太陽にほえろ! 1973・第47話「俺の拳銃を返せ!」
「太陽にほえろ!」第47話「俺の拳銃を返せ!」(1973.6.8 脚本・小川英、武末勝 監督・土屋統吾郎)
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
佐原信一(森本レオ)
井口武夫(柳生博)
大木(中村孝雄)
遠藤進(福岡正剛)
城東署山本町派出所巡査(若尾義昭)
質屋の主人(邦創典)
喫茶店「ポエム」マスター(三津田健)
木島新一、山田はるみ、柳沢優一、関根信昭、西川幾雄、豊村真理子、小海とよ子、尾崎八重
森本レオさんゲスト回。『闘牛に賭ける男』(1960年)や『栄光への挑戦』(1966年)など裕次郎さんの映画で巨悪を演じていた、文学座を創設した新劇界のベテラン・三津田健さんが喫茶店のマスター役を顔を見せている。柳生博さんは2回目のゲスト。
とある住宅地。マカロニとゴリさんが聞き込みをしている。「たまらない」とボヤく二人。辛抱たまらないマカロニ、立ちションベンをしようとする。ゴリさんは慌てて止まる。ゴリさんのたまらないは腹が減っていた。マカロニは近くの交番へ用を足しに。ゴリさんは蕎麦屋へ。城東署山本町派出所でマカロニはスッキリ。「静かでいいねぇ」「痴漢が多いんですよ」と巡査(若尾義昭)。「あのう、ズボンの前が」と巡査。のどかな昼下がり。
七曲署に電話するマカロニ。シンコと軽口を叩き合う。交番の前を通りかかった佐原信一(森本レオ)が「駅へはどう行ったら?」と巡査に尋ねる。挙動不審の佐原、そのまま駅方向へ。マカロニが歩いていると一万円札が落ちている。「一年経てば、俺のものか」と拾うマカロニ。その瞬間、佐原にボコボコにされ意識を失う。クリーニング屋が救急車を呼びに行く。なんとマカロニの拳銃が奪われてしまったのだ!
ボスに電話するマカロニ。「すぐに手配してください」。救急車が来ている。ゴリさんが戻ってくるがマカロニはいない。「拳銃を奪われてしまった」とマカロニ、慌てている。現場で、マカロニは、もみあった時に外れたタイピンを見つける。「クラブスター」の印がある。
マカロニは救急車で警察病院へ。ボスとシンコ、ゴリさんが見舞い。ボスは「余計な心配するな。それよりなぜ、その男が拳銃を奪ったのか、よく考えてみろ」とボス。一万円札を餌に、マカロニを騙したのは計画的だとボス。マカロニは交番で道を聞いた男を思い出す。
タイピンから容疑者を絞り出そうとする殿下。シンコも、ゴリさんも必死である。夜勤明けの山さんも捜査に。「あいつが参るだけで済みゃいいんだがね」。マカロニの性格を知っている山さん。病院で大人しくしていられないマカロニは、病院から抜け出そうとする。これは裕次郎さんも経験がある。「男が爆発する」(1959年)という映画で、病院を抜け出した前科がある。この時は入院費がなくての逃走だったが。
マカロニは病院を抜け出し、自転車を拝借して街中へ。すぐにボスに、病院からマカロニが逃げたとの知らせを受ける。緊急手配をするボス。「パジャマの上に、背広の上着を着ている」。ズボンはシンコが預かっているからねぇ。
白昼のビル街。佐原は「オーロラ商事」の係長・遠藤進(福岡正剛)を訪ねる。「御影山をご存知ですか?」「一体あなたは?どなたですか?」「本当にあなたは御影山をご存知ないんですか? 三年前、確か、あなたは登ったはずです」「ああ、あれはツツジ温泉の帰りだ」。佐原は遠藤に拳銃を突きつける。「思い出せ、御影山で何があったか。思い出せ」。そこへ女子社員がお茶を持ってくる。パニックになった佐原は遠藤に発砲。「キャー」女子社員の悲鳴。逃走する佐原。
