太陽にほえろ! 1974・第78話「恐怖の瞬間」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第78話「恐怖の瞬間」(1974.1.11 脚本・鎌田敏夫 監督・竹林進)
永井久美(青木英美)
風間五郎(門岳五郎)
坂田の兄(井上博一)
本田真由美(小野恵子)
坂田明夫(木下清)
佐伯真一郎(山田禅二)
坂田の妻(夏川圭)
本庁刑事・岡崎和一(小倉雄三)
田川恒夫
松下昌司
石川隆昭
自動車修理工場・社長(邦創典)
森本三郎
鈴木治郎
予告編の小林恭治さんのナレーション。
「ある殺し屋の放つ凶弾で、本庁刑事が射殺され、護送中の脱税容疑者が狙撃された。そして、この殺し屋の口を封じるため、もう一人の殺し屋が送られた。脅迫・誘拐・殺人、その手段は冷酷を極めた。次回「恐怖の瞬間」をお楽しみください。」
殺し屋が殺し屋を狙う。鎌田敏夫脚本は、外国映画のノワールのようなプロット。かつて麻薬中毒で狂気を秘めた殺し屋を、門岳五郎(現・三木敏彦)さんが好演。ジーパンが「死ぬほど怖い」思いをする。クライマックスは前年に劇場公開された、スティーブン・スピルバーグのテレフィーチャー『激突!』(1971年)を意識した壮絶な展開。憎々しげな殺し屋を演じた三木敏彦さんは文学座のベテランだが、東宝時代には加山雄三さんの初代ランチャーズに参加していた。東宝では谷啓さんと藤田まことさんの喜劇『西の王将 東の大将』(1964年・古澤憲吾)や、加山雄三主演『戦場に流れる歌』(1965年・松山善三)などに出演。特撮ファン的には「仮面ライダー スーパー1」(1981年)のメガール将軍役で知られている。
新橋、昭和初期に建てられたとあるビル。階上から、プロの殺し屋・坂田明夫(木下清)がライフルを組み立て、窓を開けて、ターゲットを待ち構えている。不敵な笑いを浮かべている。ビルの中庭、本庁の岡崎和一刑事(小倉雄三)が拳銃の銃弾を確認している。風を引いているのかクシャミをする。一方、殺し屋は警察の護送車にライフルを向けて、通りを曲がった瞬間に護送中の容疑者を射殺する。殺しの快感に酔う殺し屋。
工員の作業服を着ている殺し屋、当たりを見渡してから部屋を出て、足早に階段を降りる。岡崎刑事、銃を構えて明夫を待っている。国電の通過する音が響き渡る。岡崎刑事、またクシャミ。明夫、それに気づいて、ライフルを再び出して、岡崎刑事に向けて発砲する。
捜査第一係。ゴリさんとジーパンが帰ってくる。護送車で撃たれたのは、十数億の脱税容疑で逮捕された金融業者の滝口松蔵。検察局へ護送中だった。そこへ電話。現場近くで同じライフルで撃たれたのは、本庁の岡崎刑事だとボス。
警察病院。ボスとジーパンが到着すると、岡崎刑事は胸部貫通だったが助かると殿下が報告する。本庁の刑事がなぜ現場にいたのか? タレコミがあって出かけて行き、逆に撃たれたのか?「滝口松蔵を狙撃しようとする奴がいれば、それは大事件だ。いくらタレコミがあったとしても、一刑事が一人で出かける筈がない」とボス。それで本庁からも大勢の刑事が病院に来ている。岡崎刑事の意識が戻っても、所轄の七曲署刑事に尋問のチャンスがあるかどうか?と殿下。
ジーパンを残して、殿下とボスが出て行こうとすると「係長さん」と呼び止められる。本庁刑事がボスに近づく。その時、ジーパンを邪魔だとどかす。イラッとくるジーパン。本庁刑事「調査の結果は、我々本庁からあなたに知らせます。引き取ってください」「うちの所轄で起きた事件です。我々にも捜査の義務がありますから」とボス。結局ジーパンは残ることに。
