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太陽にほえろ! 1973・第58話「夜明けの青春」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第58話「夜明けの青春」(1973.8.24 脚本・小川英、武田宏一 監督・竹林進)
永井久美(青木英美)
西山署長(平田昭彦)
徳岡(上田忠好)
倉田(中庸介)
平田守
畑中二郎(平野康)
「いちふく」女将(槇ひろ子)
東大二郎
田中志幸
堀内泰治
木島進介
木村実(峰竜太)
山下直子(降旗文子)
予告篇の小林恭治さんのナレーション
「都会での夢に敗れた二つの青春が、踏み外した大人へのあゆみ。次回、夜明けの青春にご期待ください」
「おはよう!こどもショー」で人気者となり、この年に青年座に入団し、俳優となったばかりの峰竜太さんゲストによる山村刑事(露口茂)主演回。恋人役には「おれは男だ!」のバトン部員、「飛び出せ!青春」のサッカー部のマネージャー・畑野文子役でお馴染みの降旗文子さん。また「おれは男だ!」で剣道部員・浅沼太郎を演じていた平野康さんが、第22話「刑事の娘」以来の出演をしている。
今回の脚本は第28話「目には目を」を手がけた武田宏一さん。永原秀一さんに師事して、「飛び出せ!青春」では17話「老人パワー大爆発!」と22話「飛び込もう青春の海へ!」を永原さんと共に手がけている。
新宿の高層ビル街。ビルの屋上で、拳銃を持った畑中二郎(平野康)が「来るな!」と叫んでいる。山さんが説得に向かう。「さあ、もういい加減にそいつを渡せ」「みろ。お前震えてるじゃないか、もうこんなことはよしにしようや」罪を償えと山さん。二郎は奪った金をビルから撒き散らす。「こんな紙ぺらのために・・・」と思いの丈をぶちまけて「やぶれかぶれだ。もうどうなってもいいんだ。やいデカ、いいかげん近づくと・・・」二郎は自分の頭を拳銃で撃ち抜き、落下、絶命。
ボス、ジーパン、ゴリさん、殿下、長さんが遺体に近づく。山さん「・・・」。悲しそうな表情。
新聞の輪転機にテロップ「給料強奪犯人 ビル屋上で ピストル自殺!!! 犯人は住所不定 無職の若者!! 刑事の眼前、説得も虚しく 犯人自殺!」
捜査第一係。無軌道な若者の末路に嘆く、ゴリさん、長さん。「もう待てなかったんです」とジーパン。欲求不満やストレスを抱えて、それを宥めすかしながら生きてきた。「しかし奴は疲れた。うじうじ。まどろっこしく生きるよりも・・・」そこまで言ったところで、意気消沈した山さんが入ってくる。
刑事としての自信を喪失している山さん。誰も声をかけることができない。「ボスはどこへ行った」と山さん。そこへ久美が「水中花」を手に明るく入ってくる。その頃、ボスは西山署長(平田昭彦)の叱責を受け、世論を気にして山さんをしばらく休養させるように命じる。「山村が仕事を休むときは、刑事をやめるときです」とボス。「ならば辞表を出させたまえ」と署長。「辞表を出すその瞬間から、彼は完全に刑事であることを辞めます。誰がなんと言っても、もう二度と元に戻らんでしょう。刑事としての彼を捌くものは、彼の中にあるでしょう。私はそういう山村を信頼しているんです」。あとは署長の判断次第と部屋を出ていく。カッコイイねボス!
