娯楽映画研究所ダイアリー 2021年11月1日(月)〜11月7日(日)
【佐藤利明の娯楽映画研究所】「戦時下のエンターテイメント」〜娯楽が失われる時〜
月曜更新!今週は「娯楽が失われる時」と題して、戦前から戦時下のエンタメの変わり様を、昭和18年の『ハナ子さん』(マキノ正博)を中心に語ります。
11月1日(月)『復活の日』(1980年・角川・深作欣二)
原稿を書くこともあり、二十数年ぶりに『復活の日』(1980年・角川・深作欣二)156分をプロジェクター投影。繊細なドラマではなく「わーわーしている」映画なのだけど、深作監督の腕力で楽しめてしまう。その「わーわー」のお手本が、渡瀬恒彦さんと夏八木勲さん(当時は夏木)。ハリウッド・スターで一番「わーわー」が板についていたのがボー・スヴェンソンさん。
ウィルスに冒されていく多岐川裕美さんのメイクもすごいなぁ・・・ あのモーターボートのシーンに、当時は呆然としたことを懐かしく想い出す。
和製洋画としても味わい深い。グレン・フォードさん、ロバート・ヴォーンさん、ヘンリー・シルヴァさんのホワイトハウス芝居。チャック・コナーズさん、ボー・スヴェンソンさんの潜水艦芝居。ジョージ・ケネディさんの南極連邦リーダー芝居。どれもコッテリしていて、ハリウッドでは観られない、東映バイプレイヤー的な扱い。
コロナ禍を経てのMM 88禍は、かなりリアルな恐怖。次々と登場人物がサヨナラしていくなか、オリヴィア・ハッセーさんに逢うために、ワシントンから南米まで「悪魔くん」のファウスト博士の様に歩く草刈正雄さん。思わず「がんばれ!若大将」と叫びたくなる。ひとりぼっちの南米縦断の途中、マチュピチュ遺跡で観光したり、チリの浜辺で本場、チリ産サーモンを捕まえたり・・・いろんな意味で懐かしく、面白かった。公開時、日比谷の有楽座の大スクリーンで観たことなどを思い出しつつ。
11月2日(火)「テレビで会えない芸人」・『黒い家』(1999年・角川・森田芳光)・『シンドバッド七回目の航海』(1958年・コロムビア・ネイサン・ジュラン)
「テレビで会えない芸人」をテレビで観られなかったので、映画版の試写会場へ。「テレビで会えない松元ヒロさん」と久しぶりにお目にかかっています!松元ヒロさんの2019年から2020年を追ったドキュメンタリー「テレビで会えない芸人」試写を拝見。ヒロさんの素顔、冴え渡る「忖度なし」の政権ネタ。キレッキレの舞台を産み出すヒロさんの日常。心優しき異端児を支える奥様、故郷鹿児島への想い。「憲法くん」に拍手!最高のスタンダップコメデイアン!
