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太陽にほえろ! 1973・第71話「眠りの中の殺意」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第71話「眠りの中の殺意」(1973.11.23 脚本・永原秀一、蘇武路夫  監督・石田勝心)

永井久美(青木英美)
神谷雅彦(長谷川哲夫)
神谷紀子(北川めぐみ)
松沢博士(梅野泰靖)
中村一夫(富川澈夫)
三浦(松尾文人)
北川(小倉雄三)
関根信昭
アレビット英会話スクール事務員(龍のり子)
山口譲
奥山正勝
林寛一
堀越雄作(内田朝雄)
堀越のボディガード(大宮幸悦NC)
堀越のボディガード(小坂生男NC)

 東宝で成瀬巳喜男監督や、松林宗恵監督に師事して、小林桂樹さんが社長に昇格した『昭和ひとけた社長対ふたけた社員』(1971年)二部作、傑作『父ちゃんのポーが聞こえる』(同年)などを手がけた石田勝心(かつむね)監督が「太陽にほえろ!」に初参加。今回は脚本の永原秀一さんが若い頃に観たフランク・シナトラの『影なき狙撃者』(1962年・ジョン・フランケンハイマー)をヒントに「暗示による殺人」をテーマに描いたミステリー篇。殺意はあるものの犯行動機がない「殺人」の謎に、山さんが挑んでいく。第66話「生きかえった白骨美人」で登場した松沢博士松沢博士(梅野泰靖)が再登場。暗示による殺人司令の真相を暴いていく。

 予告篇の小林恭治さんのナレーション
「エリートサラリーマンの妻が、なんの動機もなく殺人を犯そうとした。殺意はあった。だが、動機のないこの事件に、七曲署刑事は困惑した。解決の糸口である。その日の彼女の2時間の空白・・・ そこに隠されたその日の事件の真相は? 次回「眠りの中の殺意」にご期待ください」

 捜査第一係。ボスが机の上に足を上げて新聞を読んでいる。こういう仕草がカッコいいのはさすが太陽族出身!長さんと殿下は将棋をしている。ゴリさんは大盛りの天丼にかけ蕎麦、さらにカツ丼追加している。いつもの雀荘では、山さんが雀仲間と楽しく打っている。事件もない、のどかな一日である。一係へジーパンが帰ってくる。ゴリさん「これで金を暇がありゃね」。ボス「天下泰平だな」。

 ジーパンがテレビをつける。ニュースでは巨額の脱税容疑で東京地検特捜部に逮捕勾留中の堀越雄作(内田朝雄)が一億円を積んで、保釈されたと報じている。堀越はそのまま「静養」と称して、新宿の東都病院に入院することに。闇金や不正取得した土地で稼ぎ、15億円の脱税をしている。「こんな奴はね、さっさと刑務所にぶち込んじゃえばいいんですよ」とジーパン。「真面目に税金を払っている奴がみじめになるよ」と堅実な長さんが嘆く。

 内田朝雄さんは、昭和34(1959)年、39歳でNHKに初出演、東宝映画『花のれん』で映画がデビューした遅咲きの俳優。東宝傍系の宝塚映画の専属バイプレイヤーとして活躍後、やくざ映画や時代劇の悪役の常連となる。「ザ・ガードマン」(TBS)や「キイ・ハンター」(TBS)などの悪役でもお馴染み。「太陽にほえろ!」で第636話「ラガー倒れる」(1985年)まで4作品に出演している。

 東都病院。花束を持った女性(北川めぐみ)が特別室Aの前で、記者に取り囲まれた堀越を包丁で刺して逃走する。屋上に追い詰める記者。堀越が刺されたと七曲署へ通報があり、山さんは雀荘から現場へ急行する。ジーパンと山さんが犯人の女性を連行してパトカーに乗せる。堀越の傷は、本人が騒いでいるほどではなく、2〜3週間程度のケガだった。長さんはそのまま病院に残って捜査を続けることに。

