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『悪名一番』(1963年12月28日・大映京都・田中徳三)

 今回のカツライスは、勝新太郎&田宮二郎のシリーズ第8作にして、初の東京篇。『悪名一番』(1963年12月28日・大映京都・田中徳三)を娯楽映画研究所シアターでプロジェクター投影。前作『悪名波止場』(1963年・9月7日・森一生)で広島・宇品港の鬼瓦組を一網打尽にした悪名コンビ。今回は悪徳金融会社から出資金が回収できずに、年の瀬を迎えられなくなった善良な大阪の人たちのために、朝吉がひと肌脱いで、清次と共に東京へ。出資金を回収に向かう。第1作以来、関西、四国を舞台にしてきたシリーズだが、悪名コンビが東京へ。そのカルチャーギャップを笑いにして、東京で江戸時代から続くやくざ一家と反目しながら、悪徳新興ヤクザの悪巧みを粉砕する。

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 これまで戦前→敗戦後→昭和20年代を時代背景にしてきたシリーズだが、今回はいきなり昭和30年代にジャンプする。東京タワーが聳え立ち、来るべき昭和39(1964)年の東京オリンピック前の騒然とした東京風俗が活写される。今回のヒロインは、進捗著しい江波杏子。安部徹の悪徳金融会社の社長秘書をクールに演じている。無表情で、ぶっきらぼうなもの言い方は、この年の3月にスターとして大ブームとなっていた日本テレビ系のシチュエーション・コメディ「男嫌い」(演出・福田陽一郎)のヒロインたちの物言いを意識しているのだろう。越路吹雪、淡路恵子、岸田今日子たちの「カモね」「そのようョ」「まあね」「ムシる」が流行語となっていた。

 今回のワルはその安部徹と新興ヤクザの名和宏。朝吉のモットーである「義理と人情」とは真逆の「私利私欲」のためなら殺しも厭わない本当のワル。朝吉が世話になるのは、江戸時代から続く正統派やくざの親分・伊井友三郎の一家。こちらも「義理と人情」を重んじるのだが、江戸っ子ゆえに、河内の朝吉は受け入れられない。そのカルチャーギャップが笑となる。また、ビルが林立する高度経済成長の東京で、昔ながらの浪花節的な朝吉が居心地が悪そう。「時代に取り残された男」の悲喜交交、このジェネレーションギャップも強調されている。

 年の瀬を迎えたが、朝吉(勝新太郎)と清次(田宮二郎)は、二人とも懐が旅先でスカンピン。そこへ、清次(田宮二郎)の義姉・お照(藤原礼子)が、同じ店で働く朋輩(今喜多代)が「宴会費用」の肩代わりをして困っていると、朝吉になんとかして欲しいと頼む。人が困っていたら黙っていられない朝吉が、踏み倒した連中に会いにいくと、町工場の社長が給料を払ってくれないからと言い訳される。ならばと町工場に行く。すると、大黒金融に出資した預託金が回収できなくなり、給料もボーナスも支払えなくて困っていると、逆に相談される。ちなみに今喜多代の相方・島田洋介は、債権者のひとりとして登場。

 そこで朝吉と清次、大黒金融に直談判へ。支店長(遠藤辰雄)によると悪徳社員が会社の金を着服してドロンしてしまった。そのトラブルは東京本社が対応していると聞いた朝吉は、債権者たちに頼まれて、清次を連れて、東京に回収に向かう。最初は「忘年会」代金の未集金の回収だったはずが、いつしか債権者の代表となってしまうのがおかしい。朝吉のお人好しも極まり!である。

 元手がない悪名コンビ、東京への陸送便に便乗して、金を持ち逃げしたとされる大野平助(矢島陽太郎)の姉で、運送会社を営む妙子(雪代敬子)を訪ねる。なんとそこで、四国でニセ朝吉とニセ清次を名乗って騒動を巻き起こした一郎(芦屋雁之助)と二郎(芦屋小雁)が働いていた。東京に溶け込もうと、二人がインチキな標準語を使うのがおかしい。よく関西の芸人が東京言葉をカリカチュアするときに使う「〜っちゃったんだよ」と。話していくうちに言葉をこじらせていくおかしさ。今回、クライマックスに、このニセ朝吉とニセ清次が大活躍する。任侠の世界に生まれた妙子は、男まさりでやんちゃな運転手たちを束ねている。朝吉の漢気に惚れて、ほのかな恋心を抱くのも、いつものパターン。

