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太陽にほえろ! 1974・第100話「 燃える男たち」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第100話「 燃える男たち」(1974.6.14  脚本・小川英   監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
北見警視(垂水悟郎)
滝川(見明凡太朗)
警察幹部(鈴木瑞穂)
誘拐犯(清水綋治)
丸山(西田健)
池野弘子(嘉手納清美)
滝川夫人(上野綾子)
石川真知子
久本昇
誘拐犯(手塚しげお)
土井(遠藤征慈)

予告編のナレーション

N「彼らがここに額を寄せ合うとき、犯罪への葛藤が始まる。連れ去られた花嫁を前に、下る極秘捜査命令。エネルギッシュな男たちが人質救出に向かう。銃声がする。人質の悲鳴が聞こえる。難を極める犯人の手口。豪を煮やした捜査班の内側での衝突が、かつてない炎の色に染まる。だが、何にもまして人間への愛があった。次回「燃える男たち」にご期待ください」

 シリーズを立ち上げたメインライター・小川英さんの脚本、メイン監督・竹林進による、100回記念作品。結婚式場から要人の令嬢を誘拐した犯人たちと、藤堂一家の息詰まる対決。本庁からの極秘司令を受けて人質奪還作戦を展開する七曲署員たち。しかし本庁のエリート本部長・垂水悟郎さんの横槍で、事態は思わぬ方向へ。劇団民藝出身のベテラン、垂水悟郎さんは、日活映画のヴィランとして1960年代の日活ノワールを豊かにしてくれた。裕次郎さんとも『男なら夢をみろ』(1959年・松尾昭典)、『花と竜』(1962年・舛田利雄)、『赤い谷間の決斗』(1965年・舛田利雄)、『栄光への挑戦』(1966年・舛田利雄)などで共演。

 赤木圭一郎さんの遺作『紅の拳銃』(1961年・牛原陽一)では、虚構の職業である「殺し屋」にリアリティを与える名演を見せてくれた。また誘拐犯を演じた清水綋治さんは、劇団自由劇場創業メンバー。やはり誘拐犯の手塚しげおさん(のちにジーパン殺害犯を演じる)とともに凶悪犯を憎々しげに好演。100回記念にふさわしい、重厚な作品となった。今回のテーマは「何よりも重い人間の生命」。ボスの警察官としての矜持を、山さんが代弁する「焼き鳥屋」のシーンが素晴らしい。そしてラスト、本庁での記者会見でのボスのセリフは、深い印象を残す。

 結婚式場。滝川家の令嬢・滝川由利子(石川真知子)のウエディングドレスを着付けしている、美容師・池野弘子(嘉手納清美)。「うわぁ綺麗、こんな素敵な花嫁さんをお世話したのは初めてですわ」「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」。そこへ二人の男(清水綋治・手塚しげお)が押し入ってくる。悲鳴をあげる花嫁。「何するんですか!」と弘子。拳銃を突きつける男たち。

 誘拐される美容師・池野弘子を演じた嘉手納清美さんは、沖縄出身の両親が戦後創業した新宿の沖縄料理店「南風」を手伝いながら10代で芸能界デビュー。「ウルトラセブン」第46話「ダン対セブンの決闘」(1968年)でサロメ星人を演じた。小林旭さんの日活映画『爆弾男といわれるあいつ』(1967年・長谷部安春)のヒロインを勤めている

「またしても人質を盾に取った凶悪犯罪だ。しかも白昼、政財界を網羅したと言われるほど豪勢な結婚披露の会場から、花嫁を拉致していった。捜査本部は本庁に設置されたが、別に極秘裏に一部の捜査員を動かして、人質救出にあたらせたい」。警視庁で、ボスは幹部(鈴木瑞穂)から極秘司令を受ける。「しかし私からそれを命ずることはできん。つまりその捜査員はたとえ成功しても失敗しても、その男及び、その部下の行動は、全てその男の独断による、いわば暴走的行為でなければならん、ということだ。どうかね?君の意見は?」。ボスは幹部の目をじっと見つめて「わかりました。私は私の独断で行動します」。007シリーズや「スパイ大作戦」みたいな展開。

 「それじゃまるで、特攻隊じゃないですか」とジーパン。「でもひどい話ですね」とシンコ。ボスは長さん、山さん、殿下、ゴリさんの顔をみてうなづく。「極秘捜査と言っても、捜査本部長の北見刑事だけがこのことを知っているから、随時、必要な情報は提供してくれる筈だ。その連絡は俺が取る」「北見刑事が本部長ですか?ま、点取虫て噂もあるけど、本当に協力してくれますかね?」長さんは半信半疑の表情。ゴリさんが訊く「それよりボス、奴らの要求って一体なんですか?」「期限は明日の正午で要求は二つある。一つは金だ、米ドルで500万ドル」とボス。「15億円か」とジーパン。受け渡し方法については、改めて連絡がある。「もう一つは、すでに捕まっている爆破犯人の丸山と土井の釈放だ」「え?」と長さん。「なんですって!」と山さん。