病院の廊下。本庁刑事とジーパン。お互い張り合っている。刑事とジーパン、同時にタバコを咥えるが、ジーパンにライターの火を貸さない本庁刑事。わかりやすい演出! 本庁刑事「しっかり見張っていたまえ」とコートをジーパンに投げつけ、トイレへ。嫌だねぇ。本庁刑事、トイレに入ると、白衣を着た男(門岳五郎)に、いきなり後ろからブラックジャックで殴られ、気絶する。
白衣の男が、廊下で待つジーパンに「刑事さん、もう一人の刑事さんが、洗面所で倒れてます!」。慌ててトイレに向かうジーパン。白衣の男、岡崎刑事の病室へ入る。ジーパン、トイレで意識不明の本庁刑事を見て、「あ!」と気づく。
岡崎刑事の病室。白衣の男がブラックジャックで、岡崎刑事を撲殺。廊下に出たところで、戻ってきたジーパンと目が合う。逃げ出す男、追うジーパン。男は病院の前に停めてあるクルマに乗って走り出す。ジーパン、走ってクルマに飛び乗り、屋根の上にしがみつく。そこへ山さんがやってきて、クルマを追いかける。空き地に入ったクルマは、ジーパンを振り落とそうとジグザグ走行。いつもならクライマックスで展開されるカーアクションが惜しげもなく見せてくれる。これには子供の頃、大興奮した! 意地でも屋根にしがみついているジーパンに業を煮やした白衣の男。ドアを開けて、自ら飛び降りる。クルマはそのまま暴走。ジーパンも慌てて飛び降りる。なかなかのカースタント! クルマはブロック塀に激突!
立ち上がったジーパン、背後から男に殴られるが、諦めず追いかけようとする。駆けつけた山さん「やめろ!」と止めるが、ジーパン、よろよろと歩いてしばらくして倒れ込む。
七曲署・署長室から出てくるボス。署長はカンカンに怒っていた。一係に戻り「本庁から責任を取れといってきたそうだ」と話すボス。ジーパンだけの責任じゃないと殿下。「犯人を目撃しておきながら、逃がしてしまった責任を取れ」と本庁が言っているのだ。証人の岡崎刑事が亡くなった今、手がかりの糸が切れてしまった。
ジーパンは怪我もなく元気に一係に戻ってくる。山さん「ジーパン、ただがむしゃらに突っ走ればいいってもんじゃないぞ。生命は一つしかないんだ」「大丈夫ですよ。俺は、不死身ですから」。半年後のことを考えると胸が締め付けられるセリフである。そこへシンコ「本庁ではがっしり守っていて、殴られた刑事さんに合わせてくれないんですよ」。ただ、凶器だけは教えてくれた。長さん「本庁も美人刑事には弱いね」「まあね」と得意げなシンコ。「凶器はブラックジャックらしいです」。トイレで刑事は強く殴打されたが、頭にはそれほど傷が残っていない。そこで芯は硬いが、表面は皮のようなもので守られているもの。そこでブラックジャックと推定された。僕は、この回で「ブラックジャック」という武器を初めて知った。ジーパンも「俺がやられたのもそうです。間違いありません」。
都内を走るクルマ。後部座席には、ブラックジャックの男、隣には佐伯真一郎(山田禅二)。「あとは坂田だけだ。あの岡崎って刑事が坂田を撃ち殺していたら、こんな事にはならなかったんだ。チンピラを不審尋問したら、ライフルで向かってきたから射殺した。それで済んでいた」。ブラックジャックの男は「初めっから俺にやらしておけば、こんな手間取らずに済んだんですよ」「麻薬患者にライフルは撃てんよ」「昔のことですよ」「警察が気付く前に、坂田を見つけ出して口を塞ぐんだ」。
前半、アクションに次ぐアクションで状況を見せておいて、ここで事件の概要が見え始めてくる。鎌田脚本は、ケレンと人間ドラマの按配が実に見事だ。日活バイプレイヤーの山田禅二さんが貫禄ある黒幕を好演している。たった一言で、ブラックジャックの男・風間五郎(門岳五郎)がかつては麻薬中毒者で、今はライフルを使えない殺し屋の落伍者であることもわかる。佐伯は一体何者か? 佐伯がクルマを降りて入ったビルには「佐伯弁護事務所」の看板が掲げられている。ここで佐伯が悪徳弁護士であることが視聴者に明らかにされる。
