『間諜(スパイ)中野学校 国籍のない男たち』(1964年・日活・野口博志)
二谷英明主演『間諜(スパイ)中野学校 国籍のない男たち』(1964年・日活・野口博志)をスクリーン投影。
空前の007ブームの中企画された、戸川幸夫原作の和製スパイ活劇。2年後の大映、市川雷蔵主演「陸軍中野学校」シリーズと同じアプローチで、戦時下、国籍を剥奪されながら秘密兵器を駆使して、秘密作戦を遂行するエージェントの活躍を描こうという企画。
陸軍のエリート、二谷英明、近藤宏、深江章喜たちが、陸軍中野学校でスパイ教育を受ける前半。ドイツ製の小型テープレコーダー(ないない・笑)、青酸カリの砂糖を敵にだけ飲ませる方法、ダイヤル音で電話番号を読み解くテクニック…などの前半の教育シーンは、雷蔵版同様、和製ボンド映画的(みんな大好きQ ブランチ・笑)。
で、三菱重工みたいな化学工場へ、潜入して秘密書類の情報を入手してくる訓練のミッションで、近藤宏と深江章喜が憲兵隊に逮捕されて、二人は行方不明に。みたいな「非情のライセンス」的なスパイの世界がたっぷり描かれる前半。
それから一年、二谷英明は民間人の宝石商として中支へ。そこで抗日ゲリラたちの情報を入手するミッションを帯びる。でゲリラの頭目は、インテリで頼もしきリーダーの森塚敏。いつもながらに、日活映画はこうした新劇俳優が引き締めてくれる。
で、ナイトクラブのホステスで現地の娘・岩崎加根子が登場。ゲリラに襲われそうになった二谷英明を助け、二人は惹かれ合う。その妹・西尾三枝子はマラリアで苦しんでいるが、二谷が入手したキニーネを受け取らない。日本人は大嫌いと。
といった微妙な関係を描きつつ、二谷と加根子は一夜燃え上がる。これまた定石。しかも二人の関係は、前年の裕次郎映画『太陽への脱出』(舛田利雄)のバリエーションでもあり、岩崎加根子がいつもながらに素晴らしい。なんとも言えない魅力がある。
映画は、1964年、東京五輪前夜の東京から始まる。銀座四丁目などの東京風景。魚眼レンズで捉えた大都会。あ!あれは植木等の会社だ!と思わず静止画にしてしまったのは、呉服橋の日興証券ビルのファサード。
大陸に残してきた娘の消息を探している初老の主人公・二谷英明が、謎のサングラスの娘・山本陽子と藤竜也に尾行され、箱根へ拉致される。母親の仇と、銃口を向ける山本陽子・・・ ミステリアスな滑り出し。で、二谷が戦争中のことを語り出して物語が始まる。
と、書いていくと、すごく面白そうなのだが、戦時下のスパイ映画としては、のちの大映・市川雷蔵版に軍配が上がる。だけど、主人公をめぐる過去、喪失したアイデンティティの回復などは日活アクションのセオリー通り。
森塚敏のゲリラも、中野学校のスパイの二谷英明も、それぞれのアイデンティティと矜持があり、キャラクターが魅力的なのは、この時期の日活アクションの楽しみでもある。