太陽にほえろ! 1973・第66話「生きかえった白骨美人」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第66話「生きかえった白骨美人」(1973.10.19 脚本・田波靖男、四十物光男 監督・小川英)
永井久美(青木英美)
川上美子(天地総子)
寺岡<旧姓中川>(西沢利明)
松沢博士(梅野泰靖)
戸川不動産・社員(山本勝)
田口和子(伊藤めぐみ)
寺岡初江(黒田郷子)
アパートの元住人(披岸喜美子)
山田澄子(桂木美加)
ホステス(麻里ともえ<阿川泰子>)
石橋曉子
七曲署刑事(泉たけし)
大野広高
田口良三(浜村純)
和子の同僚(執行佐智子NC)
予告篇の小林恭治さんのナレーション
「三年前の死体が白骨で発見された。身元も割れない殺人事件が行き詰まりを見せたとき、白骨から顔が復元されたのだ。数々の科学捜査で決め手を打ち出す女鑑識係長と七曲署の荒くれ刑事が真正面から対決する。そして犯人捜査が進むにつれて剥き出される人生の悲喜劇。次回「生きかえった白骨美人」にご期待ください。」
今回は意表を突く娯楽映画的な展開! 田波靖男さんと四十物光男さんのコンビによるユニークな作品。ゲストにCMソングの女王で人気タレントだった天地総子さん。裕次郎さんとは『青年の樹』(1960年)や『太陽への脱出』(1963年・いずれも舛田利雄)で共演してきた劇団民藝のベテラン・梅野泰靖さん。裕次郎さんの『二人の世界』(1966年・松尾昭典)で孤高のギタリストを好演した浜村純さん。ジャズ・シンガーの阿川泰子さんが麻里ともえの芸名で出演。翌1974年には山本迪夫監督の『血を吸う薔薇』に出演することになる。
一係。ジーパンが手錠の手入れをしていると、久美がランチから帰ってくる。秋だから食べすぎたとぶつぶつ言っているのが可愛い。今夜は当直で連続婦女絞殺事件の容疑者が逮捕されて取調べで忙しいからと、ジーパンも腹ごしらえに出ようとする。好奇心旺盛な久美は「どんな顔しているのかしら。興味津々」。ミステリマニアの久美は警察に勤めている自負がある。ジーパンが出ていった後、「あたしもシンコさんみたいに試験を受けて、一人前の刑事になろうかしら!」「女刑事・久美。まんざら悪くないな」とニヤニヤする。ところが手錠で遊んでいるうちに、鍵が見当たらずに手錠が外せなくなる。
そこへ「捜査第一係ってここですか?」と田口良三(浜村純)が訪ねてくる。手を隠しながら対応する久美。「あなたも刑事さんですか?」「ええ、そんなところかしら」。おいおい。田口は新聞に報道されている「連続絞殺魔」がニセモノであると訴える。大阪から護送中のこの容疑者はちょうどゴリさんたちが東京駅に迎えに行っているところなのだ。
「でも、どうして?」
「なぜって、真犯人は私なんです」
「なんですって?」
「どうか、その手錠をこの私にかけてください」
戸惑う久美に、田口は「こうやって締め殺したんです」と犯行を再現する。驚いて気を失う久美。目が覚めるとジーパンが帰ってきている。取調室で狐うどんを食べながら、田口の取調べを始めるジーパン。田口良三、52歳、新宿区要町の三信マンションの管理人をしている。取り調べがもどかしく田口は「早く、私を逮捕して、罰してください」と懇願する。「証拠だってあるんです」と犯行時に指紋がつかないように手袋をしたと主張する。「こんなことは犯人じゃなきゃ言えないですよ」「そういうのは新聞に出てるんですよ」とジーパンは困り顔。なぜ自首する気になったのか?「夢で殺した女たちの亡霊が現れて、私を苦しめるんです」。疲れ果てた田口は、ぐっすりと眠りたいと、自首してきたという。「私を助けると思って、早く死刑にしてください」。
