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『街の野獣』(1950年・FOX・ジュールス・ダッシン)

 娯楽映画研究所シアター、連夜のフィルムノワール史探検、ジュールス・ダッシン監督&リチャード・ウィドマークの傑作『街の野獣』(1950年・FOX)を堪能した。

 これまで何度かテレビ放映(吹き替え版)を観てきて、どんな映画かは把握していたつもりだが、今回スクリーン投影してみて、かなり衝撃を受けた。『裸の町』(1948年)でニューヨーク・ロケによりリアルなドキュメントタッチを成功、大きな影響を与えたジュールス・ダッシン監督が、ロンドンを舞台に縦横無尽にロケーション。

 20世紀FOXのイギリス・スタジオでの撮影なので、ロケーションにも腰が据わっている。主演は『死の接吻』(1947年)、『情無用の街』(1948年)で狂気の殺し屋を快演して注目を集めていたリチャード・ウィドマーク。この映画での、ロンドンの裏町でやたら上昇志向が強い、一攫千金を夢見ているチンピラ、ハリー・ファビアン役は、ウィドマークの生涯のスクリーンイメージとなる。

 原作は、ジェラルド・カーシュの小説”Night and the City”(1938年)。のちにロバート・デニーロ主演で『ナイト・アンド・ザ・シティ』(1992年・アーウィン・ウィンクラー)としてリメイクされている。

 ロンドンのナイトクラブ”シルバーフォックス”で客引きをしているチンピラ、ハリー・ファビアン(ウィドマーク)は、クラブ歌手の恋人・メアリー(ジーン・ティアニー)の心配をよそに、儲け話を探して走り回っている。寸借詐欺を重ね、借金で首が回らないファビアンだが、ある夜、ロンドンの暗黒街のボスで、プロレス興業を牛耳っているクリスト(ハーバート・ロム!)の父親で伝説のレスラー・グレゴリウス(スタニスラウス・ズビスコ)に目を付ける。

 口から出まかせ、調子良く、グレゴリウスに取り入って、一攫千金を目論んでグレゴリウスのプロレス興行を計画。”シルバーフォックス”のオーナー、フィル(フランシス・L・サリヴァン)に共同出資を求めるも、相手にされない。しかしフィルの女房ヘレン(グーギー・ウィザース)は、夫と別れて独立しようと考えていて、ハリーに出資を申し出る。

 チンピラのハリーが、大風呂敷を広げて、ロンドンの街を走り回る前半の疾走感。思わず、頑張れよ!と言いたくなるほど、純粋で危なっかしい。僕らの世代では「ピンクパンサー」シリーズのドレフィス警部でお馴染みのハーバート・ロムが、非情な暗黒街のボスを不気味に演じている。なかなかの迫力である。

 後半、ハリーの計画が綻び始めて、最悪の事態になっていく。追い詰められても、なんとかなると嘯き、自分を鼓舞して走って、走って、走りまくる。このウィドマークのトッポさは、のちのロバート・デニーロやショーン・ペンがイメージしたのもよくわかる。中島貞夫監督『893愚連隊』(1966年・東映)の松方弘樹や、東宝アクションの佐藤允など、このウィドマークの直接的、間接的影響を受けたアウトローは数知れないだろう。

 なんといっても、ジーン・ティアニー! こんなダメな男なのに、愛して、尽くして、信じようとする。ラスト、テムズ川のボロ船に逃げてきたハリーを訪ねてくるシーンのジーン・ティアニーの美しさ! ロングショットで、遠くの橋にたたずむハーバート・ロム。もう絶体絶命なのに「オレを密告して、懸賞金1000ポンドを手に入れろ!」と捨て鉢になってもポジティブ思考をするハリー。

 ジュールス・ダッシンのドキュメンタリー志向はここでも効果的で、ロンドンのプロレス興行の裏側、暗黒街の怖さなどを見事に描いている。ナイトクラブの開店前、女の子たちに客から金を巻き上げる方法を指南するヘレン(グーギー・ウィザース)のリアルさ。『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』に通じる、「夜のロンドン」が活写されている。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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