 ジーパンは「じゃ、俺たちが捕まえたあの?」「ああそうだ。1ヶ月前に捕まえたデパート爆破犯人だ」「あの二人に仲間がいたんですか?」驚くゴリさん。殿下は「過激派とは全くつながりのない、欲求不満型犯人というのが、我々の結論だったけど」と首を傾げる。

 ドアが開く。「その二人の資料をこっちへもらおうか」。本庁の北見刑事(垂水悟郎)である。日活アクションの悪役ではお馴染みのバイプレイヤーである。「北見さん」ボスが立ち上がる。「藤堂くん、君は極秘捜査の司令を受けているそうだが、捜査本部長としてこの際、はっきり言っとく。私には全く関係のないことだ」。ボスうなづく。ゴリさんいきりたって「関係ないというのはどういうことですか?」「特攻隊の我々なんかに協力しても、なんの手柄にもならない、ということですか?」憮然としてジーパンは北見を睨む。

「よせ、ジーパン」ボスが嗜める。北見、笑って「構わんよ、藤堂くん。さ、私は忙しいんだ。爆弾犯人の資料を出してくれ」「わかりました、どうぞ」資料を北見に渡すボス。北見、立ち去る。ゴリさん、資料を机に叩きつける。

「山さん、殿下と一緒に、爆破犯人を洗い直してくれ」とボス。「ゴリ、お前は過激派の線だ」「はい」「ジーパンとシンコは二人の被害者の交友関係だ」「はい」「それから長さん、ご苦労だが、本庁の情報キャッチ係をやってもらおうかな?」「は?」という顔をした長さん、しばらくしてニヤっと笑って行動開始。100回記念にふさわしく、全員参加である。

 七曲署から、それぞれの覆面パトカーが出動!

 シンコは花嫁の友人に聞き込み。ゴリさんは大学で学生たちに聞き込み。ジーパンは街角で若者から話を聞いている。

「滝川家令嬢誘拐事件捜査本部」本庁のエリート刑事たちが捜査活動に忙しくしている。応接に座っている長さん。

刑務所。殿下と山さんが爆破犯人・丸山(西田健)と土井(遠藤征慈)に面会。「丸山、土井、元気そうだな?」と山さん。「ああ元気だよ」と太々しい態度の土井「そのうち、ここもぶっ飛ばしてやるよ」。殿下「なに?」といきりたつが山さんが制止。「土井、公判は来週、早々だったな?」「俺たちは無罪だぜ、証拠不十分て奴だよ」「爆破は重大な犯罪なんだ、ま、10年以上はクサイ飯を食うことになるだろうな」と山さん。「うるせえな!そんなこと言いにわざわざ来たんですか?」と丸山。「まあそうだ、残念ながら仲間の逮捕も時間の問題なんでな」「仲間?」と丸山。顔を見合わせる丸山と土井。「またカマかけて何か探ろうとしている。おい看守!俺、気分が悪いんだ、こんなデカの顔なんか見たくもねえや」と土井が立ち上がって怒鳴る。山さん、ニヤッと笑って、看守を促し、出ていく二人。

 殿下は「とぼけやがって!どうして帰しちゃったんですか、山さん?」「あの連中は何も知らん」「え?」「あの二人は気の小さい奴でな、何か隠していればすぐに顔に出る」「それじゃ?」「奴らには仲間などいないし、釈放要求が出ていることも、全く知らん、ということだ」「山さん、ならなんで今度の犯人は?連中の釈放を?」。山さんスパッと「訳のわかんらん話に頭を悩ましているより、街の通報をしらみ潰しに当たるんだ。行こう!」と立ち上がる。

 新宿高層ビル街の空き地。パトカーに捜査員たちが集まり、騒然としている。誘拐犯の逃走車が見つかったのだ。北見刑事が現場検証にやってくる。「確かに犯人の使った逃走車だ、手は触れていないな?」。後部座席に毛布に包んだ不審物がある。「なんだあれは?」。本庁刑事が調べようとドアを開けると、タイマーの音がする。時限爆弾だ!「伏せろ!」大爆発する逃走車。

