太陽にほえろ! 1973・第62話「プロフェッショナル」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第62話「プロフェッショナル」(1973.9.21 脚本・長野洋、小川英 監督・山本迪夫)
永井久美(青木英美)
榎本(郷鍈治)
北川かおる(三林京子)
尾崎(柳生博)
山内弘(城所英夫)
桐生かほる
情報屋(大村千吉)
森本三郎
糸山源次郎(大滝秀治)
予告篇の小林恭治さんのナレーション
「金庫破りの名手が続々と集まってくる。女の指図通り動く男たちの目的は? 藤堂はその犯罪の一角すら掴むことができない。ボスの特命を受け、にわか箱師に仕立て上げられた殿下は、一味に潜入した。狙う金庫はどこに? 糸を操る大物は? 命を張る殿下の行動を、藤堂たちもついにキャッチできなくなるのだ。次回「プロフェッショナル」にご期待ください。」
今回は、なんと殿下が金庫破りのプロに仕立てられて、難攻不落の大金庫に挑む。『黄金の七人』(1965年)や『シシリアン』(1970年)など60年代から70年代にかけて、数多く作られた、プロフェッショナルによる犯罪映画のノリが楽しめる。いつもながらにワルをやらせたら右に出るものはいない郷鍈治さん、「太陽〜」では三度目となる柳生博さん、俳優座のベテラン城所英夫さんが、プロフェッショナルの役。そして美人女優で人気だった三林京子さんが華麗なる女ボスを演じている。さらに劇団民藝のベテラン・大滝秀治さんが名うての金庫破りのプロとして、たっぷり芝居を楽しませてくれる。これぞ「太陽にほえろ!バイプレイヤーズ」の魅力!
三林京子さんのお父さんは、文楽の人形遣い・人間国宝の二世桐竹勘十郎さん。三林さんは幼い頃から山田五十鈴さんに師事して子役から女優へ。芸名は劇作家・菊田一夫が名付けたもの。この時、まだ22歳だったが、女ボスの貫禄があるのはさすが!
ある日、ゴリさんとジーパンは、クルマに轢かれそうになる三輪車の幼児を助ける。ゴリさんはクルマの運転手・山内弘(城所英夫)と顔見知りだった。山内は「人違いでしょう。失礼!」と急発進して、立ち去る。ジーパンは、走って車を追いかける。その後を走るゴリさん。二人とも無茶するね。山内、車を飛ばして一安心。ところがバックミラーには、追いかけてくるジーパンの姿が。結局、対向車を避けたところで電柱にぶつかりそうになる山内の車。そこへジーパンが追いつく。
「おい、なぜ逃げるんだ?」
「俺も急いでるんだよ。一体、俺が何をしたっていうんだ?」
そこへゴリさん走ってきて、車のキーを抜く。「貴様、故意に俺を跳ね飛ばそうとした」。傷害未遂、公務執行妨害で七曲署へ連行される。ゴリさんは山内のアタッシェ・ケースが気にかかっていたのだ。
捜査一係。ゴリさんとジーパン、山内を連行してくる。「ジーパン、調書とっておけ」「はあ?」。ゴリさんに耳打ちされたボス、近づいてきて「黙秘権とは古い手だな、山内弘」。アタッシェ・ケースの中を見せろとボス。断る山内。ボスは「ゴリ調べろ」「いいんですか?」「いちいち聞くな」。ジーパン、山内を羽交い締めにしている間に、ゴリさん、山内のポケットから鍵を奪い、ケースを開ける。中には箱師=金庫破りの七つ道具が。「これから大仕事ってとこだな?」とボス。
山内を演じた城所英夫さんは、俳優座で小林昭二さんの同期。TBSの「七人の刑事」の中島刑事役でお茶の間に知られていただけに、この取り調べシーンはなかなか面白い!
白昼。トランクを下げた三揃いを着た男(郷鍈治)があたりを見回しながら通りを渡る。タバコを買っていた長さん、男が金庫破りの榎本だと気付く。
ボストンバックを下げて、白い民族衣装風のシャツを着た日焼けした男(柳生博)が新宿東口前の横断歩道を注意深く渡っている。それを目撃してギョッとなる靴磨き(大村千吉)。勤務中に雀荘にいる山さんに、靴磨きから電話で「間違いないありません。尾崎がこの街に来たんですよ」とタレコミ。靴磨きは山さんの情報屋だったのだ。
現役バリバリの金庫破りで箱師では右に出るものはいない山内。
元はサーカスのブランコ乗りで身のこなしは見事な榎本。
東都大学で電気工学を専攻したインテリでどんな警報装置でも無力化してしまう尾崎。
「すごーい。超一流のプロフェッショナルばかり」と感心する久美。黄色いワンピースがかわいい。その久美を、ボスは「面白がるな。お前の大好きなミステリ小説とは違うんだぞ!」と嗜める。「奴らがどんな金庫を狙ってようと、この街でそんな真似をさせてはならん。俺たちの面目にかけてもな」。金庫破りのプロフェッショナルに挑む、捜査のプロフェッショナル!
