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『デュバリイは貴婦人』(1943年8月19日ニューヨーク公開・MGM・ロイ・デル・ルース)

ポスターヴィジュアル
ルシル・ボール

ハリウッドのシネ・ミュージカル史縦断研究。5月19日(木)は久しぶりにアーサー・フリード製作、ジーン・ケリー、ルシル・ボール、レッド・スケルトンの華やかな”Du Barry Was a Lady”『デュバリイは貴婦人』(1943年・ロイ・デル・ルース)をスクリーン投影。アマプラで字幕版が配信中(ジュネス企画版)なので、おそらく初めての字幕版での鑑賞となった。日本では昭和26(1951)年10月9日に公開されている。

nコール・ポーターが作詞・作曲を手がけ、ハーバート・フィールズとバディ・デシルヴァ脚本のブロードウェイ・ミュージカル”Du Barry Was a Lady”(1939年)の映画化。ブロードウェイの初演では、バート・ラー、エセル・マーマン、ベティ・グレイブルが出演。コール・ポーターの"Friendship"がこのミュージカルから誕生した。

MGMでは当初、アン・サザーンのために映画化権を、80.000ドルで獲得。スタジオが制作したティーザー・ポスターの右上、タイトルバックに映る人形は明らかにアン・サザーンをイメージしたもの。ところがサザーンが、娘・ティシャ・サザーンを身籠ったために降板。そこで急遽、ルシル・ボールが代役として主演することに。

タイトルの人形はアン・サザーンのイメージ
アン・サザーン(1946年)

相手役にはMGM期待の新人・ジーン・ケリーと、コメディアン・レッド・スケルトン。ケイ・カイザー楽団の歌姫からラジオ・スターに出世したヴァージニア・オブライエン、コメディアンのラグス・ラグランド、ゼロ・モステル、そしてトミー・ドーシー楽団、パイド・パイパーズをフィーチャー。アーサー・フリードらしい賑やかなテクニカラー・ミュージカルとなった。

トミー・ドーシー楽団の専属コーラス・グループ、パイド・パイパーズには、のちのミュージカル映画のスター、ディック・ヘイムズがいるし、ジョー・スタッフォードも後半に登場する。のちのスターということでは、ノンクレジットで、エヴァ・ガードナー、マリリン・マックスウェル、ラナ・ターナーも出演している。

映画化に際して、MGMはコール・ポーターの楽曲、”Well, Did You Evah!””Ev'ry Day's a Holiday”などのナンバーをほとんどオミット、スタンダードとなった”Do I Love You?”とショー・ストッパーの”Friendship”しか使用していないのは残念。

のちに『上流社会』(1954年)で、フランク・シナトラとビング・クロスビーがデュエットすることになる”Well, Did You Evah!”は、劇中、ナイトクラブのBGMでインストが流れる。”Give Him the Ooh-La-La”もナイトクラブのBGMのみ。映画化に際して、ロジャー・イーデンス&イップ・ハーバーグの"Salome"(ヴァージニア・オブライエンが歌う)、バートン・レーン&ラルフ・フリードの"Madame, I Love Your Crepes Suzette"(レッド・スケルトン)などのスタジオのソングライターの楽曲を加えている。

ロビーカード
ルシル・ボール

ニューヨークのナイトクラブ”プティット”の花形スター、メイ・デイリー(ルシル・ボール)が、中世フランス、ルイ15世と浮名を流したマダム・デュバリエをテーマにしたプロダクション・ナンバー”DuBarry Was a Lady”(作曲:バートン・レーン 作詞:ラルフ・フリード)をコーラスガールを従えてゴージャスに歌って踊っている。タイトルバックに流れるルシル・ボールの歌声は、マーサ・ミヤーズが吹き替えている。

メイの美しさにぞっこんなのが、クローク係のルイス・ブロア(レッド・スケルトン)。シガレット・ガールのジニー(ヴァージニア・オブライエン)は、そんなルイスに惚れ抜いて結婚を申し込むも、ルイスは柳に風。一向にジニーの相手をする気がない。ヴァージニア・オブライエンは相当美人なのに、もったいない。これもハリウッド・コメディの定石。

