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太陽にほえろ! 1973・第53話「ジーパン刑事登場! 」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第53話「ジーパン刑事登場! 」(1973.7.20 脚本・鎌田敏夫 監督・高瀬昌弘)

永井久美(青木英美)
柴田たき(菅井きん)
七曲署署長(南原宏治)
テニスクラブ支配人(浅香春彦)
テニスクラブの常連客(石井宏明)
七曲署署員(鈴木治夫)
改造拳銃の若者(藤田漸)
桜町派出所巡査(池田生二)
中上孝子(秋吉久美子)
大場清枝(ひし美ゆり子)
志村小百合(高橋ひとみ)
山本の娘(木村由貴子)
木村清(谷岡行二)
警官・看守(鈴木治夫)
和田恍彦(菊地正孝)
中村竜三郎

【予告編】ナレーションではなくレギュラー陣の声で。
久美「無銭飲食の刑事さんてどんな人?」
シンコ「いま留置所の中よ」
長さん「へんなの来やがったな」
ゴリさん「マカロニのあとはジーパン野郎か?」
山さん「空手は二段だそうだよ」
殿下「へえ」
ボス「ま、楽しみだな」

 いよいよ松田優作さんのジーパン刑事こと柴田純刑事登場。脚本は「太陽〜」の新境地を拓いた鎌田敏夫さん。優作さんのテスト出演となったマカロニ主役回、第35話「愛するものの叫び」の脚本も鎌田さんである。監督は長年東宝助監督部で、稲垣浩監督、谷口千吉監督らに師事、日本テレビ「青春学園シリーズ」を数多く手掛けてきた「オッサン」のニックネームで親しまれた高瀬昌弘さん。ニックネームは「アノネオッサン、わしゃカナワンよ」のフレーズで一世を風靡した怪優・高勢實乗さんに由来する。鎌田敏夫さんとのコンビで「飛び出せ!青春」で数多くの傑作を手がけている。まさしく「青春アクション・太陽にほえろ!」の世界である。

 しかもジーパン刑事の人物造形を、内的なドラマでじっくり描いている。前週までのマカロニ刑事の喪失感のなかで物語が動き出すが、優作さんが登場してからは、一見、型破りな若者が抱える「心の傷」を、事件の展開に合わせて描いていく。その作劇は何度見てもお見事!である、45分の中にこれだけのドラマを凝縮させ、後半のアクションでは優作さんの肉体のキレをタップリと見せてくれる。

 今回から捜査第一係の事務員で永井久美(青木英美)がレギュラー入り。「飛び出せ!青春」ではマキ役で出演、また「飛び出せ!〜」からは、谷岡次郎役を演じていた谷岡行二(のちに谷岡弘規)さんが出演している。谷岡さんは「バトルフィーバーJ」(1979年)の”バトルジャパン”こと伝正夫でもお馴染み。さらにノンクレジットだが「飛び出せ!〜」の松原麻里さんも出演。さながら同窓会という感じ!

 キャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」が流れるなか、豪邸(当時としては)の庭で水撒きをしている大場清枝(ひし美ゆり子)が「ススムちゃん、帰ってきたの?」と弟を探している。

 ひし美さんのホットパンツ姿がイカす。「ウルトラセブン」のアンヌ隊員は、僕らにとってはセクシーなお姉さんでもあった。

 ところがリビングで、何者かが清枝に拳銃を向けている。ハッとなる清枝。その瞬間、お腹を銃弾が貫く! 大場家、ボスたちが現場検証へ。殿下が向かいの家で聞き込んできたことによると、昼の12時頃、大場家のテレビのヴォリュームが大きかったが、子供の悪戯かと、気にしなかったという。

 長さんとゴリさんの近所の聞き込みによれば、大場家の奥さん・清枝の評判は悪く、男関係から何か出てくるかも?とゴリさん。さらに高利貸しもしていて、がめつくて「死ねば助かる連中も相当いそうです」と長さん。「ボス」と山さん。ライフルマークから犯行に使われたのはD&Wの45口径、つまり警官用の拳銃であることが判明。今のところ、どこの署からも、盗難届、紛失届けは出ていない、とシンコ。ここまでで、捜査一係のフルメンバーが次々と登場している。マカロニ没後の、一係の日常はこういう感じだったんだろうなぁと。

