太陽にほえろ! 1973・第73話「真夜中に愛の歌を」
第73話「真夜中に愛の歌を」(1973.12脚本・小川英、中野顕彰 監督・竹林進)
永井久美(青木英美)
上村学(堀内正美)
坂本陽子(中田喜子)
牧美恵子(森みつる)
東日ラジオディレクター(石井宏明)
小貫端恵
「ファニー」マスター(鹿島信哉)
内山朋子
西村一正
佐藤靖
生方中
遠藤義徳
中楯富久子
マイケル中江(渥美国泰)
予告編の小林恭治さんのナレーション。
「有名な流行作曲家が殺害され、続いて人気DJのパーソナリティが脅迫された。もともと愛されるべき世界に入り込んだ、不穏な電話。捜査は彼らの作った曲や詩が盗作であったことを明るみにした。他を蹴落とそうとする競争の世界。その都会という冷たさの中で、夢が、青春が、どんなに変わって行くものか。次回「真夜中に愛の歌を」ご期待ください。」
今回は、当時一大ムーブメントとなっていた「ラジオの深夜放送」のパーソナリティをめぐる事件。1960年代末から70年代にかけて民放の深夜放送は「若者の開放区」だった。そうした風俗を取り入れながら、いつの時代にもある「盗作問題」を絡めた、名もなき若者の怒りを、ゴリさんが受け止めていく。クライマックスのゴリさんが、被害者で加害者の若者(堀内正美)に熱く、熱く語るセリフ。「太陽にほえろ!」というよりは、竜雷太さん主演の「これが青春だ」「でっかい青春」の熱血教師を思い出す。
ラジオ局の深夜放送の描写などは、1970年代の放送業界をステレオタイプとはいえ描いていて興味深い。ゲストの堀内正美さんは、大学在学中に演劇を学び、TBSのプロデューサーの目にとまり、この年1973年、金曜ドラマ「わが愛」でデビューしたばかり。この翌年にNHK朝の連続テレビ小説「鳩子の海」に抜擢され一躍知られることに。その恋人を演じた中田喜子さんは「仮面ライダー」の後半(1972〜73年)のヨッコ役で、子供たちにも知られていた。翌1974年、TBSのポーラテレビ小説「やっちゃば育ち」のヒロインに抜擢される。堀内正美さんも、中田喜子さんもブレイク前の初々しさが味わえる。
夜の街。ゴリさんとジーパンが覆面パトカーで張り込んでいる。ラジオから流れるMMこと牧美恵子(森みつる)のディスクジョッキーに聞き惚れるゴリさん。ジーパン「声のいいのに美人はいないって言いますからね」。ペンネーム(昔はラジオネームとは言わなかった)ゴリラくんの「レター」に、爆笑するジーパン。張り込みなのに和やかなひととき。
東日ラジオ放送(株)。スタジオでハガキを読む牧美恵子(森みつる)。電話リクエストで新宿の山田くんに回線を繋ぐ。しかし・・・「俺、上村学だよ。電話切るなよ、切ったら殺すぜ」。声で堀内正美さんだとすぐわかる。今と声が変わらない。「本当だぜ。切ったら殺す」の上村の声に、凍りつく牧美恵子。その模様はゴリさんのカーラジオからも聞こえてくる。「何度電話しても、あんた俺の電話に出てくれなかった。だから偽名でかけたんだ。最後の手段さ」。美恵子は高笑いして自分の感情を誤魔化そうとする。「リクエスト断ったくらいで殺されたらたまらないから、言うこと聞く。曲は?」
「『男の子から女の子』これを陽子に送りたいんだ」
血相を変える美恵子。
「今日は陽子の二十歳の誕生日なんだ」
「そう、それはおめでとう。それにMM作詞の曲をリクエストしてくれてありがとう」
「この歌のことだけど・・・切るなよ」
「はいおしゃべりはそこまで。バイバイ、殺し屋さん〜」
電話を切る美恵子。
ラジオを真顔で聞いているゴリさん。ジーパンは「あざといことやるな、このディスクジョッキーも」と笑いながらラジオを切る。こういう番組にはちゃんと台本があると、ゴリさんに説明をする。しかし、ゴリさんは上村学が、歌のことで何か言いたいことがあるようだったと不振に思っている。
