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太陽にほえろ! 1973・第48話「影への挑戦」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第48話「影への挑戦」(1973.6.15 脚本・小川英、鴨井達比古 監督・土屋統吾郎)

内田宗吉(ハナ肇)
高田公夫(磯村昌男)
高田祥子(松井紀美江)
七曲署部長(幸田宗丸)
高田鑑識助手(北川陽一郎)
尾沢康彦(村野武範)
小野松枝、八木和子、由起卓也、石川隆昭、門脇三郎

 久々の内田伸子刑事がメインのシンコ回。「飛び出せ!青春」の河野先生を演じた村野武範さんがゲスト。死んだはずの男が復讐のために帰ってくる。裕次郎さんの傑作『太陽への脱出』(1963年)と同じパターンで、圧殺された男の巨悪との戦いが描かれる。『太陽への脱出』で裕次郎さんが演じたのは、日本企業のアジア駐在員でベトナム戦争に密かに武器を輸出している「死の商人」だったが、国会で問題となり、会社から「死んだこと」にされてしまう男。それが真実を公表するために帰国するが巨悪がそれを許さず、最後は壮絶な死を遂げる。今回の村野武範さんが演じる尾沢康彦とそのイメージが重なる。それゆえ、ラストの記者会見でのボスの巨大な権力に屈しないという意思表示は、感動的である。

 教会で、シンコの親友・祥子(松井紀美江)と高田公夫(磯村昌男)の結婚式が執り行われた。「笑って!」写真を撮りまくるシンコ。幸福な光景を遠くから見つめるサングラスの男(村野武範)。たまたま新郎新婦の記念写真のフレームに「康彦さん!」が収まる。三年前に死んだはずの康彦(村野武範)が生きている。疑念を抱くシンコ。

 康彦の車を写した写真を見て「なんだこりゃ?」とボス。そこへ、団地で拳銃で射殺された男の遺体が発見される。現場の団地は、祥子夫婦の新居でもある。新婚旅行帰りの祥子夫妻に、部屋に招かれたシンコ。公夫が送り主不明の聖書を持っている。そして、お茶を入れた祥子が、砂糖や食器などが「私の置いた場所とは少し違っている」と違和感を覚えている。「誰かがこの部屋に入ったんじゃないかしら」と祥子。シンコは、畳に血痕を見つけ、すぐにボス、ゴリさんと鑑識を呼ぶ。ダストシュートからも結婚が発見される。しかし、祥子夫婦の家では盗まれたものは何もない。

 被害者は年齢35歳前後、名前は自称・北川志郎。指紋照合の結果、前科はなし。夕刊を見て名乗り出た妻によると、自動車会社のセールスマンをしているとのことだったが、会社によれば、北川という社員は勤めていなかった。本籍地に照合すると「北川志郎」は三年前に死亡していることが判明する。指紋と血液型から祥子夫妻の部屋が犯行現場と断定される。しかし犯人の指紋は発見されていない。

 名前も本籍も誤魔化して結婚生活をしていたなんて「とんでもない奴ですね」とマカロニ。「どうも単純なヤマじゃなさそうですね」と殿下。団地の早起きの老婆が、朝の5時頃、不審な救急車を目撃。消防庁の記録によれば、団地に出動した記録は残されていなかった。

 「この事件、奥が深そうだな」とボス。「どういうことですか?」とマカロニ。「その婆さんがいなければ、この死体、闇から闇へ葬られてたかもしれないな」。救急車の連中は「死体処理班だったんだろう」とボスが推理する。捜査一係は徹底的な聞き込みを始める。

 祥子の部屋で、結婚式の写真を夫妻に見せるシンコ。祥子「ね、この人。死んだ兄さんに似ているみたい」。三年前にベトナムで死んだ祥子の兄・康彦によく似ている。「ばかね。いくら死体が発見されなかったとはいえ、生きてりゃとっくに帰ってきているわよ。ベトナム戦争も終わったんだし」と笑う祥子。シンコも康彦の葬式に列席していた。「シンコ、あなた死んだ兄さんが好きだったんじゃない?それで誰を見ても、兄さんに似ているようなきが・・・」「祥子!」と怒るシンコ。

 団地のマーケットで聞き込みをする殿下。優しく主婦のカゴを持ってあげる。ゴリさんも大工の手伝いをして情報収集する。耳の遠いお婆さんに四苦八苦して話を聞くマカロニ。山さんはチンピラ風の若者から話を聞く。しかし手がかりは全然なし。