ステージでは、ザ・スリー・オックスフォード・ボーイズが、ケイ・カイザー楽団のモノマネで、”(I've Grown So Lonely) Thinking of You”をヴォーカルで再現。さらにフレッド・ワーニングとペンシルヴァニアンズの”A Cigarette, Sweet Music and You”、ハリー・ジェームズ楽団の”Sleepy Lagoon”、ガイ・ロンバート楽団の”You are My Sunshine”を立て続けにモノマネ演奏。

さらにトミー・ドーシー楽団の”I'm Getting Sentimental Over You”をモノマネで再現したかと思ったら、ステージが回転、本物のトミー・ドーシー楽団が登場。このあたり、1940年代のナイトクラブ芸を映画で味わうことができるのが楽しい。この”I'm Getting Sentimental Over You”は、トミー・ドーシーのテーマ曲ともいうべきスタンダードで、クレイジーキャッツの谷啓さんも得意だった。『会社物語』(1988年・市川準)でも谷啓さんが演奏している。

もう一人、メイを熱烈に愛しているのが、人気ダンサー、アレック・ハウイー(ジーン・ケリー)。メイもアレックが好きなのだが、自分の両親が下積み時代に結婚した芸人夫婦で、才能ある父親が家庭のためにスターになるチャンスを逸したことを悔やんでいる。なので、結婚するなら「愛がなくても、絶対に金持ちがいい」と、アレックの求愛をかわしている。それでも彼女とデートがしたいアレックは、メイの楽屋にピアノを持ち込んで「これからトミー・ドーシーとやるナンバーなんだけど、聞いて」「1コーラスだけなら」と弾き語りで、”Do I Love You?”(作詞・作曲:コール・ポーター)を甘く囁くように歌う。

”Do I Love You?”は、ブロードウェイ版”Du Barry Was a Lady”でエセル・マーマンとロナルド・グラハムが歌ってスタンダードとなっていた。ヴェラ・リン(1941年)、エラ・フィッツジェラルド「コール・ポーター・ソングブック」(1956年)、ジュディ・ガーランド「ジュディ・イン・ラブ」(1958年)、ペギー・リー「美女と野獣」(1959年)などのカヴァーがそれぞれ味わい深い。

アレックの歌声にうっとりしたメイは、ついキスに応じてしまう。有頂天のアレックは踊りながら楽屋を出てステージへ。椅子を軽々とジャンプして、ステージへピョンと飛び乗るジーン・ケリー。ハツラツとした動きは、実に気持ちいい。トミー・ドーシー楽団の演奏で”Do I Love You?”をダイナミックに、スインギーに踊る。ドラムスはバディ・リッチ! 全盛期のトミー・ドーシーの演奏と、ジーン・ケリーのパワフルなダンスは、これぞMGMミュージカル!のお楽しみ。

これメイと相思相愛!とアレックが喜んだのも束の間、メイは大金持ちのウイリー(ダグラス・ダンブリル)とデートの約束をしていた。しかしクローク係のルイス・ブロアは、それが許せなくて、ささやかな悪戯をして、ウイリーは、サラダを頭から浴びてしまいデートは中止。メイは「帰る方向が同じ」のルイスと地下鉄に乗る。そこで「愛はないけど金持ちと結婚」するのがいいか「愛はあるけど貧乏暮らし」のどっちがいいかの議論となる。

ステージでは、トミー・ドーシー楽団の演奏で、美しきヴァージニア・オブライエンが”Salome”(作曲:ロジャー・イーデンス 作詞:EYハーバーグ)を唄う。無表情が売りのヴァージニアのヴォーカルはなかなか。

ある日、そんなルイスに、郵便配達夫・チャーリー(ラグス・ラグランド)が電報を届けにやってくる。ここでレッド・スケルトンとラグス・ラグランどのヴォードヴィル的な逆の応酬が展開。さて、電報を開いたルイスはびっくり、なんと宝くじが当選、たちまち$150,000の大金持ちに! この電報を開いてから、当選を知って卒倒するまで、レッド・スケルトンがボケ倒すのがおかしい。最初は「ああ、また間違いだ」と電報を閉じてから、チャーリーに促されて金額を確認。ようやく気がついて、目を白黒させて、後ろにバッタリ倒れる。