マカロニは、包帯を隠すために白い帽子をかぶっている。馴染みのスナックのマスターに「お前、ハジキを知らないか。SWのリボルバーなんだけどな」と情報を聞き出そうとする。金を掴ませると「でも悪いなぁ、俺、さっき起きたばかりなので、何にも」と空振り。金を奪い返すマカロニ。
捜査一係では、ボスとシンコが心配げにしている。そこへ山さんから電話。例のネクタイピンを、この会社の専務が若いセールスマンにプレゼント、そのセールスマンは佐原だと判明する。そこでボスは遠藤が銃で撃たれたことを山さんに告げる。しかも人相風態は佐原に酷似している。
心配そうなシンコに、ボスは「まだマカロニの拳銃と決まったわけじゃないぞ」。イラつくボス。「オーロラ商事」で女子社員から事件の状況を聴取するゴリさんと長さん。責め立てるようなゴリさんを制して、優しい態度の長さん。女子社員が気になったのは「なんとか山がどうとか?」ということ。ゴリさん「なんていう山か、思い出してくれ」と激しく問い詰める。「だって私、怖くって」とパニック状態で、思い出せない女子社員。泣き出してしまう。
マカロニ、食堂で情報屋にビールを飲ませてハジキの情報を聞くが、空振り。テレビからは、遠藤が撃たれたニュースが流れる。マカロニの焦燥。
一方、佐原の勤め先「中光事務器事務所」で、山さんと殿下、上司から「佐原なら三日前に辞めるましたよ」。退職理由は「田舎に帰るから」だった。山さん「一つ、協力してくれませんか?人の命に関わることなんです」。退職の何日か前に、免許の書き換えで府中の試験場に行くと言っていたことを思い出す。地道な捜査を重ねて、真実に近づいていく。
捜査一係に電話。ボスが受ける。「やっぱりマカロニのハジキだったよ」。ショックの刑事たち。「落ち着け。一刻も早くホシを挙げる。それしかない。マカロニの責任は、俺の責任だ」とボス。ゴリさんと長さんは被害者・遠藤が意識を取り戻したかもしれないと病院へ。
山さんからシンコに電話。佐原の住所が判明したのだ。「佐原信一、24歳。現住所、杉並区方南・・・アパート福寿荘ですね」と聞き返しながらメモをとる。帰ってきたマカロニが、それを聞いている。気づいたシンコ「マカロニくん!」逃げ出すマカロニ、追うシンコ。しかしマカロニは消えてしまう。
渋谷のレストランのマスター・大木(中村孝雄)が事務所のテレビで遠藤のニュースを見て「物騒な世の中だよ全く」と呟く。そこへ佐原が入ってきて、拳銃を構えて「御影山を覚えているだろう?」「御影山?何を言ってるんだ」。ズキューン!腕を撃たれる大木。逃げ出す佐原。
パトカーが佐原のアパートへ。殿下が、家宅捜査中の山さんに、大木が撃たれたことを伝える。「同じ手口か?」「そうです。ただ撃って逃げた」。遠藤と大木の関係は不明。アパートからは、これといったものは出てこない。山さんが気になったのは、写真がなくなっている写真立て。台紙の日焼けから、佐原が持っていったのは「われわれに見せたくないから」それとも「拳銃で人を撃つのに、その写真が必要だったからか」と山さんの推理。
佐原のアパートの近所で、マカロニが、主婦たちから、佐原が近所の喫茶店に出入りしていたことを聞き出す。「ポエム」マスター(三津田健)は、学生時代から通っていること、いい青年であることを、マカロニに話す。
「4年ほど前ですが、よく一人でコーヒーを飲みに来る短大の娘さんがいましてね。清潔で綺麗な人でした。そう、恵子さんて言いましたっけ。いつの間にか、二人は、ここで落ち合うようになり、いつもこの曲を注文しました。好きだったんですよ。彼女が」と「シューベルトのセレナーデ」の話をする。「一年ほど前から、なぜか恵子さんが来なくなりまして、それからも佐原さんは来ていますが、恵子さんのことは一度も口にしません。ただ黙ってこの曲を聴いて帰っていくんです」。