今、TBSラジオ「セッション」で、『モーリタニアン 黒塗りの記録』の主人公のモデル、モハメドゥさんのインタビューが放送されています。映画で描かれた、あの壮絶な拷問は、かなり現実に忠実な再現だったことがわかります。アメリカの手口の汚さに改めて憤りをおぼえます。荻上チキさんによる、『モーリタニアン 黒塗りの記録』の主人公のモデル、モハメドゥさんへのインタビュー。モハメドゥさんの「赦しの言葉」に、すごい人だなぁと。この人の言葉には真実があり、真理がある。「戦犯の責任はアメリカも問われるべきだ」。そうだよ、そうなんだよ!グアンタナモ収容所が、まだ存在するという事実。ブッシュやラムズフェルドの明らかな失策なのに、愛国心の名の下に廃止を反対する共和党(一部民主党)の人々がいるということ。モハメドゥさんへのインタビュー。良い企画でした。
原稿を書くので、久しぶりに森田芳光監督『黒い家』(1999年・角川)をスクリーン投影。前半の西村雅彦さんの怪しさもさることながら、中盤以降の大竹しのぶさんの怪演、いやモンスター化していくあたり、原作も何もかも吹き飛んでしまうほどすごい。特殊メイクや着ぐるみ要らずの怪獣化。内野聖陽さんが恋人・田中美里さんを助け出そうとする「黒い家」でのクライマックスはサイコパス・ホラーなのだけど、ダメ押しの生命保険会社の階段でのバトルでは、ほとんど『サンダ対ガイラ』の相を呈する。怖いを通り越して、えー、あー、んな、おいおいの連続で、最後の最後のボーリングの球で、観客もトドメを刺されてしまう。なんともハヤの面白さ。昼間、ゴールデンラジオに大竹しのぶさんが出ていただけに、感慨無量の鑑賞となりにけり。
続いてはアマプラで、レイ・ハリーハウゼンの傑作中の大傑作『シンドバッド七回目の航海』(1958年・コロムビア・ネイサン・ジュラン)。最初から最後まで見せ場、見せ場、見せ場の連続。クリーチャーも多数登場。サイクロプス、ヘビ女、小美人になったお姫様(キャサリン・クロスビー)はビング・クロスビーの奥さん、双頭のロック鳥の雛、そして怖い怖い親鳥、火を吐くドラゴンの造形の素晴らしさ! 本当に『原子怪獣現わる』のリドサウルスを改造したものなの? もちろん骸骨戦士も登場! で、クライマックス、小さな魔神・ジニーの可愛い大活躍! サイクロプスVSドラゴンは「ウルトラマン」的なバトルで、眼福、また眼福! 子供の頃、テレビで観て、ダイナメーションに夢中になりました。ハリーハウゼンのシンドバッド三部作は、大映妖怪三部作に匹敵する、繰り返し観たい特撮映画でした!
11月3日(水)『忍びの者 伊賀屋敷』(1965年5月12日・大映京都・森一生)・『悪名無敵』(1965年10月25日・大映京都・田中徳三)
ゴジラフェスティバルのYouTube LIVEで「ゴジラVSヘドラ」の肉弾戦を観ている。久々のアナログ特撮による怪獣バトルなかなかカッコよかった!
今宵の娯楽映画研究所シアターは、カツライスにして八千草薫さん二本立て。まずは市川雷蔵さんのシリーズ第6作『忍びの者 伊賀屋敷』(1965年5月12日・森一生)。今回は、前作の家康暗殺から21年後、島原の乱から始まる。真田幸村の配下だった霧隠才蔵(市川雷蔵)は、息子・才助と幸村の遺児・百合姫を残して、松平伊豆守(山形勲)を倒しに行くが、返り討ちにあって絶命。
それから8年後の慶安年間、才助は二代目・霧隠才蔵(雷蔵二役)として、徳川に恨みを持つ浪人たちを陰ながら支えていた。由井正雪(鈴木瑞穂)、丸橋忠弥(今井健二)たちが、徳川幕府転覆を謀る計画を立てており、才蔵はそのサポートをする。
一方、百合姫(八千草薫)は幼くして、才助と別れた後、伊豆守に引き取られ、甲賀忍者・お蘭として育てられていた。才助=才蔵は百合姫に心を寄せていて、百合姫=お蘭もまたそうだったが、今は敵味方、お互いの情勢を探り合っていた。
今回は、八千草薫さんをゲストに迎えて、雷蔵との淡いロマンスを描きつつ、クライマックスは由井正雪の乱となる。山形勲さんが、老獪な松平伊豆守を演じ、徳川に叛旗を翻す紀州の徳川頼宣に北龍二さん。いつものように巨大な政治と、虫けらのような忍者の生命の対比のなか、ドラマが展開してくが、今回の才蔵はかなり八千草薫さんに惚れていて、これまでのクールさはない。むしろ股旅ものの「惚れていながら、惚れない素振り」のキャラで、ちょっとテイストが違う。