 捜査一係ではシンコが、密かに調査をしているが、ボスには黙っている。シンコは連絡を受けたレンタカー・オフィスに出かける。そこでボスは、彼女の机のファイルから康彦の新聞記事を見つける。レンタカー・オフィスで、結婚式の時のクルマの借主を確認したシンコは、外国人で賑わう東京ヒルトンホテルのラウンジへ。なんとカウンターには康彦が座っている。

 ブランデーを頼むシンコ。隣の康彦に「まだ信じられない。あなたが生きているなんて」「よくわかったな。さすがは刑事だ」「刑事として来たんじゃありません」。かつて二人は、愛し合っていたことが匂わされる。

 やがて、康彦は無言で立ち上がり屋上へ。シンコは「こんな時には、何からお話を伺えばいいの?」「何も話すことはない。国も友人も、名前さえも捨てなければならなかった生活がどんなものか。どう話してみても、誰もわかりはしないんだ」「なぜなの? なぜ堂々と名乗って出ないの?教えて」「・・・」「康彦さん」「私に会ったことは祥子には言わないでくれ」「君も忘れるんだ。そして君たち警察も、団地の殺人事件からは、いい加減に手を引いた方がいいんだ」「これ以上話すことは何もないんだ・・・」。今回の事件の闇が垣間見えてくる。

 「宗吉」でボスが熱燗で一杯。宗吉(ハナ肇)と酒を酌み交わす。「尾沢康彦ってキャメラマン知っているかい?」「生きてりゃ、今頃世界一流だね」と宗吉も康彦のことをよく知っている。「いい男だったよ」「シンコの奴、惚れていたのかい?」。葬式のあと、シンコは朝まで泣いていたと宗吉。

 夜の捜査一係。シンコが一人で座っている。そこへボス「少し飲んだら、帰るのが面倒くさくなった。今日はここへ泊まるぞ」とソファーへ。「シンコ、俺に何か話があるんじゃないか? 迷っている時は話した方がいい」。シンコ、ためらいながらボスの前に座る。

「なあ、シンコ。お前は刑事だ。自分から事件に関係あると言った奴を、なぜ参考人としてしょっ引いてこなかった?」「・・・」「お前と、その男の間に、昔何があったのかは知らん」「何もありません」「だがな、お前のハンドバッグの中には、警察手帳と手錠が入っていることだけは忘れるなよ」「今度連絡があったら、必ず俺に知らせろ。いいな」うなづくシンコ。「警察の仕事は逮捕するばかりじゃない。保護する力だってあるんだぞ」「ボス」「わかったな」。

  頼もしきボス。長谷川平蔵か、ジュール・メグレ警視か、藤堂俊介か、といった感じである。ぼくらは、中年に差し掛かった石原裕次郎さんに、理想のリーダー像をみていた。こうした具体的なシーンが「頼もしきボス」のイメージを醸成していったのである。

 ゴリさんがホテルに直行したが、康彦はすでにチェックアウトしていた。この事件は、関係者二人はすでに死んだことになっている。さらに、何も盗まない空き巣に、正体不明の救急車・・・。「一体どういうことですか?」とゴリさん。長年刑事を務めてきた山さんは「俺たちは影の世界に足を踏み込んでしまったんだ」。庶民の知らない場所で、世界の政治や経済を動かして、時には戦争も起こす。名前も顔も国籍すら捨て去った人間たち。決して新聞で報道されることのない世界。警察でさえ踏み込むことのできない世界があるんだと山さん。被害者の自称・北川も「多分、その影の世界の人間だろう。そして尾沢康彦というキャメラマンも、そんな世界と関わりを持ってしまったんだろう」。

 「だがこれだけは忘れるなよ。たとえ身元はどうあろうとも、殺されたのは幽霊じゃない人間だ。人間が殺された以上、その犯人を逮捕するのは俺たちの職務だ。たとえそれが何者であっても。いいな」とボス。ここに「太陽にほえろ!」のブレない正義と価値観がある。僕らは子供の頃、このボスの「倫理」を基準に物事を見ていた。

 祥子の団地。公夫は、送り主不明の「聖書」を手にする。そこに挟まっていたのは小さく畳んだ封筒。中には手紙と写真のネガ。手紙を読む公夫。「祥子。おめでとう。詳しい事情はまだ説明できないが、私は生きている。もしこの封筒を発見したら同封したネガを大切は保存しておいて欲しい。いずれ会って詳しい話ができると思う。それまで元気でいてくれ。幸せに」。謎の男たちが向かいの団地の部屋から公夫の行動を観察してる。窓のカーテンを閉め、ネガを手に公夫「何が写っているんだろう?それにしても兄さんが生きてるなんて」。そこへ電話。幸子がクルマで跳ねられたというのだ。

