『七月のクリスマス』(1940年・パラマウント・プレストン・スタージェス)
プレストン・スタージェス監督『七月のクリスマス』(1940年・パラマウント)。スタージェスにとっては、2作目となるハートウォーミング・コメディ。といっても、ハートウォームになるのはラストのサゲで、最後の最後までドキドキしてしまう。ちょっとした「悪意」が「善良」な人を、とんでもない状況まで追い込んで、結局「善意」と「偶然」で幸せになる。
スタージェスの作風は、フランク・キャプラなどの「性善説」とはちょっと違って「勘違いしているけど、愛すべき、奇妙な人物」を、とんでもないシチュエーションで追い込んでいくものが多い。
7月のニューヨーク。ジミー・マクドナルド(ディック・パウエル)とベティ・ケイシー(エレン・ドリュー)は、小さなコーヒー会社で事務をしている。貧しくともささやかな幸福を求めている若いカップルだが、ジミーは、一攫千金を夢見て、大企業「マックスフォード・コーヒー」のキャッチコピーコンテストに応募。二万五千ドルの賞金を手にして、苦労をかけた母やベティの母にも幸せになってもらおうと考えている。
そのジミーの夢を知った同僚たちが、悪戯で電報を偽造。ジミーがコンテストで優勝したと嘘の知らせが届く。人望の厚いジミーは、社長にも褒められ、そのコピーライターの腕を買われて昇進。「マックスフォード・コーヒー」に小切手を取りに行くと、ワンマン社長のマックスフォード博士(レイモンド・ウォルバーン)は、ジミーが優勝したと思い込んで小切手を切ってしまう。
この辺りから、どうなっちゃうの? 小切手使っちゃダメ!といつも思ってしまう。とにかく善良なジミーとベティは、デパートでいつも世話になっている近所の人たち全員に、プレゼントを買って、意気揚々と帰宅。
しかし、マックスフォード博士は、ジミーの当選が間違いだったことに気づいて、警察に連絡。デパートも商品の回収にジミーの住む街へ…
ああ、いやーな展開。同僚の悪戯とはいえ、ジミーとベティは詐欺罪だよなぁ。どうなっちゃうんだろう? と映画のことながら心配になる。これがプレストン・スタージェスの狙いで、ここからラストに向けての「あれよあれよ」の展開。主人公たちがギリギリまで追い詰められて、あ、もうダメ! と言うときに「ストン」と落ちてハッピーエンドとなる。落語のサゲのような気持ちよさ。
連日、ラピュタ阿佐ヶ谷で番匠義彰作品を見ているだけに、スタージェスの映画は「番匠みたいだなぁ」と思ってしまう(笑)いやいや、番匠がスタージェス的なのだけど。