 救急車が現場に走る。ボスも覆面車で駆けつける。「さすが情報、早いな」と北見。「負傷者の傷は?」とボス。「生命に別状はないが、かなりの傷だ。君が心配しれなくても、犯人は必ず、私が挙げる」「・・・」。北見は警察官に「現場には本部員以外誰も入れるな」と厳命する。嫌味な男だ。ボスは規制線の向こうにある爆発した逃走車を見つめる。

 「爆発物は状況から判断して、丸山、土井が使った鉄パイプ爆弾とは全く違う缶爆弾だ。山さんが見た通り、丸山たちとはなんの関係もない連中らしい」とボスは無線で部下たちに伝える。

 山さんは「有力なタレコミがありました。矢追町近辺の地下駐車場に、それらしい二人が住み込んでいるというのです。当たってみます」とボスに報告する。

 夜の矢追町。ネオン煌めく繁華街。その一角にある矢追町1丁目松田ビルに向かう山さんと殿下の覆面車。山さんは殿下に「銃は使うな、ホシなら十中八九、人質も一緒だ」「はい」。地下駐車場、事務所をクルマから覗く山さんと殿下。誰もいない。殿下、クラクションを鳴らす。事務所の時計は午後11時10分。ようやく中から顔を見せたのは係員(清水綋治)。実は誘拐犯である。「どうぞ」と促され、駐車スペースに向かう覆面車。

 殿下「犯人にしちゃ、ばかに落ち着いていますね」「間違いなくホシだ。人質もあの部屋(事務所)の中にいる。何もないのに、ドアを開ける前に部屋の明かりを消すやつがあるか?」。様子を伺おうとする殿下を制止する山さん。「見るんじゃない。423の前に停まっているクルマの中に見張りがいる」。

 山さんが指摘したクルマ。中では誘拐犯(手塚しげお)が目を瞑っている。目を開け、クルマを降りる山さんたちの姿を監視している。

 山さんと殿下、事務所へ向かう。その入り口にある「CO消化器」に目を留める殿下。

 本庁・捜査本部。刑事が北見刑事に「指紋の方で何か?」「いかん、いかん、相変わらず正体不明だ」。ずっと部屋にいた長さん「あ、どうも」。北見は「何をしてる?そんなところで」「いえ、例の爆破犯人二人のことで、何かご質問がありましら?と思いまして、ずっとここに」「そうか、あんたが情報係、というわけか」と北見にはお見通しだった。誤魔化そうとする長さん、そのタイミングでペイジャー(ポケベル)が鳴る。「ちょっと電話を拝借」と愛想笑いをして電話へ。

 捜査第一係。長さんからの電話。「あ、長さんか、黙って聞いてくれ、犯人たちの所在が意外に早くわかった。矢追町一丁目の第3ビルの前に来てくれ」「わかりました」。長さん気取られまいと、ポーカーフェイスで「それじゃ今日は引き揚げます」と愛想良く出ていく。しかし北見刑事「何かあったな?」。

 早朝。矢追町第3ビル前に、長さんの覆面車が到着。「右向こうの松田ビルの地下にホシがいる」とボスが無線で伝える。「時々見張りが出ているから、気づかれないようにな、反対側の路地まで来てくれ」「了解!」。長さん何くわぬ顔でクルマから降りて深呼吸。

 ボス、捜査一係の面々を前に、地下駐車場の地図を広げて「ここが問題の管理人室だ、連中をここから誘い出さん限り、救出は難しいが、うってつけのものがあった、これだ」。殿下が見つけた「CO消火器」である。「一酸化炭素ガスの消火器ですか?」と長さん。「警報ベルが鳴ったら、すぐに飛び出さないと、火は消える代わりにガスが充満して、人間も危ない、という代物です」と殿下。「連中はベルが鳴れば、慌てて飛び出してくる」と山さん。「つまり、これから僕と山さんが中へ入って、ベルだけ鳴ってガスが出ないように消火器のコックを捻っておくんです」と殿下。
「行けそうですねボス」と長さん。うなづくボス「ただし、人質に銃口が向けられている限り、絶対に手を出しちゃならない、いいな」。全員「はい」と返事をする。

 山さん、ポケットから拳銃を出して「こいつは置いていきますよ、持っていれば必ず撃ち合いになる」「それじゃ俺も」と殿下。ジーパン二人の拳銃を受け取る。山さんと殿下、地下駐車場へ。今回は「スパイ大作戦」のようなエスピオナージュの雰囲気。なんといっても秘密指令だからね!

