『悪魔の往く町”NIGHTMARE ALLEY”』(1947年・FOX・エドマンド・グールディング)
娯楽映画研究所シアターで、エドマンド・グールディング監督の『悪魔の往く町』つまり”NIGHTMARE ALLEY”(1947年・FOX)をスクリーン投影。
映画作家を志しているなら、映画ファンなら、観て、驚いて、感心して、学ぶべし! と言いたくなるほど、これぞ犯罪映画、心理サスペンス、芸人映画のショーケース。つまり娯楽映画のお手本!
円熟のタイロン・パワーが、サーカス一座の下働きから、ジョーン・ブロンデルとその夫でアル中のイアン・キースの「読唇術」芸を学ぶうちに、その天才を発揮していく。その冒頭から、映画にのめり込んでしまう112分。
とにかく構成、脚本が見事で、FOXのお家芸だった「芸人一代記」「バックステージもの」としての面白さ。そしてタイロン・パワーが口八丁と才覚でのし上がっていく爽快な前半。妻となるコリーン・グレイの可愛さ、美しさ。全部が作品の魅力になっているのです。
心理ドラマとしても見事というか、この頃大流行のニューロティック・スリラーとしての面白さもあり。インチキ・メンタリストとなったタイロン・パワーが、次の大勝負のきっかけとなる、美貌の心療内科医・ヘレン・ウォーカーに感じるシンパシー。つまり同じ穴の狢同士がコンビを組んでの、コンゲーム的な展開にハラハラ・ドキドキ。
万事調子良く見えるタイロン・パワーの過去とトラウマ。ジョーン・ブロンデルのタロット占いで出てくる「運命」に反発し抗いながらも、キャリアの絶頂で転落していく後半。クライマックス、シカゴ駅に向かうタクシーを捉えたナイトシーンのロケーションが実に効果的。騙し騙され、ああ、どうなるの? 生々流転の大団円。
この映画の面白さを説明するとネタバレになってしまうのだけど、本当に素晴らしく面白い。完璧な映画!これをギレルモ・デル・トロがリメイクするのも宜なるかな。いやぁ、脚色が本当に素晴らしいのです。
世にある”オカルト詐欺””ヒーリング詐欺”の裏側というか、人を騙すセオリー、つまり人の弱みを見抜く、あの手この手のショーケースでもあり、兎に角、よく出来ている。結局、ジョーン・ブロンデルのタロット占いだけは「本物だった」という点では「ハウス・オブ・グッチ」とは違ってます(笑)
ラスト、エンドマーク直前の安堵感は、この頃のハリウッド映画ならではの心地良さだし。さあ、一刻も早く、デル・トロの「ナイトメア・アリー」が観たい。
で、これほどの傑作が、10枚組1800円のDVDボックスに入っているなんて!