一係。憮然とした顔でカツ丼を食べているゴリさん。一同大笑い。長さんは、美人DJに「殺す」と言ったのが許せなかったんだと、冷やかす。殿下も「よっぽどゴリさんのハートを揺さぶったんですね。その和製MMちゃんの声」と笑う。「MM」とはマリリン・モンローのこと。つまり、この時代はモンローがまだお色気の代名詞だったことがわかる。
そこへボスが入ってくる。抱えていた事件の犯人が捕まり一件落着、ホッとしている。そこで久美が「じゃ次はMM事件ですね」。冷やかされたゴリさ憮然とする。ボス「なんだMMって? マリリン・モンローのことか?」さすがわかってらっしゃる(笑)
東日ラジオ放送(株)。ゴリさんが「MM」を訪ねる。ロビーには「MM」の入り待ちをしている若い男女のファンでぎっしり。彼女が局に入ってきた途端にサイン責め。そこへゴリさん割って入って「ちょっと伺いたいことがあるんですが?」。名刺を見た美恵子「随分管轄外からいらしたんですね」と結構上から目線。ゴリさんは昨夜の上村学からの電話が引っかかっていることを話す。それを一笑に伏す美恵子。これまでもリクエストに応じないと局を爆破すると脅されたこともあったが、癇癪玉一つ投げ込まれたことはないと笑う。少し過剰な反応である。しかしゴリさんは真顔で「あの電話の男、前からご存知ですか?」。美恵子は目を逸らして「覚えてないわ」。彼女は何か隠している。
局の喫茶室に、坂本陽子(中田喜子)が入ってきて美恵子を探している。「私より遅く来て、アシスタントがつとまると思うの?」「すいません」。ああ、テレビ映画に出てくる典型的な勘違い芸能人。ファンレターの束を陽子に渡して「これに目を通して、適当に返事しておいて。どうせロクなのないんだから」。あーあ、こういう奴は、ホラー映画だと真っ先にやられちゃうタイプだ。「お弟子さんですか?」と訊くゴリさんに、うんざりした表情で「あなたなんの権利があって、私の個人的なことを聞くの?」と憮然としている。
ゴリさん。刑事コロンボのようにしつこく、上村のことを訊く。「先方じゃ、知りすぎるほど知っているようでしたがね」。結局空振りに終わるが「あの態度には何かある。ようし、そっちがその気なら」とゴリさんの心の声。
スタジオ。ゴリさんは番組ディレクター(石井宏明)に、上村学について聞き込みをしている。スタッフの一人が少し考えて、何年か前にこのスタジオでギターを弾いたことがある若者だと思い出す。それがきっかけで、作曲家のマイケル中江(渥美国泰)に弟子入りしたと聞いている。「ほら」とディレクターはレコードをゴリさんに見せて、昨夜あの男がリクエストしたのも、マイケル先生のこの曲だと。「三年前のヒット曲です」。
男の子から女の子へ
FROM A BOY TO A GIRL
唄 かずき じゅん
作詞 牧美恵子
作曲 マイケル・中江
セントラルレコード。ゴリさんがプロデューサーの女性から、そのレコードの話について訊く。マイケル中江とMMは、以前からコンビを組んでいるヒットメーカーで、この曲で10曲目だった。「そういえば、マイケルとMMの歌に、昔のお弟子さんがケチをつけているという話を聞きましたわ」。その弟子とは上村学だと判明する。ゴリさん、壁のポスターに目をやる。
夜明けにはまだ早い
唄 菊池マリ
作詞 牧美恵子
作曲 マイケル中江
ゴリさん、マイケル中江(渥美国泰)の仕事場へ。渥美国泰さんは俳優座3期生で、同期には愛川欽也さん、穂積隆信さんがいる。劇団円の創立メンバーで、「太陽にほえろ!」では第56話「その灯を消すな!」(1973年)から第672話「再会の時」(1985年)まで11作品に出演している。
マイケルは「最近の僕の曲のいくつかは、上村くんの盗作っていう話」が噂になっていることゴリさんに話す。「単なる言いがかり」だとマイケル。上村はMMの紹介でマイケルに弟子入りした。元はMMの熱烈なファンだった上村が、自作曲を持ち込んできたり熱心だったので、マイケルのところへ連れてきた。