一味のアジト。スライドを投影して、狙いのビルについてレクチャーをする女(三林京子)の話を榎本と尾崎が聞いている。榎本「俺に入れないビルがあると思うのか?」。尾崎は金庫の前の赤外線を見抜いて、二重の警報装置であることを一枚の写真から判断する。女は、普通の隠し電源に触れると非常ベルが鳴る仕組みになっていると説明する。しかも、女はすでにビル全体の図面と電気配線図、金個室の詳細図を建設業者から手に入れていた。彼女もまたプロフェッショナルなのである。
しかし「一つだけ手違いがありました」。もう一人の参加者の山内がまだ到着していないのだ。「遅れても限度内にくれば計画通りにやるんだろ?」と榎本。女は頷いて「ただし、遅れた理由が最もなものならばです」。かなり慎重である。
取調室では山内がボスの詮議を受けている。ボスは鰻をとって、山内にドロを履かせようとしている。「なかなかいけるぞ、このうなぎ」とうまそうに食べる(笑)山さんも御相伴に預かっている。いたずらに時間が経過しているので、山内は焦りまくっている。「悪い人にめっかっちゃった・・・ついてねえな」と嘆く山内。
満腹のボス「狙いはどこだ?」。山内「そいつはわからねえ」。ひと月前に、若い女から「支度金百万、報酬三千万で、ひと仕事やってくれ」と若い女から依頼があったことを、渋々話す山内。女の正体は山内も知らないようだ。仕事のメンバーもまだわかっていないとも。「ボスの名前は? お前たちのようなプロが、若い女に顎で使われるわけないだろう?」とボスが突っ込む。うなぎが食べたい山内は、女との連絡は、三番町ホテルの503号室に電話がかかってくることになっていると、ついに白状する。
「イチかバチかやってみるか」ボスの心の声。
新宿歌舞伎町。東映の映画館では『山口組三代目』上映中。殿下、女の子(桐生かほる)と映画デートの帰り。バックに流れるのは山本リンダさんの「狙い撃ち」の「歌のない歌謡曲」。殿下が女の子を家に送ろうと優しく声をかけた途端に、悔やみからゴリさんが出てきて殿下を拉致。代わりにジーパンが「おたくまでお送りしますよ」。女の子は悲鳴をあげて逃げていく。
「そうか、見合いとは知らなかった。悪かった」とボスが殿下に謝る。ボスは、あるプロ集団が七曲署管轄のどこかの金庫を狙っているが、それを止める手立てがない。そこで、本日非番で、連中に唯一面が割れていない殿下に潜入してほしいと殿下に依頼する。「やってくれるか?」「やらしてください」。
ボスは山内に、殿下を、一日で「一流の金庫破りに仕立てて欲しい」と頼む。面食らう、山内「なんですって!」通りで鰻を奢ったわけだ(笑)
捜査一係。長さんが、プロフェッショナルたちを動かせる人物を洗ってみるが、東京近辺にはいないという結論。唯一可能なのは、東京刑務所で服役中の箱師・糸山源次郎(大滝秀治)だった。「あの爺さんなら何か知ってるかもしれないな」とボス。
刑務所。糸山源次郎(大滝秀治)に面会するボス。「一体どういう風の吹き回しなんです?」「昔なじみの顔を見にきたんだよ」。ボスは二度、糸山を逮捕したことがある。山内が一流の箱師になっていることを伝え、尾崎を知っているか?とボスが尋ねるが、糸山は「知らないね」。唯一、榎本の名前には反応する。「そいつなら、ブランコ上がりだろ?」「昔の仲間の話を聞くと血が騒ぐだろ?」とボス。しかし塀の中じゃ何にもできない。今度出たら、公園の掃除でもして「スズメと一緒に暮らしますよ」「邪魔したな」とボスは出ていく。
