娯楽映画研究所ダイアリー 2021年9月6日(月)〜9月12日(日)
9月6日(月) YouTube「佐藤利明の娯楽映画研究所」 その男、「佐藤允」
9月6日(月) 『足にさわった女』(1960年・大映)・『唄へ河風』(1939年8月31日・東宝・並木鏡太郎)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、増村保造監督、市川崑企画『足にさわった女』(1960年・大映)。沢田撫松原作「足にさはつた女」は、日活で1926年、東宝で1952年に越路吹雪さん、池部良さん主演で映画化。三度目は、女・塩沢さや(京マチ子)、刑事・北六平太(ハナ肇)、小説家・五無康佑(船越英二)に、クレイジーキャッツの面々、大辻司郎さん、ジェリー藤尾さんなどなどをキャスティング。
『唄へ河風』(1939年8月31日・東宝・並木鏡太郎) 岸井明さんと藤尾純さんが漫才コンビに! ハワイアン「海邉は楽し」歌唱シーンは圧巻!
9月7日(火) 『サマー・オブ・ソウル』・『三色旗ビルディング』(P.C.L.)・『山男の歌』(大映)
『サマー・オブ・ソウル』(2021年)最高でした。1969年夏。ハーレム・カルチャラル・フェスティバルの6週間のライブは、出来事としてしか知らなかった。マヘリア・ジャクソン、ニーナ・シモンに圧倒され、フィフス・ディメンションに心踊り、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンに別世界に誘われた!
マックス・ローチのドラム、アビー・リンカーンのヴォーカル。これを体感できただけでも、このフィルムの価値がある。毎日でも観ていたいライブ。1969年の夏には、アポロ11号、寅さんだけでなく、ハーレムのこのライブがあったことを胸に刻む。デヴィッド・ラフィン「マイ・ガール」の懐メロ感も!
誰もが自分たちが人間として生きるために政治に向き合っていた1969年のハーレムの夏。「サマー・オブ・ソウル」を観終わり、radikoで現職議員の逮捕、国民ブロック男が総理に?などと、国民の怒りに政治家が向き合っていない2021年の日本夏。溜息しかでない。
今宵は昭和10年、木村荘十二監督『三色旗ビルディング』(P.C.L.)と、昭和37年、村山三男監督『山男の歌』(大映)の二本立て。後者は、もちろん未見の蔵出し作品。藤巻潤さんと三條江梨子さんの青春映画かとずっと思っていたら、映画は百聞は一見にしかず。観て驚いた。
モダンな都市アパート生活者の日々を描いたP.C.L.の都会派作品『純情の都』(1933年11月23日)、『すみれ娘』(1935年5月11日)のラインで作られた『三色旗ビルディング』(1935年7月12日・P. C .L.・木村荘十二)は、落語の「長屋もの」のモダン版ということで企画された「アパート映画」。
PCLのモダン喜劇。1935年のアパートライフの楽しさ!豪華キャストを、映画プレスシート的に、詳細解説。
9月8日(水)『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』(2021年)・『子寶夫婦』(1941年2月26日・東宝・斎藤寅次郎)
阿佐ヶ谷ネオ書房でYouTube「佐藤利明の娯楽映画研究所」収録後、東銀座へ。これから『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』を試写で。「宇宙戦艦ヤマト」の新作を見る度に感じること。脳内でオリジナルではこうだった、ああだったと思い出す。歌舞伎やミュージカルの再演を観るとき似た感覚。これが結構楽しい。
今宵は、齋藤寅次郎監督『子寶夫婦』(1941年2月26日・東宝)。戦時体制下の子沢山喜劇。徳川夢声さん、英百合子さん夫婦は15人の子持ち、長男・月田一郎さんから、六女・中村メイコちゃんまで賑やかなんてものじゃない。産めよ増やせよの国策に沿ってはいるが、工場勤めで、いつクビになるかわからない。
寅次郎喜劇ではお馴染み、多産夫婦の悲喜交交が、戦時下だと美談になるアイロニー。戦後なら、柳家金語楼さんの『あきれた娘たち』(1949年・新東宝)や、花菱アチャコさんと浪花千栄子さんの『お父さんはお人好し』(1955〜56年・大映)みたいにナンセンス喜劇になるのに。忠君愛国、滅私奉公の時代になると、ナンセンスが成立しない。ただただ、美談へ、美談へと、検閲になびくばかり。それでもメイコちゃんは可愛く、六男・小高まさる君は、頭にターバン巻いてインド人メイクで脈絡なく遊んでたり^_^
勤め先の社長・岸井明さんは、歌もギャグもなく、出番はラストだけ。もったいない!その秘書・渡辺篤さんだけが、かろうじて嫌味な喜劇的キャラクター。一人だけ、ギャグを見せてくれるが、爆発には至らない。
内務省検閲、国策映画となると喜劇の神様のナンセンスが封じられて…戦後の『金語楼の子宝騒動』と併せて観ると面白い。
9月9日(木)『新婚日記 恥しい夢』(1956年4月28日・大映東京・田中重雄)・『思ひつき夫人』(1939年5月1日・東宝映画京都撮影所・斎藤寅次郎)
今宵は若尾文子さん主演『新婚日記 恥しい夢』(1956年4月28日・大映東京・田中重雄)。
『思ひつき夫人』(1939年5月1日・東宝映画京都撮影所・斎藤寅次郎)喜劇の神様のナンセンス大爆発!アチャコさん、岸井明さんが国策映画をあらぬ方向へ!これは面白い!