そこへ報道陣とともに、大阪から護送されてきた容疑者が到着する。ゴリさんがマスコミを制しながら、山さんが取調室へ。「おい、ジーパン。この部屋、借りるぞ」。ジーパンは、こっちも絞殺魔の取調べをしているから、他の部屋はないかと。山さん、田口の顔をみて「なんだ。またお前か田口」。ゴリさん「早く帰らないと偽証罪になるよ」と諭す。田口は札付きの「自首マニア」だったのだ。ゴリさん「ご苦労さん」と田口を追い返してしまう。ジーパンが取調室を出ると、田口が待っていて「あんた、優しい刑事さんだね。だから教えてあげるよ。本当は私がやったんだ」。田波脚本らしいコメディ映画的な展開。
翌日、一係。結局、山さんの粘りで真犯人は自供して一件落着。「さすが落としの山さんですね」と殿下。「これで被害者の女性も成仏できるよ」と長さん。面白くないのはジーパン。久美はその気持ちを察して「がっかりするのよしなさいよ」「がっかりなんかしてない」。ジーパンは田口のことが気になるのだ。「いくら自首マニアだって、あんなに迫力のある嘘がつけるのかな?」。どうしてやってもないことを自白したがるのか?ジーパンは山さんに疑問をぶつける。「警察よりも医学の問題だな」。長さんは「あの爺さんは記憶喪失症なんだよ」と説明する。三年前に一人娘が家出してから岡sくなったんだという。殿下も新人時代に、田口には振り回された。ゴリさん「とにかく若い女性が殺されたというと、すぐ自首してくるんだ」。
そこへ、矢追町の工事現場から白骨死体が発見されたと連絡が入る。ゴリさん、殿下、ジーパンが現場へ急行すると、いきなり「ダメよ。そこから一歩も入っちゃだめ!」と仕切っていたのが、科学警察研究所技師・川上美子(天地総子)だった。ゴリさんが警察手帳を出そうとすると「いいのよ、手帳なんか出さなくても、刑事はどこでも同じなんだから」と自信満々。ゴリさんの服装を貶すが、殿下には「割と趣味のいいネクタイしてるじゃない」と(笑)「あなたも眼鏡なんかかけなければ、相当な美人だろうに、もったいないね」と殿下。今では完全にアウトのセリフだが、洒脱な作風の田波脚本は、ハリウッドの「スクリューボール・コメディ」を意識して、こういうキャラクター、こういうセリフを書いている。そしてジーパンには「ダメよ。野次馬はあっち行って」。人を見かけで判断する。この三段オチもコメディの常套手段。
「おそらく三年以上も前の仏さんだと思うわよ。あなた方みたいに非科学的捜査をする人たちが、いくら現場を探ってもなーんにも出てきやしませんよ」
その言い方にカチンとくるゴリさん。最悪の出会いをして半目しあう男と女。これもハリウッド・コメディの常套手段である。フェミニストの殿下を褒めて、粗野なゴリさんには手厳しい。ここで美子と刑事たちの対立を印象付けておいて、何かにつけていがみあう、というコミカルな展開となっていく。発見された頭蓋骨を手にして「うーん。なかなかいい形をしているわ」と美子。「かなりの美人ね」。しかしゴリさん「どうだか」と鼻で笑う。今回のテーマは「科学捜査」。殿下「あなた、今、美人といいましたけど、被害者は女ですか?」。
「そうね、23、4ってとこかな? でも処女じゃないみたい」