一年ほどいたが「才能なんかまるでないくせに、生意気な奴でね」と冷たく言い放つ。「あんな男の曲を僕が盗作?馬鹿馬鹿しくて反論する気にもなれんな」。そこへ、MMのアシスタントの陽子が「先生の詩の原稿を届けに」やってくる。ゴリさん笑顔で「君は知らないかな?上村学って男のこと」。陽子の顔色が曇る。しかしマイケル、誤魔化すように「いっぱいやりませんか?」とグラスを差し出すが、ゴリさん「勤務中ですから」ときっぱり断る。ゴリさんは「上村学の書いた曲の譜面を見せていただけませんか」。しかしマイケルは、見るに絶えないものばかりだったから捨ててしまったと言い放つ。
一係。せっかくの非番なのにゴリさんが不機嫌なことをボスに指摘される。そこでゴリさん、昨夜、MMにあったこと、関係者に当たってみたこと、しかし「嫌なやつばかりなんですよ。これが」と、みんなに愚痴をこぼす。「もうどうなってもいい、と思いましたね」。そこへ坂本陽子からゴリさんへ電話が入る。「お願いします。学さんを助けてください」。このままだと学は人を殺してしまうかもしれない。「マイケル中江のヒット曲は、ほとんどどれも学さんの曲なんです。MMとマイケルのおかげで、学さんの青春はめちゃめちゃになってしまったんです」。学の住所を聞き、陽子について聞こうと思ったら電話が一方的に切られてしまう。ゴリさん、一係を飛び出していく。
多摩川の河原で野球をしている子供に「上村さんて知らないか?」とゴリさん。子供が指差す方向には、ひとりたたずむ上村学(堀内正美)。ゴリさん、学から話を訊く。学と陽子は、三年前まで「お互いを励まし合っていた仲間」だった。陽子は作詞家志望でMMの所に通い、作曲家志望の学はMMの紹介でマイケルの弟子になった。学の実家は町工場、高校の時からMMの放送のファンだった。曲を書いて送ったら「すごくいい」と褒められた。「MMらしい言い方で、”才能がキラキラしている”とか”その曲に詞をつけたい”とか」。しばらくしてスタジオでギターを弾かないかと依頼され「僕は喜んでスタジオに行きました。その時、陽子と初めて会ったんです」。学は陽子と意気投合して局の近くで、時々会うようになった。陽子の詞に、学が曲をつけた。「小さなスナックですが、僕たちにとって、そこは素晴らしい夢の城でした」。しかし夢は一年で消え去った。
ヒットした「男の子から女の子へ」をMMとマイケルに盗作されたのだ。抗議をする学に、言いがかりだと殴り飛ばすマイケル。歌詞もMMの物じゃなく陽子の作詞したものだった。MMにはもともと作詞の才能はなく、マイケルも過去の人で新曲の着想が浮かばなくなっていた。「あいつらの仕事は盗むことなんです!」
そんなバカなとゴリさん。そんな奴らを相手にしなければいい。と正義感ぶりを発揮して言うが、学はシニカルに、業界の連中は二人の味方で「あの二人に叩き出されたと言うことは、この世界から叩きだされたことなんです」。仕方なく陽子もMMの付き人を続けていくしかない。「それなら盗作で訴えて、君の才能を立証すれば」「証拠はありません。この3年間、マイケルが発表した曲は、ほとんどみんな僕の曲がベースになっているんです。証明することもできないんです」。マイケルが譜面を抑えているのだという。
「しかしだな」
「いくら刑事さんが心配してくれたって、どうしょうもないですよ。結局、騙された奴がバカなんだ」
その言葉を聞いたゴリさん、真顔になって「バカな気を起こすなよ。ラジオで殺すと言ったり・・・」陽子も心配しているからと。学は新宿のバー「森」で元気にバーテンをやっていると、陽子に伝えて欲しいとゴリさんに頼む。
夜、自分の部屋で考えているゴリさん。「騙された方が、バカか・・・」と学の言葉を反芻する。そこへ久美から、マイケル中江が頭を殴られて重傷、と電話がかかってくる。マイケルの仕事場で、現場検証をしているジーパン、長さん。ゴリさんがやってくる。凶器はアフリカかどこかの民族人形。マイケルは重体。犯行時刻は2時間前、午後5時少し過ぎ。ゴリさんが多摩川で学と別れたのが4時15分。「際どいが間に合うな」と長さん。