ボスは署長室のことを、おくびにも出さず「山さん、そう気にするなよ。それより、死んだ二郎のことなんだがね・・・」。山さんは「もう一度、洗い直したい」と。そのとき、ゴリさんあてに情報屋・徳岡(上田忠好)から電話。三丁目の福永芸能社の社長・福永隆三が拳銃の密売をしているとの情報。福永芸能社は「流し」の元締めである。情報の信憑性を確かめるために、ゴリさんは徳さんに会いにいく。「俺も連れてってくれ」と山さんも同行する。
新宿三丁目のデパート・伊勢丹の屋上遊園地。久々の徳さんの登場。徳さんは、第6話「手錠と味噌汁」、第52話「13日金曜日マカロニ死す」に引き続きの三度目の登場となる。外人ルートから福永が密輸拳銃23丁を入手、それを暴力団相手に売り捌こうとしているらしい。山さん「福永の拳銃密売は、今回が初めてのことのなのか?」。ここ二、三年の間に、相当な数を動かしているらしい。「例の自殺した若い奴の拳銃も、出所は福永芸能社らしい」と徳さん。運び屋の手先には流しの連中を使っていることもわかる。
山さんの聞き込み。二郎は歌手志望だったが、諦めて「流しのさくら」になっていた。「いちふく」女将(槇ひろ子)も二郎の写真を見て「見たような気もするね」。そこへ「こんばんわ。お客さん。一曲いかがですか」と流し(中庸介)がやってくる。「いちふく」の女の子(降旗文子)が、流しについている若者(峰竜太)に微笑みかけ、若者も微笑む。福永芸能社の流しである。長さんがやってきて、山さんの隣に座る。店の奥では流しが、あのねのねの「赤とんぼの唄」を歌っている。峰竜太さん、かなり歌の方がビギナー(笑)
長さんが「あの場合はしょうがなかった。誰がやっても同じ結果になったさ」と山さんを慰める。「それは違うな。あの男の気持ち、性格、全てを俺がしっかり掴んでいれば・・・」と自責の念に駆られている。山さんたちの隣のサラリーマンが流しに「戦友」をリクエスト。しかし若者・木村実(峰竜太)は渋る。倉田がアコーディオンでイントロを弾き始め、サラリーマンがご機嫌で歌い出すが、実はうつむいたまま。「それで流しがよく務まるな」と呆れ顔のサラリーマン。「お客さん、なんか他の歌を歌わせてください」と必死の実。しかしサラリーマンは「もういい」。カウンターの中の山下直子(降旗文子)が実の顔をじっと見る。山さんも見る。実のことが気に掛かる。
「いちふく」の外、倉田が実に往復ビンタで叱責。そこへ山さん。「兄貴、許してくれよ、兄貴」。それでも実に蹴りを入れる倉田。たまりかねた山さん「許してやれよ」。実が「ほっといてくれよ。許して欲しくなんかない」と山さんに抵抗する。「わかっただろ刑事さん。こいつには意地ってものがあるんだよ」と、倉田は山さんが刑事であることを知っている。
「犯人の説得に失敗しったデカだろう?」。山さんの頭の中で、二郎の自殺の瞬間がリフレインされる。山さんを睨む実。流しの二人は去っていく。
ジーパンは福永芸能社の前で張り込み。帰ってきた倉田と実。山さんも張り込んでいる。芸能社のなかはタコ部屋のようである。早朝、実がそっと出ていく。嬉しそうに出かけ実をジーパンが尾行する。とある公園、実は直子とデート。二人は公園の片隅で栽培している「ナスの花」を愛でている。「グングン大きくなれ!」実と直子は毎朝水をやりに来ている。「楽しみだわ。ナスの花って、こんなに綺麗だとは思わなかった」。二人にとっての希望の象徴なのである。「もっといっぱいあるといいな」「こんな街、一度でいいから飛び出して行ってみたい」直子と実は目を瞑って、二人だけのナス畑をイメージする。誰からも、何ものからも束縛されない二人だけの楽園を夢見て、笑あう二人。咳き込む直子の身体を心配する実。「平気よ、だってこうやって毎朝、実と会うのだけが楽しみなの。それにナスが寂しがるでしょ」。
ジーパンは山さんに、あの二人はデートしているだけだから、拳銃密売とは関係ないでしょう。「あんなおとなしそうな奴が拳銃に手を出すはずがないじゃないですか」。しかし山さんは二郎だって、おとなしそうに見せる青年だったんだと、実をマークする。