どうしてそこまでわかるのか? 殿下もゴリさんも??? 美子は、指紋と同じで頭蓋骨は千差万別、どれをとっても同じものはないと、嬉しそうに説明する。「ボーンズ:骨は語る」などよりもはるか前、テレビの前で「へえ!」と感心したのを覚えている。あとは自分たちが頭蓋骨の分析をするから、ゴリさんたちは三年前の状況をよく調べておいた方がいいわよ、と美子。いつの間にか、野次馬の中に「自首マニア」の田口が紛れ込んでいて、例によって「私です!やったのは私です」。美子、間に受けて「じゃ、あなたは本当に?」。今度はジーパンも呆れてその場を立ち去る。
捜査会議。都営アパート建設現場で整地中のエリアから頭蓋骨が発見された。長さんの説明によれば、以前は東京都の緑地指定地だった。ところが計画変更により都営アパート建設が始まったところに遺体が掘り出された。埋められた頃、ここは空き地だった。近所の人の話によるとたまにアベックが入るぐらいで、こっそり死体を埋めるには都合の良い場所だった。山さんは、犯人が緑地指定地だと知っていたなら、死体が掘り返されないと自信があったのだろうと分析する。犯人は近所に住んでいるものとは限らない。「土地の事情に詳しい不動産業者や都の計画を知っているものなら」とボス。
そこへジーパンが科警研からの報告を持ってくる。美子は来ないのか?とゴリさん。ジーパン「後で来るそうです」。科警研によれば「被害者は女性。年齢は23、4歳。死因は不明。左の第二及び第三臼歯に、虫歯の治療の跡あり」。有力は手がかりは虫歯。一係の刑事たちは被害者を治療した歯医者を探す。また家出人や捜索願いが出ている女性から該当しそうなものをピックアップすることに。
刑事たちの地道な捜査が始まる。ゴリさん、長さんは歯科医をあたり、殿下は女性のリストを調べている。同僚刑事(泉たけし)が殿下に「色男はつらいね。若い女性ばかりじゃないか」と揶揄う。「そろそろ嫁さんでも探そうと思ってね」。同僚刑事もニヤニヤして「探してやろう。どんな女がお好みかね」「そうだな、若くて骨の綺麗なのがいいな」。ジーパンがとある歯科医に、ところが患者だと間違えられて、散々な目に。田波脚本回は、いつもシーンの終わりにこうしたオチが書き込まれている。結局、所轄内の歯医者は見つからなかった。
ところが殿下の調べでは、リストの中の虫歯を治療した女性を探すうちに「自首マニア」田口の娘・田口和子(伊藤めぐみ)が浮上してきた。こうなったら治療した歯医者を「草の根を分けても探し出しますよ」とゴリさん。そこへ「そんな大変なことする必要ないわ」と科警研の川上美子がやってくる。「刑事の武器はカンと足だというけど、もうちょっと科学捜査を信用したらどうなの?」と自信満々。
美子は、頭蓋骨から被害者の顔を立体的に復元してきたのである。「本当にこれが?」と殿下。「そうね髪の毛がないから変に見えるけどね」と美子。はっと気づいて、自分のウイッグを外して、復元像に被せてみる。なんと、田口和子の写真とそっくり!「いかが?これで科学の偉大さがわかったでしょ?」。みんな感心する。ボス「とにかく、田口和子の線を洗ってみよう」。
話題は「自首マニア」の田口の話に。「今度の自白は本物かもしれないわよ」。ゴリさん「そうかなぁ、彼は記憶喪失症なんですよ」。美子は「その記憶喪失症も調べてみないとね」と示唆をする。ゴリさん、美子に感心して「あなたには怖いものなんかないんですか?例えばお化けとか」「恐怖というのは正体がわからないから怖いのよ」。よく実態を見極めれば怖いことなんてない、と科学者らしい明快さで答える。
ゴリさんとジーパンは田口をあたり、他の刑事たちは近所に聞き込みを始める。