 慌てて飛び出す公夫。団地の前で、二人組のスーツの男に拉致されてしまう。その様子を影から目撃している康彦。ちょうど幸子が買い物から帰宅するが、公夫はいない。「どこいったのかしら?」。夜になっても戻らない公夫を心配する幸子に、公夫から電話がかかってくる。「落ち着いて、俺の話を聞くんだ。俺はしばらく帰れない。会社には病気だと言って連絡しておいてくれ」「どうして帰れないの?」「祥子、君の兄さんは・・・あッ!」「もしもし・・・」。

 しばらくして男の声で「奥さん、ご主人の身柄は預かっている。警察には知らさないことだ。ご主人が無事であって欲しいなら、大人しく待っていろ」。大平透さんの声なので「スパイ大作戦」みたい!というか、かなりフィクショナルな世界へ!

 密室に幽閉されている公夫。「どうしてこんな目に合わせるんだ!」先程の声で「あなたは我々の質問に答えれば、すぐにでも家に帰れます」「尾沢康彦が送ってきたネガはどこにあるのですか?」「そんなことは知らん。康彦さんはベトナムで死んだんだ」。

 「宗吉」で、シンコが呆然としておシンコを太く切っている。心配する宗吉。そこへ祥子から電話。「お願いすぐ来て」。シンコ、祥子の団地へ向かう。祥子は、あの写真に写っていたのは「本当にお兄さんだったのでは?」とシンコに話す。すぐにボスに連絡をしようとするシンコ。それを祥子が止める。「警察に話したら公夫さんが殺されるわ」。そこでシコはキッパリと「祥子、私も現職の刑事なのよ」。もうシンコに迷いはない。

 ボス、山さん、ゴリさん、全員出動して団地に張り込んでいる。前日、男たちが公夫を監視していた39号棟の部屋は、二週間前から一家揃って里帰りをしていたが、ところが数日前から「従兄弟と称する男」が泊まり込んでいたとゴリさんがボスに報告する。祥子の部屋のある43号棟の屋上にはマカロニがトランシーバーで見張っており、ボスの指示を受けて39号棟の部屋を見ると、男が双眼鏡で監視している姿を確認する。すぐに39号棟に駆け込むゴリさんとマカロニ。しかし誰もいない。火のついたタバコだけが残っている。「マカロニ、人質の生命が危ないぞ!」とゴリさん。

 祥子の部屋では、シンコと幸子が電話を待っている。窓の下では子供達が遊んでいる。平和な光景。そこへ電話。康彦が七曲署と名乗ってシンコを呼び出す。「二度と君には会わないつもりだったが、どうしても頼みたい。それ以外に公夫くんを助ける方法はないんだ」。康彦は本棚の聖書が必要だという。「どこへ行けばいいの?」。一係の全員が盗聴している。「5時に田山町の交差点を降りて東にゆっくり歩いてくれ。頼む」そこで電話が切れる。

 その時ボスの言葉が蘇る。「いいか、今度何かあったら、必ず俺に連絡してくれ。お前、刑事だろ」。祥子がお茶を入れている間に、シンコは聖書を持って外へ。山さんはゴリさんに現場に先回りするように指示。指定の場所に向かって歩くシンコ。康彦のクルマが近づいて、シンコをピックアップ。

 公夫が監禁されている部屋。精神的に追い詰められている。完全に国際スパイ映画の世界だね。公安は何してる?「答えろ!今日は何日だ」と絶叫する公夫。「ここから出してくれ。なんでもしゃべるよ。ネガも知っているよ」。しかし大平透さんの声は冷たく「もう君に喋ってもらう必要はなくなったよ。たった今、尾沢氏から連絡があって、明朝ネガを受け取ることになった。君は家に返してあげよう。安心したまえ」。しかし部屋には謎のガスが充満し始める。「何をする気か!」

 黒塀の料亭前で、ゴリさんがクルマで張り込んでいる。シンコと康彦が入ったまま出てこない。「踏み込みましょうか?」。ボスは「待つんだ。尾沢は聖書と公夫を交換する気だ。聖書の中に何か隠されている筈だ」。ゴリさんはその場で待機。料亭の座敷でシンコが康彦に「あなたがこうなってしまったのは、そのネガのせいなのね?」「そうだ」「一体、何が写っているの?」「四人の男が握手をしている場面。三年前、偶然に撮影に成功したんだ」。

 その四人の男の正体は? それを知ればシンコも康彦と同じ運命をたどってしまう。「なぜ公表しなかったの?」「あの悲惨な戦争を何年間も取材し続けたら、誰だって一日も早い平和を願う。もし、その四人の名前を公表すれば、第三次世界大戦の危険さえあった」。どんどんスケールが大きくなってきた。「私は報道カメラマンだ。今は発表できないとしても、この事実だけは歴史に残したかった。」だから、康彦は生命に変えても、このネガだけは残さなくちゃ行けないという思いで「何も知らない祥子のもとへ送った」のだ。

