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『情無用の街』(1948年・FOX・ウイリアム・キーリー)

昨夜の娯楽映画研究所シアターは、フィルムノワール強化月間の一環として、ウィリアム・キーリー監督『情無用の街”The Street with No Name”』(1948年・FOX)をスクリーン投影。アマプラで配信中(ジュネス企画原版)。

 FBI長官・エドガー・フーパーの下、FBIの活動をヒロイックにセミドキュメンタリー・タッチで映画化。つまり広報活動の一環として鳴り物入りで製作。ハリー・クライナーがFBI活動記録をもとにオリジナル・シナリオを執筆。戦前、ジェームズ・キャグニー主演で大ヒットした傑作ノワール『Gメン』(1935年)のウィリアム・キーリーが演出。

 同時代の他のノワール同様、ロケーションを効果的に多用したセミドキュメンタリータッチの映像が何よりのご馳走。一応、FBIの活動を、捜査員の訓練、日頃の勤務内容などをドキュメント的に見せているが、メインはギャング団に潜入した捜査員の活躍をヒロイックに描く活劇。

 しかも暗黒街のボスには、『Gメン』のキャグニーのように、チャード・ウィドマークをフィーチャー。その凶悪な芝居を楽しむだけでも価値がある。ウィドマークは、前年『死の接吻』(1947年・ヘンリー・ハサウェイ)で狂気に満ちた、偏執狂的な殺し屋を怪演して、高い評価を得て、本作に抜擢された。

 アレック(ウィドマーク)率いる強盗団に、ならず者として潜入捜査をするのが、FBIの誇る新人・ユージン・コーデル(マーク・スティーブンス)。典型的なタフガイである。前半は、潜入のプロセスが丁寧に描かれ、アレックの懐に入っていく展開は、ギャング映画の味。アレックの経営するボクシングジムで、トレーナーを挑発して、その腕っ節の強いところを見せる。FBIが用意したジョージーという偽名の社会保障番号を盗ませて、アレックたちにジョージーという前科者と思わせる。

 センター・シティのロケーションがリアルで、アレックのジムがある建物の向かいの安宿が、コーデルが扮装したジョージーの寝ぐらとなる。周到なのは、アレックたちがジョージーの社会保障番号を、強盗現場に置いてきて、警官に逮捕させてしまうシークエンス。留置場で、ならず者のふりをするジョージー。

 その間に、ジョージーの犯罪歴をFBIのデータベースから調べさせるアレック。偽の犯罪記録にまんまと騙されるアレック。このパターンは、のちに日活アクションや、アクションドラマの「潜入捜査」シーンでリフレインされる。ああ、これが原点だったのかと。

 とにかくウィドマークのクセのある芝居がたまらない。鼻にヴィックスのスティックをツッコミ、クンクンと嗅ぐ仕草。口角を少し上げての不敵な笑み。やってることは、パーティや銀行に押し入って、現金や宝石を奪う。荒っぽい仕事なのだが、絶対に足がつかない。地元警察と癒着していて、警察上層部も甘い汁を吸っている。

マーク・スティーヴンス、バーバラ・ローレンス、リチャード・ウィドマーク

 みたいな、お決まりのパターンがあって、潜入捜査をしているコーデルの正体がバレてからのクライマックスは、なかなか面白い。女っけはほとんどなくて、アレックが女房・ジュディ(バーバラ・ローレンス)に、イライラしてDVするシーンが随所にある。このジュデイ役は、当初、ジューン・ヘイヴァーにオファーされたが降板。その理由は「重要な役じゃないから」だった。確かに、観れば納得。しかし、これがきっかけでジューン・ヘイヴァーは、フォックスをクビになってしまう。今だと、大騒ぎになるだろうけど。

ちなみにサミュエル・フラー監督が日本ロケをしたFOXの異色ノワール『東京暗黒街 竹の家』(1955年)は本作のリメイク。オリジナル脚本をベースに、かなりの脚色をしているので、リメイクであることはほとんど判別がつかない。キャメラのジョセフ・マクドナルドは、本作と『東京暗黒街 竹の家』両方の撮影監督をつとめている。と言うわけでセンター・シティが浅草松屋になっているわけ(笑)

やはり1946〜1952年あたりの、第二次大戦後のフィルムノワールは面白いなぁ。この映画のインパクトは、和製リチャード・ウィドマークこと佐藤允主演『情無用の罠』(1961年・東宝・福田純)のタイトルにも影響を与えていることでも、わかる。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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