三信マンション。水まきをしている田口に声をかけるゴリさん。「やっぱり、あの白骨死体のことで逮捕しにきてくれたんですね」と嬉しそう。ジーパンが和子のことを聞きたいと告げると「私は娘のことなど、全然憶えてませんよ」。記憶を失っているが、娘がいたことだけは朧げながら覚えているのだ。「私が記憶を無くしたのも、娘のせいだそうですから」「なぜ?」「娘が私の頭を殴って怪我をさせてしまったから(自分は)こんなになっちまったんです」。誰がそんなことを? マンションの持ち主の社長が言っていた。その社長はマンションの最上階、6階に住んでいるという。
寺岡社長の部屋。夫人の寺岡初江(黒田郷子)がお茶を出す。近所の噂で白骨死体が持ちきりだという。寺岡(西沢利明)はパターをしながら「私は何も知らないからね。お前に任せるよ」と事情聴取に消極的。三年前のことを話して欲しいとゴリさん。「その頃は、青山の方に住んでいたので、田口とは全くお付き合いがなかったし・・・」。初江によれば田口は、ここに建っていたアパートの店子だったという。二階建ての古いバラックのアパートを取り壊してマンションを建設していたのだ。ゴリさんは住人の立退問題について質問をする。
そこで寺岡社長。「そういえばその件で、田口親子と二、三度会っているな」と当時のことを思い出す。ジーパン「娘さんが田口さんを殴ったというのは本当ですか?」。寺岡社長は「本当かどうか知らんが」と前置きをして、100万円の立退料を払った翌日、田口が部屋の中で、頭を殴られて倒れていたという。みんな田口のことを「爺さん」というけど、52歳の三年前だからまだ49歳だった。浜村純さんは、この時67歳だから、この時代の感覚では「爺さん」だろうけど・・・。
その時、和子は立退料の100万円と一緒に消えていたと、寺岡社長。金欲しさに父親を殴り倒して逃げた。そうとしか考えられないと、断言する寺岡社長。田口を管理人にしたのは、引き取り手のない気の毒な人だから「それだけのことですよ」と寺岡社長。ゴリさんは刑事コロンボよろしく「もう一つだけ。そのアパートの住人で立退先のわかっている人ありませんか?」「そりゃ無理ですな」と寺岡社長はにべもない。が、初江夫人は、しつこく郵便物が届く家が何軒かある・・・と、メモを探す。「あ、ありましたわ!」その瞬間、寺岡はパットを失敗する。怪しいぞ!
殿下、アパートの元住人(披岸喜美子)に聞き込み。田口父娘は、人も羨むほど仲が良かったのに「それがどうでしょ。お父さんの頭を殴って、お金を持ち逃げ」と手厳しいが、その現場をみたものは誰もいない。あくまでも噂話に過ぎない。元住人(大野広高)に「その時、なぜ警察に知らせなかったんですか?」とジーパンが訊く。「持ち逃げしたって証拠はなかったし、そうっちゃなんですが、みんな関わり合いになりたくなかったし」。ゴリさんはホステス(麻里ともえ<阿川泰子>)の部屋から追い出される「だって困るのよ。そろそろお店に出る時間だし。ね、話があるならお店の方に来て」とちゃっかりしている。「田口さんのことなら、中川さんに聞いてみたらいいじゃない?」。中川とは寺岡社長の旧姓だった!「今でこそ大きな顔をしているけどね。あの人は三年前まで、不動産会社のただの社員だったのよ」。それで立退き問題まで首を突っ込んで「田口さん父娘に、ずいぶん交渉したらしいわよ」。ホステスに締め出されたゴリさん「あの寺岡が?どうしてさっき、そのこと黙ってたんだ?」。ここで有力な情報を得ることができたのだ。
一係。長さん「念の為、寺岡の戸籍を当たってみたんですが、本籍5回も変えているんです」。結婚するたびに変えていたのだ。「本籍を移転すれば結婚歴は消える。結婚詐欺の手口です、これは」。ゴリさん「我々の前ですっとぼけた顔、あれはヤマ師ですよ」。ボス「しかし例えヤマ師だとしても、田口事件とどう繋がる?」。ゴリさん「そういわれるとちょっと弱いんですけど・・・」と口ごもる。