三番町ホテルの指定の部屋に、「にわか箱師」の殿下が颯爽とやってくる。ゴリさん、長さんが、殿下の部屋の音を聞いている。そこへ女(三林京子)から山内あてに電話。「奴は来れない」と殿下。交通事故に遭って入院した山内から変わりを頼まれた「島田だ」と名乗る殿下。女は30分後、胸に薔薇の花をつけて、ホテルの正面から左にまっすぐ歩くように殿下に指示を出す。
指示通りに歩く殿下。ジーパンはビルの屋上から殿下の動向をチェック。ボスの的確な指示。みんなが殿下をサポートしている。そこへ榎本の車が近づいてきて殿下を乗せる。アイマスクをつけさせられる殿下。なんとか無線で状況を伝えようとするが、どこを走っているのか、皆目見当がつかない。やがてアジトの地下駐車場へ。郷鍈治さんクールでかっこいいね。地下駐車場にレシーバーを置いていく殿下。
「驚いたな、あんたがボスとは!」と北川かおる(三林京子)をみてニヤリ。すぐに殿下のテストが始まる。部屋にある金庫を、七つ道具を使って手際良く開ける殿下。山内と同じ手順に感心するかおる。テストは合格。殿下「ちょっと飯を食ってくる」と部屋を出ようとする。しかし外へは出られない。「外へ出ないでと言ったのには理由があります」とかおる。「決行が明日の早朝に迫っているからです」。
ジーパンが陸運局で榎本の車を調べるが、2年前に廃車となっていた。周到なプロの仕業である。その慎重さが異常だとボス。「まるで鼻っから刑事だと疑ってかかっているようだ」。殿下とかおるの電話でのやりとりをテープで聞く。かおるが「山内(やまのうち)さん」と「さん付け」で言ったことにボス、山さんが気づく。久美が「私の友達にもいたわ、人が山内(やまうち)というと、いちいち山内(やまのうち)と言い直すの」。何かに気づいたボス、立ち上がり「山さん、あと頼む」と出ていく。
ボスは殿下にもしものことがあったら、全責任を追う覚悟でいる。これ以上、自分の推理にみんなを巻き込みたくないんだと山さんが、ジーパンに説明する。「ジーパン、俺たちには俺たちの仕事がある」とボスを追いかけようとするジーパンを嗜める。このチームワーク! これが「太陽にほえろ!」の魅力。ジーパン篇になるとこの結束力がさらに高まってきた。
山さんはジーパンと管内のめぼしい金庫をあらためて当たることに。「久美ちゃん、連絡の方をしっかり頼むよ!」。久美も一係の重要なメンバーなのだ。
アジトではターゲットが殿下に告げられる。ネズミ講の「全日経済会」がその狙いだった。摘発間近なので金庫は空ではないか?との殿下の指摘に、かおるは「全日経済会は法の改正を目論むために、億単位の政治献金を用意している」。そういう曰く付きの金だから盗んだとしても足がつくことはない。「会社はこの金を好評しっこないからな」と榎本。仕事の手順は尾崎が心得ているので殿下はその指示に従えばいい。「もうまもなく夜が開けます。そろそろ支度をしてください」とかおる。
殿下、少し焦ってきている。「一体、あんたたちのボスは誰なんだ?」「あなた、そのことを山内(やまのうち)さんからお聞きにならなかったんですか?」「ボスはこの私だと思って下さって構いませんわ」。三林京子さん、なかなかいいね。「しかし・・・」と何か言いたげな殿下に、榎本が「もう車は走り出しているんだ。今更止めようとしても止まらないよ」。日活アクションの悪巧みの世界!
