『雁の寺』(1962年・川島雄三)
『女は二度生まれる』で大映作品を初めて手掛け、若尾文子の美しさをフィルムに引き出した川島雄三が、大映京都撮影所で演出した作品。原作は水上勉が第45回直木賞を獲得した「雁の寺」。脚色は船橋和郎。キャメラは『女は二度生まれる』の村井博。大映京都撮影所で数々の時代劇美術を手掛けた西岡善信が美術を担当している。
京都衣笠山麓にある狐峯庵。京都画壇の重鎮・岸本南獄(中村鴈治郎)が描いた「雁」の襖絵で知られ「雁の寺」と呼ばれていた。ある日、南獄が亡くなり、彼が世話していた妾・里子(若尾文子)が、寺を訪ねてくる。狐峯庵の住職・慈海(三島雅夫)は、里子に肉欲をおぼえ、愛人として寺に住まわせる。
夜ごと日ごとに繰り広げられる、二人の愛欲。それをじっと見つめているのは、修行僧・慈念(高見国一)。普段から慈海に厳しくしつけられ、ストレスをためている慈念は、中学の軍事教練を嫌い、学校を休みがち。その不幸な生い立ちに同情した里子は、自らの身体を惜しげもなく与える。若狭の貧しい寺大工の養子として育てられ、口減らしのために寺に預けられた慈念の本当の素性を知った里子の慈しみ。慈念の内に秘めた狂気とは?
モノクロームの画面に繰り広げられる。破戒僧と美しい里子の痴態。それをじっと見つめる慈念の冷ややかな目。タイトルバック、南獄が描いた「雁」の襖絵モンタージュが、まるで生きているかのような目の覚めるカラー映像が強烈な印象を残す。
慈念を演じた高見国一のするどい眼光。酒や肉欲に溺れる慈海を演じた三島雅夫は煩悩の極みともいうべき役柄を好演。その慈海の理不尽な仕打ちに、慈念が果たす復讐とは? 大映三部作や東宝作品で常連となる山茶花究がモダンな破戒僧・雪州をユーモラスに演じている。
流麗なキャメラワーク、日本家屋独特の暗さを光と影でとらえた照明の美学。そして何よりも若尾文子のエロティシズムの妖しさ! 彼女のフィルモグラフィーの中でも際立っている。川島と若尾のコンビは続く『しとやかな獣』でさらなる境地に達する。