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太陽にほえろ! 1973・第40話「淋しがり屋の子猫ちゃん」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第40話「淋しがり屋の子猫ちゃん」(1973.4.20 脚本・長野洋、小川英 監督・竹林進)

 長さん主役のエピソードでコミカルな一編。ゲストは四方正美さん。「太陽〜」にもゲスト出演している安井昌二さんと、黒澤明監督『生きる』(1952年)などで知られる小田切みきさんの長女であり、僕らの世代では「チャコちゃん」の四方晴美さんのお姉さん。子役時代には、松竹映画「妻の勲章』(1959年・内川清一郎)で桑野みゆきさんの少女時代を演じた。東宝映画『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970年)や、山口百恵さんの『伊豆の踊り子』(1974年)にも出演。そしてのちに「特捜最前線」の叶刑事となる夏夕介さんが、その兄を演じている。

 ある日、路上で女の子の絶叫。「人殺し!」。出勤中の長さんは、彼女に言われるまま、右往左往する。女の子が指さした、彼女の家に「まだ人殺しがいるかも知れない」。長さんは家の中に入ると、部屋が荒らされている。「被害者どこだ?人殺しがいるんだろ?」「冗談じゃないわよ。私生きてるわよ」彼女は「殺されかけた」「後ろから首を締められたのよ」と訴える。

「おじさん誰?」「刑事だよ」。テレビに出てくる刑事は若くてカッコいいのに「おじさん刑事?」。女の子に振り回される長さん。松浦百合(四方正美)は両親がいなく、たったひとりの兄・松浦一也(夏夕介)が青山でスナック喫茶「メロディー」を開いているという。百合が兄に電話すると、スナックでは一也が縛られている。

「ダイヤが盗まれた」「FM超バンドの高級ラジオが盗まれた」と騒々しい百合に、振り回される長さん。甲高い声に、見ているこっちも正直イライラする。一方、やくざ風の吉井(中庸介)が子分(杉山俊夫・亀山靖博)を叱咤している。「肝心なものを持ってこないで、こんなもの掻っ払ってきやがって」(笑)。中庸介さんは「ドラえもん」ののび太のパパの声の人。杉山俊夫さんと亀山靖博さんは、日活バイプレイヤーで裕次郎さんの『やくざ先生』(1960年)では、札付きのワル生徒を演じていた。

 盗んできた百合のトランジスタラジオからは、ザ・モップスの「たどりついたらいつも雨降り」が流れている。男たちは松浦家に「あるもの」を盗みに行ったらしいが、百合に騒がれ、慌てて逃げてきた。一方、松浦家では百合と長さんが大喧嘩。「帰れポリ公!」。賑やかというか、うるさすぎ(笑)。同じ頃、殿下がスナック「メロディー」を訪ねるが、縛られている一也を発見することができずに戻ってくる。

 また百合から電話。長さんと殿下が駆けつけても空振り。そんなことが二度も続いたところで、百合の前に吉井が現れる。またもや絶叫。のび太のパパ、今回も悪いねぇ。吉井は「これぐらいの包みを知らないか?」兄・一也が隠しているはずだと問い詰める。また騒ぐ百合。「警察に知れたら困るのは兄貴の方だぞ」

 吉井によれば、一也のガールフレンドで「外人のヒッピー娘・ジュディ」が帰国してからくれた「素敵なプレゼント=マリファナ」があるはずだ。それを「寄越せ」と凄む吉井。その頃、久しぶりに雀荘にいる山さんに、馴染みの質屋から、手配中のラジオや、カメラ、ダイヤを売りに男たち来ていると電話。そこで吉井の子分(亀山靖博)が山さんに捕まる。

 松浦家では、吉井が家探しを続けている。そこへ長さんから百合に電話。今朝の泥棒が捕まったと長さん。それを聞いた吉井「くそ、あのウスノロ」(笑)百合は七曲署に盗品の確認に行くことになり、あっさり引き下がる吉井。え〜、それでいいの?(笑)吉井が出て行った後に一也が帰宅。手にはロープの跡。百合にジュディからのマリファナを見せる一也。

 百合の学費のために、一也は吉井にマリファナを売ろうとしたが、足元を見られたために文句を言ったら、この有様。百合の代わりに七曲署を訪ねる一也。手首のロープの後を怪しむボス。盗品をみて「ウチのものじゃありません」と一也。吉井たちとの接点を隠したいからと、嘘をついたのだ。

 一也の証言で、窃盗は成立しなくなり、釈放される吉井の子分(亀山靖博)。ボスは一也の手首の傷から「彼自身に後ろ暗いことがある」。一方、百合は一也の鞄に入っていたマリファナを、お気に入りの犬のぬいぐるみ「ポピー」の中にすり替えていた。百合を訪ねる長さん。さあ困った。喫茶店で吉井の子分(杉山俊夫・亀山靖博)たちを見張る殿下。BGMはアグネス・チャンの「ひなげしの花」。もちろん「歌のない歌謡曲」。