 ボス、長さんの腕時計を見て、そろそろ頃合いと行動開始。しかし、そこへ本庁の覆面パトカーがやってくる。北見刑事である。トラックからは武装した機動隊員が続々と降りてくる。驚くボス。「なかなかやるじゃないか、藤堂くん。せっかくだが無線を傍受させてもらったよ」「北見さん」「後は我々が引き受ける、君らの手には追えんよ」。太々しい態度の北見にジーパン「汚ねえな。それが本庁のやり方ですか!」と言葉を荒げる。ゴリさん、長さん、ジーパンを制止する。「貴様!」北見の形相が変わる。ボス「ジーパン、やめろ!」。

 ボスは北見にこう言う。「我々の作戦はすでに始まっています。北見さん、あなた方がこのまま突っ込んだら、作戦は失敗します」「誰が突っ込むと言った?完全包囲して、俺が中へ入って説得する。それが最善の方法なんだ」。北見、機動隊の隊長に「おい、包囲しろ!」と指示を出す。

 ボス「待ってください」と止めるが、北見は「どけ!」と覆面車に乗って地下駐車場へ。ボスたちもクルマで追いかける。

 地下駐車場。山さんと殿下、作戦行動開始。殿下がCO消火器のコックを閉めようとした時に、なんと北見の覆面車がやってくる。ブレーキ音。山さん「!」、殿下「!」。見張り役の誘拐犯(手塚しげお)が「ポリ公だ!」と叫んで銃を、北見に向けて撃つ。ボス、ジーパンのクルマが現場へ。「ボス!」とゴリさん。

 管理人室から、誘拐犯(清水紘治)が二人の人質に拳銃を向けながら出てくる。「来てみろ!この女たちの命はないぞ!」と北見に銃口を向ける。「待て!我々は話し合いに来たんだ、撃ち合うつもりはない」と北見。

 見張り役の誘拐犯(手塚しげお)、殿下の上着からチラリと見えた手錠に「くそ!あいつもデカか!」と発砲。殿下は凶弾に倒れてしまう!スローモーションでゆっくりと倒れる殿下。まるで殉職シーンのような演出に初放映時、かなりドキドキした。

 「殿下!」山さんが駆け寄る。ボス、北見、ジーパン、ゴリさん、長さんの顔にそれぞれズーム。ボス「ゴリ、突っ込め!」。クルマを発進させるゴリさん。見張り役の死角にクルマをダッシュさせ、降りて、殿下を救出している山さんをフォローして、誘拐犯に拳銃を向ける。見事な連携プレー。ボスもクルマから降りて、殿下のもとへ。腹部から大量の出血をしている殿下、意識不明。ボス「殿下!」。

ゴリさんは見張り役と銃撃戦!

 北見は「いいか、こうなったら強行突破して」と部下に指示、人質を縦にしている誘拐犯に拳銃を向ける。誘拐犯「銃を下ろせよ、下ろせよ!」と人質に銃を突きつける。手が出せない北見。ボス、誘拐犯を凝視。ジーパンはいきりたつ。それを制止する長さん。「下さないとこいつらぶっ殺すぞ!」。意識不明の殿下。緊迫の瞬間。

 「わかった、撃たんから何もするな」と銃を下ろして立ち上がる北見。そのタイミングで見張り役がクルマを回して、人質とともに乗り込む。「待て!そっちの条件を聞こう、我々には話し合いに応じる用意がある」と北見。しかし「うるさい、その話は後だ」と誘拐犯(清水綋治)はクルマに乗り込み、逃走する。これは完全に本庁の失態。「包囲をとけ」と北見は部下に指示を出す。「包囲をとけ!」。いまいましげな北見の表情。

 山さんたちは瀕死の殿下をクルマに乗せて発進。それを見送るボス。ジーパン「ボス」「殿下は?」と長さん。「重傷だ、腹をやられている」。心配そうなジーパン、長さん。そこへ北見、「藤堂くん、わかっているだろうが、この事態の責任は全て君にある」「・・・」「君は独断で勝手な行動をとり、そのために部下がひとり負傷した、事前に我々に連絡をとっていれば、絶対にこんなことにならなかったのだ」。身勝手な言い分にジーパン「貴様!あんた一体何したんだ」。北見に食ってかかる。しかしボスは「馬鹿者!」とジーパンを殴り飛ばす。

「ボス!」「俺の作戦が失敗したのは事実だ、殴りたければ俺を殴れ」「・・・」。ボス、ジーパンの顔をしばらく見つめてから、北見に頭を下げてその場を立ち去る。憤然としたままのジーパンに、長さんはハンカチを渡し、口の血を拭う。去り際に北見の足元に唾を吐くジーパン。その気持ち、よくわかるよ。悪いのは北見、あんただよ!と視聴者はジーパンに共感するシーン。