9月10日(金)『水滸伝』(1942年7月2日・東宝映画・白系・岡田敬)
2回目のファイザー接種。副反応で腕が重く、少し熱っぽい。
戦時下のエノケン大作映画。アノネのオッサンの役は轟天雷!オペレッタ映画としても秀逸。ミュージカルナンバー13曲!
9月11日(土)『東遊記』(1940年満映・東宝)
昨夜は、8度近くの熱なのに「東遊記」(1940年満映・東宝)から、三船敏郎さんの「大忠臣蔵」第二話を観て22時にダウン。それで観た夢は満州で、市川中車さんの吉良上野介が、皇帝玉座で腹黒く笑っていた😊
目覚めてまだ微熱。金曜日に接種したファイザー2回目の副反応はこんなカタチで(笑)
昭和15年の東京風景が楽しめる。李香蘭、原節子、岸井明が次々と登場。満州からの凸凹二人組の訪問記。
9月12日(日)『ハナ子さん』(1943年・東宝・マキノ正博)・『水戸黄門漫遊記 幽霊城の佝僂男』(1955年12月12日・東映・伊賀山正徳)
今宵はマキノ正博監督『ハナ子さん』(1943年・東宝)。戦時下に作られた明朗音楽ホームドラマだが、この明朗さこそが曲者。ささやかな庶民の日常を、微苦笑のなかに描くのだけど、当然のことながら、そのロジックは「お国のため」。昭和14年から16年にかけてを、昭和18年に振り返る物語だけに、隣組の朗らかな描写、およそ緊張感のない防空訓練のバックには、庶民の空襲に対する感覚を甘くしてしまった「♪なんだ空襲」が延々流れる。
マキノ正博監督は、それでも精一杯に、戦前の良かった空気を再現。ハナ子(轟夕起子)と五郎(灰田勝彦)の婚約時代のウキウキ感、マイホームを夢見る二人の「♪お使いは自転車に乗って」。一戸建ての夢のような新婚生活。賞与日、おしゃれしての丸の内ランデブー。
しかし新体制にふさわしくないと、新婚世帯を引き払い、両親と同居。それを迎える隣組のひとたちの、絵に描いたような、好人物ぶり。相互監視システム、猜疑心の温床だった「隣組」の美化(当たり前だが)。現実とは乖離したプロパガンダの怖さ。
ラスト、出征が決まった五郎さんに「何がして欲しい?」と甘えることで、平穏を保とうとするハナ子さん。マキノ監督は五郎さんが、戦地でハナ子さんを思い出すために勝った「おかめのお面の下の妻の涙」を描こうとするも検閲に引っかかり断念。しかし、馬事公苑で唐突に「でんぐり返し」をして「吊り輪」にぶら下がり、おかめのお面を頭の後ろにつけてダンスをしながらクルクル回るハナ子さんに、その悲しみが凝縮されている。
タイトルバックの東宝舞踊隊によるバズビー・バークレイ風のプロダクションナンバー、中盤のハイキングでの群舞、ラスト近くの赤ちゃんが産まれての「玩具の兵隊」のダンスがモダンだけに… 振付は益田隆さん。
余計に、ハイキングでチヨ子さん(高峰秀子)が傷痍軍人の勇さん(中村彰)と結ばれるきっかけのデュエットが「♪月月火水木金金」というのが(現在の目で見ると)つらい。
東宝特殊技術課による、夜の東京空襲シーンは迫力があるが「♪なんだ空襲」の精神なので、登場人物たちはハナ子さんの出産への緊張のみで、しかもギャグ混じり。「空襲を恐れるな」の国策が、明らかに国民の緊張を削いでいたような気がする。10年前の「放射能に負けない身体を作ろう」や、去年横行していた「コロナはただの風邪」に近いロジック。
だからこそ、轟夕起子さんの可愛らしさ、美しさが際立ち、主題歌「お使いは自転車に乗って」の楽しいメロディ、岸井明さんの(それでも)食いしん坊キャラに救われる。戦時下に作られたミュージカル映画としては、最高の一本であることは間違いない。
『水戸黄門漫遊記 幽霊城の佝僂男』(1955年12月12日・東映・伊賀山正徳)。坂東簑助さんが,タイトルロールから、原田甲斐の遺児、髭の剣客、白覆面の怪人の四役。手が込みすぎて自家中毒気味の「伊達騒動復讐篇」。
しかし三船プロ「大忠臣蔵」の市川中車さん。見れば見るほど憎々しいったらありゃしない。あたしゃ尾上菊之助さんに同情するよ。1971年だからこそ戦前から現代までの豪華キャストに惚れ惚れ。喩えていうなら坂本頼光さんの声色芸を観てるような気分。