見出し画像

太陽にほえろ! 1974・第107話「光のなかを歩め」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第107話「光のなかを歩め」(1974.8.2 脚本・柏倉敏之 監督・木下亮)

永井久美(青木英美)
大坪有紀(柏木由紀子)
大坪修司(柴田侊彦)
矢部(中井啓輔)
医師(片山滉)
橋本恵美子
高木(金井進二)
記者(若尾義昭NC)

予告編。小林恭治さんのナレーション。
N「美しい黒い瞳には、暗い闇が、兄が当たり屋を、そして強盗殺人事件を、ただ妹の目を直さんがために。それを知った妹も必死で兄を庇おうとした。島刑事もどうにか修司を立ち直らせようとしたが、その修司も仲間に殺されてしまった。後に残された妹は・・・。次回「光のなかを歩め」にご期待ください」

 今回も殿下こと島公之刑事(小野寺昭)主役回。ゲストには柏木由紀子さん、柴田侊彦さん。二人は兄妹で、盲目の妹の手術費を作るために、無頼の兄が強盗に手を染めてしまう悲劇。殿下が(例によって)美しき妹・柏木由紀子さんに、同情を超えた仄かな感情を抱いて、いつものように事態はややこしくなっていく。そういえば殿下主役回、第101話「愛の殺意」、第105話「この仕事が好きだから」は「兄妹」「姉弟」が登場するのがパターンとなっている。プロットは、予告編のナレーションで言い尽くしていて、それ以上の深みがないのが残念。真犯人も「この程度?」になってしまう。名作が続いてきた「太陽にほえろ!」だが、いささか失速を感じる。それでもヒロインを演じた柏木由紀子さんの美しさでポイントUP。

 柏木由紀子さんは、小学生の時に劇団若草に入団、この頃から酒井和歌子さんと仲が良かった。「女学生の友」(小学館)のモデルを務め、美少女モデルとして人気に。昭和39(1964)年、三田明の『明日の夢があふれてる』(松竹)で映画デビュー。歌手としても「若い真珠」(1965年)でレコードデビューを果たした。東宝テレビ部に所属して東山敬司主演「炎の青春」(1969年)では教師役を演じた。昭和46(1971)年、坂本九さんと結婚後も女優として活躍していた。

 柴田侊彦さんは、俳優・潮万太郎さんの息子で、姉は弓恵子さん、兄は柴田昌弘さんの俳優一家。声優としても「大草原の小さな家」のローラの父さん・マイケル・ランドンの声を務めている。「太陽にほえろ!」では、本作を皮切りに計8作に出演している。

第107話「光の中を歩め」(1974年) - 大坪修司
第171話「暴走」(1975年) - 横山課長
第281話「わかれ道」(1977年) - 田中課長
第458話「おやじの海」(1981年) - 富田隆之(助教授)
第608話「パリに消ゆ」、第609話「モンブラン遥か」(1984年) - 宮川忠男
第654話「二度泣いた男」(1985年) - 名村栄一
第708話「撃て! 愛を」(1986年) - 木村和正

 深夜、殿下がクルマを運転していると、飛び込んでくる人影。急ブレーキ。車を降りて「おい、君、大丈夫か?しっかりしろ」と男に声をかける。男(柴田侊彦)は額から鮮血を流していた。

 新聞の輪転機。見出しが踊る。「刑事、歩行者をはねる 信号無視か?」

 七曲署廊下。マスコミのフラッシュの放列。「被害者の容態は?」「本当に信号無視なんですか?」「責任はどうするんですか?」。殿下を取り囲む記者たちの厳しい追及。

 捜査第一係。ようやく殿下が部屋に入る。殿下「交通係へ行ってきました」とボスに報告。山さん「大坪修司(柴田侊彦)は、お前が信号無視で走ってきたと言っているそうだな」「だけど俺は、はっきりと青信号を確認したんですよ!」「それが証明できるか?」殿下は制限速度を守っていたし、スレスレのところで大坪とは当たらなかった筈。ところが大坪は跳ね飛ばされたと主張している。「それがおかしいんですよ、どうしてそんな嘘をつくのか?」困惑している殿下。

「怪しいな大坪が」とゴリさん。「補償金目当てじゃないんすかね?」とジーパン。長さんは「いずれにしても実証できなければ、どうにもならんよ」。久美も心配そう。殿下、踵を返して出て行こうとする。「おい、どこへ行くんだ?」とボスの声。「病院です、大坪に会ってきます」「殿下!」とボス。

