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「愛と死の谷間」1954年9月21日・日活・五所平之助

 津島恵子目当てに、1954年日活、五所平之助「愛と死の谷間」を27インチディスプレイで鑑賞。舞台は横浜の貧しい人々が住む地域の病院。貨物線操車場の跨線橋を渡っていく高台にあるが、ロケーションは、荒川区南千住と新鶴見駅操車場。当時の国鉄の操車場が活写されているのが嬉しい。脚本は「煙突の見える場所」の椎名麟三で、シチュエーションコメディになりそうな設定を、重たい人間ドラマに仕立ている。

ヒロインの津島恵子も、同僚医師の伊藤雄之助も、復員兵で身も心も傷ついた木村功も、あらたな戦争の影に怯えてる。「ゴジラ」第一作同様、敗戦後9年の庶民に通底した感覚、というか作り手のインテリジェンスでもある。

好色で身勝手な病院経営者・宇野重吉の俗物ぶり。見た目は水木しげる先生の「フハッ」みたい。生活のために探偵稼業に身をやつしている芥川比呂志が、この映画の「視点」であり「軸」。

宇野重吉の内縁の妻で、病院に財産を提供している高杉早苗が、津島恵子が宇野重吉をたぶらかして、病院乗っ取りを企てていると妄想。その素行調査に探偵を雇う。

宇野重吉を心底愛して身も心も捧げているのが看護師・乙羽信子。婦長・北林谷栄の老獪さが、映画のアクセントになっている。

芥川比呂志を、警察か公安の監視役と思い込んだ津島恵子がノイローゼになったり、それを助けるのが(探偵とは身分を明かさないままの)芥川比呂志で、二人がアサヒビールのビヤホールに行くシーンがイキイキしていてイイ。

惜しむらくは、五所平之助の持ち味ではなく、この時代の木下恵介や市川崑向けの題材なので、観ていて、いささか居心地が良くない。

とはいえ、木村功の妹・安西郷子がひたすら可愛いし、後半の横浜の水上バスのロケーションが楽しいので、映画時層探検者には嬉しい一本。

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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