 今回の犯人(被害者でもある)神谷紀子を演じた北川めぐみさんは、60年代から70年代にかけてのテレビ映画ではお馴染みの女優さん。TBSの「ケンちゃんシリーズ」(TBS)にもよく出演していた。「太陽にほえろ!」の前身番組「東京バイパス司令」(NTV・1968〜1970年)では竜雷太さんと共演している。

 取調室。神谷紀子(北川めぐみ)を取り調べる山さんとジーパン。紀子は堀越には会ったことがない。なぜ刺したのかが、自分ではわからない。紀子は犯行の直前、病院の近くの「マルヤ」金物店で凶器の包丁を購入。その包丁で堀越を刺したことも認めている。その後、屋上から自殺をしようとしたが、犯行の前から死ぬ気だったのか、それとも衝動的なのか? 紀子は混乱して「わかりません」と被りをふるだけ。「本当に、なぜ、あんなことをしたのか?自分でもよくわかりません」。

 一係。ゴリさんは紀子と堀越の関係を調べたが、接点が「さっぱり掴めませんね」とボスに報告。神谷(かみたに)紀子は、昭和21年10月8日生まれで27歳、同立女子大を出た才媛で、父親は土建会社を経営。夫・神谷雅彦(長谷川哲夫)は、一流商社・中光商事の渉外課係長。同期の中では出世頭で将来を嘱望されたエリートサラリーマン。

 雅彦を演じた長谷川哲夫さんは、俳優座10期生で、「太陽〜」でもお馴染みの西沢利明さんと同期。「水戸黄門」(TBS)では徳川綱吉を18年以上演じているが、「太陽〜」のゲストはこれ一作だけとなった。

 紀子は犯行を素直に認めたが、動機がさっぱりわからず。「落としの山さん」もほとほと手を焼いている。そこへ「妻はどこですか? 紀子に会わせてください」と夫・雅彦が、一係へ取り乱して入ってくる。「刑事さん、紀子は本当に人を刺したんですか?」「ええ」とボス。それが信じられない雅彦。プライドを傷つけられたようでもある。何か手がかりを掴めるかもしれないからと、ボスは雅彦を紀子に会わせることにする。

 取調室。雅彦は「嘘だろ?お前、人を刺したなんて・・・」「あなた・・・」。犯行を認める紀子。雅彦、激して「なぜだ。わけを言え!」と紀子を責める。「どうしたらいいんだ? これで俺の人生、めちゃくちゃだよ」。妻を心配することもなく、自分の出世のことしか考えていない男である。「あなた・・・ごめんなさい」と泣き崩れる紀子。

 東都病院。特別室-A。山さんが堀越に事情聴取している。「新聞記者やキャメラマンが仰山おるなかで、刺しよったんや。こんな簡単明瞭な事件、ないのんと違うか? あのおなご、はよう死刑にしたらよろし」神谷紀子は堀越と一面識もないと言っているがと山さん。「向こうが知らんいうてんやから知らんのやろ」。堀越も紀子のことは知らないの一点張り。「ほんま、法治国家の名前が泣きまっせ」。山さんそれでも「本当に神谷紀子を知らないのんですね?」と念を押す。

 神谷家。山さんが尋ねる。近所の主婦の目が厳しい。「今ちょっと」と断ろうとする雅彦を押し切って、山さん家の中へ入る。雅彦は苛立っている。事件が決着つくまで会社から自宅待機を命ぜられているのだ。紀子がなぜあんなことをしたのか?何か、思い当たることはないかと、山さん。雅彦はいくら考えても、その動機は思いつかない。「まさか、被害者の堀越から、金を借りていた、というようなことは?」。自分は生まれてから一度も借金をしたことがないと、雅彦は怒ったように言う。「もし、借りるにしてもあんな奴から借りません!」。山さんは詰めよる。何かの事情で夫に内緒で紀子が金を工面しなければならないということはなかったのか?「考えられませんね」。とにかく紀子には同期が全くないのだ。「刑事さん、妻はこれからどうなるのでしょうか?」

 妻を心配しているのかと思えば、そうではない。いつまでも自宅待機なのが耐えられないのだ。

取調室。紀子に、その日の行動を改めて確認する山さん。洗濯と掃除を終えて、支度をして外出したのは午前10時ちょっと過ぎ。行きつけの駅前の美容院「ロザンヌ」へ行った。セットを終えて美容院を出たのが11時前。それからデパートへ・・・。