ジャズ喫茶。黙ってモダンジャズを聞いている学。そこへゴリさんがやってくる。レジの女の子に学が5時前から来ていることを確認する。バーを休んだ学の行きつけの店を苦労して調べてきたのだ。「マイケル中江が頭を殴られた。重体だ」。驚く学。「犯人に心当たりはないかね?」。学だと思ってきたが、アリバイが立証された。その時、学に電話がかかってくる。陽子からだった。
「私ね、取り返そうと思ったの、学の楽譜」。マイケルが机の奥にしまっていることを陽子は知っていたが、学にそれを言うことができなかった。しかしあの放送を聞いて決意をしたのだ。ところがマイケルに見つかり殴られたので、夢中でマイケルをそばにあった置物で殴ってしまった。泣きながら告白する陽子。ゴリさん、受話器を奪って、厳しい調子で「今、どこにいるんだ!」。それじゃ逆効果だよ。案の定、陽子は電話を切ってしまう。店を飛び出す学。ゴリさんが後をつける。そこへジーパンがクルマでやってくる。
学のアパート。深夜12時25分ごろ。その前でゴリさんとジーパンが張り込んでいる。カーラジオをつけるとMMの深夜放送が始まっている。「聞きたくもねえや」とゴリさん。リクエストメッセージ「女の子から男の子へ」に反応する学。リクエスト曲は「小さなスナック」。MMが「わかった?男の子くん」といつもの調子で喋っている。学はこれが陽子からのメッセージだと言うことに気づく。しかし、ゴリさんたちが張り込んでいるので、要心している。ラジオを聞いていたゴリさんも「『小さなスナック』だ。今のは陽子の呼び出しだ」と気づいて、学の部屋に行くが、もぬけの空。
夜の街を「小さなスナック」に向かって歩く学。新宿プラザ劇場ではアラン・ドロンの『ビッグガン』を上映中。
一方、ゴリさんは「小さなスナック」がどこかわからない。そこで、学の部屋でマッチのコレクションを探し始める。「いいか、三年前の、場所はラジオ局の近くだ」。必死になって手がかりを探す、ゴリさんとジーパン。
「スナック・ファニー」。学が入ると、サングラスで顔を隠した陽子がいつもの席で、いつもオレンジジュースを飲んでいる。再会する二人。言葉を交わさずに見つめ合う。夜の街ではゴリさんとジーパンが「ファニー」を探している。陽子は無言で、学に譜面を渡す。見つめ合う二人。陽子少し微笑む。「これさえあれば、たとえマイケルが死んだとしても、俺たちの曲と詩が盗作されていたってことが証明できる。でも、そんなことはどうでもいいんだよ」「良くないわ学、それで学の才能を証明して。そうすればきっと作曲で一人前に・・・」。しかし学は陽子の気持ちが気になる。陽子も「だって学は私のことを嫌いになったのでは・・・」二人は愛し合っているのにすれ違ったままだったのだ。「ばか、嫌いになるわけないじゃないか!」「誕生日の放送でそれがわかったの。それで勇気が出たの・・・」
「俺がマイケルを殺すべきだった」
「学・・・」
「君にだけ、人殺しはさせないよ。俺は君の詩を盗んだMMを・・・」
陽子がしてくれたことと同じことを、自分はやると学。自分たちにできることは「もうそれしかないんだ」。ちょっとそれは違うと思うけど、思い詰めてしまっているからね。「俺が君にしてあげられるのは、もう、それっきゃないんだよ」。えー、それは違うから、誰か教えてあげてよ。このままじゃ学も犯罪者になっちゃうよ。
男の子から女の子へ 何をあげよう
今は何もないけど 明日はきっと
何かをつかむだろう
たとえ それが苦しみであっても
悲しみであっても
君には・・・
陽子が書いた「男の子から女の子へ」の原詩を語り合う二人。陽子、泣き崩れる。学、何かを決意する。
