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太陽にほえろ! 1974・第104話「葬送曲」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第104話「葬送曲」(1974.7.12 脚本・播磨幸治  監督・竹林進)

杉本茂(宮本和男)
杉本巡査長(長浜藤夫)
花田三郎(沖田駿一)
西川敬三郎
根岸智夫(小倉雄三)
神田正夫
新井孝文
「アシュラ」メンバー(荒木生徳、松野邦夫、林寛一、今井和男)
チンピラ(戸塚孝NC)
取調べを受ける男(大宮幸悦)

予告編。小林恭治さんのナレーション
N「警察官としての最後の朝、純を庇うように死んでいく老警官。父を凶弾に失った二人。純に向けられる銃口」
ジーパン「周りの人間がみんな敵に見えてな、俺もそうだった」
N「シンコの見守るなか、静寂を破る銃声はかつての純を浮き彫りにする。ぶつかり合う男の憎しみが友情に変わるとき。次回「葬送曲」にご期待ください」

 今回は、ハードボイルド志向の強い播磨幸治さん脚本による佳作。今日で定年退職を迎える、親しい警察官を、目の前で殺されてしまったジーパンの苦悩。その息子のジャズ・ミュージシャンはジーパンを憎み、殺意を抱く。ジーパンは警官の父を殺された悲しみを抱いて生きてきたので、その怒りが痛いほどわかる。同じ境遇の二人が対立し、やがて融和していく。そのプロセスが丁寧に描かれる。竹林進監督の演出も、全体的に暗めのトーンで、笑いや、ほのぼのとした描写を廃して、追い詰められていくジーパンの心理。非情なまでのボスの判断、どうすることもできないシンコの苦悩を、的確なショットで構成。見応えのある一編になっている。

 殉職した警官の息子に青春シリーズでお馴染みの宮本和男さん、バンドメンバーでドラマーを演じているのは、カレッジ・フォークグループ「フォー・セインツ」出身の荒木生徳さん。のちに「仮面ライダーストロンガー」の城茂を演じる、荒木しげるさんの本名である。また「ウルトラマンA」のTACの山中隊員でお馴染みの沖田駿一さんがバンドのマネージャーで出演している。

 朝5時、七曲署の正門前で、ゆっくりとタバコを吸う老警官・杉本巡査長(長浜藤夫)。感慨無量の表情である。そこへジーパンが覆面車で戻ってくる。ドアを開けて「親父さん」「よお、朝帰りとは粋なもんだ」「だったらいいんですけどね、ガセネタで振られ、ですよ」と笑う。二人は仲良し。「ところで親父さん、こんなところで何やってんですか?」「みての通り巡回勤務だよ、ただし、最後のね」。杉本巡査は本日で定年退職を迎える。「あそこへ帰って報告を済ませれば、私の警察官としての務めは全て完了だ。あとは定年退職の辞令を受けるだけだ」としみじみ。「寂しくなるな、俺、なんかできることないかな」「あるよ」「火を貸してくれんかね」とタバコを差し出す。

 この時代、男性社会においてはタバコがコミニュケーションツール。日本の刑事ドラマだけでなく、フランス映画、ハリウッド映画、皆しかりだった。「ああいいよ」ジーパンがポケットからライターを出した瞬間。通りかかったクルマからジーパンにサイレンサー銃の銃口が向けられる。「危ない!」杉本巡査長が、ジーパンを庇い、巡査長は凶弾に倒れてしまう。車は逃走。「親父さん!」。ジーパンは、巡査長を残して、逃走車を追跡。署内から警察官から何事かと出てくるが、巡査長は死亡。

 ジーパンの必死の追跡は続く。久々のカーアクション。埠頭まで追い詰め壮絶なデッドヒートが繰り広げられるが、ジーパン、牛乳配達の自転車を避けようとして車が転倒してしまう。ジーパンの車は逆さまに転倒して大破。逃走車はそのまま逃げ切ってしまう。生命からがらクルマから脱出しるジーパン、脳震盪を起こして歩くこともままならない。

