娯楽映画研究所シアター2021年10月11日(月)〜10月17日(日)
【佐藤利明の娯楽映画研究所】
2021年10月11日
世紀の楽団 唄ふ映画スタア 岸井明
2021年10月20日発売 CD2枚組アルバム
「世紀の楽団 唄う映画スタア 岸井 明/岸井 明」
品番: VICL- 65588~9
価格: 定価:\3,520(税抜価格\3,200)
形態: CD2枚組、解説・歌詞ブックレット封入
10月11日(月) 『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年・英・キャリー・フクナガ)・『珍説忠臣蔵』(1953年1月3日・新東宝)
池袋グランドシネマサンシャインでIMAXレーザーGT『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年・英・キャリー・フクナガ)を再見。先週はTOHOシネマズ日本橋の最大スクリーンだったが、IMAXで撮影された冒頭のアクションはじめ、重要なシーンの数々がフル画角で圧倒的に迫ってくる。
ここのところ、ダニエル・クレイグのボンド映画を順番に観直してきただけに、『カジノ・ロワイヤル』での殺しのライセンスを得るシーンから、本作の衝撃のラストまで、一本の背骨が通っているような気がする。
ダニエル・ボンドの生い立ちや、ヴェスパー・リンドの死、義兄との確執、先代M(ジュディ・ディンチ)との精神的な母子関係、そして、M=ギャレス・マロリー(レイフ・ファインズ)、イヴ・マネーペニー(ナオミ・ハリス)、Q(ベン・ウィショー)、幕僚主任・ビル・タナー(ロリー・キニア)とのボンドファミリーのチームワークなどなど・・・。
ちゃんと大河ドラマとしてストン、ストンと落ちていく。家族を喪失してスパイとなったボンドが、仕事での家族、プライベートでの家族を作り、喪失していく物語は、『女王陛下の007』のテーマを踏襲しているわけで、だからこそ、今回の冒頭でボンドがマドレーヌに言う"We Have All the Time in the World" が効いてくる。そのセリフからジョン・バリーのメロディが流れるのは、やっぱりたまらない。
衝撃のラストも、ボンドのマドレーヌに言う"We Have All the Time in the World" に心が震える。それゆえに、マドレーヌがマチルドに、昔話のように「あの人」の話をしたところで、このイントロが流れて、ルイ・アームストロングの「愛はすべてを越えて」になる。理想的なエンディングではないか! と今回も感涙。
今宵は『珍説忠臣蔵』→「日本沈没 希望のひと」第一話→「大忠臣蔵」第27話「秘めたる慕情」コースでした。
『珍説忠臣蔵』は伴淳さんの吉良上野介、ロッパさんの内蔵助、キドシンさんの岡野金右衛門、シミキンさんの清水一角。オリジナルキャラというかツイストキャラの鴨坂坂内の横山エンタツさんがおかしく、やたらと「男でござる」を連発する天野屋阿茶兵衛にはもちろんアチャコさん!
「大忠臣蔵」は、神崎与五郎(中丸忠雄さん)主演の京都”スパイ合戦”純愛篇(お相手は小林千登勢さん)で、なかなか結構でした。
今宵のCCU=忠臣蔵・シネマティック・ユニバースでは、喜劇の神様・斎藤寅次郎監督『珍説忠臣蔵』(1953年1月3日・新東宝)をスクリーン投影。昭和28年の正月映画として、オールスター喜劇人で作られた「アチャラカ忠臣蔵」。
Netflixで「日本沈没 希望のひと」田所博士役は、坂本頼光さんがやっているかと思ったら、香川照之さんが坂本頼光さんみたいな役をやっていた^_^ わだつみ号が出てきたので、次回も観ますよ。小野寺くんも、唄子啓助さんも出てこないけど^_^
10月12日(火) 『犬神家の一族』(1976年・角川春樹事務所・市川崑)・『007/オクトパシー』(1983年・英・ジョン・グレン)