「スナック・ファニー」の外では、ゴリさんとジーパンが張り込んでいる。店内に入るが、マスター(鹿島信哉)から「その二人なら、ついさっきまでいましたよ」と証言するが、行き先はわからない。
東日ラジオ放送のスタジオ。朝5時、MMの番組のエンディング。「残念だけど、もうおやすみなさいの時間が来てしまったわね。今日、私、誰の夢を見るのかなぁ」。放送終了、美恵子はすごい形相でスタジオを出ていく。陽子がいないので苛立っているのだ。「マイケルを襲った犯人、捕まったの?」。プロデューサー「いや。それもまだだ。ひょっとすると上村学と陽子の共犯じゃないのかな?」「よして、大体警察は何をしているのかしら!」と苛立ちを隠せない美恵子。一係にに電話する美恵子。「まだ捕まらないんですか?マイケルを襲った犯人」。ボスは「マイケルさんの容態より、犯人の方が心配ですか?」。こういう時のボスは、視聴者の気持ちを代弁してくれる(笑)。「それより、私をすぐ保護して頂戴。犯人が上村学だとしたら、私も狙われる可能性が・・・」。ボスは余裕たっぷりに、心配には及ばない、すでに美恵子の身辺には部下が張り込んでいると伝える。
東日ラジオ駐車場。ゴリさんが覆面パトカーで張り込んでいる。ジーパン、長さんも眠い目を擦って、クルマで待機している。美恵子とディレクターのいるAスタに電話がかかってくる。「俺だ。上村学だよ。俺は今、あんた方が盗作した、俺の楽譜を持っている」「なんですって?」マイケルと美恵子の文字で詩と曲を作り替えた証拠もちゃんと残っている。「こいつを公表したら、あんたどうなる?」。慌てる美恵子「何が欲しいの?お金なの?」。学は現金で100万円を要求する。それを受け入れる美恵子。取引場所は矢追町2丁目の交差点の取り壊し中の学校と指定される。「1時間以内に行くわ」と美恵子。
「あり合わせの現金」でなんとかする。と言った後、美恵子はディレクターに「表で警察が張り込んでいるんだから」手を貸して欲しいと頼む。
電話ボックス。「たとえ警察がいたとしても俺一人なら逃げてこれる」と学は陽子をその場で待たせようとする。陽子は「お願いだからお金だけにして。あなたまで人殺しをするなんて、やっぱり、そんなことしちゃいけない」。学は無言で取引現場へ向かう。
東日ラジオ放送の駐車場。朝日が差し込んでくる。ゴリさん、ジーパン、長さん。動きがないので苛立っている。美恵子らしい女性を乗せた車が通るっが、車が違う。続いて美恵子の車が通り、それを追いかけるゴリさんたち。早朝の新宿を走る4台の車。方向が違うのを不審に思ったゴリさんが美恵子の車を止める。しかし乗っていたのはディレクターと、美恵子の服とサングラスをかけた女の子だった。ジーパン、ディレクターの胸ぐらを掴み「何やってんだ!MMの生命が危ないんだぞ!」。美恵子はディレクターのコートを着て、プロデューサーの車で行ったことを認める。
矢追町の廃校舎。美恵子がやってくるのを、教室から見ている学。
ディレクターは学校ということしかわからない。ゴリさん、長さん、ジーパンは「1時間でいける学校」が30校近くあるが、三手に別れて、片っ端から当たることにする。
学の指示通りに校舎の階段を上がる美恵子。
一係。ゴリさん宛に陽子から電話がかかってくる。ボスが出て、山さんが録音を開始する。ボス「あなたは?」「・・・」その時、電話ボックスのそばを通る小田急ロマンスカーのチャイムが鳴る。「坂本陽子さんですね。私は係長の藤堂だ。石塚刑事にだけ話したいのなら、すぐに行かせます。どこにいるんですか?」。思わず電話を切る陽子。山さん、三菱電機(番組スポンサー)のカセットテレコを再生。ロマンスカーの音が聞こえる。「ボス、小田急、特急の警笛です」。ボス、小田急に電話をして6時5分にガードを通過した特急を確認する。「そのガードの位置を知りたいんです。急いでください。人の生命がかかっています」