 今回は冒頭から「死の予感」がする。殉職回に向けて、視聴者のテンションも高まっていた。サングラスの片目が壊れたジーパンが痛々しい。

 捜査第一係。ゴリさんと殿下がボスに報告。「どうだ?」「まるでダメですね、観たものは誰もいないんです」とゴリさん。殿下「朝の5時ですからね」「牛乳配達の男は?ジーパンが避けようとした」「犯人の車は見てないそうです」。

 自分のデスクに座っているシンコ「信じられないわ、杉本巡査を殺したい、なんて。杉本巡査が扱った事件は、ほとんど軽犯罪なんです。駐車違反や無銭飲食ばっかり。こんな事件で憎まれて殺されたんじゃ、やりきれないわ」。

 そこへ長さんが鑑識から戻ってくる。「ボス、条痕検査の結果ですがね、使用された銃には、前がありません、今度が初めての犯行です」。シンコ考えている。ゴリさん「万事、お手上げですか?」「あとはジーパンだけが頼りですね」と殿下。

 病室でうなされているジーパン。右の瞼の当たりを怪我している。杉本巡査長「よお、朝帰りとは粋なもんだ」。サイレンサー付きの銃口。ジーパンを庇って、凶弾に倒れる巡査長。ジーパンのうわごと。突然「親父さん!」と飛び起きる。見舞いをしている山さんが落ち着かせる。ジーパンにとって大きなトラウマとなってしまった。山さんに気づくジーパン。微笑む山さん。

「山さん」
「病院だ、大した怪我ではない」
「親父さん・・・」
「即死だ」
「犯人は?」
「まだだ。顔は見たのか?」

 首を横に振るジーパン。何人だったかも覚えていない。「親父さんが殺されたとき、お前は、どこで何をしていたんだ?」「そばで話をしていました」「それで、どうして犯人の顔を見ていないんだ?」「見えなかったんです。何一つ。クルマ・・・」。ナンバープレートは品川ら55-4145、白い小型車であることは記憶していた。「親父さんは誰かに狙われているようなことを言ってなかったか?」ジーパン、天井を見ながらゆっくりと「犯人は、犯人は、俺を狙ったんです」「お前を?」「だから親父さんが、先に気づいて、俺を庇ってくれたんです」「しかしお前は、何も見ていないと言った」「親父さんは見たはずです。犯人は俺を狙っていた、だから咄嗟に庇ってくれたんです」。

「ジーパン、これは大事なことだ。間違いないか?」
「犯人は俺を殺すつもりだった」
「心当たりは?」
「いますよ、何人も」

起き上がるジーパンを寝かす山さん。「ジーパン、今日1日はゆっくり休むんだ」。

 新宿の裏町の駐車場。ゴリさん、チンピラ(戸塚孝NC)をしばきあげる。「今朝の5時ごろどこにいた?」「それじゃまるきり、罪人扱いじゃないかよ!え?」「生意気なこと言うんじゃないよ、じゃ、なぜ逃げたんだよ!」「痛いなもう」。ゴリさん乱暴だね。

 ビルの裏側。殿下が別なチンピラに追及している。これもかなり暴力的。

 歌舞伎町の裏道。長さんがヤクザ風の男をいきなり殴り飛ばして、追及している。ああ、ダーティ・コップ! 今じゃ大問題になるよね。

 取調室。山さんがヤクザ風の男(大宮幸悦)を取調べている。「なんの容疑でこんな真似するんだよ!」。山さん男のタバコを奪って灰皿で揉み消し「警官殺しにされたくなかったら、素直に吐け!」。うわ、冤罪を生む自白の強要! 「警官殺し?とんでもねえ、冗談じゃねえよ」と必死になって弁解する男。