旅行代理店・東京航空サービス。「JAL PACK」のロゴが懐かしい。中から、本田真由美(小野恵子)が嬉しそうな表情で出てくる。風間五郎が真由美を尾行する。(七曲署前の)歩道橋。地下鉄入り口。そして住宅街にあるアパートの2階へ上がっていく真由美。素早く五郎は、真由美を部屋に押し込む。五郎は「今、受け取ってきたものを、見せてみな」と真由美のバッグから二通のパスポートを取り出す。一通は真由美のもの、もう一通は坂田明夫(木下清)のものだった。「ハネムーンでハワイにでも行こうっていうのか?」ポケットにパスポートを入れた五郎「明夫に用があるんだよ」。真由美に「出ていってください」と言われても、五郎は落ち着き払って「まあ座れ」。明夫から連絡がある筈だと五郎は居座る。逃げ出そうとする真由美に、五郎はナイフを投げて威嚇する。
真由美を演じている小野恵子さん、かなりの美人。この頃、「ウルトラマンタロウ」第20話「びっくり!怪獣が降ってきた」から第53話「さらばタロウよ!ウルトラの母よ!」まで、二代目・白鳥さおりを演じていた。子役時代、内田吐夢監督のお気に入りで『はだかっ子』(1961年・東映)、「宮本武蔵 一乗寺の決斗』(1964年・東映)に出演している。東宝では、内藤洋子さんと吉沢京子さんの「バツグン女子高校生」二部作(1970年)に東かおり役で出演している。
一係。ゴリさん「滝口松蔵が死んで喜ぶ人間はやたらといますね」。政界財界で滝口に弱みを握られていた人間はごまんといる、と長さん。本庁の捜査も息詰まっているようだとゴリさん。ボスは「犯人たちの弱みは、ライフルを撃った男だ」と鋭い推理をする。ボスの考えでは、岡崎刑事はライフルの殺し屋を殺すことではないか?「刑事はライフルを持った男を撃っても、なんとでも言い訳がつく。ところが、逆に撃たれた。ライフルを撃った男は自分が裏切られたことを知って、逃げ回っている。奴らも必死になって探している」。その前に殺し屋を捕まえることだ。しかし手がかりは全くない。
真由美のアパート。ラーメンを啜る五郎。太々しい態度である。そこへ電話が鳴る。坂田明夫からだった。「今はダメなんです」とアパートに来ようとする明夫を止める。「そこに誰かがいるんだな。いいかい、四時にいつものところで会おう。いいね」。悠々とラーメンのスープを飲み干した五郎「どこで会う約束をしたんだ?」。返事をしない真由美に「ま、いいや、お前が行かなきゃ、奴の方でこっちへくるさ」。真由美、とっさに窓を開けて、助けを呼ぼうとするが、五郎にブラックジャックで殴打されてしまう。
パトカーが走る。真由美のアパートでボス、殿下、ジーパンが現場検証。殿下「死因は首の骨折です」「またブラックジャックですか?」とジーパン。真由美の亡骸をみて「あの時、俺が捕まえていたら」と悔やむジーパンの心の声。
ゴリさんは五反田の「東京航空サービス」で聞き込み。本田真由美は恋人・坂田明夫とハワイに行くために、二日前、パスポートを取りにきたことが判明。
坂田明夫の住んでいたアパートの管理人に聞きこむジーパン。半年前に転居したまま、行方しれずだった。殿下は、明夫が勤めていた自動車工場へ。半年ほど前に辞めたが、真面目な男だったと社長(邦創典)。射撃ゲームセンター。明夫の写真をオーナーに見せる殿下とジーパン。「開店以来、毎日のようにきてましたよ。半年ぐらい前かな、ばったり来なくなったのは」。
一係、捜査員たちの報告。坂田明夫は、半年前に忽然と姿を消した。ガンマニアの明夫に、本物のライフルを持たせた奴は誰だ? 山さん「半年の間に、明夫を本物の狙撃手に育て上げた」。ジーパン「・・・」。