一夜にして大金持ちになったルイスは、記者の取材に「メイ・デイリーと結婚する」と宣言。確かに彼女は「愛情よりもお金」主義だったが、これはルイスのフライング。ナイトクラブでは、ルイスが大金持ちになったお祝いパーティを開くことに。メイやアレック、スタッフたちもパーティに参加するために集まってくる。

ステージでは、トミー・ドーシー楽団の演奏によるプロダクションナンバー”I Love an Esquire Girl”(作曲:ロジャー・イーデンス 作詞:ルー・ブラウン、ラルフ・フリード)が展開される。レッド・スケルトン、パイド・パイパーズの唄で繰り広げられるカラフルなファッション・ショー。雑誌「エスクワイア・マガジン」の表紙を飾る12人の美女たち。1月から12月まで、ユニークなファッションの美女がずらり。ミス2月にはマリリン・マックスウェルがノンクレジットで登場。アーサー・フリードは、こうした「カヴァー・ガール」ナンバーが好きで『イースター・パレード』(1948年)でもリフレインされる。

メイはルイスの結婚の申し出を「愛がなくてもいいのなら」とお金だけの関係ならと受け入れる。アレックは完全敗北を認めるが、ルイスは横恋慕されたら叶わないと、チャーリーの策略で、お酒に強力な睡眠薬を入れてアレックに飲ませようとする。その間に、メイと結婚してしまえばいい!という姑息なアイデアである。しかし、間抜けなチャーリーが酒を間違えてしまい、ルイスが飲んで、意識不明となる・・・

ここからが、このミュージカルの面白いところ、深い眠りに落ちたルイスが目覚めると、なんとヴェルサイユ宮殿のベッド。ルイスはいつの間にかルイ15世となっていた。彼は愛しのデュバリエ夫人(ルシル・ボール)を別荘に尋ねるも、彼女は接吻を許さない。そこへ革命党のリーダー、正義の志士・ブラック・アロー(ジーン・ケリー)が現れて、ルイ15世の圧政を責め立てる。そんなブラック・アローに夢中になったデュバリエ夫人は、侍女(ヴァージニア・オブライエン)とともに、革命党のアジトへ・・・

後半は、タイトル・ロール”デュバリエ夫人”とルイ15世、正義の志士・ブラック・アローの三角関係となる。現実の暗喩としての夢のシークエンスだが、これまたゴージャスなヴィジュアルで、トミー・ドーシー楽団も宮廷音楽家としてご機嫌なスイング・ナンバー”Katie Went to Haiti”(作詞・作曲:コール・ポーター)をパイド・パイパーズがコーラス。歌姫はなんとジョー・スタフォード! バックにはディック・ヘイムスがいる! バディ・リッチのドラムスがカッコいい!

と賑やかなフレンチ時代劇ミュージカルが展開して、ルシル・ボールの本心はジーン・ケリーにありで、レッド・スケルトンが失恋。と相なる。瀬川昌治監督が、助監督時代にこの作品を観て「面白かった」と話してくれたことがある。瀬川喜劇の「夢のシーン」のルーツなのかもしれない。

で、ラストは、夢から覚めたルイス、アレックス、メイ、そしてジニー、ジミー・ドーシーも加わって、コミカルなショー・ストッパー”Friendship”となる。ラグス・ラグランド、ゼロ・モステルたち全キャストでの楽しいフィナーレとなった。

【ミュージカル・ナンバー】
♪デュバリイは貴婦人 DuBarry Was a Lady (1943)

作曲:バートン・レーン 作詞:ラルフ・フリード
*唄・コーラス:ルシル・ボール(吹き替え・マーサ・ミァーズ)、コーラス(ナイトクラブ・シークエンス)