 捜査第一係。ボスが犯罪者カードを手にして「残るはこの根岸智夫(小倉雄三)だけか?」。他の連中には一応のアリバイがあり、消去法でいくと三日前に出所したまま、行方をくらましている根岸が本命でしょうと、山さん。根岸は「刑務所でジーパンを殺ってやると、やたらと吹いていたそうです」と殿下。長さんも根岸なら「やりかねないだろう」。そこへ電話。ゴリさんからの報告である。「ボス、根岸の居場所がわかりました。女のアパートです」「よし、すぐ応援をやる、それまで決して手を出すな」とボス。

 赤電話を切ったゴリさんが見ると、ジーパン、単独で根岸のアパート「正風荘」の二階へ。「あのバカ!」。ゴリさん、走り出す。病院から抜け出してきたのかジーパン、瞼の絆創膏を剥がして、怒りの表情で根岸の部屋へ。ゴリさん、慌てて階段を駆け上がる。

 「根岸!」ドアをノックするジーパン。殺気立っている。ドアを開けようとする瞬間。「ジーパン!」とゴリさんがジーパンを抱えて避ける。部屋の中からサイレンサー付き銃で発砲! 部屋に飛び込むジーパンとゴリさん。中には情婦がいるだけ。根岸は二階の窓から逃走してしまう。ジーパンも飛び降り、そのまま走って、根岸を追いかける。走る!走る!走る!
根岸が発砲するが、弾が切れてしまう。走り出す根岸を、追い詰めるジーパン。公園の茂みで根岸に追いつき、キック、チョップ、パンチを食らわすジーパン。怒りの鉄拳が炸裂する!「やめろ!ジーパン」追いついたゴリさんが止めに入る。羽交い締めにされても根岸にキックを食らわすジーパン。「やめろジーパン」。さらに回し蹴り。「もういい!」とゴリさん。

 取調室。「いいか?何度も言っているように、俺にはアリバイがあるんだ!お巡りをやるほど、俺はドジでも素人でもない」と根岸、息巻いている。山さん「なぜ逃げた?しかも派手にぶっ放してだ」「ヤクを打って他ところに、あのデカ飛び込んできやがったからだ」。おいおい、それも立派な犯罪。「その柴田刑事を殺してやると息巻いていたそうだな?」「ああ、ぶっ殺してやりてえよ、あんな野郎!」。

 捜査第一係。深夜12時20分。みんな苛立っている。ジーパンも落ちつかない。今回のライティングは、いつもよりローキィ。暗めで、それぞれの表情にも陰影がつけられている。それがヘビーな空気を高めている。ボス、ゴリさん、長さん・・・。沈黙を破ってジーパン「ボス、俺も尋問しちゃいけませんか?」。ボスは無言でタバコを吸っている。ゴリさん「ジーパン、ここはまあ山さんに任せておけよ、お前の気持ちは・・・」。ボス「ゴリ、いらんこと言うな。ジーパン、お前に今、はっきり言っておく。二度とあんな勝手な真似するな、みんなが迷惑する」。厳しいが、正しいボス。人情派のゴリさんは「ボス、ジーパンはですよ」と弁護しようとするが「お前は黙ってろ!」。全員無言。「わかったなジーパン」。ジーパン静かに椅子に座ってため息。

 そこへ殿下が入ってくる。「根岸の言った通り、奴のアリバイは完璧です」「そうか、山さん奥だ、知らしてやれ」。長さん「あと残っている手手がかりはクルマだけですか・・・」ボス「緊急手配を全国に出したんだが、どっからも何にも言って来ない・・・」。

 「なあ、ジーパン、犯人は本当にお前を狙ったのかな?思い違いってこともあるぞ」とゴリさん。「俺が撃たれていれば、ハッキリしてたんですよ」「おいおい、変な言い方するなよ、俺は何もそんなこと聞いちゃいないぞ」「親父さんは俺の代わりに殺されたんですよ、俺の代わりにですよ」。悔やんでも悔やみきれないジーパンをじっと見つめるボス。