廃校舎。廊下を歩く美恵子。崩れる天井。恐れをなしている美恵子。そこへ、ゆっくりと学が現れる。「急に言われたから20万しかないけど、残りは後で渡すわ」と金を差し出す美恵子。「譜面を渡してちょうだい」。現金を持つ美恵子の手を払い除ける学。「私はあんなことする気はなかったのよ。でもマイケルがあなたと話をつけると約束したもんだから」と見苦しい言い訳をする美恵子。「もう騙すのはよせよ」「だって私はあなたの才能をあんなに買っていたじゃない」「それはあんたの人気取りに俺を利用できたからさ」と学はポケットからナイフを出して、美恵子ににじり寄る。
ゴリさんの車。ボスから無線で「坂本陽子の居場所がわかったぞ。小田急線田代駅のすぐ近くだ」。陽子のもとへ車を走らせるゴリさん。バックしてUターンするのがかっこいい。やがて電話ボックスへ。ドアを開け、陽子に「さあ話してくれ、学は今どこにいる」とゴリさん。
廃校舎。ナイフを持った学が美恵子に近づいている。逃げる美恵子悲鳴をあげる。長さんに無線で廃校舎の場所を知らせるゴリさん。長さんはプロデューサーの車を発見。廃校舎の中へ。「上村くん、馬鹿な真似はよせ!」。学、美恵子の手を取って屋上へと向かう。ジーパンの車も到着する。屋上では美恵子を人質に取った学が「寄るな、一歩でも寄ったら、こいつを殺すぞ」。
「助けて学くん。お金もあなたのいう通りにするって言ったじゃない。それなのに、どうして?」
「どうせ俺たちは、もうだめなんだ。何もかもメチャメチャになったんだ。俺たちの人生も、俺たちの夢も」。ポケットから譜面を出して投げ捨てる。「俺たちの歌もな!」
取り返しがつかないんだと叫ぶ学。そこへゴリさんが陽子を連れてくる。「学、何をするの?」「くるな!誰もくるな!」ナイフを美恵子に突きつけて「殺してやる!殺してやる!」悲鳴をあげる美恵子。「やめて!」と陽子。
「こいつのおかげで、俺みたいな馬鹿な男が、また騙されて泣くに決まってるんだ!何人も何人もだ!俺は許せない。許せないんだよ!」
ゴリさんは「学、騙されて何が悪いんだ。騙されることが、どうして恥ずかしいんだ。どうして人を殺さなきゃならないほど、悔しいことなんだ!人を信じることは若者の特権だ。俺はそう思っている。俺は・・・俺みたいなお人好しは、そう信じなきゃ生きてこれなかったんだ」と、まるで大岩雷太先生のように叫ぶ。おお「青春学園シリーズ」みたい!
そこへボス、山さん、殿下がやってくる。ゴリさんは散らばっている学の楽譜を拾いあげる。「こんなものがなんだ? こんなものを人に取られたからって、どうだっていうんだ!」と叫び、楽譜を叩きつける。「また作ればいいじゃないか。もっともっと素晴らしい歌を。君ならできる。できるはずだ。もう一度やり直すんだ。二人ともまだ若いじゃないか。学」
ゴリさんの言葉を受け止めた学。涙を流す陽子。学、ナイフを捨て、美恵子を放り出す。ゴリさん、学に近づく。涙を流す学。うなづくゴリさん。ここで布施明さんの「でっかい青春」が流れてきそう。ほとんど青春学園ドラマになってきた。泣きながら、大岩雷太先生、いや石塚誠刑事の胸に飛び込む学。しっかり抱きしめるゴリさん。あれれ、なんだか違う世界になってきたよ。ゴリさんも涙ぐむ。
それを見つめるボス。爽やかに微笑む。山さんも殿下も微笑む。うなづく長さん。ジーパンも満足そう。そして満面の笑みを浮かべる陽子。爽やかすぎないか? 陽子は傷害事件の容疑者だよ。ボス、陽子に近づいて「中江は助かったよ」「・・・」「行こうか」。うなづく陽子。ゴリさんも学の肩を抱いて爽やかな表情で歩き出す。美恵子だけが「刑事さん、どうぞ、私のことは御内聞に・・・」見苦しいねぇ。「刑事さん、警察だって個人のプライバシーを守る義務があるんでしょう」とジーパンに縋り付く。「幸せな人だな、あんた」とその手を振り払うジーパン。泣き崩れる美恵子。最後はボスとゴリさんの笑顔でストップモーション。ええええ? なんともはやなオチでした。