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『散弾銃の男』(1961年・鈴木清順)

 日活アクションは、よく「無国籍映画」だとか、「和製西部劇」という風に表現されることが多い。赤木圭一郎亡き後、新ダイヤモンドラインに参加したダンプガイこと二谷英明の『散弾銃の男』は、そういう意味では徹底的に和製ウエスタン映画として作られている。1961(昭和36)年1月に石原裕次郎がスキーで骨折事故を起こし、2月に赤木圭一郎が急逝。

 それまで石原裕次郎、小林旭、赤木、和田浩治の四人の主演作を順次公開するというダイヤモンドラインのローテーションが崩れて、急遽、ダイヤモンドラインに参加することになった二谷英明は『生きていた野良犬』(舛田利雄・3月26日)で、アクション映画に主演、宍戸錠との『ろくでなし稼業』(斎藤武市・3月12日)、『用心棒稼業』(舛田利雄・4月23日)を間に挟んで、『ろくでなし野郎』(松尾昭典・5月13日)の次に作られたのが鈴木清順監督による『散弾銃の男』(6月4日)。

 三月から六月までの間に五本というハイペースには、二谷英明=ダンプガイをアクションスターとして売り出したいという日活の目論みがある(「日活50年史」では二谷英明のダイヤモンドライン入りは三月からで、第1回が「生きていた野良犬」と記述)。


 オープニング、散弾銃を肩に帽子を目深に被った主人公が、ヒロインの危急を巣食う。そこでタイトル。遠くをみつめて、不敵な笑みを浮かべる“散弾銃の男”。映画におけるタフガイを強調し、荒涼たる原野を歩く主人公を捉える峰重義のキャメラ。舞台は、山奥の森林伐採所。悪徳ボス西岡(田中明夫)が牛耳る製材所には、謙(江幡高志)、勝(郷鍈治)、寅(野呂圭介)の三人の悪党が用心棒として雇われている。近くには警察署もない。ということで、村の治安を守るために、私設保安官に任命されているのが、女房をレイプされ殺されてしまった奥村(高原駿雄)。腰抜け保安官と蔑まれている奥村の妹が、タイトル前、主人公に危急を救ってもらった節子(芦川いづみ)、という状況が手際良く紹介される。

 二谷演じる“散弾銃の男”渡良次にも過去がある。という日活映画ではおなじみの展開となり、好敵手的存在のジープの政(小高雄二)と、良次の間のライバル関係。そして酒場を仕切る鉄火肌のマダム春江(南田洋子)のヴァンプ的な存在。西部劇の基本パターンがすべて揃ったところで、映画は動き出す。構成、脚本の松浦健郎といえば、日活アクションのパターンを産み出した作家たちの師匠筋にあたる。小林旭の「渡り鳥」「流れ者」シリーズの脚本を手掛けた山崎巌も、松浦の門下生。

 好敵手的存在の小高雄二のニヒルなキャラは、宍戸錠が「渡り鳥」「流れ者」で作ったパターンを踏襲し、劇団四季の田中明夫の狡猾さは、金子信雄や安部徹たちが演じ続けて来た日活アクションの悪役の系譜に、新たなテイストを加えることとなった。

 主題歌、挿入歌ももちろん二谷英明が歌っている。「ショットガンの男」「夕日に立つ男」の二曲とも、赤木圭一郎映画の主題歌を数多く手掛けて来た、水木かおる作詩、藤原秀行作曲によるもの。日活アクションスターは、必ず歌うという石原裕次郎、小林旭からの鉄則は、ここでも遵守されている。酒場で二谷が「夕日に立つ男」を、ギターならぬアコーディオンで歌うと、あらくれ男たちがしんみりする。音楽は池田正義。南田洋子の酒場では、「ゴンドラの唄」や「宮さん宮さん」「木曽節」といった曲が様々なアレンジで流れ、唄われる。日活アクションも清順映画も歌が命。このミスマッチ感覚も楽しい。

 やがて、良次のもとへ果し状が届く。対決を止めようと必死の節子。自身の過去を話す良次。二人のやりとりのライティングや、編集に、後年の清順スタイルを思わせる感覚がある。

 本作でも明らかなタイアップシーンが多い。佐野浅夫が「サロンパス」(久光製薬)を強調したり、野呂圭介が射撃の腕試しの商品として「即席チキンラーメン」(日清食品)を紹介する。こうしたタイアップは、限られた予算を上乗せするため、製作担当者がメーカーと直接交渉するケースが多かったという。

 当時の日活宣伝部が作ったキャッチコピーに<俺が怒れば弾丸嵐! 倒せ! 火をふけ熱血銃! 豪快! 大森林を突っ走るダンプ・ガイ二谷の斗魂!!>とある。

保安官、スイングドアのサルーン、上半身裸の男たちのガチンコ勝負、などの西部劇のエレメントを過剰なまでに盛り込みながら、後半、映画が大きく動き出す。密造大麻をめぐる悪漢たちの仲間割れの果て、三悪党が節子を拉致して、荒野を逃亡する。たき火のシーンなど、西部劇ではおなじみのビジュアルが繰り広げられ、クライマックスのアクションへと繋がっていく。

 アクション映画全盛の日活で、鈴木清順が撮った『散弾銃の男』には、この時代の娯楽映画に求められた要素が、すべて詰め込まれている。こうしたプログラムピクチャーは、理屈抜きに楽しむのが一番だろう。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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