「何を弱ってらっしゃるの?」ナイスタイミングで、川上美子が入ってくる。「田口和子殺人事件なら、ちっとも弱ることなくってよ。犯人の目星はつきました」。
みんな唖然。「じゃ一体誰なんです」とゴリさん。美子は自信たっぷりに「田口よ」。それを聞いて、みんな脱力する。「あの自首マニアが?」。しかし美子は「あのね、記憶喪失ほど芝居しやすい病気はないの」。田口は良心の呵責のなせる技で、記憶喪失を装い、自首マニアになっていると美子の分析である。「要するに自己倒壊よ」。ゴリさんは、科学的裏付けあるのか?と美子に聞く。「もちろんよ」と自信満々である。あれから骨髄を調べたら、放射線療法を受けた痕跡があった。田口和子は白血病に罹っていた疑いがあるのだ。美子によれば、一旦発作が起きれば、ものすごく苦しむ筈だと。ボスは、田口が娘の苦しむ姿を見かねて「安楽死」を願って和子殺した・・・と整理する。美子「さすが係長さん、知能指数がお高いわ!」。
「田口は忘れたんじゃない。忘れようとしているのよ」
ボスは「褒められたから言うんじゃないが、確かに一つの推理ですな」と美子に言う。しかし彼女はきっぱり「いいえ、事実ですわ、これは!」「それを証明できますか?」「ははははは、証明ができないことを私が主張すると思って」と自信満々。美子は、明朝、田口を呼んで嘘発見機にかけることを提案する。「嘘発見機?」とゴリさん。「大丈夫よ電気椅子と違うんだから、彼の嘘を暴いて見せるわよ」。
ここで、科学捜査の美子と、人間主義の一係が対決することになる。クレージー映画、特に「クレージー作戦」的な「娯楽映画の対決」スタイルになっていく。作家の資質とはいえ、「太陽〜」のテイストとは真逆の田波&四十物脚本だが、これがシリーズの中で時折アクセント的に登場することで、「太陽〜」の懐の深さというか、魅力の一つとなっている。
ジーパン、美子のペースにすっかり調子を狂わせて「なんだか、あのおじいさん、かわいそうになりましたよ」。しかしボスは「まあそう言わずに呼んできてやるんだな」。びっくりする殿下、ゴリさん。「いいか、俺もあの爺さんの人柄を良く知っている。爺さんが殺人犯だとは思わん。多分、俺のその信念はお前たちの誰よりも強いだろう。だがな、今は、その証拠がない。彼女の推論を覆すだけの論拠がないんだよ」。納得する刑事たち。ボスはさらに「寺岡を含めて、三年前の事実を克明に洗え!」と指示を出す。
ここでボス。「いずれにしても、真実は一つしかないんだからな」。大野克夫さんの音楽もあって「名探偵コナン」と「太陽にほえろ!」が繋がっていることを、今更ながらに実感する。
長さんは戸川不動産社員(山本勝)から、寺岡(旧姓・中川)がいた2年間のことを聞く。「どうも、あんまりやる気があるようには見えませんでした」。役得がある仕事だとすぐに食いつくくせに、普通の仕事だとさっぱりだったと社員。しかも女癖が悪かった。女性関係については、絶対に口にしなかったという。
ゴリさんは田口和子の勤め先で、彼女の元同僚から男性関係を訊ねる。内気で秘密主義の和子は、ボーイフレンドや恋人のことを絶対に言わなかったという。
マンションを出る寺岡のクルマを、ジーパンの覆面パトカーが追う。それに寺岡が気づいたので、殿下のクルマがバトンタッチする。首都高を走り、寺岡は新宿3丁目の東京大飯店へ。長さんが店内で、殿下と合流する。寺岡は奥の個室に一人で入るが、その後、若い女性がやってくる。ただの逢引きなのか?