♪ドゥ・アイ・ラブ・ユー? Do I Love You? (1939)

作詞・作曲:コール・ポーター
*タイトルバックのBGM
*唄:ジーン・ケリー(メイの楽屋)
*ダンス:ジーン・ケリー、コーラス(ナイトクラブ)
*リプライズ:トミー・ドーシー楽団

♪マイ・マン My Man (Mon Homme)

作曲:モーリス・イヴァン 仏語詞:ジャック・チャーリーズ、アルバート・ウイルメッツ 英語詞:チャニング・ポロック

♪シンキング・オブ・ユー (I've Grown So Lonely) Thinking of You (1926)

作詞・作曲:ウォルター・ドナルドソン、ポール・アッシュ
*パフォーマンス:スリー・オックスフォード・ボーイズ(ケイ・カイザー楽団のモノマネ)

♪シガレット・スィート・ミュージック・アンド・ユーA Cigarette, Sweet Music and You (1942)

作詞・作曲:ロイ・リングウォルド
*パフォーマンス:スリー・オックスフォード・ボーイズ(フレッド・ワーリングとペンシルヴァニアンズのモノマネ)

♪スリーピー・ラグーン Sleepy Lagoon (1940)

作曲:エリック・コートス 作詞:ジャック・ローレンス
*パフォーマンス:スリー・オックスフォード・ボーイズ(ハリー・ジェイムズ楽団のモノマネ)

♪ユー・アー・マイ・サンシャイン You are My Sunshine (1940)

作詞・作曲:ジミー・デイビス、チャールズ・ミッチェル
*パフォーマンス:スリー・オックスフォード・ボーイズ(ガイ・ロンバート楽団のモノマネ)

♪アイム・ゲッティング・センチメンタル・オーバー・ユーI'm Getting Sentimental Over You (1932) (Tommy Dorsey's theme song)

作曲:ジョージ・バスマン 作詞:ネッド・ワシントン
演奏:トミー・ドーシー楽団

♪サロメ Salome (1943)

作曲:ロジャー・イーデンス 作詞:EY・ハーバーグ
*唄:ヴァージニア・オブライエン 演奏:トミー・ドーシー楽団

♪アイ・ラブ・アン・エスクワイア・ガール
I Love an Esquire Girl (1943)

作曲:ロジャー・イーデンス 作詞:リー・ブラウン、ラルフ・フリード
*唄:レッド・スケルトン、コーラス:パイド・パイパーズ、ディック・ヘイムス、ジョー・スタッフォード

♪レディース・オブ・バス Ladies of the Bath (1943)

作詞・作曲:ロジャー・イーデンス
唄:レッド・スケルトン、コーラス

♪ケイト・ウエント・ハイチ Katie Went to Haiti (1939)

作詞・作曲:コール・ポーター
唄:パイド・パイパーズ、ジョー・スタッフォード、ディック・ヘイムス 演奏:トミー・ドーシー楽団

♪マダム・アイ・ライク・ユア・クレープシュゼットMadame, I Like Your Crepe Suzettes (1943)

作曲:バートン・レーン 作詞:ラルフ・フリード
*唄・ダンス:レッド・スケルトン、ルシル・ボール(吹替:マーサ・ミアーズ)

♪ソング・オブ・ザ・レベリオン Song of the Rebellion (1943)

作詞・作曲:ロジャー・イーデンス
*唄:ジーン・ケリー、コーラス

♪ホット・タイム・イン・ザ・オールドマン
A Hot Time in the Old Town (1896) 

作曲:テオドール・メッツ

♪フレンドシップ Friendship (1939)

作詞・作曲:コール・ポーター
*唄:レッド・スケルトン、ルシル・ボール(吹替:マーサ・ミアーズ)、ジーン・ケリー、ヴァージニア・オブライエン、トミー・ドーシー、ラグス・ラグランド、ゼロ・モステル 演奏:トミー・ドーシー楽団。

♪ウエル・ギット・イット Well, Git It!

作曲:サイ・オリバー
演奏:トミー・ドーシー楽団 ドラム・ソロ:バディ・リッチ


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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