゴリさんが運転席のドアを開けるとシートに「エンジンをかけ 無線機のスイッチを入れろ」と新聞の切り抜きメッセージが貼ってある。バックシートにカバンを放り入れ、指示通りにするゴリさん。ジーパン、かっかしている。「無線機?」と憮然としてスイッチを入れる。無線から犯人の声で「警察だけあって、さすが正確な時間だな。まず首都高速の入り口に向かって走ってくれ」。ジーパンは文句たらたら。ゴリさん無言でクルマを発進させる。捜査チームが現場に走ってくる。いつになく応援の刑事、警官も多い。ゴリさんの運転する高級車を追って、殿下と山さんの覆面パトカーが走り出す。

 クルマは新宿通りから外苑方向へ。外苑入り口から首都高へ乗る。そのことをボスにトランシーバーで連絡するジーパン。クルマの無線機から高笑いが聞こえる。「手持ちの無線機で、こっそり連絡を取ろうなんて、ケチな了見は起こさないでもらいたいな、そっちの無線も俺たちは全部聞いている。後ろの尾行車の声もな。ハハハ、尾行なんて汚い真似はすぐにやめろ。無線だけじゃない、俺たちはちゃんとあるところから見ているんだからな、嘘をついてもすぐわかるぞ」。ジーパンに警察無線を切るように指示する犯人。

 ボスは山さんに「尾行は中止する」と指示を出す。首都高を降りた殿下と山さんの覆面パトカー。レーダーでバッグの発信機を追っている。「直進しているようだな」「このまま行けば東名高速に入りますね」しばらくして、山さん車を停めさせる。「ちょっと買いたいものがある」と降りて、シャッターの降りている山岳用品の店の戸を叩く。

 ジーパンとゴリさんのクルマ。犯人から「次の指令だ。助手席の刑事さん。シートの下のものを出してくれ。ボストンバッグの札束をそっくりその袋に入れ替えてくれ」との指示である。ジーパンは札束を袋に入れる。首都高から東名に入って時速100キロで走れと犯人。発信機の信号を受信しながら追う、殿下と山さんの覆面パトカー。高級車が東名に入ったことを確認する。犯人は「厚木2km」の標識が見えたところで、速度を半減し、左の窓を開けて、相模川の橋にかかった時に、外に放りだせと指示をする。黒澤明監督の『天国と地獄』(1963年)の要領である。「何?」とジーパン。「言われた通りにしろ、水道の水が放射能で汚染されてもいいのか?」「くそッ」。

 相模川、ジーパンは布袋を窓から投げる。車を停め、橋の上から川をのぞくジーパン。そこに山さんのクルマがきて「ジーパン、ロープだ!」と先ほど山岳洋品店で入手したロープを渡す。山さんは先を読んでいたのだ。さすがだね。ジーパン、欄干にロープをかけて下に降りようとする。そこへ犯人が駆け寄り布袋を持って逃げる。「待て!」追うジーパン。犯人はライトバンに乗り込み、逃走する。

 七曲署・捜査会議。西山署長「何、アマチュア? 犯人はアマチュアだと言うのか?」。ボス「そうです。子供のように未成熟な連中と言っていいほどです」「何か根拠があるのかね?」「彼らの行動、発言、全てが根拠です」「全てが?」。

「彼らの言動の一つ一つを考えてみてください。分別のあるまともな人間のやることじゃないし、と言って、プロの犯罪者がやることでもない。また、やくざのはったりでもない。つまり、これはゲームなんですよ」。

 ボスは続ける。「机上の計算で組み立てたものを、いきなり実行に移した。それがこの犯罪の特徴です。つまり、現実と幻想の区別がついていない。彼らはまるで、取引の過程を楽しんでいるように見えるのは、そのためです」。鋭い分析。劇場型犯罪の知能犯にありがちなアマチュアイズムを1974年の時点でボスは指摘している(笑)