 犯人は清枝に恨みを抱く警察官の可能性もある。山さん「当分寝られそうにもないな」。殿下「マカロニの後釜は、いつ来るんですか?」。ボス「明日、来ることになっている。ま、みんな大変だろうが、頑張ってくれ!弾はまだ4発残っている」と左手で4発と示す。事件の行方とジーパン登場への期待が高まる演出である。

 捜査第一係では、新人の事務員・永井久美(青木英美)せっせと掃除をしている。「ここにいた刑事さん、亡くなったんですね」「その花、こっちへくれないか」とボス。久美もミニスカで美脚をあらわにしている。「刑事さんの仕事は殺伐としているから、少しは楽しませてあげようを思って」。鼻の下を伸ばすゴリさん、長さん。今では絶対アウトな描写。「楽しませすぎたかな、少し」と久美。

 そこへ看守(鈴木治夫)がやってきて「こちらに柴田純という刑事が来ることになっているんですか? 留置場に入っているんですが」。びっくりして顔を見合わせるゴリさんと長さん。やれやれという顔でボスが引き取りに行く。柴田刑事が持っていた辞令の日付は「昭和48年7月18日」「原町派出所勤務を解き、七曲署捜査第一係勤務を命ず」とある。

 留置所に立っている長髪、長身、上下デニム姿の柴田純(松田優作)。開口一番、ボスに「おはようございます」。捜査第一係で山さん「留置所からご出勤の刑事なんて初めてだよ」。型破りなキャラクターを印象付ける演出は、「青春学園シリーズ」での新人教師登場のパターンを踏襲している。

 「何やったんだお前?」とゴリさん。「無銭飲食です」。刑事になるのが嬉しくて、友達と豪遊三昧、財布が空っぽになって、タクシー代もなくった挙句、店の主人から「無銭飲食」と怒鳴られたんだと「ここの留置所に泊まれば、全てが解決すると思ったそうだ」とボスが説明する。

 ボス「おい、帰って着替えてくれ」「これでいいです」「何?」「こんなのしかないんです。警官の時は制服でしたから」。そこでゴリさん「マカロニの後は、ジーパン野郎ですよ」。ここでジーパンと命名される。備品課で拳銃をもらってこいとボスに命ぜられるが、ジーパンは「拳銃はいりませんよ。持ちたくないんです」。その理由を言えと怒るゴリさん。「お前がどう思おうとな、デカには拳銃が必要な時があるんだよ。お前の前にいたマカロニはな・・・デカにはいつどこでどういうことがあるかわからないんだ!」と激昂する。「デカが嫌いな人間はどこだっているんだ」。みんな、マカロニのことを思い出している。

 そこへ電話。「はい。捜査一係、何?」とボス。桜町派出所で警官が首を吊って自殺したとの報せである。ゴリさんはジーパンを連れて現場へ急行する。桜町派出所巡査(池田生二)から渡された遺書には「人殺しに使われた警官は、自分が盗難にあったものと思われます。警察官としての責任上、死んで失態を償います」とあった。真面目な警官で、誰にも言い出せずに一人で探し回っていたらしい。無言のジーパン。亡くなった警官の遺体が運ばれていく。ゴリさん「お前が拳銃を持ちたくないって意味、わかったよ。盗まれたら困るからな」「拳銃持たなきゃ、刑事は務まりませんか?」「務まるさ、命が惜しくなければな」。

 ジーパン、今度は長さん、山さん、殿下と聞き込みで街を歩く。何をやっても背の大きさが災いする。コミカルなショットの積み重ね。一係に戻ってきても意気消沈しているジーパンを久美が励ます。ゴリさんは被害者・清枝の男関係を調べたが、昔の男はシロだったという。そんなに浮気をしていたの? ジーパンがしょげているのは「みんなに足手まといになるって、帰されちゃったの」と久美がゴリさんに説明。