美子が田口を嘘発見器にかけている。「全ていいえで答えてください」「いいえ・・・まだはいでいいんですね。はい」。こうした細かい笑いが随所に散りばめられている。和子の写真をみても「いいえ」。和子が死んだことを聞いても「いいえ」。
一係。長さんがボスに報告する。東京大飯店のマネージャーによれば、寺岡の相手の女は次々と変わった。「つまり結婚する相手を口説く部屋なんだな」とゴリさん。その女の中に田口和子がいたかどうかははっきりしなかった。マネージャーは和子の写真に「見たような気がしますが」と曖昧な返事だったという。例え、田口和子と寺岡の関係がわかったとしても、それがどう殺人に結びつくのか? ボス「賭けだな」。依然として証拠はないが、寺岡は結婚三年目で、もう別の女に手を出している。寺岡の図式によれば、近いうちに新しい女に乗り換えるはずだ。殿下の調べによれば、その女性もc最近父親が死んで、かなりの遺産が転がり込んできたと。
「田口和子は貧しい娘だが、100万円という立退料があった」。
女を踏み台にして、金目的の結婚を繰り返してきた寺岡だから「そんな奴にどんな罠をかけても構わん。少々無理な注文だが、みんな手分けをして、ある女性を探してくれないか?」とボス。「ある女性とは?」と長さん。
「わからんかな? あれだよ。田口和子だよ」。
ゴリさん、モデルクラブの写真を必死に探す。ジーパンはブティックで、要件を言い出せずにネグリジェを買わされそうになる。殿下はデパートのバーゲンコーナーで女性たちにもみくちゃにされる。梅花女子短期大学、長さんは卒業アルバムから、田口和子そっくりの女性・山田澄子(桂木美加)を見つけ出す。ボスの作戦とは一体なにか?
現在はブティックに勤めている山田澄子(桂木美加)を訪ねる長さん。現在の澄子を見てびっくり「短大の頃をお顔が違いますね」「どういう意味?」怒る澄子。そらそうだ。桂木美加さんは「帰ってきたウルトラマン」で丘ユリ子隊員を演じていた人。山本迪夫監督の『血を吸う薔薇』(1974年)に麻里ともえさんと共に出演することになる。「私が整形でもしてるとおっしゃるんですか!失礼な」とぷんぷん。
ゴリさん、ラーメン屋で「全くいるようでいないもんだよな」と愚痴をこぼしながら食事。ところがテレビに田口和子そっくりの女優(伊藤めぐみ)が出ているのでびっくり。
一方、美子の田口への実験は続いている。和子が「殺してくれ」と頼んだんですね?「いいえ」。首を絞めた時、和子は抵抗しなかった?「いいえ」。一向に成果は上がらない。「全く無反応だわ!」「いいえ」(笑)「例え、あなたの記憶喪失は本物でも、あなたが犯人だという私の考えは変わらないですからね」「ありがとうございます。そうなんです。犯人は私なんです」。またもや堂々巡り。
そこへジーパン、ゴリさん。「ご苦労様です。何かわかりましたか?」「いいえ」(笑)どこまでもギャグで推してくる。明日から「催眠療法」を考えてみると、美子、全く懲りていない。「人間の意識の80%を占めると言われる潜在意識を引き出すのは、この方法が一番なの」とまたまた自信満々の美子。でもジーパンとゴリさん、余裕たっぷりに「ああ、なるほど、わかりました」。ボスに呼ばれた美子、部屋を出て一係へ。
しかし、一係には誰もいない。田口和子の復元像が、先程の女優(伊藤めぐみ)と入れ替わっている。動く生首に「?」の美子。だるまさんが転んだよろしく、美子が振り向くと首はじっと動かない。「おかしいな」と覗き込んだ瞬間。生首の目が開いて、美子は悲鳴をあげて卒倒する。
「やった。やった」とゴリさんたちご満悦。えー!ボスの作戦って「どっきりカメラ」だったの! これには放映当時、さすがにびっくりした。ドリフのコントじゃないんだから。「彼女が間違えたんだから、成功間違いなし」とゴリさん。つまり、偽の和子を使って寺岡を嵌める作戦だったのだ。美子はそのテストだったわけだが、いいのか? 捜査一係がそんなことをして。これまたクレージー映画みたいな展開。