道具を点検する殿下。小型発信機をセットする。電波をキャッチするゴリさん、ジーパン、久美。殿下はトイレで発信機を靴の底に隠す。スパイ映画みたい! 誰もが殿下の行方を追う。まだ早朝、ボスは埠頭の前の「奄美」というトンカツ屋から出てくる。
作業着に着替えるチーム。「ではこの靴に履き替えてください」とかおる。「用意ができたら、私はここでお別れします。成功を祈ります」。チームは出発する。ほっと一息ついたかおるは、殿下の靴を見つける。電波が途絶えてしまい、山さんたちが焦る。気づかれたのだ。
水道工事を装い、ビルに通じるマンホールに入る榎本。覚悟を決めた殿下「よし、こうなればとことんまで付き合うぞ」と心の声。ビルに到着する尾崎のクルマ。「小便してくる」という殿下を「だめだ出ちゃ」と制止する尾崎。「全て決められた通りにやるんだ」と慎重である。
榎本はビルのボイラー室に潜入。警備員を次々と襲い、気を失わさせる。「時間だよ」尾崎に促された殿下、ビルの地下へ。手引きする榎本。三人はそれぞれの持ち場へ。まず尾崎は電源を切り、殿下が金庫室の鍵を破る。巧妙に仕掛けられたトラップを冷静に解除していく尾崎。これぞプロフェッショナルの仕事!60年代に「黄金の七人」などの犯罪映画が数多く作られたが、そのテイストが溢れている。
いよいよ金庫へ。その前に殿下「その前にボスの名前ぐらい教えろよ。訳もわからずこんな仕事ができるか」。そこで榎本「できなくてもやるんだ!言ったはずだろ、もう後戻りはできねえって」。殿下は、時間稼ぎをすることに「予定が狂えばきっとこいつらボロを出す」と心の声。
ジーパン、山さんたちはかおるのアジトへ。そこで殿下の発信機が外された靴を発見。「やっぱり殿下が刑事だとバレたのか」とゴリさん。
時間稼ぎをしている殿下を不審に思った榎本、殴って殿下を意識不明に。「あんた、なんてことを」と尾崎。「あわてんな、これも予定の行動さ」「え?」。かおるは最初から殿下を刑事かもしれないと踏んでいたのだ。「サツに連絡が取れなければ、デカなんぞ怖くない」。それで殿下を意識不明にしたのだ。「デカでもなんでもいいから、金庫を開けるところまでやらせろっていうのが女の腹だ」と榎本、尾崎を支持して金庫破りを続ける。
金庫に穴が空いた。強力なコンプレッサーで現金を次々と吸い取る、尾崎。一方、アジトではジーパンが見つけた新聞からターゲットが「全日経済会」だと、山さんが気づく。
金庫。コンプレッサーで金を吸い出していく榎本と尾崎。ニンマリ笑う。完全に犯罪映画のノリ。奪った金はダストシュートでゴミとして外に出す。ゴミ回収車の作業員に化けたかおる。顔に墨をつけたメイクがかわいいね。金を奪ったところで、殿下を起こして「ずらかるんだ」と榎本。ビルの外にはパトカーのサイレンが鳴り響く。殿下と榎本、もみ合いになる。殴り合い。尾崎はビビっている。そこへジーパン、ゴリさん、長さん、山さんたちが駆けつける。
しかし金はすでに、ゴミ回収車へ。榎本「あんたたちの負けだ。二億円近い金は、まんまとあの女の手にはいった。いずれ、俺たちの口座に振り込まれるさ」不敵に笑う男・郷鍈治さん。「こんな面白え話はないさ! あの小娘ひとりにサツが手玉に取られたんだからな」。
ゴミ回収車が早朝の街を走る。たどり着いたのは埋立地の廃屋。現金を取り出して、ほっとして微笑む、かおる。止めてあったフィアット124の中の赤いスーツケースに現金をつめる。悠々と自分のマンションに帰ってくるかおる。白いツーピースが眩しい。トランクからスーツケースを取り出し、マンションの自室へ。しかし、リビングに座っていたのは・・・ボスだった!
「ご苦労だったな、糸山かおる」
東京刑務所。糸山源次郎(大滝秀治)が事務所に入ってくると、ボス、殿下、そしてかおるが待っていた。源次郎びっくりする。「かおる・・・」「だめだったの、やっぱり・・・」「そうか、やっぱりな・・・」
かおる、ボスに
「お父さんを責めないでください。お父さんはやめろ、って言ったんです。俺の名前で一流のプロが集まっても、たとえ仕事がうまくいっても、どうせ行く末は俺みたいになる・・・」
ボス、源次郎を見つめる。
「でも私、やめられなかった・・・」。かおるは「全日経済会」で秘書をしていた。大金が「バカみたいなことに使われるのをみているうちに、どうにも我慢ができなくなって」泣き崩れる。
源次郎「勘弁してくださいよ旦那。娘にそうまで言われると、やっぱりこれは俺の業かな?なんて、気がしましてね」
ボス「計画は見事なもんだったな。あんたが別れたカミさんが、娘さんを引っとったのを思い出さなかったら、俺も危ないところだったよ」「旦那」「公園でスズメと一緒に暮らす日は、だいぶ先に伸びたようだな、なあ、じいさん。それまで達者でな」
「旦那、一つだけ、聞かしておくんなさい」
「なんだ?」
「これがあっしと娘の仕事だって、どうしてわかったんだい?」
「山内(やまのうち)さ。本人ですら山内(やまうち)って言ってるのに、謎の女は山内(やまのうち)と言った。頑固爺さんのあんたそっくりの口調でな」
親子の絆。なぜかほっとしたような源次郎の微笑み。ボスも微笑む。
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