「ようし、目撃者を捜せ!殿下の言っていることの裏付けを取るんだ」ボスの命令に、全員出動! アコースティックギターのイントロの追跡のテーマが流れる。

 小宮外科病院に向かう殿下。しかし病室にはすでに大坪の姿はない。「もう退院しましたよ」と看護婦。「退院?」「ほんのかすり傷だけですから」「検査の結果は?」「脳の方も異常なかったんです」。

 大坪のアパート、殿下が訪ねる。ノックをすると「どうぞ」と若い女性の声。ドアを開けると美しい女性・大坪有紀(柏木由紀子)が出てくる。「大坪修司くんはいますか?」「どなた?」。内ポケットから警察手帳を見せ「島と言います」「あ、兄の友達?」と明るい笑顔。「兄はもうすぐ帰ってくると思います」。有紀はしゃがんで自分のサンダルを手で確かめて寄せ、殿下に「どうぞ」。目が見えていないのだ。「あのう」「あたし、目が悪いの。さあ、上がって待っててください」。殿下、躊躇するが有紀に勧められて部屋に上がる。

 不自由な眼で、お茶を沸かす有紀。「どうぞおかまいなく。僕がやりましょうか?」「大丈夫、私、目が見えなくなっても、なんでもできるんだから」明るい有紀。「コーヒーは戸棚の右端、お砂糖はそれから三つ目の瓶、カップは上の段、スプーンは一番上の引き出し、ね、こうやって決めておけば、迷うことはないでしょ」。その手際の良さに感心する殿下。憐れみの表情をしている。

 「お兄さんとは、二人きりですか?」「ええ、両親がもういないから」「そう」座る殿下。「ごめんなさい、余計なおしゃべりをして。兄に何かお急ぎの御用?」「え、いや」と誤魔化す殿下。「会社に電話してみましょうか?」「お兄さんはどこへお勤めですか?」「あら?知らないの?お友達のくせに」「しばらく会わなかったから、前と同じかなと思って」「今も丸南産業よ、兄はとっても会社で大事にされているらしいの」「そう」。殿下、部屋の隅にギターを見つける。有紀のギターである。「あたし、近くのスナックで弾き語りをしているの」コーヒーを運ぶ有紀。

「あたしだって、ちゃんと働けるんですよ。お砂糖いくつ?」「じゃ、二つ」。殿下、かなり有紀に好意を抱き始めている。コーヒーカップから砂糖が外れてしまう。ピアノのテーマが流れる。殿下、有紀に気遣い、「いただきます」とブラックコーヒーを飲む。ハンカチを出して、そっとテーブルの砂糖を拭く殿下。その音に気づいた有紀「ごめんなさい」と台拭きで拭く。「ダメね私って、目が悪くなったのが高校の時だから、まだ修行が足りないのね、でも私、もうすぐ手術するのよ、兄が手術費、会社から借りてくれるっていうの。そしたら、何が一番初めに見たいと思う?」「さあ?」「兄の顔よ。私が知ってる兄の顔が、いつまで経っても二十歳のままなのよ。それからね」と立ち上がり鳥籠へ。「見たいものがいっぱいあるわ、お日様の光、薔薇の花、あたしのカナリヤ、島さんの顔もよ、だって島さん、きっと優しい顔をしているような気がするんですもの」。照れる殿下。

 街を走るジーパン。寿司屋に聞き込みに入るゴリさん。

 捜査第一係。久美がデスクを拭いている。長さんが鑑識から戻ってきて、ボスが顔をあげる。「殿下の乗っていたクルマには人に触れた痕跡がないということです」「そうか」。ゴリさんも笑顔で「目撃者が見つかりました」「ちょうどあの時刻に通りかかったサラリーマンなんですけどね、信号はやっぱり青だった、と言ってました」とジーパン。殿下のいうことに間違いなかったのだ。久美も笑顔で「島さんが人を跳ねるわけないわよ」。山さんも戻ってくる。「記録によると、大坪は2年前にも交通事故に遭っています。乗用車に跳ねられているんですが、大坪は相手が信号無視をしたと主張をしているんです。乗用車の方は信号を守ったと言ってるんですが、結局、水かけ論のまま、示談金が支払われています」「そうか、それで大坪の奴、味をしめたんだ」とゴリさん。

 大坪は現在、パチンコ屋の店員をしている。そこへ殿下、浮かない顔をして戻ってくる。「どうだ、大坪修司に会ってきたか?」とボス。「いいえ」「殿下、お前の無実が証明されたぞ!目撃者が現れたんだ、大坪はな、当たり屋だったんだよ」とゴリさん、塞ぎ込んでいる殿下の肩を力強く叩く。「おい殿下、どうした?」とゴリさん。