しかし、くの一・お蘭の八千草薫さんは魅力的。昼間は百合姫、夜は女忍者。ご本人に話を伺ったら「とても楽しくて、面白かった」と仰っていた。
もう一本は、勝新太郎さんと田宮二郎さんのシリーズ第11作『悪名無敵』(1965年10月27日・田中徳三)。こちらの八千草薫さんは、千波丈太郎さんのヒモ・常公の女房でありながら、売春を強要されている朱美。なんだかんだと亭主との腐れ縁を受け入れているが、朝吉(勝新)と清次(田宮)が北陸から家出してきた女の子が、常公に騙されて店に出ているのを助けたついでに、朱美と常公も北陸へ。朝吉は2人に堅気としてやり直させようとする。
脚本は依田義賢さん、キャメラは宮川一夫さん、そしてシリーズの生みの親・田中徳三監督なので、安心して観ていられる。八千草薫さんが場末の女だけどチャーミングな朱美を好演。清次は北陸へ逃げ損なって組の連中にボコボコにされた挙句、例によってその組みでポン引きすることに。ここでも「清次の裏切り」というお約束が守られている。
そして片山津の温泉で、朝吉と一夜を共にした百合子(藤村志保)が、実は常公たちの女親分で・・・という展開の面白さ。八千草薫さん、藤村志保さん。のちに寅さんのマドンナを演じる2人が出ているので、なんとも贅沢な気分。
八千草薫さんの二つの貌と、大映京都のプログラムピクチャーの楽しさを存分に味わえる二本立てとなりにけり。
11月4日(木)『細雪』(1959年・大映京都・島耕二)『悪名桜』(1966年3月12日・大映京都・田中徳三)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、谷崎潤一郎原作の二度目の映画化、島耕二監督『細雪』(1959年・大映京都)。鶴子(轟夕起子)、幸子(京マチ子)、雪子(山本富士子)、妙子(叶順子)の四姉妹の華やさ。そして芦屋界隈のおっとりした空気。昭和34年の大阪の風景に包まれながらの映画体験。なんといっても”こいさん”を演じた叶順子さんが素晴らしい! 叶順子さんのフィルムキャリアで最高の瞬間だと思う。求めても得られない愛。望んでも手にすることが出来ない幸せ。美人で、ある意味パーフェクトの雪子が抱える屈託。迷いながらも、自分の心の声に耳を傾けて、次々と起きる問題(これがなかなか厄介)と向き合う。
色々あってのラスト、バーテン・北原義郎さんと結ばれる叶順子さんに、山本富士子さんがかける言葉。美しく、正しく、そして頼もしい。島耕二監督としてもベスト作の一つ。八住利雄さんの脚色も巧みで素晴らしい。惜しむらくは、川崎敬三さんがもう少し・・・だといいのになぁ。雪子の見合い相手の船越英二さん、そして北原謙二さん、それぞれ出番は少ないが、いいなぁ。そして大映特撮的には中盤の台風による武庫川の氾濫シーン。築地米三郎さんによるミニチュア特撮が見事!いや、素晴らしかった!
続きましては、シリーズ第12作『悪名桜』(1966年3月12日・大映京都・田中徳三)。今回、朝吉(勝新太郎)と清次(田宮二郎)は、一念発起、堅気の焼き鳥屋を開業。その店のある飲食街を、レジャーセンターにしようとする新興ヤクザ・藤岡琢也さんと地主の質屋・多々良純さんが結託。
さらには地元のやくざ・須賀不二男さんが入り乱れての抗争に。事態をややこしくするのが、地主の息子・酒井修さん。新興ヤクザに憧れて、朝吉の命を狙う。しかし朝吉は、自分の親不孝を想い、そのバカ息子のために人肌脱ぐが・・・
依田義賢さんのシナリオは、なかなか手が混んでいて、展開が面白い。今回のヒロインは、朝吉の幼馴染みで、押しかけ女房のように八尾からやってくる市原悦子さん。勝新太郎さんとの息もピッタリで、2人が河内音頭を歌うシーンがなかなかいい。
このあたりの田宮二郎さん。メキメキ成長して、とにかく清次のキャラが、物語を牽引して、見ていて気持ちがいい。
完全に「やくざ映画」の展開、しかも仁義などくそくらえの抗争なのだが、朝吉と清次はあくまでも「やくざな男」であって「やくざ」ではない。というシリーズの基本を守っている。発砲し、ドスを振り回すのはあくまでもヤクザたち。「悪名コンビ」は例によって素手で、強面たちを次々と倒していく。その爽快さ!