 老朽化したビル。ジーパンがやってくる。同行してきたシンコが「(宮本巡査長の)息子の茂さんは”アシュラ”って言うジャズバンドに入っていて、この(ビルの)地下に住んでるんですって」「(うなづいて)お前帰れよ」「だめよ、絶対に目を話すなって、ボスの命令だもん」。仕方なくシンコを連れ、地下へ降りる。地下はスタジオになっている。聞こえてくる音楽。「ジャズにアレンジしているけど”フューネラル・マーチ”だわ」「”フューネラル・マーチ”?」「”葬送曲”よ、お葬式の時の・・・」。

 スタジオの中、”アシュラ”(荒木生徳、松野邦夫、林寛一、今井和男)が演奏をしている。トランペットが息子・杉本茂(宮本和男)である。ドラムを叩いているのは「仮面ライダーストロンガー」であり「特捜最前線」の津上刑事を演じることになる荒木しげるさん(当時は荒木生徳)。大野克夫さんがアレンジした「葬送曲」が胸に沁みる。今回のテーマでもある。

 マネージャーの花田三郎(沖田駿一)が「誰だいお宅たち?」「杉本茂さんに会いたいんですが」とジーパン。花田「おい、一晩中やってるんだ、もう十分だろう」と苛立っている。電気をつけるボーヤの井上。メンバーは演奏をやめる。花田は続ける「俺はマネージャーとして今度のリサイタルのことを心配しているんだ、もう少しそっちに身を入れてくれないと。それが不満なら、いつだって、こんな貧乏楽団のマネージャーなんてやめてやるぜ、いいな、さ、食べろよ」と差し入れタイム。

 ジーパン「杉本さんに会いたいんですが」「誰、お宅?」と杉本茂(宮本和男)。「七曲署の柴田です」「そう」「あなたの親父さん、杉本さんが殺された時、俺、そばにいたんです」。ジーパンの顔を睨むように見る茂。「あんた、何しに来たの?」「・・・」「犯人は捕まったの?」「いえ」「暇なんだね、警察も・・・」。そこへ花田「あんた、よくここへ来られたね!」と憤っている。花田は手にした新聞を茂に渡す。

 記事を見て、新聞を叩きつける茂。「卑怯な警官? 仲間を犠牲にして 銃弾から身を守る?」の見出し。新聞を見つめるジーパン。トランペットのテーマが流れる。シンコの沈んだ顔。ジーパンを睨む茂。言葉もないジーパン。花田は「あんたは、自分が狙われているのに気づいて、そばにいた茂の親父さんを盾にした」と責める。「それは違う」「新聞にはそう書いてある!」「親父さん・・・杉本さんは、俺を庇ってくれた、だから俺は・・・」。花田「自分でそう思い込みたいんだろう?良心の呵責ってやつだ。俺たちが今、何をしていたと思う?葬式だよ、親父さんの」。シンコ、ジーパン、茂・・・。「茂さん、これ(新聞)はなんかの間違いだ」。

 茂を演じた宮田和男(現・三景啓司)さんは、子役時代・白田和男名義で活躍。竜雷太さんが先生役の「これが青春だ!」(1967年)「でっかい青春」(1968年)にも生徒役でゲスト出演。目が印象的で「飛び出せ!青春」(1972年)や「われら!青春」(1974年)にもゲスト出演している。特撮ものでは「恐竜戦隊コセイドン」(1978年)でのヒムガシ・テツ役を演じている。「太陽にほえろ!」では、本作から第436話「父親」(1980年)まで計7作出演している。

第104話「葬送曲」(1974年) - 杉本茂
第187話「愛」(1976年) - 堤健治
第249話「嘘」(1977年) - 戸田慎一
第397話「音の告発」(1980年) - 西山
第425話「愛の詩-島刑事に捧ぐ」(1980年) - 有賀三郎
第436話「父親」(1980年) - 西條進