 デパート。山さんと長さんが紀子を連れて行動を検証。洋服売り場、宝石売り場をウインドウショッピングをして、12時にコーヒースタンドでランチ。そして住宅街の坂の上にあるアパート「さつき荘」へ。「誰に会いに行ったんですか?」と山さん。しかし紀子は首を傾げるばかり。「わかりません」。思い出そうとしても、このアパートの誰を訪ねたのか? アパートに入ったのかすら、はっきりしない。デパートまでの記憶は鮮明だが、ここからが曖昧になってくる。ジーパン「山さん、この人、嘘ついてますよ」。紀子「ほんとです!」。

 アパートに入って調べようとするジーパンを止める山さん。事件に関係するものがこのアパートにいたら、警戒させるだけだ。「俺たちはまだ、何もつかんじゃいないんだよ」

 紀子は、先ほど来た道を戻って駅に、2時半頃着いた。それから電車で新宿へ戻り、花屋で花束を求めて、金物屋で包丁を買ってから東都病院に向かった。つまり、アパートを出てから堀越を刺して、自殺しようとしたことまでは覚えている。アパートでの空白の2時間の記憶がないのだ。

「2時間の記憶喪失か?」と山さん。

 取調室。紀子はアパートに着くまで、堀越を刺そうとは思っていなかった。堀越のことはだいぶ前に、脱税で捕まったことを新聞で読んだことがある程度。「しかし、殺してやりたいとは思っていなかった」「はい」。「花と包丁を買って病院へ向かう途中は、どんな気持ちでしたか?」「あの時は殺そうと思っていました。そうしなければいけないんだと」。なぜ、そう思ったのかはわからない。堀越を刺した後、紀子は病院の屋上から自殺をしようとしたのはなぜか? 「死ななければいけない。そう思ったんです」。それしか頭になかった。「奥さん、あのアパートに入ったのかどうか、まだ思い出せませんか?」

 一係。ボスは12時半から2時半までの空白の2時間が気になる。「その後、彼女は堀越を刺そうと決意をした」。アパートで誰かに会って、堀越を刺すように「脅かされた。説得された。或いは、暗示をかけられた・・・」。ゴリさんは信じられない。長さんは「刺したということは、二人の間に何かがあったんだよ」。殿下「その関係がわかればね」。ジーパン「アパートをあたるしか手がないんじゃ?」。山さん、少し考えて「もしかすると、堀越でなくても良かったんじゃないのか?」。ボス「・・・」。山さんは続ける「そいつの目的は、彼女に犯罪を犯させること」。ボスは「このヤマには何かウラがある」と、神谷雅彦と紀子の周りを洗い直すことに。

 ジーパンと山さん。神谷家の近所を聞き込み。「ロザンヌ」美容室で、紀子が最近英語を習っていたことを聞く。雅彦が近く、アメリカへ出張することになったためだという。

 ゴリさんと長さんは、雅彦の勤務先「中光商事」で、雅彦の上司・三浦(松尾文人)からサラリーマンの出世競争の厳しさについて聞く。出世コースの先端をゆく雅彦は、遅れをとった他の社員からの恨み、妬みはあるだろうと三浦。喫茶店で雅彦の同僚・北川(小倉雄三)から話を聞くことに。北川は、三年前に「中村一夫(富川澈夫)という男がいましてね。こいつが、ある事件の責任を取らされて、会社をクビになりました」と話し始める。中村は会社のトップシークレットをライバル会社に漏洩して解雇された。その頃、中村と雅彦は机を並べて鎬をけずる「未来の重役を争う」ライバル同士だった。中村が会社を辞める直前「トップシークレットを漏らしたのは、絶対に自分ではない。神谷が自分を陥れるために仕組んだ罠に違いない」と同僚に漏らしていたのだ。