恵子の身元を知りたいマカロニ。マスターは「半月ほど前、佐原さんが妙なことを・・・。この辺にお金を貸すところはないか?というんです。駅の向こうにサラ金が何軒かあるって教えましたがね」「どうも」出ていくマカロニ。サラ金を、片っ端から当たる。
一方、負傷したレストランのマスター・大木に、ゴリさんが「どこか山のことを言いませんでしたか?」「ええ、そういえば確かに、御影山を覚えているか?って・・・」。大木も三年前、つつじ温泉の帰りに行ったことを思い出す。そこで何があったのか?「ただの慰安旅行ですよ。同窓会で会った友達二人とね」「その中に、オーロラ商事の遠藤って人は?」とゴリさん。
「さっきも言ったでしょ。会ったこともない、と」声を荒げる大木。山に何かあるに違いないとゴリさん。「その時ご一緒した二人は?」と長さん。大木は写真アルバムを持ってきて、その時の写真を見せる。その写真には遠藤が写っている。大木によれば、たまたまそこで会った人で、なんとなくウマがあったので記念に写真を撮ったとう。
「その人が遠藤さんですよ」「え?」。びっくりしながら、さっきニュース見た時にどこかで見た顔だと思ったことを話す。そして大木の友人は、「大吉証券」に務める井口武夫(柳生博)と第八観光勤務の都倉直之。都倉がつつじ温泉に顔が利くということで旅行に行ったが、その後、都倉はグアム島の支店に転勤していると。
マカロニは質屋の主人(邦創典)から、佐原がグアム旅行の費用が必要ということで十万円を貸したと聞き出す。「当節、質屋もサラ金をしませんとね。左前で」しだり前と、江戸っ子だね。「しかし律儀な人ですね。佐原という人は」と主人。半月もしないうちに「退職金が入ったと」きちんと返済したという。それが三日前のことだった。その時、佐原は質屋の電話を借りて「大吉証券」に電話をしていたことを思い出す。
井口の勤め先、大吉証券。「私が狙われている?」と井口がギョッとなっている。ゴリさんと長さんが、狙撃事件の話をする。「三年前にあなた御影山に行きましたね」「その山で何があったかを話してください」。朝から酒を飲んで山に登ったと井口。「子供がハイキングするような山ですよ。景色がいいって聞いたから、遊び半分に登ったんです」。ゴリさんつい大声で「だから、どんな風に遊んだんです?」「そこで何があったんです?井口さん。犯人はあなたがたを殺そうとしているんですよ」と長さん。井口、声を荒げて「ばかな!冗談じゃありませんよ。山で酒を飲んだからって、なんで殺されなきゃならないんですか?」。
井口は佐原のことは全く知らないという。「あなたに拳銃で風穴を開けたがっている男ですよ」とゴリさん。そこへ長さんにボスから電話。「やはり何もないということで困ってるんです」。ボスは第八観光の都倉が、半月前にグアム島の崖から落ちて首の骨を折って死んだことを告げる。「他殺の線も出ているんだ。粘るんだ長さん。何か隠しているぞ」とボス。長さんは井口に都倉が死んだことを話す。「佐原って男を本当に知りませんか?」
井口、愕然とする。「ちょっと待ってください。お客の名簿を調べてきますから」。なんとマカロニも「大吉証券」にきていた。「早く来い佐原。俺の拳銃を返せ」とマカロニの心の声。大吉証券に、佐原から電話。「来客中です」「応接室?ちょっと呼んでもらえませんか?ええ、急用なんです」と佐原。顧客名簿を見ても佐原の名前はない。大吉証券にやってくる佐原。マカロニが「佐原!」。発砲する佐原。マカロニVS佐原。