 憮然として外に出たジーパンをシンコが追いかけてくる。「柴田くん、あんまり面倒かけないでよ!署に帰るなら方向が違うでしょ!ボスと約束したでしょ、すぐに帰ると」。

 ボスは「今までなぜ連絡しないんだ!」カンカンに怒っている。シンコ「できなかったんです。今だってやっと」。ジーパン、たばこ屋から出てくる。「いいか、手錠をかけても拳銃で脅しても構わん、連れ戻すんだ、いいな」とボス。電話を切って「あの馬鹿野郎!ホシが狙ってくるのを待ってやがる」。

 街角を彷徨うジーパン。自らターゲットになっているのだ。とある廃ビルを見上げ、その中に入っていく。ビルの外階段、シンコが上がってくる。隠れるジーパン。しかしシンコ「帰りましょう」。ジーパン、ビルの中を気にしている。「どうしても連れて帰るつもりよ」「(真顔で)シンコ、離れてろ、俺たち見られている、気のせいかもしれんがな、ここへくる前からずっとそんな気がしてるんだ」「どうするつもり?」「離れていろ、いざって言う時盾にされるぞ」「情けないこと言わないでよ、誰があんなゴロ新聞、信じるものですか!」「中には信じる奴もいるさ」。

 銃声。ジーパンは狙われていた!「相手はライフルだ、シンコ、ボスに知らせろ!行くんだ!」「あなたはどうするの?」。さらに発砲! シンコ「私は命令を受けているのよ、あなたを無事に連れて帰れって」。シンコ、ジーパンに自分の拳銃を渡す。「お前、早く行け!」「いやよ、絶対にイヤ!」。ジーパン、シンコの目を見つめる。シンコ、ジーパンの目を見つめる。「お前は戻るんだ!」。ジーパン、階段を駆け上がる。心配そうなシンコ。

 階段を上るジーパン。階上に狙撃者の影。銃を構えて慎重に様子を探る。緊張感が高まる。しかし誰もいない。次の瞬間、ライフルを持った狙撃者が目の前に現れる。なんと杉本茂だった! 対峙するジーパンと茂。西部劇の対決場面のようなショット。ジーパンは銃をおろすが、茂は引き金に指をかけ、銃口をジーパンに向ける。指を引いた瞬間、ジーパンは避けようとするが空撃ちだった。

「親父が自慢にしていたこの銃で、貴様を殺すつもりだった。だが、思い直した。こんな卑劣な奴を、あっさり殺すことはない。とことん自分のやったことの報いを思い知らしてやろうと、そう決めたんだ」「・・・」「何突っ立ってるんだ?捕まえないのか?逃げやしないさ、たとえ刑務所に入れられても、どこへ行っても貴様のことは忘れやしない!貴様にはお袋がいたな」。ジーパンの形相が変わる。「指一本触れてみろ」「指一本?俺の親父は殺されたんだぞ!貴様にだ!」「じゃ、俺を好きにしろ!」。茂、笑を浮かべて「そうさせてもらう」。

 そこへ階段を駆け上がる足音。茂、屋上へ逃げる。シンコだった。「柴田くん」ほっとした表情。「逃しちゃったよ」。拳銃をシンコに返すジーパン。「行こうぜ」。シンコ立ち止まったまま「ちょっと待って!足音・・・あれは・・・」行こうとするシンコをジーパンが止める。「あいつは犯人なのよ」「奴は、親父さんの息子だ」「でもたった今、あなたを殺そうとしたわ、どうして追わないの?」「殺すつもりならな、とっくに殺されていた」「ばかな、あなたが追わないなら、私が行くわ!」「シンコ!」。立ち止まり振り向く。「奴はな、似てるんだよ、俺もな、親父が殺された時」・・・