平和島競艇(現在のボートレース平和島)。ボートレースに熱狂する人々。スタンドで五郎が誰かを探している。ボートのメンテナンスをしている坂田明夫の兄(井上博一)に、ジーパンと長さんが聞き込み。それを目撃して、物陰に隠れる五郎。「弟がそんなことをしたなんて信じられませんよ。あいつは気の小さい奴です」「仲間から生命を狙われているんだよ、弟さん」とジーパン。何年も家には帰ってきていないから、現れないだろうと兄。しかし長さん「最後に帰ってくるのは、やはり肉親のところだと思うがな」。兄、少し考えて「レースが終わったら、ここで待っていてください」。
ジーパンが長さんに、さっき物陰に隠れた、紺のコートにサングラスの男がいると話す。二人で手分けしてその男=五郎を探すことに。1974年冬の平和島競艇に集う人々がリアルに映し出される。この頃、ジーパンは茶の革ジャンを着ていて、それが子供心にカッコ良かった。ジーパン、やがてスタンドで新聞片手にレースを見ている五郎を発見する。このシーン、ロングで「盗み撮り」しているので、観客たちも気付いていない、リアルなドキュメンタリーになっている。
長さんが、少しずつ五郎に近づく。ジーパンも横からゆっくりと人混みをかき分けて近づく。「太陽にほえろ!」では、これまでなかったリアル描写である。やがて五郎は二人に気付いて、逃げ出す。ここでギターとベースの音楽。五郎、必死で逃げる。ジーパン、走る、走る。長さんも走る。小学生の頃、鬼ごっこをしている時のイメージは「太陽にほえろ!」の犯人を追う、刑事のイメージだった(笑)
駐車場に逃げ込む五郎。ジーパン、その行方を見失ってしまう。音楽、ここでストップ。長さんの走る足音と現場のノイズだけが響き渡る。こうしたシーンに、知らず知らずに「映画的表現」に触れていた。ジーパン、長さん、無言のまま、五郎を探す。その緊張感。延々と二人が五郎のクルマを探すシーンが展開される。音は現場のノイズと足音だけ。静寂を破って、白いクルマが発進する。ジーパン、車内に五郎がいることを確認。ここで再び音楽。ジーパン、先回りして、クルマの行手に立ちはだかり、拳銃を構える。もう撃てるようになったんだね!
しかし、クルマの中で、後部座席の五郎が助手席の女性に拳銃を突きつけているのが目に入る。ジーパン、思わず避ける。そこに来た長さんが発砲しようとするのをジーパンが止める。「長さん、夫婦が乗っているんですよ!」。五郎は関係のない夫婦を人質に、逃走してしまう。「チキショウ、また逃げられた!」とジーパンの心の声。
一係。シンコが入ってくる。「逃したけど、無駄じゃなかったわ柴田くん」。乗っ取られたクルマの中からかなりの指紋が検出されたのだ。ゴリさんが犯罪者カードで照合し、特定を急いでいる。「で、クルマの夫婦は?」「やっと落ち着いて家に帰ったわ」。視聴者の心配も、ちゃんとフォローしてくれる、大事な一言。ゴリさん、五郎の犯罪者カードを持ってくる。「本名、風間五郎。33歳。10年前に殺人事件を起こしてます」。なんと実母を殺していたのだ。強度の麻薬中毒者だった五郎は、精神病院に入院。5年前に完治して、父方の叔父のところに身を寄せていたが、3年前から行方不明。「坂田明夫にライフル銃を教え込んだもの、風間でしょうね」とゴリさん。五郎の父は銃マニアで、母親殺しも父のライフル銃を使っていた。
「風間五郎・・・」ジーパンの脳裏には、病院でのことクルマで振り回されたことが過ぎる。「なんて奴だ!」。母親を大事にしているジーパンにとって五郎は許し難い犯罪者でもある。「よし、今度は必ず捕まえてやる」。
