太陽にほえろ! 1973・第41話「ある日、女が燃えた」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第41話「ある日、女が燃えた」(1973.4.27 脚本・鎌田敏夫 監督・土屋統吾郎)
山さん主役のハードな傑作回。ゲストに牧紀子さん。松竹の美人女優から、60年代後半は日活で小林旭さんの「女の警察」シリーズにも出演。小津安二郎監督『秋刀魚の味』(1962年)の清楚な美しさは、小津監督のお墨付き。
給料日の深夜、クルマを飛ばすゴリさんと山さん。ポケットの薄給を見て「銀行強盗をやる奴の気持ちがわかる」と山さん。妻・高子は心臓病で入院中。その費用が、刑事の薄給では賄いきれない。
ふと目をやると、空き地で何かが燃えている。クルマを止めて山さんが見にいく。なんと女の焼死体だった。「さようなら、おじいちゃん、お母さん、お兄ちゃん、梨絵を許してください」と書き置きが見つかる。被害者・山下梨絵の預金通帳には300万、高級アパートに住んでいる。ダルマ船に住んでいる兄(森本景武)が身元確認をすることに。
ダルマ船が実家の梨絵は「コールガールをしていた」と兄。遺書の筆跡も「間違いない」と証言する。そんな兄を心配そうにみつめる梨絵の父と家族は、何かに怯えているようでもある。
「貧しい娘が、身体を売って贅沢三昧。それでも結局、幸せになれなかった」ってことか、とボス。これが今回のテーマである。鎌田敏夫脚本のセリフの鋭さ。全編に渡って「貧富の差」「立場の違い」「お金」をめぐる描写がある。
監察医の結論によると梨絵は自殺と断定。ところが山さんは「あれだけ贅沢な娘が、頭からガソリンを引っ被って自殺することが、あの娘にふさわしい死に方だとは思えない」と捜査継続を申し出る。
コールガール組織を調べる山さんは、馴染みのポン引き(石井宏明)から「あくまでも噂」と前置きされて、洋裁店のマダムがコールガール組織をやっていることが匂わされる。その店「CAN」のマダム・河村真紀(牧紀子)は、その噂を否定する。山さん対して冷たい態度の真紀に、山さんは「下の事務所で見せてもらったモデルクラブの写真帳」の梨絵の写真を見せる。
「一度や二度使ったモデルの顔なんか、覚えていられるもんですか」。牧紀子さん綺麗だね。真紀は「あなたお金でも欲しいじゃないの?」とカマかける。日本でもトップクラスのデザイナー、河村真紀がコールガール組織を運営しているとは、信じられないとゴリさん。真紀の店からタクシーに乗るモデルたちをつける、ゴリさんと山さん。
高級レストラン「シベール」に入るモデルたち(森るみ子さんもいる)。まだ事件とは確定できないので、捜査費用は出ないが、さすがに薄給の刑事には手が出ない店。「奢ってやるよ」と言った山さんは「アイスクリーム」を頼む。仕方なくゴリさんもアイスを(笑)今回は、この「格差」がテーマでもある。ステーキを平げて店を出ていく女の子達。
彼女たちはレストラン前の外車に乗り換えて車内で化粧をしている。今回は「女の警察」シリーズのような、夜の風俗ネタ。富士山を観む箱根へと遠出をする外車。高速の料金所で警察手帳を見せるゴリさん。せめて特権をつかわないと、薄給だからね(笑)ここから事件の捜査に入る。クルマは高級別荘地に入るが、外車に巻かれてしまう。
仕方なく署に戻る。鑑識課長で監察医・田野村(西川敬三郎)に詰め寄る山さん。「捜査一係ではすでに自殺と断定したと聞きましたよ」。何かがおかしい。梨絵の兄は、すでに妹を火葬にしたと・・・。「無駄かも知れんぞ、山さん。署長も捜査中止の線だ。監察医が自殺だと結論を出した事件を、一刑事の勘だけで、捜査を続けさせるほどの暇はないそうだ」とボス。
「署長が打ち切れと言い出した以上、課としては経費が出せない」と言いながらボス。山さんが自腹で捜査するのを知っているので、みんなから集めたポケットマネーを渡す。いいねぇ。感動する山さん。「気の済むまでやれよ、山さん」とボス。「なんでもやりますよ」とマカロニ。「気の済むまでやってやらんと仏さまも浮かばれんよ」と長さん。
ここからアクション映画の常道となる。個人的に動き出した山さんは真紀を徹底的にマークする。一方、殿下は梨絵の実家のダルマ船から家族が引っ越しをし始めていことから、梨絵の母親名義で2000万円もする住宅が登記されていたことを突き止める。その金の出所は?