 しかし西山署長は、それは君の私見に過ぎない。いくらそんな仮説を立ててみても、事件は解決しないと、懐疑的である。「仰る通りです。ですけど、うちの捜査員全員は、すでにこの仮説に基づいた捜査にかかっています」。ボスの捜査方針は、焦点は若者、特に学生に絞ることを基本にする。その上でゴリさんと山さんは濃縮ウラン輸送ルートの情報を徹底的に確認し、長さんは盗難車の無線機の入手経路、シンコと殿下、ジーパンは犯行現場から周辺一帯の自動車関係の工場をしらみ潰しに当たる。犯人の中に車を改造する技術を持っているものがいる可能性があるからだ。

 毎朝新聞社。社会部に「濃縮ウランが盗まれた事件を知っているか?」と犯人から電話。記者は「どう言うことなのか、説明してくれないか?」。

 東西新聞社「一億円?警察が騙した?」。城南新聞社「人命軽視だっていうんだな。だから報復する?待てよ君、まさか本当に濃縮ウランを?」「それは最後の手段さ。だけども俺たちはいつでもそれをやれるんだ。嘘だと思ったら、本山貯水池に行ってみな」。

本山貯水池。水面が赤く染まっている。

 新聞の輪転機。「濃縮ウラン強奪さる 犯人、五十億円を要求!!」「本山貯水池にデモンストレーション 厳重な警戒網の中 赤いペンキ流す」「警察、ついに記者会見!失態を認める」。次のカットは頭を下げる西山署長、沈痛なボスのモノクロ報道写真。
「政府は五十億円を 支払うべきか? 人命には代えられぬと 町の声!」

 さくら銀行富士見支店。支店長(奥野匡)に電話。「俺は濃縮ウラン事件の犯人だ。俺は田中一郎の名前で、お宅に総合預金口座を持っている。今から、その口座に50億円、日銀から振り込むように手続きしてくれ。核物質にはちょうどそれだけの保険がかかっているんだ。保険会社が全額払うかわからないが、どちらにしろ、おたくは寝転がっていて、50億円も預金が入るんだぜ」「そんなことはできない」「出来なきゃ濃縮ウランをぶちまける!その責任は、さくら銀行!」。そこで電話が切れる。

 七曲署。緊急会議が召集される。警視総監(藤田進)が到着。「人の生命は何よりも優先される。誠に遺憾なことだが、50億円は犯人指定の口座に振り込むことにする。異論はあるかね?」。誰も返事をしない。しかしボスは「ございます。恐喝営利誘拐事件で、犯人側の最大の弱点は、金を受け取るために、どうしても姿を表さなきゃいけないというところにあります。金額が膨大になればなるほど、その危険は増大します。」「ところが今度の犯人は銀行振り込みという新手できた。確かに、その限りにおいては、狡猾な手口だ。しかし・・・」と警視総監。「狡猾なだけじゃありません。もし犯人の要求を飲んだら、犯人は二度と我々の前には姿を表さないでしょう。つまり、犯人の手から濃縮ウランを取り戻すチャンスを永久に失うかもしれません。人命尊重の建前から言っても、むしろそれは、一層危険なことじゃないでしょうか?」。

 しかも彼らは姿を表さずに現金を引き出すことができると、ボスは続ける。「さくら銀行には「全国キャッシュサービス」という自動支払いのシステムがあります」。ここで画面はストップとなり「このシステムを犯罪に利用することは実際には不可能です」とテロップが入る。キャッシュカードによる預金の出し入れが始まったばかりの頃のことである。「カードさえ差し込めば、24時間、いつでもキャッシュを引き出すことが出来ます。」

 支店長は「田中一郎名義の口座にもそのカードは出されております」。そこで西山署長「コンピューターに警報装置をつければ」って、ちょっとそれは違いますが(笑)まだコンピューター=科学万能の象徴だった時代。「ウルトラマン」の岩本博士としては、ちょっと恥ずかしい発言(笑)