 殿下、席から振り向いて「ボス、大坪修司の妹は目が不自由なんです。でも手術すれば見えるようになるんです。交通事故なら保険金が出ます。それで手術ができるんです。彼女の目が見えるようになるんです」。またしても人の良い殿下の同情。ボスはデスクから立ち上がり、殿下のそばに来て「それがどうしたというんだ」「俺、信号見間違えたのかもしれません」。

 ボス「おおそうか、じゃ殿下お前、デカ辞めにゃならんぞ!それで良けりゃ警察手帳返せ、拳銃も手錠もだ!」「だけどボス、俺なんとかして彼女の目が見えるようにしてやりたいんですよ」「そんな金で手術しても、見えるのは当たり屋という顔じゃないか!」。これはボスが正論。恋する男は、何も見えなくなってしまうからね。「彼女の目はそんなものを見たがってると思うのか? 忘れるんじゃねえぞ殿下、これは犯罪だ。こんなことが通ると思えば、大坪はつけ上がって、また事件を起こす。却って大坪を破滅させるんだ、妹さんもだ!」

 いきなり大坪が殴られている。パチンコ屋の男・矢部(中井啓輔)に「馬鹿野郎!」ボコボコに殴られている。パチンコ屋のノイズが聞こえる。そこへ「やめろ!」殿下が走ってきて、店の男の腕を捻る。「痛てて!」「ななんだよ貴様!」「七曲署のものだ!」「刑事か、放せよ」。矢部、殿下に「ちょうどいいや、あの野郎、店の金に手をつけやがったんだ!しょっぴいてくださいよね」と言い残して店に戻る。

 顔にひどい痣の大坪を抱き起こし「大丈夫か」と殿下。その手を跳ね除けて逃げ出す大坪。「待て!」殿下が追いかける。三軒茶屋、高速の高架下を逃げる大坪に殿下、追いついて取り押さえる。「放せよ!」「大坪、馬鹿な真似はよせよ」「何もしちゃいねえよ」「署まで来てもらうぞ」。

 七曲署・取調室。山さん「どうなんだ?大坪、お前は補償金目当てにわざとクルマに当たったんだろう?」。交通課の警察官も同席している。「そうじゃねえよ、あのなんとかって刑事が信号無視をして突っ込んで来たんだよ」「嘘をつけ、信号が青だったという目撃者もいるんだ。お前、2年前、クルマに跳ねられて金を強請っているな。一度うまく行ったからって、今度はそうはいかんぞ」。黙秘する大坪に「風向きが悪くなるとすぐにダンマリ戦術か、まいいだろう、ゆっくりお付き合いしましょう」と山さん。タバコに火をつけながら「その代わり、妹さんが心配するだろうな、お前が帰らなきゃ」。山さん「パイプマッチ」を使っている。「それとも妹さんには知らせておいた方がいいかな?」

 大坪「やめてくれよ、妹には言わないでくれよ」と懇願する。「だったら本当のことを言ったらどうなんだ!」。落としの山さん、チャージがかる。

 捜査第一係。山さんが戻ってくる。ボスに「大坪が認めました」「そうか」「やっぱり妹の目の手術費が欲しかったようです。どうしましょう?」。ボス「殿下、今度の事件ではお前が被害者だ、どんな被害があった?」「は?」「金銭上の被害は?」「いえ」「じゃ身体上の被害は?」「ありません」「名誉あるいは精神的に傷つけられたことはあったか?」「いえ、ありません!被害ナシです」と胸を張る殿下。山さん「それに動機を考えると情状酌量の余地があります」。

 殿下、顔を輝かせて「それじゃ、釈放ですか?」「ただし、二度と事件を起こさないという保証があればだ」「大丈夫です!俺がよく話してみます」「よし、山さん、微罪釈放だ」。

 駒場オリンピック公園。スタジアムの下に大坪と殿下が佇んでいる。「どうするつもりだ?これから」殿下、タバコを差し出す。その手を跳ね除けて「関係ないだろう、お前には」とフィルターのないタバコ朝日を出す。朝日は明治37(1904)年から発売された口付紙巻たばこで1976年に生産が打ち切られた。