 警察病院。手術中のランプが点灯している。山さんとボス。廊下で待っている。「あの時、私が拳銃を置いて行こうと言わなければ」「よせ、山さんらしくないぞ」「女々しいとは思うんですがね、どうしょうもないんです。こう言う時は・・・自分が撃たれた時は、どうってことないんですがね」。山さん斬鬼の念に耐えない。その時、手術中のランプが消える。ストレッチャーで運ばれる殿下は、じっと目を瞑っている。そこへジーパンがが駆けつける。「ボス、島さんは?」「ああ、今日1日がヤマだそうだ、それよりジーパン、誰がここへ来いと言った?捜査はまだ続いているんだぞ」。

「はあ・・・しかし・・・ボス、さっきのテレビニュースで言ってました。今朝の人質救出失敗は、七曲署の抜け駆け捜査と発表されました、功を焦ったための失敗だそうです」。ボス、無言で歩き出す。「ボス!言ってください、ボスはどうしてあんなことをしたのか?マスコミに言ってください、ボス!」。山さんが「ジーパン」と止める。「抜け駆けだの焦りだの言われたら、島さん、どうなるんですか?撃たれた上に笑いものにされて、ボスはそれでも平気なんですか?」。ボス、何も言わずに立ち去る。

 「ボス!待ってくださいよ」と叫ぶジーパンを、山さん、駆けつけたゴリさんが止める。「ボス!島さんがかわいそうじゃないですか!」。ジーパン、泣いている。

病室の殿下、意識が混沌としている。

 捜査第一係。制服姿の北見が笑顔で入ってくる。ゴリさん「本部長!」「ははは、まあそう怖い顔するなよ、喧嘩は終わりだ、事件は終わりだ」「終わったって?」とゴリさん。長さんも「どう言うことですか?それは?」「どうもこうもないよ、滝川さんの娘さんが、もう一人の女性と一緒に、無事戻ってきた、というわけさ」。顔を見合わせるゴリさんと長さん。「うわぁ!良かった!救出されたんですか?」と嬉しそうな久美。「違う!犯人が返したんだよ」「なぜですか?拘置中の二人はまだ釈放されてない筈ですが」とゴリさん。「つまり、犯人側は妥協したってことだな、滝川さんが今朝までに都合した、現金二億円を犯人の指定通りに払った体よ」「二億円?」驚くゴリさん。「となると、犯人逮捕も時間の問題だしな、これで君たちも辛いお役目から解放、ってわけだ。まずはめでたし、めでたしだ。ははは」と北見の高笑い。

 そこへボスと山さん戻ってきて、北見に頭を下げる。しかしその目は厳しい。「ああ、長さん、ゴリ、何か聞き込みは?」と北見を無視するようにボス。「ご報告することは何も、それに、今の本部長のお話では・・・」「長さん、デカにとって捜査が終わるのは、犯人が逮捕された時だ、違うかね?」「わかりました、聞き込みを続けます、ゴリさん」「ちょっと待ってください。それにしても、人質が釈放された今・・・」「さ、ゴリさん」と長さんが促して「さあ行こう」と捜査に向かう。

 北見、憮然としてボスに「強情な男だな、君も」。ボス、ギロリと北見を睨む。「しかし下手をすると、流石の藤堂チームといえども、空中分解だ、せいぜい気をつけることだな、ハハハ」。ボス、じっと北見を見つめる。

 滝川令嬢・百合子の記者会見。記者「一番、怖いと思ったのは、いつですか?」「はい、怖かったのは連れていかれた時と、警察の方たちが来た時だけです。あとはとても紳士的でした」と令嬢。隣にはめかし込んだ美容師・池野弘子(嘉手納清美)「ええ、とても優しくて、あの人たちを逮捕に見えた警察の人たちの方がずうっと怖かったですわ」と笑う。令嬢も、その母親(上野綾子)も記者たちも大笑い。なんて連中だ!

 ちなみに滝川夫人を演じた上野綾子さんは、第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』(1971年・山田洋次)で、博(前田吟)の長兄(梅野泰靖)の妻を演じている。

昏睡状態の殿下。ジーパンが病室で心配そうに立っている。

シンコ、初夏の日差しのなか、たばこ屋の赤電話からボスに報告。「たった今、おかしなことを聞いたんです。百合子さんと一緒に拉致された美容師の池野弘子さんが、犯人そっくりの男と、原宿のスナックでたびたびあっているんです」「なんだと?」。

 滝川邸。滝川(見明凡太朗)がリビングに入ってくると、なんと夫人と百合子が、池野弘子に拳銃を突きつけられている。「もういいわよ」と弘子。戸を開けて入ってきたのは誘拐犯二人(清水綋治・手塚しげお)だった。「お父様、この人たちが私をさらった」「何?君はこの連中とグルだったのか?」と滝川。「そうよ、私たちは仲間なのよ、警察が強引な手段に出た時の用意に、私も被害者の真似をしていただけ」と微笑む弘子。拳銃を誘拐犯(手塚しげお)が受け取り、百合子に突きつける。