明夫の兄のアパート。玄関の三輪車をどけて、長さんと殿下を招き入れる。妻は駅前で小料理屋をしていると兄。これだけで生活が垣間見えてくる。「倅は女房が連れてってんですよ。開店時間になったら、私が引き取ることになっているんです」。
次のカット、坂田兄の妻の小料理屋。五郎が、子供・やすおを人質にして、坂田の妻(夏川圭)に「いいか、弟から連絡があったら、旦那と張り込んでいる刑事が出かけるはずだ。そしたら、すぐこちらに知らせるんだ!」。この風間五郎は「太陽にほえろ!」史上(現段階で)、最悪のサイコパスだろう。妻は「やすおを返してください」「俺がこの手を動かしたら、子供の首の骨は折れるぜ」と五郎。「いいか、ちゃんと聞くんだ。弟の居場所をな」。
坂田兄のアパート。妻が「ちょっと気分が悪いんで、お店を休もうかと思って」と帰ってくる。「やすおは?」「お母さんのところに預けてきたわ」。殿下と長さんを「刑事さんだ」と紹介された妻。「明夫さんからまだ連絡がないの?」「まだ?」。なぜ妻は明夫のことを知っているのか?「お店にも刑事さんが来たんです」と咄嗟の嘘をつく。そこへ、明夫から電話がかかってくる。殿下、逆探開始。「兄さんのところにも刑事が来てるんだろ?これ聴いてるんだろ? 兄さん、俺はだめだ、もうだめだ。俺は死ぬよ。その前に兄さんと話したかっただけさ」。兄は明夫の居場所を尋ねる。「会いに行く、死ぬのは待て」。しかし刑事が同行してくるからダメだと頑なな明夫。「兄さんは一人で行く。約束する。どこにいるんだ?「じゃ、グルグルの露ころで待ってるよ」。
殿下「グルグルってのはどこですか?」
妻「あんたどこなの? 明夫さんが待っているのは?」
妻は必死に「教えてくれないと、ぼうやが、やすおが!」。殿下、長さん「・・・」。グルグルとは、明夫と兄が子供のころ、二人でよく遊んだ「あけぼの遊園地」にある観覧車のことだった。長さんと殿下が部屋を出ようとするが、妻が小料理屋に電話して「あけぼの遊園地の観覧車です」と五郎に伝えてしまう。「やすおを返してください!」。これは奥さんの判断ミス。最初に長さんたちに話しておけば良かったのに・・・
殿下、長さん。「あけぼの遊園地」に向かう前に、妻の小料理屋へ向かう。この遊園地は、第55話「どぶねずみ」のクライマックスの舞台となった。ロケーションは二子玉川園で行われている。
風間が先に向かっていることを無線でボスに報告する長さん。「誰か先に行かしてください」「よしわかった。山さんとジーパンをすぐ遊園地に向かわせる。そっちは子供の無事を確認しろ」とボス。小料理屋、やすおの無事を確認した長さんと殿下、あけぼの遊園地へ。
あけぼの遊園地。車内で五郎がポケットの拳銃を確認する。入場券を買って園内へ。小さな観覧車が回っている。これを「グルグル」と呼んでいた坂田兄弟の幼き日が思い浮かぶ。電車の音が聞こえる。二子玉川駅のホームに入る東急線を見て、思いついた風間は駅のホームへ。ここからなら観覧車を狙撃することができる。黄緑色のゴンドラの中に、明夫を見つけた風間、ポケットから拳銃を取り出す。ゴンドラの明夫、ホームの五郎を見つけ凍りつく。
山さんとジーパン。遊園地に到着。観覧車に向かって走る。五郎は明夫に銃を向けている。ジーパン、観覧車へ。そこでホームの五郎にジーパンが気づいて拳銃を構える。電車の通過音が鳴り響くなか、五郎は明夫の肩を撃ち抜く。走るジーパン。五郎は駅のフェンスを乗り越えて、再び遊園地へ。ジーパンが五郎を追いかける。これで今回、三度目の追跡となる。山さん、係員に観覧車を「止めろ!止めるんだ」。ジーパンが五郎を追う。コーヒーカップに乗っているのはおじさんばかり。おそらくスタッフだろう。子供のいない、閑散とした遊園地。遊具に乗っているのはコート姿の男性ばかり(笑)園内の丘に登り、拳銃を発砲する五郎。追撃するジーパン。丘から転げ落ち、足を負傷する五郎。場面は枯れ草の緑地、おそらく造成地となる。ジーパン、五郎を探していると、正面からジャリトラが突進してくる。五郎が運転して、ジーパンに襲いかかる。