 「妹さんのために聞いているんだよ」「治してやるよ、あいつの眼は、俺がきっと」「わかるよ、君の気持ち」「わかるかい!誰にも!あいつの眼が悪くなり始めたのはな、俺がグレた頃からだったんだ。あの時、すぐ治療してりゃ、あいつの眼はあんなふうにならなくて済んだんだ!それなのに、俺は家を飛び出したまんま、あいつのことなんか、考えてやらなかった。そのせいなんだよ、あいつの眼があんな風になったのは」。自分に苛立つ大坪。

 殿下「まだ間に合うじゃないか、治してやれよ、だけどな大坪、今度のような真似は、やっぱり間違いだぞ、汚れた金でいくら手術したからって、妹さんが喜ぶはずないもんな」。痛いところを突かれて大坪「じゃ、どうすりゃいいってんだ?」「働くんだよ、もっとちゃんと、自分で働いた金で手術してやるんだ」。大坪、殿下の顔を睨むように見て「少年院帰りの俺にどんな仕事があるっていうんだ?俺がせっかく真面目に働こうっていうのに、みんな虫けらみたいにしか見てくれねねじゃねえか、さっきの店の金だってそうだよ、俺は金なんかとっちゃいねえよ、それなのに、何かていうと、必ず俺のせいにしやがる。こんなことで、いつになったら、あいつの眼を治してやれるんだ? ぐずぐずしたら手遅れになっちまうんだぜ」「だけどな大坪」「もう釈放されたんだ、これ以上、俺に付き纏わないでくれよ」と立ち去る。

雨の鋪道を一人歩く大坪を、後ろから見ている二人の男。

捜査第一係。「おはようございます」と殿下が出勤してくる。殿下はボスに「ちょっと出かけたいんです」「どこへ?」「仕事を探してきたいんです」。久美驚いて「島さん、刑事やめるんですか?」。殿下笑って、自分のではなく大坪修司の就職を探すんだと。「島さんが刑事以外の仕事できるわけないもんね、この間だって、結局、ボスに警察手帳返さなかったじゃないですか」と久美。山さん笑ってる。「褒めてるんです私!」。

「俺の友達で小さな商事会社をやっている奴がいるんです。そいつに大坪修司の就職を頼んでみようと思うんです。事情を話せば、給料の前借りということで手術費が借りられるかもしれません」。ボスはうなづく。

 殿下、出かけようとすると、電話が鳴る。あけぼのストアで強盗殺人が発生。山さんと殿下、現場へ急行する。ロケーションはおなじみ「東光ストア」。バックヤードに、すでに長さんがきていて、現場検証をしている。被害者は宿直の店員・イズミタカオ、胸を撃たれて死亡、拳銃の種類は不明、鑑識で調べている。犯行時刻は、深夜3時前後と思われる。ゴリさん「金庫から奪われたのは120万円ぐらい」。問屋に支払いを済ませた後だったので、被害金額は少なかった。

 木下監督の演出は、ハンドカメラで照明も落として、ドキュメントタッチで緊迫感を出している。ジーパン「目撃者がいました。裏家の主婦なんですけどね、銃声のような音が聞こえたんで、窓から見たら、犯人らしい男が逃げたっていうんです」。犯人は三人組らしい、暗かったので人相まではわからない。山さん「他に目撃者がいるかもしれん、聞き込みを続けろ」と指示を出す。

 ジーパン、長さん、殿下、ゴリさんが四手に別れて聞き込みを開始。殿下は付近の高架下で、タバコの吸い殻を発見。大坪が吸っていたフィルターなし朝日と同じだった。殿下、すぐに電話ボックスから小宮医院に電話をかけ「恐れ要りますが大坪修司の血液型を教えてください」。

 捜査第一係。ゴリさん、ジーパンが帰ってくる。ボス「どうだった?」犯人の顔を見たものは誰もいなかった、とゴリさん。ジーパンは、銃声を聞いたものはいたが、関わり合いになるのを恐れて外には出なかったと報告。長さんも「まだ手がかりはなしだ」。そこへ殿下が戻ってきって「長さん、吸い殻の血液型わかりましたか?」「AB型だ」。殿下、やっぱりという顔をしている。「何か思い当たることがあるのか?」と山さん。「AB型なんです。大坪修司も。あいつも朝日を吸ってたんです」。

 刑事たちも驚いている。殿下「バカだよあいつは、どうしょうないバカだ」。長さん「なあ殿下、もし大坪が犯人だとしても、吸い殻のあった位置から考えて見張り役だ。撃ったのは大坪じゃない。主犯は後の二人だよ」と優しく声をかける。