五反田イマジカ第一試写室で『犬神家の一族』(1976年・角川春樹事務所・市川崑)デジタル4K修復版、初号試写。146分の至福の時間。市川崑監督の的確な計算によるワンカット、ワンカットが、映画の情緒を産み出す。高峰三枝子さん、草笛光子さんたち日本映画女優の底力を堪能。撮影所時代終焉後に産まれた「新しい映画」を古典として堪能。
大野雄二さんの音楽は、今でも新しかった!1976年10月16日に13歳で観た作品を、2021年10月12日に58歳で観る奇跡の体験。
今宵は、昨年、連続視聴をお休みしていたロジャー・ムーア=ボンド映画、『007/オクトパシー』(1983年・英・ジョン・グレン)を久々に。
アクションに次ぐアクション。敵も、ソ連の軍人、カマル・カーン(ルイ・ジュールダン)、オクトパシー(モード・アダムス)と、三つ巴。
舞台もキューバ→ロンドン→ベルリン→インド・デリー→東ベルリン→西ベルリン→インドと、目まぐるしく展開。なのに、緊迫感はさほどない。快適な列車に乗っているみたいに、お話が進んで行く。
これもひとえに、ロジャー・ムーアの”旦那芸”なればこそ。わが、市川右太衛門先生の「旗本退屈男」や、片岡千恵蔵御大の「多羅尾伴内」と同じ、オジさんヒーローの味。
ジョン・バリーの音楽も安定の魅力だし、リタ・クーリッジの主題歌「オール・タイム・ハイ」は屈指の名曲。
お話もよく出来ているし、面白い。けど血湧き肉躍るわけでもない。それが、ロジャー・ボンドの魅力でもある。
今宵の「大忠臣蔵」は第28話「死を賭けた探索」。堀部安兵衛(渡哲也)に、看板を描いて欲しいと頼んできたのは、歯医者で歯磨き粉で大当たりをした、本郷の兼康祐元(曾我廼家明蝶)。
「本郷も、かねやすまでは、江戸のうち」
で知られる老舗の元禄期の主人で、実際に堀部安兵衛と交流があった歯医者。劇中、安兵衛が描いた看板は、今も残されている(二枚目の写真)。
その二人の交情を、悲劇的に描いたフィクションの構成が見事。前回に引き続き、赤穂の横目(隠密)の神崎与五郎(中丸忠雄)大活躍の感動篇。
ああ、面白き哉、大忠臣蔵!
10月13日(水)『ONODA 一万夜を越えて』(2020年・仏)・『陸軍中野学校』(1966年・増村保造)・『悪名』(1961年・田中徳三)
これからTOHOシネマズ日本橋で『ONODA 一万夜を越えて』175分の長尺。心して観ます。
『ONODA 一万夜を越えて』は、いやぁ、圧倒的な175分の映画体験。坦々と、1944年から1974年にかけての三十年間を描いていく。戦争がもたらした悲劇。言葉を失い、なんたること!の連続の果てのラスト。津田寛治さん、イッセー尾形さんの演技に、心揺さぶられる。すごい映画です。
こ今宵の娯楽映画研究所シアターは、市川雷蔵さん『陸軍中野学校』(1966年・増村保造)と、勝新太郎さん『悪名』(1961年・田中徳三)のカツライス二本立。大映東京と京都撮影所のテイストを味わう。前者の加東大介さん、後者の浪花千栄子さん、抜群です!
10月14日(木) 『忍びの者』(1962年・大映京都・山本薩夫)・『続・悪名』(1961年・田中徳三)
中川右介さんの大著「市川雷蔵と勝新太郎」(KADOKAWA)。書評依頼もあり再読中。最初の100ページ、歌舞伎役者が映画界に進出していく時代、そのプロセスを時系列で描いていて、昭和20年代にタイムスリップ。映画の時代になると、どうしても作品が観たくなる。一気通読というより、寄り道が楽しい。
今宵のカツライス二本立て。市川雷蔵さんの『忍びの者』(1962年・山本薩夫)。忍者・石川五右衛門(雷蔵)が師匠・百地三太夫(伊藤雄之助)に、ハニートラップに嵌められ、信長(城健三朗)暗殺を命ぜられる。組織に翻弄される忍者の哀しみ。
あの手この手の忍法がカッコよく、堺の遊女・藤村志保さんとのロマンスもいい。伊藤雄之助さんの百道三太夫が、扮装してもう一つの忍者組織を束ねているのだけど、その掛け持ちが忙しく、多角経営者みたいでおかしい。
赤旗連載の村山知義原作を、山本薩夫監督に撮らせる永田雅一社長。面白い娯楽映画には、右も左もない。なりふり構わないのがスゴい!