スティーブン・スピルバーグのテレフィーチャー『激突!』(1971年)が公開されたのが、前年、1973年1月。このシーンは『激突!』を意識してのことだろう。
ジーパン、ギリギリまでトラックを待ち構えて発砲。すぐに転がって避ける。何発か発砲するが、トラックはびくともしない。松田優作さんのために作られた「映画的」アクションシーンである。やがてジーパンの弾は切れてしまい、トラックは突進してくる。ジーパン叫んで、五郎に拳銃を投げつけるが、五郎の銃弾がジーパンの右脚を射抜いてしまう。立ち上がることも難しくなったジーパンに再び迫るトラック。もう避けることしかできない。絶体絶命のピンチ。跳ねる、転ぶ、立ち上がるジーパンのモンタージュ。非情にもトラックから五郎の拳銃はジーパンを狙って発砲される。「今度は外さないぜ!」。助走をつけるためバックするトラック。ジーパンよろよろとしている。猛スピードで突進するトラック。ジーパン「やめろ!やめろ!」と悲痛な叫び。
そこへ、ようやく山さんが駆けつけ、後ろからトラックの荷台へ飛び乗る。山さんそのまま、助手席の方に回る。まるでインディ・ジョーンズみたい。助手席の窓から、五郎に向かって発砲! トラックがようやく止まったのはジーパンの数センチ前だった。
あけぼの遊園地。「グルグル」の前で泣いている明夫。ゴンドラと手錠が繋がれている。殿下と長さん、ようやく駆けつける。子供のように泣きじゃくる明夫。
トラックの運転席には山さん。ゆっくりとバックをする。倒れたまま、気を失っているジーパン。山さんが駆け寄り、抱き上げる「ジーパン!」。ようやく空な目を開け、放心状態のジーパン。山さんを見ても、五郎に見えたのか怖気付いてしまう。よほどの恐怖体験だったのだ。気付いたジーパン、山さんの胸で泣き崩れる。
佐伯弁護士事務所。ボスとゴリさんが逮捕状を持ってくる。佐伯「どんな御用件でしょうか?」。ゴリさん「佐伯真一郎、滝口松蔵殺しの主犯として逮捕する」。手錠をかけたところで、二人の男が現れる。ボス「あ、ご苦労さんです。あとは本庁にお任せします」。不服そうなゴリさん「ボス!」
一係。シンコが元気に「おはようございます!」と出勤してくる。昨夜、ジーパンが大変だったそうだと。夜中にうわごとを言って、跳ね起きたり。「お母さん、とうとう鎮静剤を打って寝かしたんですって」。殿下は「よほど、怖かったんだろうな」。長さん「とにかく、死の一歩手前まで行ったんだからな」。久美「たまにはいい薬よ、あれには」。ゴリさんは久美の言葉に笑う。「そうかもしれんな」。そこへ、明るい声で「おはようございます!」とジーパンが元気に出勤してくる。
変な場の空気に「なんかあったんすか?」「バカ、みんなお前のこと心配してたんだよ」とゴリさん。「あ、俺は大丈夫っすよ。前にも言ったでしょ、俺は不死身だからって」と笑う。黙っている山さん、ジーパンが近づいて「(照れながら)どうも・・・」。山さんニヤっと笑い、ジーパンの肩を叩く。照れ隠しにジーパン、山さんにタバコを勧める。そこへ、恐喝事件発生の電話。ゴリさんと一緒に現場へ向かおうとするジーパンに、シンコ「ねえ拳銃は?」「大丈夫だから、俺は不死身の男だから、ね、山さん」と元気に手をあげて出ていく。
「全然、薬が効いてないようですな」と山さん。ボス、うなづきながらニヤリ。
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