『クレージー大作戦』(1966年10月29日・東宝・坪島孝)
深夜の娯楽映画研究所シアターは、東宝クレージー映画全30作(プラスアルファ)連続視聴。
15 『クレージー大作戦』(1966年10月29日・東宝・坪島孝)
ビートルズ旋風、怪獣ブームが吹き荒れた昭和41(1966)年は、四作のクレージー映画が公開された。4本目となるシルバーウィークの大作(風)は、古澤憲吾監督の勢いがますまずチャージアップした『クレージー大作戦』(1966年10月29日)。
脚本に笠原良三さん・池田一朗さん・田波靖男さん・坪島孝さんと、クレージー映画に関わっていた脚本家、監督が集結。「衆智を集めて切磋琢磨させる」ことがクリエイティブの秘訣と考えていた、渡辺プロ社長・渡辺晋さんのアイデアで「究極のクレージー作戦」が練られた。翌年のラスベガスロケ作品構想はすでにあって、その準備をかねての『クレージー大作戦』だった。とは、坪島孝監督、田波靖男さんから伺った話。
とはいえ「船頭多くて船動かず」の喩え通り、シナリオは緻密とはほど遠く、さまざまなアイデアが未消化なままなのが残念。ギャグマンとして『大冒険』に引き続き、田波靖男さんの高校の一学年先輩である作家の中原弓彦(小林信彦)さんが参加。後半のクルマが飛ぶシーンなどを付け加えた。
ただ、どんなシナリオ、どんな状況でも現場が始まって仕舞えば古澤憲吾監督の独壇場。演出の勢いは凄まじい。冒頭、植木等さんが、銀座4丁目の晴海通りの人混みをかき分けて走ってくる。「どいつもこいつもみんなたるんどるぞ!」と通行人を指さして怒鳴るように歌う。「たるんどる節」である。
で、植木さん、三愛ビルの前で立ち止まり、調子良く歌い続ける。まさに「唄う通り魔」「唄う説教強盗」である。本当にどうかしている。で、植木さん、三愛ビルの前で「よしここを狙おう」というポーズをとる。切り返すと銀座5丁目の「宝石専門店ミワ」である。さらに植木さん同ポジで、先ほどの銀座通りでのポーズと同じ姿勢のままみゆき通りに立っている。
この同ポジで、植木さんが一気にワープしてきたような不思議な感覚になる。これぞ古澤憲吾監督の「なせばなる」効果である(笑)このミワ宝石店は翌年の『レッツゴー!若大将』(1967年7月1日)で星由里子さんが務めることになる。
で、植木さんの役は「世界中の悪銭を巻き上げることが身上」の大泥棒・石川五郎。いきなり宝石店のショーケースをぶち壊して、宝石をポケットに。これ、初見の時は衝撃的だった。スーダラ男でも無責任男でも、植木さんのキャラは、社会常識を超えていたけど、スレスレだったにせよ犯罪は犯したことがなかった。いきなり強盗をして、警察に捕まってしまうのだ。
というのも、今回はイタリア映画『黄金の七人』のような泥棒コメディを目指しているので、クレージーのメンバー全員が「前科者」で、砂橋刑務所(静岡刑務所でロケ)で服役中。そこへ植木さんも投獄されて、日本最大の暗黒街組織の頭取(進藤栄太郎)の10億円を奪取計画に、金庫破りの名人・太平久(谷啓)に参加させるためだった。
というわけで、刑務所の看守・加古井守にハナ肇さん。クレージーのメンバーたちの脱獄に付き合わされて、結局は泥棒の一味となる。なんともザックリとしたアバウトな設定! 脱走するシーンは、養老院でのクレージーの慰問演奏というのが楽しい。「民謡メドレー」を演奏しながら、植木さんの「シビレ節」が最高潮となったところで逃げ出す。ここまで無茶苦茶だと、観客の「覚悟」もできて、クレージーの「黄金の七人」ぶりを楽しむ体制となる。静岡県の宗徳寺にある長岡保育園でロケーション。
で、彼らが洋服を調達する「丸大百貨店」があるのが、修善寺駅近くの修善寺橋の近く。この橋は番匠義彰監督『クレージーの花嫁と七人の仲間』(1962年・松竹)にも出てきた。ハナ肇さんと淡路恵子さんの芝居場が、橋の袂の河原で行われた。それから5年後、再びロケーションにやってきた、というわけである。
ここでも石川五郎、メンバーの背広を奪うために、トイレのモップに油を浸して火をつけて火事騒動を起こして逃亡。「火付盗賊」じゃないか! このアンモラルさ!
というわけで、ロケ地を眺めているだけでも楽しい。中盤、警察に追われたクレージーたちが東横線渋谷駅のホームで、始発電車を早めるために、駅の時計を進める「ありえない」展開に唖然としながら、渋谷駅と青ガエルと呼ばれた車両が懐かしくてたまらない。
後半の舞台は、伊豆富士見ランドホテルで行われる暗黒街のボスたちの総会で、頭取が持っていくる10億を奪うこと。最高なのは、富士スカイラインに、馬に乗ったクレージーが現れて、馬から飛び降りて主題歌「クレージー大作戦」を唄うシークエンス。大ロングで撮影しているので、クレージーのおじさんたち、斜面を走らされて、踊らされて、歌わされている。なんともはやであるが、このシーンの開放感は、本作のハイライト!である。
後半、10億を奪うシーンのカーチェイスは『ミニミニ大作戦』(1969年・イギリス)の先取りでもある。ことほど左様に『クレージー大作戦』面白くなりそうな題材なのだけど(笑)
でもラスト、再び刑務所を脱走したクレージーがラスベガスに飛んで、マフィアの大金を盗んで大団円。そこで「クレージー大作戦」の大合唱となる。これは翌年の『クレージー黄金作戦』の遙かなる前段と捉えると「クレージー・シネマティック・ユニバース」としても楽しめる(笑)
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