 アレビット英会話スクール。紀子が通っていた英会話室へ、山さんとジーパンが聞き込みへ。事務員(龍のり子)によれば、紀子は4月からスクールの会員になっていた。個別指導のスクールで、紀子の担当はなんと中村一夫(富川澈夫)だった! 中村の住所を確認する山さん。「渋谷区西原 さつき荘」だった。しかもこのスクールは講師と生徒が都合の良い場所、時間でレッスンを受けるシステム。

 一係。英会話スクールの中村一夫と、中光商事をクビになった中村一夫が、同一人物であることが、殿下の調べで判明する。中村には動機がある。何らかの方法で紀子に犯行を犯させて、神谷雅彦への復讐を図った。このスキャンダルで、雅彦を出世コースから外すことができるからだ。しかしそれを裏付ける証拠が一切ない。悔しがる一係の面々。山さんは「証拠を見つけ出すんだ」と部屋を出ていく。

 取調べ室。山さんとジーパンが紀子に「中村一夫という男を知ってますね」「英会話の先生です」。そのきっかけは、中村が英会話のレッスンをしてみないかと、自宅を訪ねてきたことだった。夫・雅彦のアメリカ出張を機会に、英会話を習っておこうと思ったと紀子。「ところで奥さん。中村のアパートを訪ねたことはありますか?」。レッスンはスクールの個室で行っていたし、行ったことはない。「彼のアパートがどこにあるか知りませんか?」。山さん、ボールペンをコツコツと叩いている。そのリズミカルな音で、紀子が何かの暗示をかけられているようである。「奥さん、昨日、あなたが、我々を連れて行ったところが、中村のアパートなんですよ!」。紀子は俯いたまま、返事をしない。

「もしかすると、催眠術。そうだ、催眠術なら2時間の空白の謎を解ける」と山さん。再びボールペンをコツコツと叩いて「奥さん、もう目覚めても結構ですよ」。顔を上げ、目を開ける紀子。「奥さん、あなた催眠術にかかったことがありますか?」「いいえ、ございません」

 夜更けの一係。山さん、催眠術の本を読んで研究している。

 翌朝、山さんがみんなに自分の仮説を話す。神谷紀子は、中村一夫に催眠術をかけられて、彼のいうままに堀越を刺した。「もしかすると、刺した後に、死ね、と言われていたのかもしれない」。そう考えると紀子の不可解な行動や供述の説明がつく。紀子は事件に関する記憶は失われているが、そのほかの記憶は正常である。「犯行について思い出さないように、催眠暗示をかけられているのではないでしょうか?」と山さん。

「この事件を解くカギは催眠術だと思うんです」

 精神医学の専門家に依頼して神谷紀子を診断してもらうことに。そこで第66話「生きかえった白骨美人」の松沢博士(梅野泰靖)が再び、七曲署へ。

 松沢博士は、紀子に催眠術をかける。昨日の山さんのように、ボールペンで机をリズミカルに叩いて、紀子に暗示をかけていく。紀子は松沢博士のいうままに術にかかる。「あなたは催眠術にかかったことはありますか?」「はい」。最初は今年の春頃にかけられたと紀子。これまでに5〜6回かけられている。誰にかけられたか?と聞かれると口ごもる紀子。「その場所は、どこですか?」それも答えることができない。確かに紀子は催眠術による暗示を受けていた。しかもかなり強い暗示だった。これほど完全に記憶の抑圧を行えるのは、相当、催眠技術に長けているものの仕業だと松沢博士。

「あなたは、堀越を刺す決意をつけるために、あるアパートに、ある男といます」苦しそうに被りを振る紀子。
「あなたは、アパートの住所も、男が誰であるかも、言いたくない」
「・・・」
「よろしい、言わなくてもいい。言ってもいいことを聞きましょう。その部屋の中に、何か目立つものはありますか?」
「ヨット・・・丸いスピーカーが二つ・・・」