福永隆三の邸宅。隠し金庫には拳銃がしまってある。倉田に、梶田組と話がまとまり拳銃を売ることにしたと話す福永。「今度の使いは誰を?」。倉田が差し出したのは、実の写真だった。福永は昭和30年に芸能社を設立したが、その前は、解散した暴力団・梶田組の幹部だった。当時、マーケット界隈では相当鳴らしていた。ジーパンの見るところでは、山さんは芸能社を調べているが、自分は実は取引とは関係ないとボスに報告する。
山さんはレコード会社「ハニーレコード」を訪れ、去年のオーディション参加者のリストを調べる。二郎だけでなく、実の履歴書も残されていた。レコード会社の管理職によると、二郎も実も、歌は相当酷かったことを覚えていた。審査結果発表の日、二人とも不合格となり、かなりがっかりしていた。そこへ「流しを仕切っている男が、新入りをあさりに来ましてね。いつもくるんですよ。福永芸能社とかなんとか、名前だけはもっともらしいんですがね」。二郎は喜んで倉田について行った。実は慎重に考え込んでいたが、結局福永芸能社へ。張り切っていた二郎は流しにも使ってもらえなかったという。
福永芸能社。倉田が実に、直子の咳は「風邪の咳じゃないぞ。喘息だぜあれは」と優しく話しかけ「話違うが、明日の朝、ちょっとした仕事を頼みたい」。6時に社長の家に行って鞄を受け取り、渋谷の宮下公園へ行き「使いの黒川という男にに鞄を渡す、それだけのことだ」。鞄の中身は骨董品と安心させて仕事を頼む。「直子とかいうあの娘のためにも、お前は金がいるだろ?」。やくざの常套手段。いつでも若いのは、これに騙されてしまう。
翌朝、いつものようにナスの前で、直子と実のデート。そっと見つめる山さん。直子と別れた実がタクシーを拾う。その車を追う山さんは、実が福永宅に入るのを確認する。そこへゴリさん「さて、どういう風に動き出しますか」。待たせていたタクシーで渋谷に向かう実を、ゴリさんと山さんが覆面パトカーで追跡する。
宮下公園。実が指定のベンチに座っていると黒川がやってくる「実だな」「はい」鞄を渡す実。そこへゴリさんが「ちょっと尋ねたいことがあるんだ」。黒川に「ずらかるんだ」と言われた実、鞄を持って渋谷の雑踏へ逃げる。走る山さん。渋谷駅前の歩道橋で黒川を逮捕するゴリさん。実は渋谷駅で、井の頭線に飛び乗り、先頭車両からホームへ出て、そのまま駅の下を通りかかったトラックの荷台に。実を見失う山さん。
空き地に逃げ込む実は、アタッシェ・ケースを開けて、拳銃が入っているのを知ってしまう。ボスは木村実を緊急手配。走るパトカー。逃げる実は電話ボックスへ。一方、福永芸能社では、山さんとジーパンに、知らぬ存ぜぬと倉田。「大体実という奴は、よく無断で出かけて、手を焼いている」と嘯く。山さん「実には友達がいなかったのか?」と倉田にかまをかけるが、倉田は知らないふり。山さんは「邪魔したな」。それに不満なのはジーパン。
「まだ聞くことがあるのでは?」
「実を抑えん限り、時間の無駄だな」と出ていく。
山さんは黙って目的地へと歩く。二郎の自殺、直子と実の楽しそうな姿。流しをする実。さまざまなイメージが去来する。路地にある「がんばるにゃん」という飲み屋。従業員慰安につき休業中の看板。その店内で思い詰めた表情で拳銃を拭いている実。その前には直子が座っている。「実、まだ怒っているの?ごめんね病気のことを隠していて」「もういい」。拳銃を手にした実に、直子が「どんな気持ち?」「そうだな。腹の中がかあっと熱くなってくるような、それでいてしいんと落ち着いてくるような、変な気持ちだ。二郎の奴はどんな気がしたのかな?初めてこいつを持ったとき」。急に表情を変えた実は、直子の額に銃口を向ける。「私を撃つ気?」「死ぬときは二人、一緒だ!」「ついていくわ、どこまでも」。追い詰められた二人の決意の表情。