もう一本は、勝新太郎さんの『続・悪名』(1961年・田中徳三)。完全な続篇、というか後篇として作られている。キャストもほぼ同じ。
八尾の朝吉(勝新)が男を上げて、前作の敵のシマを任されるも、元締め・中村鴈治郎さんの老獪さに、ほとほとヤクザが嫌になる。ヤクザ礼賛ではなく否定する作り方がいい。
召集令状が来た朝吉が、子分・モートルの貞(田宮二郎)にヤクザを辞めて畳の上で死んで欲しいと、本音を話す。しかし貞は、戦争に行くひとが何をいいますのか、と。戦争も縄張り争いじゃないかと。
しかし朝吉は、国が縄張り争いをして殺し合いをしてるから、ヤクザも許されるという道理はない、と説き伏せる。目に涙を溜める朝吉、貞の目も真っ赤。このシーン、何度観ても泣ける。
モートルの貞が迎える悲しい結末。戦地で戦う朝吉が「わしら虫ケラみたいなもん」と戦友(彼もヤクザ)にボソッと言うラスト。やっぱり見事な映画❗️
今宵の「大忠臣蔵」第29話「浪花に散った恋」は、「蜆川心中」で知られる橋本平左衛門と曽根崎の遊女・お初のエピソードを、池田一朗さんが大胆脚色。大出俊さんが直情径行の若侍・橋下平左衛門、二木てるみさんが父親がお犬様に危害を加えて遠投になり家族のために身売りしたお初。橋下平左衛門の突っ走り方が極端なので、呆れて観ているうちに大変な結末に…
花沢徳衛さんが老隠密で、老獪ぶりを発揮。
10月15日(金) ブロードウェイシネマ「パリのアメリカ人」・『沓掛時次郎』(1961年・大映京都・池広一夫)・『新・悪名』(1962年6月3日・森一生)
今日は公開初日!
というわけで、これから東劇へ。大スクリーンで「パリのアメリカ人」を体感しに行ってきます!
ブロードウェイシネマ「パリのアメリカ人」@東劇
試写に続いて二度目のスクリーン鑑賞。当たり前だけど、オープニングからエンドロールまで、ジョージ&アイラのガーシュイン兄弟のナンバーが次々と溢れ出す。原作映画には出てこない曲も山ほどあって、それが嬉しくて、楽しくて、しょうがない^_^
訳ありのリズと、1日1時間だけセーヌ河畔でランデブーするときに、ジェリーはリズのことを「ライザ」と呼ぶことにする。そこで二人の逢瀬のテーマが「ライザ」になる。そういうベタな脚色、セレクトが堪らんのですよ。
MGMミュージカル映画を巧みに脚色して、ジェリー、アンリ、アダムの3人がリズを愛してしまうことで、さまざまな感情が交錯してドラマに深みが出ている。しかもマイロが、映画のキャラより良いキャラになっていて恋愛ドラマとして面白い。それをまとめあげるガーシュイン・チューンが素晴らしい!
大団円で、ジュリー(ジーン・ケリーの役)、アンリ(ジョルジュ・ゲタリーの役)、アダム(オスカー・レヴァントの役)の3人が、それぞれのリズ(レスリー・キャロンの役)への想いを歌に託す「誰にも奪えぬこの想い They Can't Take That Away from Me」が素晴らしい! オリジナル版には出てこない、フレッド・アステアが『踊らん哉』(1937年)で歌って、アカデミー主題歌賞に輝いたスタンダード。
今宵のカツライスは、市川雷蔵さんの股旅三部作その一『沓掛時次郎』(1961年・池広一夫)。ご存知、長谷川伸先生の股旅スタンダードをタップリの情感、カッコいい殺陣で魅せてくれる勧善懲悪の娯楽篇!