「君、私は金を支払ったじゃないか?それなのになぜ?」と滝川。誘拐犯(清水綋治)は滝川に銃口を向けて「たったの二億円で誤魔化そうとするからいけないのさ、だから俺たちも人質を増やすことにしたんだ」「ばかな真似はよせ、わしにはこれ以上の金は・・・」「出来なかったら、国が出すさ。あんたは偉いお役人だし、娘さんの旦那になる男の親父は政界の大物だろ?」。滝川は非常ベルを見る。「動くな!このうちにいるものは一人残らず人質にする。一人でも逆らったら、残りの人質は全員撃ち殺す。いいな」。

 その時、滝川邸の前でブレーキの音。チャイムが鳴る。一瞬戸惑う犯人たち。しかし誘拐犯(清水綋治)は冷静に、滝川を連れて玄関へ。来客はボスだった。目の前で滝川に拳銃を突きつけている誘拐犯。ボス「遅かったか」「あんた大したもんだな、俺がここにいるのがわかったのかい?」感心している。「でも無駄だよ、あんたたちがいくら頑張ったところで、絶対に俺たちに勝てっこない、絶対にだ」。ボスじっと犯人の目を見て「そうかな」「そうさ、ここの家のものは全員人質にした。あんたたちにとっっては何より人命優先だが、人質の一人や二人を殺すことは、俺たちにとっちゃなんでもないことなんだからね。だから、あんたたちには勝てっこないのさ」「ここの人たちを放せ、俺が人質になる」とボス。

 「へえ、いい度胸だな、でもダメだお断りだよ、あんたなんか殺したってどうと言うことないからな、やっぱり殺すんなら、こう言う偉い奴でないとね」と滝川の額に銃口を突きつける。清水紘治さんさすが!堂々と裕次郎さんと渡り合う悪役演技。若き日のハーヴェイ・カイテルのようだ。やはり悪役は、こうでないと。「太陽にほえろ!」史上の犯人の中でも屈指のキャラクター。

 ボス「要求を聞こう」「それじゃ、あんたからお偉方に伝えてもらおう。いいかい、俺たちの今度の要求はだな・・・」。

 新聞の輪転機。見出しが踊る。「途方もない要求、爆破犯人二人の釈放と三千ドル(90億円)期限は明日午前10時」。

 本庁に殺到するマスコミ。「期限は午前10時」のテロップ。捜査本部、苦悩する北見に、詰め寄るマスコミ。「ジェット旅客機で指定国までー人質を同行、そしてー」と見出しのテロップが流れる。

 居酒屋。ジーパンがカウンターで呑んでいる。「やっぱりここか」とゴリさんが隣に座る。「ニュース聞いたかい?」「ええ」「明日の朝6時、マンション・プレジデントに集合だぞ。親父さん、酒と焼き鳥ね」ゴリさん、ジーパンの浮かない顔を見て「なんだおい、行かないつもりか?」「島さん、どうなんすか?」「うん、まだ危険な状態が続いているそうだ」。トランペットのテーマが流れる。

昏睡状態の殿下。

 「もしも島さん、死んだら、完全な犬死にですよね」「ジーパン、よせ」「俺の親父ってのは、拳銃が嫌いで、拳銃を持たなかったために、撃ち殺された。まあ、命令違反ですから、完全な犬死にですがね、このまま死んだら、島さんだってそうでしょう。組織っていうのはそういうもんだというけど、警察ってのはそういうものなら、そこまで組織に利用されなきゃならないのなら、俺は刑事なんてやめますよ」。ゴリさん、ジーパンの胸に手を強く掴み「俺だって辞めたくなってるんだよ、ちっとは別なこと言えよ、バカ!」。ゴリさん手酌で酒を呑む。そこへ「焼き鳥、ソーダ」と山さんが現れ、ジーパンの右隣へ座る。

 「山さん」「二人とも辞めたきゃ、さっさと辞めるんだな、こんなことでグラついている奴にはデカ、つとまらんよ」。徳利をテーブルにドンと置いて、ゴリさん「山さん、それはないですよ!俺たちはその、なんちゅうか、情けないんですよ、ボスは今度の事件で、親方の言うなりですよ、それが」「それなんですよ、さらわれたのが金持ちの娘だからって、なんで俺たちがこんなことをね」「ジーパン」と山さん。「ボスがこの仕事を引き受けたのは、相手が金持ちの娘だからじゃないぞ、組織のためでもない、お偉方の命令だからでもない、人間一人の生命の重さに比べたら、そんなものは全て、全てどうでもいいことだから、引き受けたんだ」。ジーパン、ゴリさん「・・・」。山さんは続ける。「今度のことで一番苦しんでいるのは、ボスだ、それがお前たちにはわからんのか」「・・・」「最もデカなんてバカな商売を長年やっていれば」山さんのタバコにジーパン、火を付ける。「誰だって、一度や二度はそういう苦しみにぶつかる。あの北見刑事だってそうだ」。