 一係へ電話。新宿の喫茶店で、友達に拳銃を見せびらかして自慢している若者がいるとの通報。ゴリさんはジーパンを連れて行く。しかしジーパン、嬉しそうに立ち上がり、デスクのお茶をこぼしてしまう。「ダメだなお前は」とゴリさん。笑って二人を見送る久美。かわいいね。

 パトカーでゴリさんに拳銃を渡されるジーパン。新宿駅西口を走るゴリさんとジーパンを、向かいの、おそらくスバルビルの階上からロングショットで撮影。スバルビルは映画やテレビのロケ隊の集合場所だった。喫茶店「AVN」でゴリさん、女の子から、拳銃青年の席を教えてもらう。それに気づいた青年、逃げ出す。改造拳銃の若者を演じているのは『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』で世界こどもランド会長(M宇宙ハンター星雲人)を演じていた藤田漸さん。つまりひし美ゆり子さんとすでに共演していた。

 ジーパンとゴリさん、拳銃青年を追いかける。新宿西口地下街からゴールデン街、そしてお馴染み都電線路の跡地に追い詰められた青年、拳銃をジーパンに向けて「来るな、撃つぞ!」と叫ぶ。駆けつけたゴリさん、拳銃を取り出し「ジーパン、銃を抜け、抜くんだ」。しかしジーパンは丸腰のまま、青年に近づく。「俺には拳銃があるんだ。お前なんか怖くない!来るな!撃つぞ」。無言のジーパン鬼気迫る表情で近づく。ゴリさんが叫ぶ「どけ馬鹿野郎!ジーパン」。

 そこでジーパン、落ちていた金盥を青年に投げつける。一度落とした拳銃を拾ってジーパンに向けて青年が発砲した瞬間。なんと『ドラゴン怒りの鉄拳』のブルース・リーのようにキック! その瞬間、改造拳銃が暴発。青年の手は血だらけに! そこでゴリさんの怒りが爆発する。ジーパンを殴り「いいか拳銃が手製じゃなければ、吹っ飛んでるのはお前のほうだ。あの世へ行ってるのはお前なんだぞ!」「拳銃を持たないなんて、甘っちょろい考えが通用すると思っているのか?」

 夜の新宿の歩道橋。自分を見失っているジーパン。雨が降っている。そこへシンコが傘を差しかける。「あのゴリさんも、前は拳銃に弾を込めなかったのよ」「え?」「でもマカロニ君が死んでから、考えが変わったらしいの。昨日まで一緒にやっていたのが、通り魔みたいなのに、あっけなっく殺されたんだもの」「・・・」。高瀬昌弘監督の演出は、松田優作さんの微妙な表情を捉えることで、ジーパンの心の奥底まで、視聴者にイメージさせてくれる。

 翌日、高島屋デパートから出てきた中上孝子(秋吉久美子)が、自分の車に乗ったところに、白いパンツの若者が近づいてきて拳銃で孝子を射殺。なんと秋吉久美子さん! 前年、齋藤耕一監督の『旅の重さ』(1972年)でスクリーンデビューしたばかりの18歳。わずか数カットだが、強烈なインパクトがある。

 七曲署署長(南原宏治)が「これで二人目だ。同じ拳銃でな。しかも真っ昼間にだ。お前たちは一体、何を取調べているんだ?」とボスを叱咤している。七曲署管内で、警官から盗まれた拳銃で二人も被害者が出ているのに、手をこまねいて見ているだけか?「お前たちはボンクラ揃いなのか?」。

 被害者・中上孝子は東慶大2年生、前の被害者・清枝との接点は一切なし。二つの犯行に共通しているのは「同じ拳銃で撃たれた」ことだけ。若くて綺麗な女性を狙った変質者の仕業ではないか? ジーパンは「拳銃持てば、誰だって変わりますよ。弱い奴ほど変わるんだ」と呟く。犯人の拳銃にはまだ三発残っている。一係は全力挙げて更なる捜査へ。