 ジーパンの回想。霊安室。警察官「お父さんは立派な警官でした。残念です」と頭を下げる。フィッシャーマンズセーターのジーパン。怒りがおさまらず花筒を倒す。「あんた、親父のそばにいたんだろ?どうして犯人、逃したんたよ、なんで追わなかったんだ、どうして捕まえなかったんだ!」若い警察官の胸ぐらを掴み「なんとか言ったらどうなんだ!」と怒りをぶちまける。

 ジーパンはシンコへの話を続ける。「周りの人間が全部、敵に思えてな、きっかけさえあれば、憎む相手は誰だって良かったんだ。憎しみをぶつける相手がいればな、だからなんとなく、奴の気持ちがわかるんだよ」。シンコはジーパンの顔を見て「あなたは、大事なことを忘れているわ、あなたは刑事なのよ」。ジーパン、タバコに火を付ける。「本当言うとな、俺がその刑事になりたいと思ったのは、親父を殺した犯人をこの手で捕まえたいと思ってな、単純な理由だよ。シンコ、だから俺は、今度のことは、俺の手でなんとかしなんだ。だけど、このことが知れると、俺は事件から外される」。シンコ、ジーパンから目を逸らす。「1日だけでいい、せめて1日だけ、今あったことは見なかったことにしてほしい、シンコ」。ジーパンの顔を見つめるシンコ。

 捜査第一係。夜8時20分。ボス、ジーパンに怒っている。「今まで、どこをウロウロしたかは聞かん。だがお前、当分休め」「・・・」。シンコ、二人を見ている。ジーパン「事件から降ろすんですか?」「その通りだ」。山さんジーパンに「お前、参っているんだ、無理もない、俺も賛成だよ」。ゴリさん「俺も・・・」と言いかけると、ボスは「ゴリ」と釘を刺す。ジーパンは続ける。「俺と一緒じゃイヤなんですか?いざとなれば、どんな卑怯なことをされるかわからんですからね」。山さん、ゴリさん、その言葉に振り向く。ボス。シンコ・・・。山さん「俺たちの目を見ろ」。ジーパン振り向かずに「あの時のことは誰も見ていません。もしかしらら、あの新聞記事通りのことを俺はやっていたのかもしれないんですから・・・」「見るんだ!」と山さん。ジーパン、ゆっくりと山さんとゴリさんの顔を見る。山さん「バカなことを言うな」。ジーパン、ボスの顔を見て「ボス、俺を外さんでください」。ボス、かすかにうなづく。じっと見ているシンコ。

 埠頭。ゴリさんとジーパンの覆面車が現場に到着。例の逃走車が海中から引き上げられた。ジーパンがナンバープレートを確認する。「このクルマから撃ってきたんです」。向こうに海の科学館が見える。ゴリさんとジーパン、後ろのトランクを見る。中には遺体。鑑識課員「心臓を拳銃で一発」。頷くゴリさん、ジーパン。

 捜査第一係。ボス、電話で報告を受けている。「ビルの守衛?ようしわかった。すぐ直行してくれ!」。長さん鑑識から戻ってくる。「ボス、トランクルームの男を殺害した銃と、杉本巡査に使用されたものと同一のものです」と書類を見せる。「ただし、クルマからは手がかりになるような指紋は発見されませんでした」。ボスは男の身元が割れたと長さんに話す。「矢追町の曙ビルの守衛だ」。同じビルにある旅行会社に侵入して500万円を奪って逃げた事件で行方不明となり手配中、事件が起きたのは一昨日だった。「すると杉本巡査が殺された日ですね」。

 捜査会議。全員が出席している。ボスが説明する。「同一の拳銃が9日、すなわち、一昨日の明け方4時、ビルの守衛を殺害し、その1時間後の5時に、我々の目の前で警官が射殺された。こいつはおそらく、同一犯人の仕業とみていいだろう」「結果から言えば、犯人は旅行者の金庫を破っているところを守衛から発見され、これを殺害し、盗んだクルマのトランクルームに死体を積み込みし、逃げようとした。その時、巡回中の杉本巡査と偶然出会った」と長さん。