橋幸夫さんの主題歌「沓掛時次郎」が流れるタイミングがまた絶妙! 大衆演劇的な世界なんだけど、雷蔵さんとおきぬ・新珠三千代さんが門付で廻るシーンには「風情」がある。その両極が、良い意味での作品の幅になっている。
須賀不二男さん、稲葉義男さんの悪い親分の悪辣さ。杉村春子さんの宿屋の女将、志村喬さんの親分の善良さ。この対極が、わかりやすく、それゆえに、市川雷蔵さんのヒーローの正義が際立つ。
池広一夫監督の演出は、過剰ではなく、むしろ抑制されていて、それがクライマックスの立ち回りで一気に爆発する。
ベタだけどクール。勧善懲悪なんだけど渡世人の哀しさも感じる。時次郎のおきぬへのセリフに、『男はつらいよ 寅次郎恋歌』での寅さんと旅役者・吉田義男さんとの「明日はきっと日本晴れ」の名シーンのルーツを感じる。時次郎と寅次郎、同じ旅人同志なんだね^_^
シリーズ第三作『新・悪名』(1962年6月3日・森一生)は、戦後篇。復員してきた朝吉(勝新太郎)は「生きていた英霊」で、戦死公報により墓まで建っていて、女房・お絹(中村玉緒)は再婚していた。それでも朝吉は堅気になる決意をして、前作のラストで死んだ弟分・貞(田宮二郎)の故郷・徳島へ。貞の母(武智豊子)の面倒を見て、貞の女房・お照(藤原礼子)と共に、大阪の闇市で「びっくり雑炊」を始める。
10月16日(土) 『ひとり狼』(1968年4月20日・大映京都・池広一夫)・『続・新悪名』(1962年11月3日・大映京都・田中徳三)・『陸軍中野学校 雲一号指令』(1966年9月17日・大映京都・森一生)
Amazonプライム「スタートレック:ローワーデッキ」S2#10。いやいや、これまでのシリーズ同様、スケールの大きいミッション、アクシデントを次回またぎ=クリフハンガーで展開。一番いいところで、続きは次のシーズンまで待たされる、ってのがありましたなぁ。
今宵のカツライスは大盛り。市川雷蔵さん『ひとり狼』→勝新太郎さん『続・新悪名』→雷蔵さん『陸軍中野学校雲 一号指令』。股旅→のど自慢大会→スパイの世界を堪能。で福島→大阪・神戸・因島→神戸の順番に行ってきました(笑)
まず一本目は、我がベスト・オブ・雷蔵の一本、市川雷蔵&池広一夫監督による『沓掛時次郎』(1961年)『中山七里』(1962年)に続く「股旅三部作」の最終作。『ひとり狼』(1968年4月20日・大映京都)は、市川雷蔵が最も信頼を寄せていた池広一夫監督との、最後の股旅映画となった。
カツライス二枚目は、「悪名」第四作。若き日の浜村淳さんが「のど自慢大会」の司会者に! 今東光原作、勝新太郎&田宮二郎主演『続・新悪名』(1962年11月3日・大映京都・田中徳三)を久しぶりに娯楽映画研究所のスクリーンで投影。タイトルがややこしいが、前作『新・悪名』の続篇という意味である。脚本は、ベテランの依田義賢。第二作で原作のエピソードを描いてしまったので、完全オリジナル。このシリーズを立ち上げた田中徳三が監督に復帰している。
カツライス三枚目は「陸軍中野学校」シリーズ第二作!空前の007ブームが席巻した1960年代半ば、和製スパイ映画として企画された市川雷蔵主演『陸軍中野学校 雲一号指令』(1966年9月17日・大映京都・森一生)。
10月17日(日) 『デューン/砂の惑星』(1984年・米・デヴィッド・リンチ)・『中山七里』(1962年・大映京都・池広一夫)
明日『DUNE/砂の惑星』をIMAXで観るので、初公開以来となるデヴィッド・リンチ版『デューン/砂の惑星』(1984年・米)139分を観る。38年前と、印象が変わらないのがすごい。粗い編集に???(笑)わかっちゃいるけど・・・なので余計に新作に期待が高まる。
今宵のカツライスは、市川雷蔵&池広一夫コンビの「股旅三部作」その2、長谷川伸原作『中山七里』(1962年)。江戸深川の粋な兄さん、木場の政吉(雷蔵)は、一目惚れしたおしま(中村玉緒)と所帯を持つことに。
しかし、おしまに横恋慕していた元締め・総州屋の安五郎(柳永二郎)が力づくでおしまを手込めにしてしまい、怒った政吉は安五郎を刺し殺す。ここで運命の歯車が狂い、さらにおしまが自害して、凶状持ちとなった政吉は旅鴉となる。
という発端が、実に手際良く、でも情感たっぷりに描かれる。それから一年、旅先で病に苦しむおなかを助けるが、なんとおなかは、死んだおしまと瓜二つだった・・・
というわけで橋幸夫さんの「中山七里」にのせて、長谷川伸戯曲の世界をたっぷり、雷蔵さんが見せてくれる。おしまの恋人・徳之助に「月光仮面」の大瀬康一さん! 87分に凝縮された、極めつけともいうべき「股旅もの」の傑作。
政吉を江戸から追いかけてくる、悪徳岡っ引き・藤八に杉田康さん、旅先の強欲な親分・虎之助に富田仲次郎さん。その手下・弥七に伊達三郎さん。娯楽映画のお手本のような傑作!