11月5日(金)『エターナルズ』(2021年・MCU・クロエ・ジャオ)・『ゴジラ』(1954年・東宝・本多猪四郎)4K修復版
昨夜のさくらFM 「cafe@さくら通り木曜日」18時台で「世紀の楽団 唄ふ映画スタア 岸井明」をパーソナリティ #安来茉美 さんが、ぼくのライナーを丁寧に読み込んでくださってのミニ特集。音源を聴きましたが、理想的なアルバム紹介で、大感激!ありがとうございました
さあ、これから木場のIMAXで「エターナルズ」2時間37分を体感します。クロエ・ジャオ監督のMCUは一体どうなるのか? 楽しみです。しかし、ここのところの新作は、150分超えの映画ばかりだよなぁ。
「エターナルズ」最高!でした。よく157分に収めた!7000年に渡る闘いの物語。美しいヴィジュアル、わかりやすい展開、キャラクターの描き分け、対立と融和。ユーモアとセンチメンタル!クロエ・ジャオ監督、いいぞ! 早く続きが観たい! スキーター・ディヴィスの歌声と共に、大満足!
MCU「エターナルズ」は娯楽映画としてもヒーロー映画としても、アクション映画としてもバランスが良く、心地良い映画体験でした。さまざまな対比が、散りばめられていて、しかも駆け足の詰め込みでもない。7000年と7日間のスケールの大きさと、ささやかな幸せ。ぼくは大好き!で、ラスト後のイースターエッグには、あのキャラが登場。さらにエンドロール後には! 楽しみがマシマシですよ!
MCU「エターナルズ」クロエ・ジャオ監督は、ヒロインのセルシ(ジェンマ・チャン)の心の動きを丁寧に描い、其々のキャラの性格、抱えている屈託を、短いショットで伝えてくれる。ぼくが考える「優れた映画」なのです。繊細だけどダイナミック、沢山のキャラクターが織りなすドラマの面白さ。スペクタクルとしても、家族の映画としても、MCUとしても、楽しめる。また、観に行こう!
「エターナルズ」の世界ではDCコミックがちゃんと存在していたのが良かった。アイアンマンもキャップも現実で、スーパマンやバットマンをエンタメとして楽しんでいる。懐が深いなぁ^_^
クロエ・ジャオ監督『エターナルズ』で原爆投下直後の広島が出てくる。焼け跡で「人類の進歩のために知恵と技術を授けてきたこと」を嘆き悲しむファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)。ハリウッド映画が原爆を人類最大の過ちとして描いていることに感動した。これは画期的なことだと思う。大義の名の下にジェノサイドを正当化してはならない。強烈なメッセージである。
さあ! 今夜です!
ぐらもくらぶが、総力を結集してお届けする夢見心地のスペシャルライブ!我らが山田参助さんとG.C.R.管弦楽団が、戦前の新曲を歌い、演奏する桃源郷!11月5日(金)赤坂B♭で18時open 18時30分start!
週末の宵を、ご一緒に!