 ボスは続ける。「犯人の口座番号を呼び出されて、すぐに出動したとしても、起動力の鈍い地方都市では、おそらく間に合いません」。キャッシュサービスは20万円限度だから、何度も引き出しているうちに捕まえることができる? ボスは「小金は随時引き出しても、ほとんどの金はそっくりそのまま残しておくはずです。」銀行に寝かしたまま、時効成立を待つのが犯人の目的。「それが本当の彼らの狙いです」でも預金を封鎖してしまえばOKなのだろうけど、この頃はそれが出来なかったのかな? 藤田進さんや平田昭彦さんを前に、裕次郎さんがいうと、なんだか説得力があるなぁ。

 「強盗に恐喝罪を加えても10年以上の懲役、従って控訴自己は7年です。その間の銀行利子だけでも1年間に約3億、7年経てば50億円は70数億円に増えている。それがそっくり、誰憚らず彼らの手に入るのです。これが彼らの目的です。濃縮ウラン強奪も、テストと称する一億円要求も、全てそのための布石だったんです。おそらく彼らは一億円が、新聞紙の束だと読んでいたでしょう。だから貯水池にペンキを投げ込んで、新聞にすっぱ抜き、社会不安をかき立てた上で、銀行を威嚇すれば、簡単に50億円が手に入る。彼らの描いた、これが筋書きです」。

 警視総監は「君の意見はわかった。しかし50億円は今日中に田中一郎名義の口座に振り込まれる。政府首脳との協議で決定したことだ。君に一つだけ聞きたい。ここで彼らの要求を拒否して、誰の生命も脅かされない、傷つけられないという絶対の保証が、君にできるかね?」。ボスは返事をすることが出来ない。

 銀座4丁目、和光と三越の前、歩行者天国で賑わっている。1970年代の日本人の顔つきが懐かしい。若者も、家族づれも、高齢者も、楽しそうに休日を満喫している。歩きながらハンバーガーを食べる若者。

 ボスはその様子をレストランから見ている。しかしロケーションは銀座でないので、窓の外には日本家屋の屋根が見える(笑)そこへ「ボス」とジーパン、ゴリさん、殿下、山さん、シンコがやってくる。捜査本部が本庁に移ったことが納得できないのである。殿下「つまり、我々全員、ウラン事件から外される、ということですか?」。ジーパン「どうなってるんですか?」・

ボス「そう喚くなよ。ま、かっかしないようにと、こういうところに呼んだんだ。」「ということはボス」「我々は我々なりの捜査を?」「いちいちそう言わせるなよ」。レストランのテーブルに座る一係の面々。早速、ボスへ報告。山さんが、田中一郎名義でさくら銀行に口座を開設したのは1ヶ月前、どんな男だったかは、誰も覚えていない。ゴリさんは、クルマの線から有力な手がかりを得た。世田谷通りから少し入ったガソリンスタンドで働く20歳と19歳のアルバイト学生が、犯行の前日から四日間、主人が旅行に出ていたために、スタンドを任されていたことが判明。ジーパンが原研センターのアルバイト学生写真を持ってくる。ゴリさんのガソリンスタンドの学生と同一人物だった。3ヶ月前にアルバイトを辞めていたが、濃縮ウラン輸送のスケジュールは把握していた。シンコは、スタンドの近所で聞き込んだ結果を報告。事件当日、大型の保冷車がスタンドに出入りしていたという。

「保冷車か。なるほど、あれならライトバンがすっぽり入るな」。

 シンコは続ける。都内には保冷車があるレンタカー屋が三件ある。そのうちの一件で、確かに、この学生が保冷車を借りていた。名前は「森川三郎。住所に行ってみて驚いたんですが、立派なマンションに住んでいるんです」と長さん。「父親は福島の町医者で、大学は一流の秀才タイプです。仕送りもたっぷりあるらしいんですが、それなのに原研とガソリンスタンドでアルバイトをしています」と殿下。マンションの住人によれば、時々、仲間の学生たちが集まってきているという。

「やあ、よくやった、どうやら本星だな」と満足そうなボス。「まだ逮捕状請求は無理ですか?」と山さん。「ああ、しかしこれだけネタがあれば、こっちもゲームができる。当たるか外れるか一つ、王手と行ってみるか?」。ボス、将棋のポーズ。