 しかしネガが公表されると困るのは、世界の政治を影で操っている連中である。必要とあらば、一国の政権をひっくり返す頃ができるのだ。「私は、祥子が巻き込まれるのを怖れて、団地へネガを取り返しに行った。だがすでにあの男が来ていた・・・」「じゃ、あの男はあなたが・・・」。仕方がないとはいえ、殺人者は康彦だったのだ。シンコはショック。

「康彦さん、お願い。自首して!あたしたち警察があなたを守るわ」。しかし康彦は「その写真を撮った時から、こうなる運命だった。しかし、君にはこんな風にしてではなく会いたかった。三年前、ベトナムに発つ時、今度帰国したら、君に結婚を申し込もうと思っていた・・・私は人まで殺してしまった。何もかももう遅い。遅すぎるんだ」

 ゴリさんは、康彦とシンコのクルマを尾行して郊外へと向かう。途中、シンコが降ろされる。そこへボスのクルマが。「話は後だ。三方に分かれて尾沢のクルマを探せ」。ディゾルブの多様で捜索が描かれる。なかなか緊迫感のあるシーン。やがてゴリさんは5丁目の外れのビルの前で、偽装救急車を発見する。敷地内に潜入するゴリさん。救急車のドアは開かない。蹴っ飛ばして開けると、ストレッチャーには公夫が横たわっていた。

 一方、康彦は組織のアジトの地下室へ。「ネガを映写機に入れたまえ」と大平透さんの声。スライドに入れて映写。まだ何が写っているかは視聴者にはわからない。

 公夫は生きていた。安心したボスは「このビルの中を探せ!」。

 地下室。康彦は映写機の横で「公夫くんはどこだ?」と拳銃を胸から出す。そこへ影の声「映写機のスイッチを切れ」。康彦がオフにしたと途端。ドカンと大爆発!おおやっぱり「スパイ大作戦」か! その爆音をきいて地下に降りるボスたち。しかし康彦は絶命している。シンコ絶叫!「康彦さん、康彦さん」。本当にスパイ映画だったね。

 七曲署では報道陣のフラッシュの放列。記者会見を前に、七曲署部長(幸田宗丸)がボスに「俺がうまく処理する。君は黙ってろ」。

 部長は会見で「従って、団地における殺人事件の犯人は、所持していた拳銃を調べた結果、元カメラマンの尾沢康彦と断定できます。なにぶん、本人がすでに死亡したことでもあり、捜査はここで打ち切らざるを得ない状況です」と釈明。記者は「尾沢キャメラマンはなぜ爆死したんですか? なぜ3年間も生きていることを隠したんですか?」と追及する。

 部長「ですから、それは目下調査中ですが、おそらく尾沢は人を殺して、自殺したと判断・・・」

 横で眼を瞑って黙っていたボスは「違う!尾沢康彦はむしろ被害者です。彼の死は事故や自殺じゃない。殺されたんだ」。

 部長、大慌てて「藤堂くん!」。

 ボスは続ける。「この事件にはでっかい背景があります。その背景はなんだかわからん。ただ、尾沢康彦は、国際政治の非情な争いに巻き込まれた犠牲者です。この事件に関する限り、我々は完敗しました。何かの理由で、巨大な組織が尾沢を抹殺したのです。それが何であるか。我々には影さえ掴めなかった・・・」。

 「宗吉」での父娘がインサートされる。シンコは宗吉に「康彦さん・・・死んだわ」「そうか。そうだったのか・・・」目に涙を溜める宗吉。

 ボス「だがともかく、この事件で二人の人間が死んだんです。そして何人もの人間が、悲しみのどん底に叩き込まれている。我々はこの事実から、目を背けてはならない。尾沢キャメラマンが命を捨てても、歴史に残そうとした事実。いくつかの生命を犠牲にして地上から抹殺された事実。それが何であるのか。私にはわからない

 ボス、立ち上がって「たとえどんな理由があるにせよ。一個の生命は地球よりも重いんだ。もしまたこんな事件が起きたら、我々は徹底的に犯人を追及します!人間をまるで虫けらのように抹殺する連中は、たとえ何者であっても許さない。それが我々の職務です」。きっぱりと、ボスの正義、ボスのモラル、揺るぎないポリシーをはっきりと表明する。荒唐無稽な物語だけど、このラストのボスの長い意思表示、子供の時と同じように、改めてシビれた!


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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