 ジーパン、ゴリさん、山さんの顔をみる。「あの人が?ですか?」とジーパン。「ひょっとすると、あの人はボスと同じくらいに生粋のデカなのかもしれない。だから、あの人はいつも腹を立てているんだ。現実がそのデカの気持ちを少しも満たしてくれないことにな」。ジーパン、ゴリさん「・・・」。山さん「親父さん、酒もらおうか、一杯だけな。こっちの二人にも」。音楽、ここで終わる。山さん、最高の見せ場!

 翌日。滝川邸を取り囲んでいる機動隊、警官、パトカー。マンション・プレジデントの一室には、ボス、山さん、シンコたち。そこへ「おはようっす」とジーパン、ゴリさんがやってくる。「あ、ボス」と長さん、二人を見て「あ、きてたか、良かった良かった」「何が良かったんすか?」とジーパン。誤魔化す長さん。みんな心配していたんだよ。

 窓に立っていたボス、振り向いて、優しい顔で「ま、どうやら、顔だけは揃ったようだな」。罰が悪そうなジーパンとゴリさん。ボス、山さんの顔をみる。ボス、本庁の上層部(鈴木瑞穂)に電話する。

「私だ」「藤堂です」「うん」「今日の午前10時、釈放犯人の丸山と土井を滝川邸に連れて行きます。その時、人質救出を結構します。許可を頂きたいんじゃありません。機動隊に、こちらの邪魔をしないように、指示してもらいたいだけです」「相変わらず強引な男だな、成功の確率は?」「60%、丸山と土井がこちらの思惑通りになれば80%に増えます」「丸山と土井が? いかん、そんな危険な賭けはできん!」

「しかし、彼らは過激派でもゲリラでもありません、ただ人を殺すこと、破壊することを楽しんでいるんです。このまま人質と彼らを外国に送った場合、人質が殺される確率は60%以上あります。彼らを飛ばしてはいけません。こんな残忍な犯罪を安直に実行するのを、黙って見過ごしてはいけません」「実はな、君とほとんど同じ意見を、つい今しがた聞いていたところだ」「機動隊の件に関してその男と相談することを特に許可しよう」。上層部が見上げると目の前に北見が立っている。

 北見が受話器を受け取る。「もしもし、北見だ」「本部長」「これは非常に困難な仕事だ。この際、メンツに拘らず、決行の指揮権は君に譲り、こちらの腕の立つライフル隊員と、若干の本部員を君の指揮下に派遣しよう」「いいえ、それは結構です」「なに?」

 「私は私の部下を信じてます。そうです。どんなライフルの名手よりもです」山さん、長さん、ゴリさん、ジーパン、シンコの顔。「はい、じゃ後ほど」とボス、電話を切る。「じゃ、行こうか」。

 刑務所。丸山(西田健)「ふん、仲間であろうと無かろうと、どうだっていいじゃないですか?要はね、世界をぶっ壊してえってやつは、みんな俺たちの仲間なんだな」「そうだ、せっかく捕まえた俺たちが釈放されるからって、ケチつけるなよ、もう行くぜ」と立ち上がる土井(遠藤征慈)。「そうか、そんなに殺されたいのか?お前たち」と山さん。「お前たちの仲間だと言っている二人はな、ケダモノだ。だからな、かわいそうだが、人質が彼らの手から離れると同時に、ライフル隊が彼らを撃ち殺す」。顔を見合わせる丸山と土井。再び座る。「お前たちが連中と一緒に行動すれば、ライフルはお前たちも狙うだろう。ケダモノの片棒を担いで撃ち殺されたんじゃ、とんだ道化ものだ、もし、それが嫌なら、お前たちのするべきことは一つしかない」。落としの山さん、説得のプロでもある。「警察に協力することだ」「何が警察なんかに」と土井、「ばかいっちゃいけないよ」と丸山。「そうか、やっぱりな、ま、無理にとは言わんよ」。ニヤッとして山さん、その場を立ち去る。丸山、土井に「おい・・・」二人顔を見合わせる。