 やがて東名信用金庫にピストル強盗が!ジーパンとゴリさんが急行すると、現金を抱えた犯人が発砲しながら逃亡。ゴリさん、ジーパン走る、走る、走る。新宿南口の跨線橋近くの階段、ゴリさんとジーパンが犯人を挟み撃ち。ジーパンはまたしても素手で構えている。ゴリさんの拳銃が犯人を仕留める。しかし拳銃はS&W 45口径ではなかった。

 ゴリさんはボスに、ジーパンと組むのはやめさせて欲しいと申し出る。「死にたがっている奴は組めませんよ」「別に死にたがっているわけではありません」「鉛の弾に素手で向かっていって、勝てると思っているのか?」

 そこにボスが割入って「なあ、柴田。お前の親父さんも拳銃を持たなかったそうだな。一般市民に接する警察官がでっかい拳銃をぶら下げる必要はない、って言って、一度も下げたことはなかった。ところがパトロール中に拳銃を持った男に撃ち殺された。色々言われたろ?規則を守らないとか、世の中甘く見たとか。それで殉職扱いにもされなかった・・・」「ええ」「お前、親父さんが好きだったのか?」。黙って振り返り、自分の席に座るジーパン。いい場面だね。ここでゴリさんはジーパンの心情を理解し、寄り添うことができる。これが「太陽にほえろ!」のドラマの純度の高さ!

 日曜日、新宿東口、歩行者天国で賑わう雑踏を俯瞰で撮影。カメラのさくらや、ワシントン靴店、懐かしい映像である。東口の信号の前、テニスラケットを持った女子大生・志村小百合(高橋ひとみ)が歩き出す。路地へ入る小百合が振り向くと、拳銃を構えた若者が近づく。ひし美ゆり子さん、秋吉久美子さんの時と同様、犯人の顔はうつらない。拳銃はS&W 45口径であることを視聴者に印象付けたところで、発砲。女の子は凶弾に倒れる。

 重苦しい捜査第一係。山さん「被害者の容態は?」。ボス「死んだ」。女の子は「どうしてあの人が?」の言葉を残して息を引き取った。顔見知りの犯行の線が強くなる。「少なくとも無差別の殺人ではないということだ」とボス。犯人は三人の女性を計画的に狙ったのである。しかも目撃者がいそうでいない場所を念入りに選んで犯行を重ねている。三人は歳も違うし、職業も住んでいる場所も違う。共通点はどこにあるのか?

 そこでシンコが、女の子がテニスラケットを持っていたことに着眼。三人に共通しているのは「裕福な家庭」であること。同じテニスクラブに入っている可能性があると、捜査を進めるうちに、三人とも「ワールドテニスクラブ」の会員であることが明らかになる。

 長さんが「ワールドテニスクラブ」の支配人(浅香春彦)に話を訊く。「冗談じゃない。うちは都内でも最高級のテニスクラブですよ。うちが何かの犯罪と関わるなんて、そんなことありません。偶然ですよ」。長さん「二人なら偶然ということもあるでしょうけど、三人となるとそうも行きません。まだ犯行が行われるかもしれないんです」と訴える。ゴリさんはテニスクラブの常連客(石井宏明)に被害者の写真を見せる。中上孝子(秋吉久美子)なら知っているとの返事。

 「誰かこの中にテニスのできるやつはいないか?」ボスに聞かれて、刑事たち全滅。そこで久美が「私できます!」」お茶汲みじゃなぁ」とゴリさん。それモラハラですから! しばらく黙っていたジーパン「俺、できます」と申し出る。シンコと一緒にテニスクラブへ。この「ワールドテニスクラブ」のロケは「成城テニスクラブ」で行わている。

 「せっかくこんな格好したんだから、テニスやろうかな?教えてくれる?」とシンコ。ジーパンこともなげに「ダメ。俺、できないんです。そういえば行かしてくれるだろうと思って」。ジーパンは自分の手で犯人を捕まえたいのだ。「拳銃を振り回して、いい気になっている奴を」「あなた、そんなに拳銃が憎いの?」。