「河村真紀新作発表会」が開催されている高級ホテルで張り込む山さん。「マッチ貸していただけます」と女の子「先生のことお聞きになりたいんじゃないですか?」
真紀の洋裁店の女の子である。「お部屋でお話します」しかしそれは罠だった。女の子は山さんに乱暴されたと狂言、下着を剥き出しにして、ホテルの廊下を絶叫して走る。その騒ぎにより、山さんは七曲署署長(南原宏治)に「職権を利用してなんていうことをするんだ!」大目玉を食う。山下梨絵の焼死事件は「自殺と結論が出ている」と署長。「あれは私の事件です。結論は私が出します」。
「君はいつからあの事件の担当になったのかね?」と山さんを全面否定する署長。「うちの署には、暇もかねもない!」と山さんは休暇を余儀なくされる。
山さんは高子が入院している病院で、看護師(杉浦千江子)から「精算を」と求められる。お金ないのに。金が仇の世の中だなぁ。
山さんは真紀の高級マンションに出入りしている寿司屋の出前持ち(土屋靖雄)が怪しいと睨み、岡持ちの中から多額の現金を発見。真紀の部屋へ。洗面所には覚醒剤と注射器があった。「わかったわ、バッグを取ってちょうだい」。700万円の小切手を切る真紀。「これだけあれば、奥さんの病気を治してあげられるわ」
山さんの弱みに漬け込んで買収しようとする真紀。「奥さんのこと愛してるんでしょ?
その奥さんを幸せにしてあげようと思わないの?」「それとも一生、奥さんをあのまま苦しませるつもり?」「ひとりの貧乏人の娘が、コールガールになって死んだ。そんな事件をほじくり返して、なんになるっていうの?」
小切手を見て心が少し動く(ように見える)山さん。しかし黙考の上、小切手を破く山さん。「俺はあんたの罠にハマって捜査から外された。俺は知りたいことを知るためには、どんな汚い手でも使う」覚醒剤を欲しがる真紀に「(クスリ)を返してやってもいいぜ、焼け死んだ梨絵の最後の客の名前を教えてくれたらな」。
おお、ダーティ・ハリーみたい! 禁断症状の真紀に「一晩中、こうしてやってもいいんだぜ。俺はどうせ暇なんだ」ハードボイルドだねぇ。「梨絵の最後の客は?」「教えたって、あんたの手に負えるような客じゃないわよ」「手に負えるかどうかはこっちで決める!」
ついに真紀は政界の黒幕、ダイソーセイコーの会長の息子・影山英俊(浅香春彦)の名前を明かす。しかし山さん、バスタブに覚醒剤を捨て「すぐに救急車を呼んでやるよ」。クールだね。影山の名前をボスに告げる。自分だけでなく、ボスのクビにも影響がある。しかしボスも覚悟している。言わずもがなの男の友情。
山さんは影山のマンションを張り込む。すると、例のホテルで山さんをはめた女の子が出てくる。その車の助手席に乗り込む山さん。アクセルを踏む。「しっかり前を向いていないと、二人で心中することになるぜ」。疾走するクルマ。半狂乱の女の子。山さん、ダーティ・コップぶりを発揮する。彼女の話によると、影山は女の子たちに覚醒剤を与えてプレイしていた。その途中で梨絵が死んだのである。
その発覚を恐れた影山は、自殺ということにする梨絵の家族に話をつけて、代償として2000万円の家を与えた。その間に入ったのが真紀だった。と推理するボスたち。「真紀に聞けばわかる」と山さん。ところが真紀は運ばれた病院で自殺をしていた。万事休す。梨絵の家族には影山から直接金が出ない限り証拠にはならない。
証拠が何もないのだ。山さんは激昂する。しかも影山は「今晩の飛行機で1年間、海外に行くことになった」とゴリさん。「無駄骨は覚悟の上だったはずだよ、山さん」と長さん。七曲署近くの歩道橋で、虚しさを噛み締める山さん、夕日が目に染みる。
そこへ、鑑識の高田助手(北川陽一郎)が「あの娘の爪の間には、あの娘のものではない肉片が発見されている」と山さんに告げる。加害者の身体には相当の傷跡が残されている筈なのに、監察医・殿村はそのことを隠している。そこに疑問を持った高田助手が、山さんに教えてくれたのだ。動き出す山さん、ボスが迎えにくる。
唯一の証拠は影山の身体の傷。海外に一年いたらそれも消えてします。「捜査礼状ないんだぜ、山さん」「そんなもの誰が出してくれるというんです」「奥さんのことは考えておけよ。もしもこのまま踏み込んで影山英俊に傷がなければ身の破滅だぞ。それでもいいのか」「やらせてくださいボス。これは俺の仕事なんだ」。
山さん、意を決して影山の会社に乗り込む。会議室前では社員(向井淳一郎・今井和雄)に「警察を呼びます」と制止される。「俺が警察だ!」と、会議室に入る山さん。「捜査礼状はあるのかね」。黙って、影山のシャツを破く山さん。「この傷跡の由来を聴かせてもらえますか」事件は解決。しかし山さんは降格処分。いきり立つマカロニ。そこへ長さん、監察医の殿村が事実を隠していたことを認めたと。
山さんのキャラクターに『ダーティ・ハリー』のクリント・イーストウッドや『フレンチ・コレクション』のジーン・ハックマンなどのハリウッド映画のタフガイ・コップの持つハードさが加わり、徹底したハードボイルド描写が展開される。初放映時、まだ小学4年だったが、あまりの「大人の世界」にドキドキしながら、ブラウン管を見つめていたことを思い出した。「太陽にほえろ!」に夢中になるきっかけとなった傑作! これはスクリーン上映でも観たい!
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