 刑務所の門が開き、覆面車が出発。後部座席には、丸山と土井、真ん中に北見、運転席にはボスが乗っている。続いて山さんの覆面車も後を追う。

 滝川邸。長さんが覆面車の中で時計を見る。9時49分。あと10分だ。邸内の植え込みで見張っているゴリさん。玄関のファサードの上にはジーパン。

 長さんの覆面車にシンコから無線。「長さん、助かったの、助かったんです!」「なに?助かった?何が助かったんだ?」「島さんよ」シンコの明るい顔。「もう大丈夫って、今、電話が」「そうか良かった、良かったな」嬉しそうな長さん。「みんなに知らせたいが・・・」

 そこへボスの覆面車が走ってくる。ジーパン、ファサードの上から身を乗り出す。長さん、車のボディにマジックで「デンカ ブジ」と書いて、車窓から両手を振っている。ジーパン、両手を丸くしてOKポーズ、それを見ているゴリさんに、ジーパンOKサインを送る。しかしゴリさん「何やってるんだ?あいつは!この大事な時に」しばらく考えてようやく殿下が助かったことを理解する。

 車を運転するボスに、長さん、ボディの文字を見せて、ボス、嬉しそうな表情。滝川邸に釈放犯二人が到着する。機動隊員が門を開いて、ボスの覆面車は敷地内へ。

 玄関に誘拐犯と弘子が、滝川夫妻と娘に銃を突きつけながら出てくる。ボスと北見、車から丸山と土井を降ろして、犯人に近づく。植え込みのゴリさん、車寄せの上のジーパン。

「金はどうした」と誘拐犯(清水綋治)。「90億はジェット機と一緒に羽田に用意した」。誘拐犯、ボスを促す。ボスと北見、土井と丸山を連れて歩き出す。「止まれ!」ボス、北見に目配せをする。「手を離せ!」と誘拐犯。ボス「奴らの拳銃に飛びつくんだ」と丸山に、北見「それがただ一度のチャンスだ」と土井に「いいな」と指示を出す。釈放犯、歩き出す。ゆっくりと玄関へ向かう。

 長さんと山さんが、ボスたちのところへ。丸山と土井、山さんの顔をみる。山さん二人を見据える。山さん手のひらを口にあてサインを送る。「気をつけろ!」と誘拐犯(清水綋治)「警察は何か手を打ったぞ」そのタイミングで丸山と土井が、それぞれ誘拐犯に飛びつく。

 「動くな!」拳銃を構えるボスと北見、ゴリさんも飛び出す、ジーパン上から誘拐犯に飛びかかる。乱闘!ゴリさんも参戦。乱闘!ジーパンのキック!ボスと北見は人質を邸内へ誘導。ゴリさんが誘拐犯(手塚しげお)に強烈なパンチをお見舞いして、逮捕!長さんは弘子を確保! 丸山と土井、逃げようかと顔を見合わせる。しかし後ろから山さんが二人の手をガシッと掴む。機動隊が敷地内へ。ジーパンと格闘していた誘拐犯(清水紘治)が機動隊に向けて発砲!一人の隊員が凶弾に倒れる。

 ボス、機動隊員を見る。ジーパン、撃たれた隊員を見て、怒り心頭、怒りの鉄拳!一本背負い!誘拐犯の拳銃をキックで飛ばす!パンチ、パンチ。そこへ北見が手錠を持って、ジーパンをどかして逮捕!

 しかし機動隊員は命を落としてしまう。ボス、無念。北見、無念。山さん、ジーパン、長さん、ゴリさんの悲しそうな顔。

本庁・記者会見が行われている。上層部「犯人二人と、池谷弘子は逮捕、まもなく自供によって、事件の全貌が明らかにされると思います」。記者「人質だった滝川夫妻とお嬢さんは全くの無傷だったわけですね」「うん、全く無傷の上に、精神的疲労も大したことはなく、近日のうちに、再び百合子さんの結婚式が執り行われるだろう、という話だ。ま、この前は七曲署の暴走とか言われて、とかく批判を受けたが、今回はその七曲署の藤堂くんも、捜査本部長北見くんとの緊密な連絡のもとで、協力してことに当たり、ここに事件の解決を見たわけで、今回の人質救出作戦は、まずは大成功であったと、確信しております」。

 ボス、無言。北見、ボスの方を見る。記者「藤堂さん、一言」「私は成功とは思いません」。騒然とする記者たち。「藤堂くん」と諫める上層部。記者「なぜですか?藤堂さん、滝川さんご家族は無事救出されたじゃないですか?」「しかし、機動隊員がひとり死亡しました。亡くなったその機動隊員も、半月後には結婚式を挙げるはずでした。人質の命も、一機動隊員の命も、生命の重さには変わりありません。あたしはこの作戦は、大失敗だと思っています」。ボスの無念そうな顔でストップモーション。

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