しかし、佐原は逃げる井口を追う。日本橋の証券街を走る二人を、マカロニが追う。とある、ビルの非常階段を上がる井口「助けてくれ!」。執拗に追ってくる佐原は、マカロニの行手を阻む。屋上まで追い詰められた井口。向かいのビルに、木のパネルをかけて渡ろうとする。
そこへ佐原が拳銃を向ける。崩れて落下するパネル。井口は向かいのビルに、佐原も渡る。しかしマカロニは落ちそうになり、ビルにしがみつく。向かいの屋上では佐原が井口を追い詰めて発砲。なんとかマカロニも屋上にたどり着く。
井口「助けてくれ!あんた刑事なんでしょ」。佐原「どいてくれ刑事さん。どかないと撃つ」。
マカロニは、佐原に「恵子さんに振られて、頭がおかしくなったんじゃないのか?」。
佐原「恵子? 恵子は死んだよ。そいつらに殺されたんだよ」。
井口「うそだ!私が人殺しなんかするはずない」
佐原「じゃ、御影山で何をした? 展望台の道標に何をした? 言ってみろ!」。
井口「道標?」。
マカロニ「あんた何をしたんだ?」
回想シーン。酔った四人の男たちは、道標に石を投げて遊んでいた。
井口「大したことじゃないですよ。ほんのいたずらですよ」
佐原「いたずらだと?」
道標が崖下の方向へ。
佐原「そのために恵子は死んだんだ!」
土砂降りの中、酔った男たちは去ってゆく。
佐原「恵子はな、ロッジでアルバイトしている俺のところに来るはずだったんだ。降り出した雨の中を、あの道標のために道に迷って、足を踏み外したんだぞ!あくる日、酔っ払いが何人かで道標にいたずらをしたと聞いたよ。いたずら?酔っ払いのいたずらでどうして恵子が死ななきゃいけないんだ!」。
愕然とする井口。「そいつらが誰なのか?どうしても探し出したかった」。2年かかって、都倉の身元が分かり、グアムへ行って都倉に会った。ところが都倉は「訴えるなら、訴えてみろ。証明されたところで、たかが軽犯罪だ」みんなを殺す気になったのはその時だ!
井口「わかった、私が悪かった。許してくれ」。
佐原「俺は決めたんだ。俺は殺す」。
マカロニ「頭へ来てるのは俺も同じだ。そいつは俺のハジキなんだ。俺だって、ただの災難で済むわけないんだ」。
銃を構えてマカロニに近づく佐原。
そこへボス、ゴリさん、長さん。
佐原「やめてくれ刑事さん。もう俺にはこれしかないんだ」とマカロニに発砲。
幸い顔のかすり傷。
取り押さえられる佐原。
ようやく、マカロニは銃を取り戻す。
半狂乱の井口「冗談じゃないよ。全く!こんなことで殺されてたまるもんか。あのね、日本は法治国家でしょう。あんな奴は二度と社会に出さないでくださいよ」と絶叫する。
マカロニ、井口をぶん殴る。それを黙って見ているボス、長さん。ゴリさんが佐原を連行。その場に取り残される井口。このラストシーン!
酔った勢いの些細ないたずらが、奪ってしまった生命。幸せな未来が絶たれてしまった佐原の絶望感に、ブラウン管の前の視聴者は共感する。ラストのマカロニや、ボスの態度に、無邪気という名の無関心、無責任の罪の大きさが浮き彫りにされる。
クライマックスに流れる「シューベルトのセレナーデ」が、佐原の恵子への想いと重なり、切ない気持ちになる。
柳生博さんが、人間の持つ弱さ、狡猾さを見事に演じ、森本レオさんが絶望の淵に立つ若者の喪失感を佇まいで表現している。「勧善懲悪」ではない、こうした「罪と人間」が「太陽にほえろ!」の重要な要素となっていく。
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