 ジーパン、テニスクラブのフェンス越しにコートを見ている若者に気づく。手の指を鳴らす若者。ジーパンも同じように鳴らす。高瀬監督に伺ったのだが、黒澤明監督の『野良犬』や『天国と地獄』をイメージして、犯人も刑事も同じ出発点の若者であることを描きたかったと。その若者は木村清(谷岡行二)。「飛び出せ!青春」の「俺が谷岡だ!」の谷岡君である。高級スポーツカーで乗り付けてテニスクラブにやってくるカップルを無言で見るシンコ。

 殿下の捜査で、清枝の男関係の中にテニスクラブの会員の大学生・和田恍彦(菊地正孝)がいたことが判明する。シンコがピンときて写真を見ると、先程のカップルの男だった。「綺麗な顔をしているけど、自信たっぷりでちょっと嫌味な感じ」とシンコ。さすが、人を見る目があるね。

 ジーパンはボスに「帰ってもいいですか」と言いながら、一人で夜のテニスクラブへ。支配人に、フェンス越しにのぞいている若者のことを訊く。「あんまり気にしてませんね。近所の御用聞き連中ですよ」と支配人。夜の街を歩き、自宅の縁側で物思いに耽るジーパン。そこへ「お待ちどうさま。純、ご飯ですよ」と母・たき(菅井きん)が優しく声をかける。

 菅井きんさんもまた「飛び出せ!青春」の寮母・梅子役で、僕らにはお馴染みの女優さんだった。「親父が死んだ頃のことを思い出したんだ」とジーパン。「俺はあの時、どうして、俺や母さんだけが、こんな苦労しなきゃならないのか、って思ったよ。楽しそうに街を歩いている奴が憎らしかった」「今日、テニスコートを見ていたら、急にその時のことを思い出したんだ」。

 ティールーム。孝子の友人の女の子(松原麻里)に、和田の写真を見せる殿下と長さん。「私は顔だけしか知らないけど、殺された孝子はよく口説かれたって言ってたわ」。ノンクレジットながら、松原麻里さんも「飛び出せ!青春」で太陽学園の生徒・桜井弘子役でレギュラー出演。孝子は和田と付き合っていたかもしれない・・・。

 女子大の前で、女の子をピックアップして外車に載せる和田を、追う殿下と長さん。車の中でキスをする和田に「真っ昼間からあの野郎!」と殿下。次々と女を変えてドライブする和田に「ちきしょう」と殿下。プレイボーイもかたなしという描写がおかしい。山さんが、和田の家を張り込んで調べたところによると、犯行のあった「火曜日と金曜日」に、和田は大学の授業を休んでいたことがわかる。

 テニスクラブ。ジーパンは、またしてもフェンス越しの木村清(谷岡行二)の姿を見つける。指を鳴らす木村、指を鳴らすジーパン。ジーパンは木村の後をつける。小田急線の踏切を越えて、木村は「青葉荘」へ。がらんとした自室で金魚を愛でる木村。都会の孤独を感じさる。

 一方、山さんと長さんは、和田のデートを尾行。車から女の子が飛び出てきて「助けて!」。女を殴ろうとしたのである。女が和田のオーデコロンの匂いがキツすぎると言ったのが原因だった。その話を呆れ気味にしている一係の面々。s自信家の和田はケチをつけられると激怒するタイプだと。金持ちのわがまま息子で、人を殺せるタイプではないとの結論に。黙って、その話を自分のデスクで聞いているジーパンが「あのう、ちょっと気になる男がいるんですが」と進言する。

 「テニスコートをのぞいていた男がいるんです。羨ましそうに・・・」しかし誰も取り合わない。「ただ、俺もあんな風にテニスコートをのぞいていた時があるんです。それを思い出したんです。親父が死んで、お袋と二人で苦労しているときに、それには関係のない人間がここにいると思って。もし、俺だって、あのとき拳銃を持っていたら、ひょっとしてテニスコートの人間を撃っていたかもしれません」、まさしく『野良犬』の犯人と刑事の関係だね。しかし殿下「おい、自分の思い出だけで、容疑者を割り出しちゃ困るぞ」と声をかける。これが鎌田脚本の素晴らしいところ。