本日の赤坂B♭のライブ!山田参助とG.C.R.管弦楽団楽団の完成度に驚嘆し、もっともっと聴いていたかった。次はホールでのコンサートを! 戦前音楽を知らない世代にも、この楽しさは伝わっていくと思います。サウンドのクオリティの高さ、オリジナルの再現力に、驚天動地でありました。
『ゴジラ』(1954年・東宝・本多猪四郎)4K修復版
今年の初めに、日本映画専門チャンネルで放映された『ゴジラ』(1954年・東宝・本多猪四郎)4K修復版、2Kダウンコンバード版を娯楽映画研究所シアター・スクリーン投影。それこそ何十回も観てきた、怪獣映画の原点にして最高峰。オープニングからゴジラ出現までのドラマ運びの巧みさ。何を隠して何を見せるか?9年前の東京大空襲を体験してきた人々が感じるゴジラ来襲への恐怖。そして生物学者としての山根恭平博士(志村喬)の「災厄よりも研究が優先」というエゴが垣間見える瞬間。大戸島でのゴジラ出現の時、誰もが後退りするのに、山根博士だけが身を乗り出す。
こうした本多猪四郎監督の演出が、キャラクターを際立たせ、ゴジラ襲来へ向けてドラマを高めていく。品川から上陸したゴジラが、高輪ゲートウェイ=大木戸で、成立したばかりの自衛隊の戦車隊を突破して、かつての江戸=東京へと入っていく。そこから銀座尾張町→炎上する銀座松坂屋→銀座4丁目・服部時計店→数寄屋橋→有楽町日劇→永田町・国会議事堂→浅草・松屋浅草→隅田川→勝鬨橋を蹂躙していく。このゴジラ来襲は、やはり「東京大空襲」の悪夢の再現でもある。円谷英二監督としては、前年、昭和28(1953)年9月公開の松竹映画『君の名は』(1953年・松竹・大庭秀雄)での「東京大空襲」の映像構成を踏まえた演出である。路地を逃げ惑う人々のカットのタイミングなど、『君の名は』と『ゴジラ』を見比べると興味深い。
この日、MCU『エターナルズ』で、7000年間に渡って人類の技術進歩に手を貸してきたファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)が、1945年8月6日の米軍による広島原爆の惨状について、広島の焼け跡で、人類最大の過ちに加担したことについて嘆き悲しむシーンがあった。光量たる広島の焼け跡は、『ゴジラ』でのゴジラ来襲の惨状のシーンと僕の中ではダブる。『エターナルズ』を観ながら、それを連想したので『ゴジラ』を久しぶりに観た次第。
11月6日(土)「ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野」・『地下街の弾痕』(1949年5月2日・大映京都・森一生)
角川文化振興財団「武蔵野樹林」VOL.8「おいしい武蔵野」特集号。特集とは別枠ですが「大魔神と怪獣ブーム」と題して佐藤利明が寄稿しています。他のページでは養老孟司先生も登場。読み応えのある号です。
Netflix「ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野」。いやぁ、良かった!腰の据わったブラック・ウェスタンで、腰が抜けるほど面白かった! ツボを押さえた展開。悪党を悪党が退治する完全超悪かと思いきや、あの手この手のガンアクションに、ヒロインVS敵の凄腕女のバトル、でもって… ラスト10分の展開に、あ!え!おっ!とビックリ仰天!こういう西部劇が観たかったのよ、の圧倒的な面白さ!
大映版『細雪』(1957年・島耕二)Blu-rayに同梱されていた、戦後まもなく作られた犯罪映画『地下街の弾痕』(1949年5月2日・大映京都・森一生)をスクリーン投影。この年、OSK財団中に大映映画『最後に笑う男』(2月28日)に出演、銀幕へ進出した京マチ子さんが、犯罪的美女=ファムファタール役を担っている。大阪府警全面協力により、捜査一課の敏腕刑事たちが、梅田地下街での拳銃による殺人事件から、大規模密輸団の麻薬密輸計画を事前に粉砕するというもの。のちの東映「警視庁物語」シリーズのルーツ的作品。大映では、北原義郎さん主演『刑事部屋』(1956年・森一生)が作られるが、この時同様、大阪府警、神戸県警、京都府警全面協力によるリアルなタッチの作品。
捜査一課係長に志村喬さん、新任刑事に二本柳寛さん、その同僚に伊達三郎さん。大阪駅梅田地下街で深夜に拳銃で殺された男の身元を探っていく前半。道頓堀、心斎橋、高島屋デパート、大阪駅界隈など、昭和24年の大阪の空気がドキュメンタリー・タッチで活写されているのが嬉しい。神戸でのロケーションでは、大空襲の爪痕が残る廃ビルでの捜査など、随所に焼け跡が登場する。脚本は柳川真一さん、緻密というほどではないが、当時としてはなかなかリアルな映画だったろう。京マチ子さんは、二本柳寛さんのかつての恋人だったが、経済力のある男と結婚。しかしその男が、事件の被害者だった・・・という展開。生活のため、自立のため京マチ子さんはキャバレーの踊り子をしている。ここでセクシーな京マチ子さんの踊りが楽しめるという趣向。われらが伊達三郎さんが主要キャストの1人で、大活躍!