 中村のアパートへ急行する、ジーパンと山さん。階段の手すりの針金で手を切るジーパン。「大したことないですよ」と二階の部屋へ。部屋からは中村一夫が出てくる。「神谷紀子さんのことで・・・」と山さん。任意の事情聴取を始める。部屋にはヨットのパネルと、天井から吊り下げた丸いスピーカーが二つ。「事件の日の12時半から2時半ごろ、神谷さん、ここへ来ませんでしたか?」と山さんに訊かれ、否定する中村。レッスンはスクールの教室で行ってきたので、この部屋では一度も紀子には会っていない。「私は、仕事を自分の部屋まで持ち込むのはイヤなんです。ですから、神谷さんはこのアパートを知りませんよ」。なぜ警察が自分を調べているのか? 山さんは紀子の動機がはっきりしないので、紀子と関わりのあった人に事情を聞いていると優しく、しかし力強い口調で言う。

 中村一夫を演じた富川澈夫さんは、岸田森さん同様「六月劇場」出身。竜雷太さん主演「これが青春だ」(NTV・1966〜1967年)で生徒・田代稔役をんじていた。「ウルトラマンA」「超人バロム1」「トリプルファイター」「ファイヤーマン」「ロボット刑事」などの特撮もののゲストでもお馴染み。「太陽にほえろ!」では、第670話「ドック潜入!泥棒株式会社」(1985年)まで8作品出演している。

 七曲署。山さんは紀子に「あなたは催眠術をかけられて、堀越を殺そうとしたんです」「私には信じられません」。山さんも最初は信じられなかったが「これは事実です。我々は松沢博士にお願いして、あなたに逆催眠をかけてもらいました。その結果、あなたは犯人の手がかりとなることを思い出してくれました。丸いスピーカーが二つとヨットという言葉です」。山さんは「ある男の部屋」でそれを見つけたと告げる。「ある男と言いますと?」「中村一夫です」「なぜ?なぜ私を?」。山さんは続ける。あることで中村は夫・雅彦を恨んでいること、中村は紀子を利用して雅彦を追い詰めようとしたと。その時、ジーパンが「また血が出てきたな」とアパートの階段で怪我した手の絆創膏を外す。ジーパンの手のひらの血をみた紀子は、急に部屋を飛び出して走り出す。

 山さんとジーパンが追う。紀子は階段を登って屋上へ。飛び降りようとしたのだ。「奥さん!」ジーパンが懸命に止める。

 一係。ジーパンが松沢博士を連れてくる。紀子は鎮静剤を打って眠ったところ。なぜ、紀子は堀越を刺した時と同じように屋上に登ったのか?「キーワードじゃないでしょうかね?」と松沢博士。何か簡単なキーワードを決めておいて、紀子が、それを見るなり、聞くなりすると、死ぬように暗示をかけていたんでしょう。熟練した催眠術師なら可能だ。そのキーワードが解れば、紀子の自殺願望を止めることができるし、空白の2時間の記憶も取り戻せるに違いない。果たしてキーワードは? 考え込む山さん。ジーパンが「そういえば、あん時、絆創膏を外したら、血が出たんです。関係ないですよね?」。その言葉に山さん気付く。「血だ。彼女が堀越を刺した時も、血を見て死のうとしたんだ!」

 改めて松沢博士が紀子に催眠術をかけ「血を見ても死のうとはしない」と暗示を解く。「あなたは中村一夫に催眠術をかけられましたね」「はい」。最初は英会話スクールの個室で、頭痛を催眠術で直してあげるとかけられた。最後にかけられたのは、病院へ向かう直前だった。アパートで中村は、堀越の悪口を言い、紀子もそう思った。そして中村は「あなたは、堀越を殺すんだ。みんなのためなんだ」「殺すわ・・・」「それから、あなたは堀越の血を見ると、すぐに死にたくなる。死にたくなるのだ」「血を見たら、私は死ぬ・・・」「そう、そうです。建物の屋上へ行きたまえ。そして、あなたはそこから飛び降りる。飛び降りるんだ」。頷く紀子。

 松沢博士が再度確認する。頷く紀子。

 一係。ジーパンがこれからの作戦に対して「うまくいくかな?敵もさるものですしね」と弱気の発言。山さんギロリと睨む。ゴリさんから紀子が入院して落ち着いていると報告の電話が入る。山さん「じゃ、私はこれから」と出ていく。

