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『渡り鳥故郷へ帰る』(1962年・牛原陽一)


 小林旭の代名詞ともなった「渡り鳥」は、作品の世界観からすると『ギターを持った渡り鳥』(1959年)から『渡り鳥北へ帰る』(1962年)までの8本ということになる。ギター片手に、馬にまたがったさすらいの主人公・滝伸次の物語ということでは、シリーズは8本。しかしタイトルや日活の分類では、この『渡り鳥故郷へ帰る』はシリーズ第10作ということになっている。シリーズの萌芽ということで『南国土佐を後にして』(59年)を加えて、シリーズ10作というカウントもされているのだ。

 さて、この映画が封切られたのは1962(昭和37)年8月。シリーズ男と呼ばれていた小林旭にとっては、単独作品が続いていた時期でもある。ジャズ映画の『遥かなる国の歌』(7月封切)と、『さすらい』(2月封切)の姉妹篇『地獄の夜は真紅だぜ』(9月封切)のちょうど間、お盆興行の目玉作品として、石原裕次郎の『零戦黒雲一家』と同時公開されている。

 主人公の名前は滝浩。「渡り鳥」の滝伸次と「流れ者」の野村浩次を併せたような役名である。高松で争う二大ヤクザ組織の抗争に、善良な人々が苦しめられ、さらに善玉のヤクザの側が新興ヤクザに押さえつけられている。そこに元幹部のアキラが舞い戻って来るという、後に隆盛するヤクザ映画のパターンの萌芽がすでにここに見られる。

 それまで組織とは無縁の「さすらい人」だった小林旭のキャラクターが、隠忍自重の挙げ句、怒りの刃を向けるという展開は、荒唐無稽な無国籍アクションのパターンにはなかったもの。パターン化されていたマイトガイ映画の新機軸を打ち出そうとするスタッフの狙いと、娯楽映画の変質が見受けられる。

 とはいえ、主題歌「俺もゆくから君もゆけ」は、鳥取春陽作曲の「馬賊の唄」という戦前の「大陸ソング」をリニューアルしたもの。アキラ節の西沢爽が改作し、狛林正一が補作曲と編曲をしたもの。戦前の「大陸ブーム」のなか流行したものだが、政治的なこととは別に、この「大陸ソング」の気分は、狛林が「ギターを持った渡り鳥」などで追求した「西部劇的世界」に通じるもの。

 「俺もゆくから君もゆけ」という主題は、本編での若きヤクザ次郎(和田浩治)に対する主人公・滝浩のスタンスとシンクロする。これまで小林旭が演じていたヒーローのほとんどが<伸次><浩次>などの次男坊を思わせるネーミングだったが、本作では弟分で和田浩次の次郎というキャラクターの精神的な兄貴分として登場するのも興味深い。

 和田浩治といえば『素っ飛び小僧』(1960年)など、西河克己監督の「小僧アクション」もので、「渡り鳥」のパロディ的なティーンの活劇に出演していた日活ダイヤモンドラインのスター。小林旭との共演は『やくざの詩』(1960年)などがあるが、本作では俳優としてのさらなる成長が感じられ、魅力的である。

 また、滝が高松に渡る連絡船の中で出会う白木マリのダンサーと、酒好きのまるでドク・ホリディのような葉山良二の好敵手。随所に流れる「ギターを持った渡り鳥」の旋律など、「渡り鳥」的な要素も散見される。組への復帰を促す次郎や、昔の仲間の前で、滝がギターでつま弾くのも「ギターを持った渡り鳥」のメロディ。

 それは、ヒロイン、笹森礼子の前で歌う「南の空の渡り鳥」も同様。この曲は、1960(昭和35)年の「流れ者」シリーズ第二作『海を渡る波止場の風』の主題歌として用意されていたもの。「流れ者」に「渡り鳥」というフレーズでは混乱するだろうという配慮なのか、劇中、浅丘ルリ子とのツーショットシーンにメロディが流れただけだった。しかし、本作では哀愁のギターをつまびきながら美しい瀬戸内海の屋島を見下ろす夕景の公園で、滝が2コーラス歌うシーンでタップリと堪能できる。

 フォーマットはヤクザ映画でありながら、「渡り鳥」「流れ者」のイコンを随所に残した本作は、メインのシリーズから見ると異色作ではあるが、この後、日活、東映ともに一世を風靡していく「やくざ映画」の萌芽としての現代アクションと見ると実に興味深い。観客の趣向も含めて、時代は動きつつあった。しかし、娯楽映画としてのアクションのポイント、アキラが立ち上がるクライマックスのカタルシスまで、新鮮な楽しさもある。

 監督の牛原陽一は、この後「賭博師」シリーズの第一作『さすらいの賭博師』(1964年)を演出。第四作の『投げたダイスが明日を呼ぶ』(1965年)では主題歌が「ギターを持った渡り鳥」で、かつての無国籍的なアクションをリメイク的に再生させている。

 余談だが、主題歌のもとになった「馬賊の唄」だが、1974(昭和49)年、小林旭の東映やくざ路線の『実録飛車角 狼どもの仁義』のなかで、内田良平の右翼の壮士の大陸壮行会のシーンで、小林旭を前にチンピラたちが歌うシーンがある。

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