『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年・東宝・本多猪四郎)英語版を見始めたら止まらない。あれよあれよとクライマックス。科学者過ぎて、ダークサイドに堕ちた高島忠夫さん!霧の中からバラゴン!頑張れニック・アダムス!水野久美さん絶体絶命!その時フランケンシュタインが!ここからのバトルが素晴らし過ぎ!
11月7日(日)『アーミー・オブ・シーブス』(2021年・Netflix・ Matthias Schweighöfer)・『悪名一代』(1967年6月17日・大映京都・安田公義)
『宇宙大怪獣ギララ』(1967年・松竹・二本松嘉端)英語版を見ているけど、原田糸子さん好きだったなぁ。宇宙服を着ても可愛い。セットもキャストもすごいけど、お話が松竹クオリティというか、でも、改めて観ると色々と楽しいなぁ。
Netflix 『アーミー・オブ・シーブス』(2021年・Netflix・ Matthias Schweighöfer)。ザック・スナイダーの「アーミー・オブ・ザ・ゴッド」の前日譚。金庫破りの名人・セバスチャン(マティアス・シュヴァイクホファー)がラスベガスの「神々の黄昏」を破る前に、天才金庫職人ワーグナーが残した三つの金庫パリの信用金庫にあるラインゴルト、プラハの銀行のワルキューレ、サンモリッツのカジノにあるジークフリートに挑む「泥棒映画」。ああ、面白かった。世界では、例のゾンビ騒動で大騒ぎ。そのどさくさで、世紀の大仕事をしてのけようとする犯罪者集団。ユーモアとサスペンス。かつてのヨーロッパ製犯罪コメディの味わいもあり、ヒロインのグウェンを演じた ナタリー・エマニュエルが実に魅力的! つまり「黄金の7人」のロッサナ・ポテスタのように、美しき女泥棒がリーダー!
今宵のカツライス劇場は、シリーズ第13作『悪名一代』(1967年6月17日・大映京都・安田公義)。山陰を舞台に、浜田ゆう子さんの資産家のおばあちゃんがアメリカから帰ってくるので、その三億の財産を狙って、上田吉二郎さん、長門勇さん、小池朝雄さんのワルたちが暗躍。
今まで「やくざな男」がやくざたちを相手に素手で喧嘩するのが信条だったこのシリーズ。トップシーンで、清次がドスで喧嘩相手を刺して逃亡。流れ着いたのが、かつて朝吉と色々あったシルクハットの親分の倅、二代目シルクハット(長門勇)で、清次はその妹・坪内ミキ子さんと夫婦になっている。
やくざの世界で抜き差しならなくなって、清次の女房が殺され、清次は朝吉にドスを握らせまいとするが、小池朝雄さんたちに滅多刺しに…でついに、朝吉はシリーズで初めてドスを握り、一線を超えてしまう。ここで「悪名」シリーズは、ホントの任侠映画になってしまう。依田義賢さんの脚本が見事なので、よく出来た作品になっているのだが、時代の趨勢とはいえ、禁じ手を破ってしまったことへの違和感は残る。
ラスト、朝吉が清次が担ぎ込まれた病院から、警察に向かうところで終わるのは、任侠映画としてはフツーなのだけど、笑いもなく、清次の死を匂わせているだけに、釈然としない。
いや、これまでのコメディとしての「悪名」シリーズを観てきただけに、である。スッキリしないというか…
でも、次回作「悪名十八番」へと続くわけなのだけど、それも田宮二郎さんのラスト作となるのが、わかっているだけに…である。