 ボス「犯人は警官を殺したという大変な危険を冒しているんだ、顔見知りだったという可能性は十分ある」「だけど親父さん、そんなこと何も言いませんでした」とジーパン。「杉本巡査は気がつかなったんだろう、まさかその男が金庫を破り、守衛を殺したばかりだったとは」と長さん。「だが犯人とすれば、後で金庫を破ったことがわかれば、杉本巡査は、即座に事件と自分を結びつけるだろうと考えた」と山さん。「じゃ、狙われたのは俺じゃなくて、親父さんだったんですか?」とジーパン。

 ボスは「当日の杉本巡査の巡回行動を徹底的に洗うんだ!」と指示を出す。「あ、長さん、曙ビルと息子さんの稽古場とは100メートルも離れていない。ひょっとしたら巡回中に寄ったかもしれないな、それに、遺品も揃っているから、ついでに持っていってくれないか」とボス。ジーパン、ボスに何か言いかけるが・・・

 七曲署玄関。長さん、風呂敷に包んだ、杉本巡査長の遺品を持って七曲署を出てくる。「長さん! 俺が代わりに行きますわ」とジーパン。「そうは行かんよ」「ボスにもちゃんとOK取りましたから、あの、息子さんには俺、一回、会っているでしょう?何かと俺の方が言いやすいんじゃないかってね、俺が行きますわ」と、長さんを丸め込んでしまう。「ほんとかい?おい」。

 捜査第一係に戻ってきた長さん、事情を話す。「なんだと!」驚くボス。シンコ、心配そうに立っている。「俺、そんなこと許しもせんし、第一、ジーパン、何にも言って来んよ!」「え!」目を白黒させる長さん。シンコ、駆け寄り「ボス・・・」。

 地下室の練習場。茂がジーパンを殴っている。一発、二発。床に散乱する杉本巡査長の遺品の制服と帽子。三発、四発、茂のパンチを無抵抗で受けるジーパン。黙って見ている”アシュラ”メンバー。ジーパン、ボコボコにやられている。それでも無抵抗、茂は殴り続ける。ジーパン、もう立てない。「だから、俺は聞いてるんだ、親父さん、殺される前に、ここに来たのか?それとも来なかったのか?どっちなんだ?」。茂は答えずに、全身に恨みを込めて「貴様!よくもぬけぬけと!」蹴りを入れて、背中にチョップをする。これはひどいよ。「貴様!なんで、なんでかかって来ないんだ!」。ジーパン、もう立ち上がることも、話すこともできない。茂、我にかえる。バンドメンバーが、散乱した遺品を拾い上げる。

 メンバーの一人が杉本巡査長の財布の中に、”アシュラクインテット”のライブチケットを見つける。「変だなぁ、どうして親父さんが、今度の俺たちのジャズコンサートの切符持ってんだろう?」「何が変なんだ?いつだってそんな切符あげてるじゃないか」「しかし、この切符が印刷されてから、俺たち親父さんと会っていないんだぜ、それなのに、どうして持ってるんだい?」。ジーパンその会話を聞いている。「それじゃ、花田と井上が渡したんじゃないのか?ほら、あの晩、1時頃、二人で出かけていって、帰って来なかったじゃないか!」「それしか考えられないな」「するとあの二人は、親父さん殺される前に会ったというわけだ、そんなこと少しも言ってなかったよな」。

 ここでジーパン、そして視聴者はTACの山中隊員が犯人!であることに気づく。ジーパンのイメージ。花田三郎(沖田駿一)がトランクに守衛の遺体を入れ蓋を閉める。そこへ杉本巡査長が自転車で巡回してくる。運転席の井上も気付いて「まずい!」と言う顔をする。杉本巡査は、息子のバンドのマネージャーの花田と、ボウヤの井上とは顔見知り。その時、話題を誤魔化すために、花田が刷り上がったばかりのライブ・チケットを巡査長に渡す。