 シンコ「あなたは結局、やらなかった。その人だって、そんな単純な理由で人を殺したりなんかしないわ」「そうかもしれません」。山さんは「しかし、拳銃があったら。そいつの目の前にある日、拳銃が転がっていたら?そいつを手にしたら、お前だけじゃない。誰だって人を殺したくなるかもな。拳銃ってやつはそんなもんかもしれないよ」と。

 ボス「調べたのか?その男のことを」。ジーパンの調べでは木村清、19歳の工員で、真面目な男で、無遅刻無欠勤だったが、先週の「火曜と金曜日は休んでいる」ことがわかった。ボスが礼状を取り、木村清のアパートを家宅捜索することに・・・

 青葉荘。めぼしいものは出てこないが、布団の中から一眼レフのカメラが・・・。しかし書棚からは被害者を写したスナップ写真のスクラップブックが出てくる。しかもキャメラのフィルムには四人目のターゲットが写っていた!「行くぞジーパン」ゴリさんは早速テニスクラブへ向かう。工具を持った木村清が「水道のメーター調べです」とテニスクラブの裏口から入っていく。

 サイレンを鳴らすパトカーの中。ジーパン「親父が生きていたとき、俺はクソ真面目な親父と喧嘩ばかりしていました。俺も親父に言ったことがあるんです。拳銃を持たないなんて甘いことを言っていたら、今に拳銃を持った奴に殺されるって」。サングラスをかけるジーパン。

 テニスクラブ。木村はテニス帽をかぶりニヤっと笑う不気味だ。ターゲットは山本令嬢(木村由貴子)。コートでラケットを撃っている。ゴリさん「ここには外部の人間は入りますか」。支配人はフロントでチェックしているから大丈夫だと胸を張るが、さっき、木村を裏口から入れたじゃないか!

 トイレで自分のテニススタイルにニヤつく木村、バッグから拳銃を取り出し「お前との付き合いもこれが最後だな。今度はあの写真のままの格好で、あの女は永久に俺のものになるんだ。これが最後だよ。これで終わるんだ。うまくやろうな」と拳銃に囁く木村。

 テニスコートを見張るジーパン。ベンチに座った木村を発見。「やつだ!」。走るジーパン。木村は山本令嬢に拳銃を向ける。松田優作の長身を行かしたジャンプなどの動きが続く。テニスラケットを女の子から奪い、木村へ投げつける。その瞬間、弾はそれる。木村は、逃げてフェンスの鍵をかける。ジーパン、フェンスをよじ登り「おら!」と木村を追い詰めるが、木村は拳銃をジーパンに向ける。音楽ここで止まる。「どんな気がした? 拳銃を握ったとき、どんな気がした?偉くなったような気がしたか?あ?強くなったような気がしたか?撃てよ!撃ってみろよ!」テニスのラリーの音。銃口。ジーパンの目。ロングショットの二人。木村は発砲!その瞬間、ジーパンの飛び蹴りで拳銃は飛ばされる。「てめえ、このやろう」木村を殴るジーパン。ゴリさんが駆け寄り逮捕! 木村の鳴き声が響き渡る。

 ゴリさん、黙ってジーパンに近寄り、拳銃には弾が一発しか込められていないことを見せる。事件が解決して、その弾を抜くゴリさん。そのポリシーを理解するジーパン。やがてボスたちが現場へ到着する。「大丈か?」「大丈夫です」「親父さんのいい供養になったな」うなづくジーパン。「はい」「いくぞ!」

 いいラストシーンである。型破りな新人刑事・柴田純のバックボーンを見せつつ、そのトラウマである「拳銃を持たなかった父親への想い」と「自分もまた犯人になっていたかもしれない」という人間としての弱さを描いて、濃密なエピソードとなった。松田優作さんの持つ「影」の部分を、人間的な苦悩として巧みに引き出し、その成長物語のスタートを視聴者に印象付ける。ショーケンこと萩原健一さんの喪失感を、見事に乗り越えるようなジーパン刑事の魅力的な登場篇となった。

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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