「子供の四季 春夏の巻」「子供の四季 秋冬の巻」(1939年)
清水宏監督が坪田譲治の「善太と三平」の世界を再び描いた「子供の四季 春夏の巻」(1939年)は「風の中の子供」(1937年)と同じキャストの姉妹篇。しっかり者の兄・善太(葉山正雄)といたずら小僧の弟・三太(横山準aka爆弾小僧)が、病気のお父さん(河村黎吉)と優しいお母さん(吉川満子)とつらくとも、健気に日々を過ごしている。
お母さんは、同族企業を経営する由緒ある小野家の娘だったが、お祖父さん(坂本武)に結婚を反対されて駆け落ち。以来、実家とは絶縁していた。ところが、お祖父さんは二人の孫、善太と三平に会いたさに、祖父とは名乗らずに、山を越えて馬に乗ってやってきて、三平たちと遊ぶのが何よりも楽しみ。それはお祖母さん(岡村文子)も同じこと。
お祖父さんの馬に乗せてもらい、得意げな三平。「ぼくにはお祖父さんはいないけど…」と馬のお祖父さんとの交流を、綴方にも書く。やー、いいなぁ。お祖母さんもまけじとバスに乗って、鯉のぼりを土産にやってくる。三平とお祖母さんが座敷で鯉のぼりの中に入ってかくれんぼをする。これがイイんだなぁ。その姿をみて、そっと涙を流すお母さん。10年以上、実の母親に逢いたかったけど、夫に遠慮していたので、我慢をしていた。
この導入が素晴らしく、一年に渡る春夏秋冬の「善太と三平」の物語がじっくりと描かれる。昭和14年の地方の子どもたちの暮らしが、様々なエピソードで綴られるのだが、前作同様、大人たちの事情、あまりにも醜い争いが、子供のユートピアに暗い影となっていく。でも、三平はめげない。それがいい。三平は前作にも増して自由奔放。いたずら盛りで、何にも物おじしない。
その強さを支えるのが病床でのお父さんの言葉。
「これからの一生で、人より得をしようと思っちゃいけないよ。人が五銭で買うものは、十銭出しなさい。十銭で買うものは、一五銭出しなさい。これは勉強でも仕事でも、同じことだ。そして強く、正しく生きるんだよ」
河村黎吉のこのセリフが素晴らしい!
これが前編『子供の四季 春夏の巻』のラストとなる。後篇『秋冬の巻』は、お祖父さんへの、近親憎悪を抱いているお母さんの従姉妹の婿・老獪(西村青児)の奸計で、亡くなったお父さんとお母さんが駆け落ちをする時に、従兄弟・俊一(日守新一)が用立てた3千円が、莫大な会社の借金に膨れ上がって…
お祖父さんも大ピンチとなる。その老獪の息子・金太郎(古谷輝夫)は三平とは犬猿の仲。スネ夫みたいなキャラなのだけど、大人の事情など知らないで、次第に孤立していく金太郎に優しい手を差し伸べる。お父さんの言葉がここで生きてくる。リアルな大人の世界と、真っ直ぐな子供の世界。さすが清水宏!
お祖父さんの家屋敷も差し押さえを受けて、三平たちのブランコもあん馬にも「差押へ」の紙が貼られて遊べなくなる。金太郎は父・老獪に、それを剥がしてくれ!と懇願するも、老獪は「うるさい」と一蹴。この辺りで観客の怒りのボルテージが上がってくるのだけど、どのシーンもイイ。
清水宏の「風の中の子供」(1937年)と、この「子供の四季 春夏篇」「同 秋冬篇」(1939年)は戦前の子供達をめぐる状況を、感覚として掴むことができるし、何よりも三平を演じた爆弾小僧・横山準くんが素晴らしいのですよ。金太郎=古谷輝夫との反目がやがて、友情に変わっていくプロセスが見事!