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『地球へ二千万マイル/20 MILLION MILES TO EARTH』(1957年未公開・コロムビア・ネイサン・ジュラン)

 Amazonプライムでの視聴期限が迫っていたので、レイ・ハリーハウゼンの特撮が堪能できる『地球へ二千万マイル』(1957年未公開・コロムビア・ネイサン・ジュラン)カラライゼーション版を初めて観る。モノクロ版は何度もビデオやDVDで観てきたが、ビスタサイズトリミング、カラー版は今回が初体験だが、なかなか楽しかった。

こちらがオリジナル予告

 日本未公開だが、昔、東京12チャンネル(テレビ東京)で『金星怪獣イーマの襲撃』として放映されて、手に汗握って観ていた。大伴昌司編集の記事では「金星竜イーマ」として紹介されていたので、幼い頃からメジャーな「海外怪獣」だった。レイ・ハリーハウゼンのコロムビア時代としては、大ダコ登場の『水爆と深海の怪物』(1955年)、『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』(1956年)に続いての作品。大ダコ、空飛ぶ円盤と、ストップモーション・アニメで描いてきたハリーハウゼンが、二足歩行の怪物をアニメート。続く『シンドバッド七回目の航海』(1958年)でのクリーチャーたちのルーツ的なモンスター“金星竜イーマ”は、実にカッコいい。

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 プロットはシンプル。米国の金星探査ロケットが、金星の生物の卵が入ったカプセルを持ち帰る途中で、イタリア、シチリア島近くの地中海に落下。“金星竜イーマ”が孵化する。事情を知らない獣医が、ローマへ移送中にイーマが暴れ出す。しかもその成長速度は異常に早く、イーマはたちまち巨大化。なんとか捕獲され、ローマの動物園に収容されるが、記者団への公開中にアクシデントが発生してイーマは逃げ出し、動物園の象を倒して、ローマ市街地へ。軍隊に追われたイーマはコロセウムへ・・・

 つまり『キング・コング』(1933年)の髑髏島を金星に、ローマをニューヨークに、エンパイアステート・ビルをコロシアムに置き換えた「怪獣映画」なのである。金星ロケットが登場し、宇宙生物だからS Fなのであるが、プロットは『キング・コング』のパターン。ハリーハウゼンが、高校生の時に、同級生のレイ・ブラットベリと観て夢中になり、お互いの進路が決まった、あの『キング・コング』と同じ展開である。

 しかも全編イタリア・ロケーションで、シチリア島、地中海、ローマと風光明媚な風景が楽しめる。シチリア沖に、巨大な飛行物体が落下。デザインは、ジョージ・パルの『地球の最后の日』(1951年)のロケットのように、のちの「マグマ大使」(1966年)タイプでかっこいい。落下したロケットは、13ヶ月前にアメリカが打ち上げた金星探査ロケットだった。地元の漁師2人が、ぺぺ少年(バート・ブレイヴァーマン)を連れて、ロケットから2人の乗務員を救出するが、一人は金星の風土病にかかっていて死亡。生存者は隊長のロバート・カルダー大佐(ウィリアム・ホッパー)だけだった。

 小さな漁師町ゆえ医師が不在で、近くキャンプをしていたローマの生物学者・レオナルド博士(フランク・プーリア)が孫娘の医学生・マリザ(ジョーン・テイラー)が治療にあたった。同じ頃、ぺぺ少年は、小遣い欲しさに海で拾ったカプセルの中にあった、不思議な物体(ブロブ状のもの)をレオナルド博士に持ち込む。金星の苛烈な環境下で生きている金星生物の卵を研究用にと採取したものだった。その物体から「金星竜イーマ」が誕生。事情を知らない博士は、宇宙生物とは思わずに突然変異の珍しい生き物をローマの動物園へ運ぶことに。

 アメリカの西部劇に憧れているぺぺ少年。レオナルド博士に、イーマの卵を200リラで売ってご満悦。かなり問題行動だけど、イーマのカプセルが行方不明となり、米宇宙局マッキントッシュ少将(トーマス・ブラウン・ヘンリー)が「見つけたら50万リラ」と懸賞金を出す。するとぺぺ少年、カウボーイみたいに馬が欲しいので、あっさりと白状。全てのトラブルはぺぺにありなのに、少将も「子供は可愛いなぁ」みたいに、お金をあげてしまう。教育上良くないぞ!

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 レオナルド博士とマリザのがキャンピングカーで、ローマに向かう途中、イーマが逃げ出して、付近の住民を襲撃。警察とイタリア当局は殺処分を主張するが、ロバート・カルダー大佐はヘリコプターからのネット作戦で捕獲を主張。生捕に成功する。やがて、厳重監視のもとローマの動物園で飼育されることになり、報道陣に公開されるが・・・

 レイ・ハリーハウゼン映画なら、どれでもそうなのだけど、お話はともかく、クリーチャーが動いて、暴れる、アッと驚く映像を楽しむために観ているので、シンプルな展開だと、ワクワク感がます。最初は手のひらサイズのイーマが、次第にペットぐらいの大きさになり、ついには等身大となる。二メートルぐらいになったイーマとカルダー大佐の納屋での対決シーンは、「仮面ライダー」のライダーV S怪人みたいで楽しい。

 そして巨大化したイーマが、電気系統の事故(人的なケアレスミス)で暴れ出す恐怖。マスコミの前で暴れる『キング・コング』のパターンは、この後も『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年・東宝・本多猪四郎)でもリフレインされる。モンスターが暴れるきっかけのお約束でもある。そこでイーマは、動物園の巨象と死闘を繰り広げる。子供の頃、テレビで『金星怪獣の襲撃』を観た時は、「なんだ象か」と正直がっかりしたが、今ではハリーハウゼンのストップ・モーション・アニメの見事さに驚嘆する。

 市街地へ逃げ出したイーマを、イタリア軍の戦車師団が出動して、追い詰める。ローマ時代の史蹟・コロシアムに迷い込んだイーマと軍隊の睨み合いが続く。ミニチュアと実景、イーマのモデルと俳優たち。見事な合成と巧みな編集で緊迫のクライマックスが展開される。コロシアムの遺跡の大きな石を投げつけるイーマ。迫撃砲を撃ち続ける軍隊に圧倒され、追い詰められたイーマは、コロシアムの一番上から落下して絶命する。

 てらうことなくストレートに『キング・コング』の展開を踏襲しているのが、かえって面白い。イーマのデザインは、レプタイル・タイプの二足歩行生物で、日本の怪獣のように長いしっぽでバランスを取っている。全員にはウロコ、手も足も指は3本ずつ。以後のハリーハウゼンのクリーチャー、例えば『シンドバッド七回目の航海』のサイクロプスなどの動きの原型でもある。ハリーハウゼンは、カラーで製作したかったが、コロムビアからの予算が出ずにモノクロで撮影。この2007年のカラー版は、ハリーハウゼンの長年の思いを実現したもので、着色についてもサジェッションしている。

 モノクロ版を見ていたときは、茶色かグレーのイメージだったが、カラー版ではグリーン・モンスターとなっているが、宇宙生物の感じも出ていて、なかなか楽しかった。

American film archive


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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