 中村のアパートの前の坂道。買い物帰りの中村に、「先日はお忙しいところをどうも」と山さんが声をかける。「どうも彼女に曖昧なところがありましてね。犯行当日の彼女の足取りがもう一つはっきりしないんですなぁ」と中村をトラップにかける。「病院へいく前に、この辺りを寄ったとか寄らなかったとか」と山さん。しかし紀子は自分のアパートを知らないと中村。山さんは「精神状態が不安定なんですな」。今、警察病院に入院して専門家の精神鑑定を受けていることを話す。「530号室です。もし暇があったら、見舞ってあげてください」「そうですか」「もう少しすれば、足取りもはっきりするんですがね」とカマをかける。

 八百屋で見舞いの果物を買い、病院へ向かう中村。山さんが尾行する。紀子の病室。ゴリさんが付き添っている。そこへ「やあ、神谷さん、しばらく」と笑顔で入ってくる中村。ゴリさん「何だか暑いですね」と病室の窓を開ける。「つまらんもんですが」と見舞いの果物から取り出したリンゴを、ついていたナイフでむき始める。山さんは後ろでマンガを読んでいる。安心した中村、わざとナイフで自分の手を傷つけ、手のひらの血を、紀子に見せる。しかし反応がない。さらに手のひらを見せ「神谷さん!」。そのタイミングでゴリさんが取り押さえ、部屋に山さんが入ってくる。

「中村! 無駄なことはよせ。奥さんは、もう血を見ても自殺などしない!」
「・・・」
「お前のたった一つの誤算は、奥さんが自殺に失敗したことだ。だからお前はもう一度血を見せて自殺をさせたかったんだろうが、奥さんにはもう、お前の催眠術は効かんのだ」

病室のドアがあき、ボス、ジーパンが、神谷雅彦を連れてくる。

「中村、確かに三年前、お前を陥れて、会社を辞めさせたのはこの僕だよ。しかし、復讐するんなら、紀子を利用などせずに、直接、この僕にすべきだったんだ!」
「お前の汚いやり口に、こっちも汚いやり口で復讐しただけじゃないか! いま自宅待機だろ? そのうち子会社に飛ばされるか、大方依願退職だろ?一身上の都合により、って奴さ。依願退職ありがたく思えよ!結構じゃないか? 俺は何だったんだと思う? 俺は懲戒免職だ!しかも身に覚えのない懲戒免職だったんだぜ!俺の気持ちがわかるか?神谷!」

ボス「連れてけ」。連行される中村。

「もう一言言わせてくれ。神谷、俺とお前と、俺とお前と、本当はどっちが犯人なのか? 奥さんにようく聞いてみるんだな!」。
不敵な笑い声を上げながら出ていく中村。

 雅彦は山さんに「おかげさまで妻の潔白が証明されました。私は早速会社に」と礼を言って出て行こうとするが、山さんに引き止められる。
「奥さんのそばにいてあげなさい」。

 しかし雅彦を見る紀子の冷ややかな目。思わず夫から顔を背ける紀子。

 病院の廊下。ボス「なあ、山さん。気入れすぎるとしんどいぞ、この商売。行こうか」と山さんの肩を叩く。山さんは病弱の妻・高子への想いがあるから、雅彦の冷ややかな態度が受け入れられないのだろう。

 一係。デスクに足をあげて目を瞑っているボス。ジーパンはボールペンで机を叩き。「らくーに、楽にしてくださいよ」と催眠術をかけているようだ。固唾を飲んでいる刑事たち、そして久美・・・。「気持ちいいですか? 後でボスは、俺の言った通りにしますよ〜。いいですか、ボスは目を醒めると、我々に飯をご馳走したくなりますよ〜 島さんはステーキだそうです(笑)値段に関係なく、じゃんじゃん食ってもらいたいと思うんですよ〜いいですか?はい!どうぞ目を覚ましてください」。

ボス、あくびをして目が覚める。「さ、飯でも食いにいくか!」と立ち上がる。喜ぶジーパン、ゴリさん、殿下! ジーパンは「ビビンバ、ビビンバ」と大騒ぎ。そこでボス「ただし、お前ら割り勘だぞ!」。

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