雨の公園。山さんは二人の「ナス」をじっと見つめている。花は今にでも落ちてしまいそう。ジーパンは「二人は来っこありません」と移動するが、山さんはそこに残る。やがて実は、とある家に忍びこみ、庭で吠える番犬に発砲!気付かれて逃げ出す。山さんは結局、公園で夜明かし。そこへジーパン「実らしい男が3丁目で事件を起こして逃げ出しました。幸い怪我や死人は出ていませんが・・・」と報告。ジーパンは「だから言ったでしょう。こんなところでじっとしていたってダメだって」と山さんを促すが、微動だにしない。山さんは二人が現れることに確信を抱いている。雨露に濡れたナスの花。
高層ビル街の公園の近く。直子が咳き込み、うずくまる。背中をさすりながら実「チキショウ。俺が殺したのは、たかが犬の一匹か!」。そこへ倉田と子分の流しの連中がやってくる。銃を構える実。倉田は「鞄さえこっちに返してくれればいいんだ。金もやろう」「信じるもんか!」。倉田は拳銃を出して、実に「ハジキを捨てるんだ!」。追い詰められた実が倉田に向けて発砲する。銃声を聞いて、山さんとジーパンが駆けつけるが、倉田は血を流して倒れている。
直子を連れて逃げる実の前に、山さんが立ちはだかる。実は山さんに銃口を向けるが、山さん「実」と言いながら近づく、しかし山さんは右腕を撃ち抜かれてしまう。逃げる実たちを、鬼のような形相で追う山さん。ジーパンは逃げる流したちに、いつものように「怒りの鉄拳」を炸裂させる。ゴリさんと殿下にその場を任せて、ジーパンは山さんの方へ。実と直子は近くのビルの非常階段へ、負傷しながらも二人を追う山さん。直子も苦しそう。ジーパンが山さんをサポートしながら屋上へ。
もう、これ以上は逃げきれない。二郎と同じように最上階に登る実たちを、血を流しながら追い詰める山さん。「来るな!撃つぞ」。トップシーンの二郎の事件と全く同じ状況になる。山さんが力を振り絞って、実に語りかける。
「実、ナスが実をつけたぞ」「・・・」「ナスだ。お前たちが可愛がっていた。あの小さな遊園地の片隅のナスが実をつけた」。実「ナスの花・・・」。直子「ナスが実をつけた・・・」。山さん「それを見てもやらないのか実。何もかもうまく行かない世の中で、お前たちがどんな気持ちであのナスを育てたのか、俺は知ってるぞ、少なくともそれだけは、俺は知っている・・・実、拳銃など捨てろ」。山さんの声が弱くなっていく。「そんなことでお前の一生を台無しにするのだけは、やめろ」。
涙を流す実と直子。山さんの目にも涙が・・・。やがて拳銃を降ろした実が叫ぶ。「どうしようもないじゃないか!どうしようも!」拳銃を投げ落とす実。ビルの下を見渡し、直子の顔を見つめて「もうだめだ」と、飛び降りようとする、その瞬間。山さんは「実!待て!」と近寄り、梯子を一段ずつ登る。「実!」「刑事さん!」「死ぬんじゃない、死ぬんじゃない! 乾いた土にだって、花は咲いたじゃないか、実はなったじゃないか、わかりあう人間はきっといる。生きてくれ、生きるんだ!」山さん、力尽きて落ちそうになる。
ジーパンは「山さん!」と助けようとするがボスが制止する。山さん「生きるんだ実!生きるんだ!」見つめ合う実と山さん。涙を流してうなづく実。優しくうなづく山さん。何度もうなづく直子。実は直子を抱き寄せ、ゆっくりと梯子をおり、山さんの元へ。泣きじゃくる実と直子を抱き寄せる山さん。
しばらくして退院してきた山さんに、ボスは福永がもう少しで自供しそうだから「絞ってくれないか」と頼む。「おう、水中花か、涼しいな」と前半で久美が持ってきた水中かを愛でるボス。
山さんは「ボス、あの娘のこと、どうも」と頭を下げる。ボスの知人が信州で牧場をやっていて、直子はそこで働きながら、のんびりと実の出所を待つことになったのである。さすがボス。ジーパン「出てきたら、今度は本当に二人でナスを作れる」。ボス「まあそういうことだ」と山さんの顔を見る。山さんもボスの顔を見る。
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