田口を三信マンションに送ってくるジーパン。マンションの入り口で寺岡とばったり。「検査はもう終わったんですか?」「明日もう一度、今度は催眠療法でやってみるそうです」。寺岡、気が気ではない様子。「明日は九分九厘、記憶が戻るだろうと」ジーパン。「よかったな田口さん、成功すれば今度こそ真実がはっきりするわけだ」と余裕をかまそうとする寺岡だが、ジーパンには見抜かれている。
寺岡が部屋の中をウロウロしている。落ち着かない。ウイスキーを飲もうとする。気になってベランダから階下をみると、ジーパンがタバコを吸っている。寺岡、女性に電話をかける「もちろん、愛しているよ。ところで旅行の予定を早めたいんだ。実は君に勧めた土地が大変な値上がりでね・・・それから現金を忘れないようにね」。悪い男だね全く。電話を切った後に外をみると、ジーパンの姿はない。
翌朝。松沢博士(梅野泰靖)が田口に催眠術をかけている。傍には自信満々の美子。
クルマを飛ばして女との待ち合わせ場所に向かう寺岡。殿下、長さん、が各ポイントで見張っている。
松沢博士の催眠術は続いている。「思い出してください。和子さんが何かをしたんですか?」「苦しい。苦しい」と田口。
東京大飯店。寺岡が個室へ。そこで待っていたのは、なんと・・・和子だった!「和子、許してくれ。俺が悪かった。殺す気はなかったんだ」。
一方、田口は記憶を取り戻す。「和子、かわいそうな和子。あんな奴に殺されて・・・」。
亡霊を見て狼狽える寺岡。部屋を出たところでジーパンと長さんが待ち構えていた。反対側からはゴリさんと殿下が迫ってくる。お化けより怖いね。ゴリさん「寺岡!田口和子をやったのはお前だな」「け、刑事さん。そうです。私がやったんです」とその場にうずくまる寺岡。和子だと思ったら女優(伊藤めぐみ)だったのだ! ♪デデデデデーン。
一係。ゴリさんが寺岡が自白したことをボスに報告する。山さん「しかしな、殺した時の状況なら、こっちもわかっているぞ」。寺岡は立退料を目当てに和子に接近したが、父親の田口紹介された時に和子が白血病であることを知った。その上、立退きの一件で初江が独身であることを知り、すぐに初江に乗り換えた。そのことを和子に詰られた寺岡は、和子を突き飛ばした。その衝撃で和子は首の骨を折って絶命した。ちょうどその時、田口が入ってきた。逆上した寺岡が田口を殴り倒した。その時、田口は記憶を失ってしまったのだ。その事実を、山さん、ボス、久美がみんなに説明する。なぜ、知っているのか? ゴリさん、ジーパン、殿下、長さんは「???」。ボスが種明かしをする。
「こっちでもな。ミス科警研が手柄を立ててな、爺さんの記憶がすっかり戻ったんだよ」。
そこへ美子と田口が入ってくる。田口、またしても「みなさん、私を捕まえてください。罰してください」と両手を差し出す。みんなが「???」のところにボス「手にはかけなかったが、何度殺そうと思ったか、わからない。寺岡がやらなかったら、きっと私が殺してた。そう言いたいんだろ?」「そうです。私は罪深い人間です。殺人が無理なら殺人未遂で罰してください。でないと夜も眠れない」「だが、あんたは殺さなかった。それが事実だ。あんたには何の罪もない」「でも・・・」
「俺の親父もガンで死んだ。爺さんと同じだよ。苦しみ悶えている親父を、楽にしてやりたいと、何度思ったかしれない。だがな、人間の生命の重さを、俺はその時、初めて知ったんだ。例え二日の生命でも、どんなに苦しんでも、生かすべきだ。生きるべきだ。それが人間なんだ、とな。爺さん、あんたも同じことを考えたんじゃないか。あんたが罪人なら、この俺だって罪人だよ」。
和子の復元像。幸せそうな表情で・・・
今回のボス、まるで「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵のようでもある。かなり盛り込みすぎの感はあるが、「太陽にほえろ!」にこういうテイストがあってもいいと、岡田晋吉プロデューサーは判断したからこそ成立した。「クレージー映画」の田波脚本の喜劇性、「血を吸うシリーズ」の山本迪夫らしい「生首いじり」の展開。不思議な不思議なエピソードである。
よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。