 妙子と平助の亡父は、江戸時代から続く川田組の組長だった。今は、二人の叔父・川田玄次郎(伊井友三郎)が川田組を率いていた。川田組に草鞋を脱いだ朝吉と清次は、翌日、大黒金融の社長・郡純太郎(安部徹)を訪ねる。本社ビルのエレベーターに驚く朝吉と清次。これもカルチャーギャップの笑い。しかし社長秘書・圭子(江波杏子)が出てきて、夕方まで会議で忙しいと断られてしまう。

 ならばと朝吉と清次は、東京見物へ。清次は銀座か浅草にでもと誘うが、朝吉は九段の靖国神社へ。戦争体験をしている朝吉はどうしても来たかったのだ。しかしそれが理解できない清次。ここで朝吉と清次が大喧嘩して、二人は別れ別れに。前半で二人が別れてしまうパターンも毎度のこと。ここから朝吉の単独行動となる。社長秘書圭子の後をつけてナイトクラブで、強面の連中と飲んでいる郡純太郎を発見。そこで新興ヤクザの工藤(名和宏)たちに、田舎者呼ばわりされ、屈辱的な思いをしながらも嘲笑に耐える朝吉。

 というわけで、今回は「八尾の朝吉in東京」を様々なカルチャーギャップのなかで描いていく。一方の清次は、なぜか東京で客を引いていた、おかまのお銀(茶川一郎)と再会、その口利きで、なんと工藤の用心棒として雇われる。そこでは、一億円横領して逃走中の筈の大野平助が囚われの身になっていた。大国金融の横領事件は、郡と工藤の悪巧みだったのだ。しかも社長秘書・圭子は平助の恋人で・・・ と事件の裏が見えてくる。

 シリーズを第1作から手がけてきた依田義賢のシナリオは、朝吉、清次のキャラを生き生きと描いて、観客が「こう来るぞ!」と思っている通りに物語が進んでいく。シリーズものならではの楽しさである。広島からの陸送便の運転手・良太(丸井太郎)が、朝吉の姿を見て大感激するシーンがいい。前作『悪名波止場』での広島県宇品港の大活躍が、すでに伝説となっていて、良太の口から語られる。シリーズのファンには嬉しい場面である。演ずる丸井太郎は、大映の大部屋俳優だったが、この映画が作られた昭和38(1963)年6月から9月にかけてT B S系で放映されたテレビ映画「図々しい奴」(大映テレビ室)で主役・戸田切人を演じてお茶の間の人気者となる。本作での抜擢にその勢いが感じられる。
 
 郡たちの悪巧みを全て知った清次が、なんとか朝吉に、コンタクトを取ろうとするが、なかなかうまくいかない。結局、清次の正体がバレてボコボコにされてしまう。朝吉は、川田組の助成を受けずに、一郎と二郎だけを連れて、工藤の事務所に乗り込んでくる。このクライマックスで朝吉が清次を救出、二人で悪党たちに立ち向かう。これもいつものパターン。前作では朝吉が助けようとした女の子が殺されてしまう、という後味の悪い展開だったが、今回は、いつものように、怪我人は続出するけど誰も死なない、という「大喧嘩」なので、コミカルなアクションを堪能できる。一郎と二郎の活躍もコミカルで、さすが田中徳三監督、キャラクターの捌き方が見事である。もちろん出資金は回収して、朝吉は大任を果たすことができる。

 朝吉の大活躍に、結局、老やくざ・川田玄次郎も惚れ込んで、川田組に跡目として残って欲しいを希望するが、朝吉は、いつものように組織に縛られたくないとポリシーを貫く。やくざな男だけど、やくざではない。それが「悪名」シリーズの魅力でもある。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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