 ジーパン、バンドメンバーの一人の胸ぐらを掴む。「おい、その花田と井上はどこにいるんだ!どこにいるんだ!」叫ぶジーパン。その時、茂も真相に気付いたようだ。

 廃工場。花田と井上が、隠していた現金500万円と犯行に使った拳銃が入ったショッピングバッグを取り出す。「派手に使うなよ」と100万円を井上に渡す。「これだけ?」「お前が何をした?クルマの運転だけだ」と花田。そこへジーパンが現れる。顔は腫れ、口から血を流している。驚く花田と井上!「貴様ら!」ジーパンが飛びかかろうとする。花田、拳銃を構える。「カァー!」ジーパン、久しぶりの怪鳥音を発して、ブルースリー・キック!花田の拳銃をキックで飛ばす!続いて井上の腹にキックをお見舞いする。そして花田に後ろ足でキック。つまり、ブルース・リーの三脚を、松田優作さんが会得したってこと!日活育ちの沖田駿一さんも、このドラゴン・アクションには敵わない。さらにジーパンは井上を蹴ったその足で花田を蹴る。そして反対側の足でさらに蹴る。ジーパン怒りの鉄拳! 花田を追い詰めビンタを喰らわす。後ろから襲ってきた井上にも裏拳をかます!二人を締め上げるジーパン。

 その時、花田と井上の形相が変わる。茂が杉本巡査長愛用のライフルを構えて、狙っているのだ。

 「お前か!殺したのは!」花田に銃口を向ける茂。「やめろ!」とジーパン。「どいてくれ!どくんだ!」立ち塞がるジーパン。「あんたには、親父を殺されたものの気持ちはわからん!どけ!」「やめるんだ!茂、銃を下せ」。ピアノのテーマが流れる。「どくんだ!」「こいつら殺して、お前は一体何が欲しいんだ?親父が殺されたっていう悲しみから、逃げられるとでも思っているのか?余ったれるんじゃないよ!逃げはどこまで行っても逃げだよ!そんなに逃げたきゃな、そんなに憎しみを消したいんなら、奴らを庇っている俺を撃ってからにしろ!」お互いを見つめる。「なぜだ!なぜあんた?」「逃げちゃダメだ。人を殺して悲しみから救われるならよ、こんな楽はことはないよな、そこで俺たちは、どっち選ばなきゃならないんだ?楽な方か?違うだろ?逃げちゃダメだよ茂」。茂の真剣な眼差し。

 怯える花田、怯える井上。ジーパンの真剣な眼差し。茂、ジーパンの言葉に心が動いている。ゆっくり歩いて茂に近づくジーパン。茂の手からライフルをゆっくりと奪う。そこで音楽が終わる。

 夕暮れの七曲署屋上。茂がトランペットで「葬送曲」を吹いている。ジーパンがじっと聞いている。美しく悲しく、熱い音色。ゆっくりとシンコが歩いてくる。茂、演奏をやめて、ベンチに座っているジーパンに近づく。

「あんたと言う人がわからない」
「俺の親父も警官だったけど、殺されてな」
「(はっとなった茂)犯人は?」
「わからん」
「・・・俺、知らなかった、知らなかった・・・」
「続けてくれないか? 俺たちの親父のために、な」

 うなづいて茂、トランペットの演奏を続ける。じっと二人を見つめているシンコ。夕焼けの空に、茂の「葬送曲」が流れる。ジーパン、タバコに日をつけようとして、巡査長のことを思い出し、サングラスをかけ、立ち上がる。シンコの横を歩いて階段口へ。

 捜査第一係。ジーパンが退職届をボスに出す。ボス、ジーパンの顔を見て「こいつは俺が預かっとく、だがなジーパン、二度と、今後こそ、二度と、勝手な・・・フッ・・・行け!」。ジーパン微笑んで、嬉しそうな顔で「じゃ、行ってきます」。呆れたような、安堵したようなボスの顔。

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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