 子分たちの会話で、一也が再びマリファナの取引を「300万円」で持ちかけていることがわかる。困り果てた百合は、長さんに電話をかけるが、怒鳴られて切ってしまう。「ポピー」を抱えたまま悩む百合。「このことは絶対言うな」と一也、「隠し事をしちゃいけない」と長さん。その板挟みで苦しむ百合。

 国鉄・有楽町駅を降りて、取引現場に向かう一也。西銀座デパートの喫茶店が取引現場。しかし一也は、スクランブル交差点の向かいのソニービル階上の喫茶店から、吉井に電話して赤電話の前で待てと指示。この喫茶店、1995年に、広瀬健次郎先生にインタビューした店だ!懐かしい。

 一也は吉井に「松屋(デパート)地下食料品売り場」入り口に来いと指示する。銀座和光から三越の前を歩く吉井。三越にあるマクドナルドは日本の第一号店。あれ、吉井さんそこ三越だけど、地下に降りちゃうの? 次のカットでは松屋の地下入り口に(笑)地下鉄から直結しているこの入り口は今も健在。赤電話に一也からかかってくる。「今度は日劇の宝くじ売り場」に。

 えー、西銀座デパートからせっかく来たのに。吉井を振り回す一也。「一体どういうことなんだ!」。のび太のパパVS「突撃!ヒューマン」。「どこからかけているんだ!」一也がかけているのは地下鉄通路。吉井のすぐ近くから。その一也を尾行するゴリさん。仕方なく吉井は地下道から再び晴海通りを歩いて日劇方面へ。

 一也はそのまま銀座駅の地下を歩いて、なぜか東映会館の側の階段を上がるとニュートーキョービルのニュー東宝シネマ1、シネマ2の切符売り場の赤電話へ。ここはちょうど日劇の向かい。吉井は日劇の切符売り場へ。ああ、懐かしい。泰明小学校出身としては、今回のロケ地は全て通学路(寄り道も含む・笑)。

 「今度はすぐ上の高速道路の駐車場に来るんだ」。そうそう日劇の隣、朝日新聞脇の首都高1号線の脇は、駐車場だった。日活の『上を向いて歩こう』(1962年)で浜田光夫さんが車を盗もうとするのがここ。そのシーンで坂本九さんと浜田さんが芝居をした同じ場所で、吉井と一也が取引。「金は?」「散々歩き回らせやがって」とナイフを突きつける吉井。

 そこへゴリさんと殿下が駆けつける。「その鞄の中を改めさせてもらう」ところが中はボロ布だけ。吉井、ゴリさん、殿下、唖然とする。「僕は帰らせてもらいますよ」と立ち去る一也。結局、吉井はゴリさんに逮捕される。取調べでも否認する吉井。なぜマリファナがない? 頭を抱える刑事たち。ボスは「すり替えたんだ」。

 そこで長さん「ボス」「そうだ、あの娘だ」。ポピーちゃんを抱えて新宿をさまよう百合。困った。困った。「お兄ちゃん、おじさん、あたしどうすればいいの?」。そこへ職質の警官。ドキドキするね。長さんは責任を感じて、百合を探しに出る。家にもいないし「メロディー」にもいない。一方、一也も新宿ミラノ座あたりで百合を探す。「あんなやばいものを持って」。

 結局、百合は、女子大のテニス部の部室で寝ていた。一也が見つけ出す。「マリファナはどこへやったんだ?」。一晩中歩き疲れて、帰宅した長さん。家の玄関の前にポピーちゃんのぬいぐるみが。妻・野崎康江(西朱実)に包丁を借りて、マリファナを発見。長さんの娘・野崎良子(井岡文世)もクレジットされているが、完成作からは出演シーンはないのでカットされたのかも?

 ところが一也が野崎家へ。もみ合いに。逃げる一也。追う長さん。そこへ殿下、百合が・・・「百合、だめだったよ」一也は、百合の学費のためマリファナを現金に換えたかった。しゃがみ込む一也。百合の目の前で一也に手錠をかける長さん。「刑事さん、妹を頼みます。あいつは刑事さんのことを、本当の親父さんのように思ってます」。やはり長さん回らしく人情噺だね。

 後日、ゴリさんがボスを、百合が切り盛りしているスナック「メロディー」で誘うと、カウンターには長さんが(笑)みんなで、兄の出所を待つ百合を応援していた、ということで全巻の終わり。四方正美さんの騒々しさが、頭のなかでキンキンする(笑)人情コメディ篇。


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