居酒屋でボスが酒を飲んでいると、旧知の社会部デスク(草薙幸二郎)がやってくる。「是非とも乗ってもらいたい話があるんだ。下手すると、あんたも俺もクビが危ない」「例のウラン事件だな」「ああ、しかしなぁ、今は俺もヒラ刑事じゃない。人並みに取引のコツを覚えたよ。成功したら解決の第一報は、あんたの新聞に載る」「注いでくれ」とデスク。乾杯する二人。

 「乾杯!50億円のために」と犯人グループ。主犯の森川三郎(重松収)の部屋で仲間(関口真砂子ら)たちと祝杯をあげている。新聞を手にご満悦の森川「日銀50億円を振り込む、新たな犯罪の手口、各界に衝撃!! ざまあみろってんだ。あとは7年間放っておけばいい、俺たちは大金持ちさ」。ウランは見つかるはずがない。ライトバンは横浜に置き去りのまま。見つかっても何の手がかりも残していない。完全犯罪だと自信満々。もう一人の仲間が慌てて部屋に入ってくる。

 「見たか新聞? みろよこれ」と拡げた新聞には「五十億円は凍結見込 犯罪者に勝利なし」の見出しが踊っている。さらに「濃縮ウランの所在つかむ。七曲署藤堂警部補、強気の発言」。信じられない森川「嘘だ!そんな筈はない」。「保冷車?きっとあいつが怪しまれたんだ」「保冷車か、確かにあれが唯一のウィークポイントだった」とほぞを噛む森川。「あんな山の中で保冷車が走ってりゃ、どうしても目を引くからな」。レンタカーは偽名登録したから自分たちのことは知られてない。そこで森川「よし、今のうちにウランを別の場所に移動する。急げ、例のハイキングスタイルだ」。

 新聞を使ったボスの陽動作戦にまんまとはまった犯人グループ。「ウランを抑えられるくらいなら、本当に貯水池に放り込んでやる!」と森川。マンションからハイカースタイルでクルマに乗り込む森川たち。山さんが覆面パトカーで追跡開始! 途中で殿下のクルマにバトンタッチ。怪しまれないように一係の面々の連携プレーである。殿下が停車すると、続いてジーパンのクルマが追跡を始める。さらにゴリさんが鉢巻姿でトラックで待機、ウラン保管場所の富士山の麓までつかず離れずついていく。

現場に到着した森川たち。自然保護林・禁猟区へと入っていく。山を分け入り、山中で濃縮ウランの入ったジュラルミンケースを掘り出す。喜ぶ犯人たち。「あの新聞なんてデタラメじゃないか!」

 「いや、デタラメじゃないぞ」ボスの声。ゴリさん、ジーパン、山さん、長さんたちが近づいてくる。ボス「森川三郎、お前の負けだ。ゲームは所詮、ゲームだ。もう一度ゆっくり考えてみるんだな、人生ってものを。考える時間はたっぷりある」。観念する森川。ゲームオーバー。

 七曲署・記者会見。記者「ということは署長の陣頭指揮の成果ですね」。西山署長「いやいや、おかげさまで、それに藤堂くんをはじめ全員が、非常によくやってくれましたもんで」とご満悦である。横で立ち会っている刑事たち、口々につぶやく。

ジーパン「考えちゃうな、奴ら結局失敗したけど、もしこれが成功していたとしたら?」
山さん「人生観変わるか?」
ゴリさん「無理ないよ、7年経てば、70億円、タダ取りですよ」
長さん「わかる、わかる」
殿下「実はな、さっきボスから聞いたんだけど、7年経って、彼らが金を受け取るだろう、そうするとな」
ゴリさん「待ち構えていた税務署員が、督促状を渡すんだよ」
長さん「その金額がな、いくらだと思う?」
山さん「所得税75%、重加算税と延滞税が加えられて、合計77億7500万円。要するに大赤字だ」
ジーパン「ええ! じゃ、やっぱり儲かるのは税務署だけですか?」
長さん「そういうこと、そういうこと」
ジーパン「さびしーい」


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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