ボスは「しかしその二人の手がかりはない、今のところ大坪修司を追うしかない」。殿下、振り返り、ボスの顔を真剣な眼差しで見て「わかりました。行ってきます」。

 大坪兄妹のアパート。殿下がやってくる。部屋からギターの音色。有紀が練習していた。「島です」「どうぞ」嬉しそうな有紀。「今日はお兄さんは?」「まだ会社なの」「昨夜はどうでした?帰ってきましたか?」「昨夜は麻雀するからって、お友達の家に・・・兄がどうかしたんですか?」。殿下は、純粋な有紀の顔を見ていると、本当のことが言い出せない。「失礼しました」と出て行こうとする殿下を「待ってお願い!」と止める有紀の手は、ホルスターの拳銃に触れてしまう。

「島さん、あなた・・・」「そうです。僕は刑事です。この間は言えなかったんです。お兄さんは強盗の容疑がかけられています」「嘘よそんなこと」。しかし証拠もあると殿下。有紀「だって今、兄はちゃんと会社に勤めているのよ、どうしてそんなことをする必要あるの?」「お兄さんは会社になんて勤めていません。おそらくあなたを心配させないために、そう言ったんでしょう。今度の犯行もきっと・・・」「やめて!もう聞きたくない、やめて」と耳を塞ぐ有紀。殿下、もう少し言い方があるだろうに、プレイボーイの割には女性の扱い、デリケートじゃないね。

 ジーパン、ゴリさん、山さん、大坪の勤めているパチンコ店へ。山さん「大坪修司はいるか?」と先日、大坪を殴っていた矢部に訊く。「休んでますよ、ずっと。あいつがなんかしたんですか?」。どこにいるか心当たりもないという。ジーパン、ゴリさんも付近の繁華街、大坪が立ち寄りそうな場所を探すが手がかりはない。長さんはポルノ映画を上映している映画館へ。

 捜査第一係。夜、ボスが窓辺に立っている。山さんお茶を淹れてくる。窓越しの珍しいショット。長さん、ジーパン、ゴリさんが帰ってくる。大坪はどこにもいなかった。「アパートの方はどうですか?」とゴリさん。「今のところまだ動きはない」と山さん。アパートには殿下が張り込んでいる。長さんが「殿下と交代してきます」と立ち上がると、ボスが「あ、長さん、行くな、殿下に任しとけ」と止める。

 大坪兄妹のアパート。カナリアが泣いている。悲しい顔をしている有紀。じっと座っていると、電話が鳴る。「お兄ちゃん、今どこ?」「金が出来たよ有紀、やっと手術ができるんだ」。都心の電話ボックスからかけている。「そのお金、どうしたの?」「会社から借りたんだよ」「ほんと?」「おかげで急に出張しなくちゃいけないんだ、俺、これから病院に金を払い込んで、よく頼んでおくから、すぐ手術受けるんだぞ」「お兄ちゃん、お願い、本当のこと教えて、そのお金、どうしたの?」「そんなこと気にしなくていいんだよ、お前はただ眼を治すことだけ考えればいいんだ、わかったな」と電話が切れる。

 アパートの階段を白杖をついて慎重に降りてくる有紀。向こうには殿下の覆面車が止まっている。「大坪有紀が動き出しました」「よし尾行しろ、いいか、気づかれるなよ」無線でボスが指示をする。白杖をついて歩く有紀。ジーンズのパンタロンに白いアウター。柏木由紀子さんに相応しい清楚なスタイル。殿下は慎重にクルマをスタートさせて尾行を続ける。通行量の激しい交差点。赤信号であるが、この頃はまだ音声案内や路上の黄色いマーキングがされていなかった。目の不自由な人にとっては、危険に満ちていた。

 赤信号のまま、横断歩道を渡る有紀。トラックがクラクションを鳴らす。横断歩道の真ん中で転んでしまう。白状を落として、転がってしまい、それを必死に探す有紀。殿下、いてもたってもいられない。しかし尾行中だから、駆けつけるわけにもいかない。しかし殿下、クルマを降りて、杖を拾い、有紀を抱き起こす。「ありがとうございます。どなたでしょうか?」「・・・」「島さん、島さんなのね」「ええ」「あたしを尾行してきたのね?」。

「お兄さんはどこにいるんです?」「知りませんあたし」「だけど、今、あなたはお兄さんに会いに行くところだったんでしょう?有紀さん、お兄さんは犯人なんですよ、そのために一人の男が殺されたんです。あなたが庇えば庇うほど、却ってお兄さんは追い詰められる、逃げるためにまた事件を起こすかもしれないんです。有紀さん、お兄さんのいる場所を言ってください」「島さん、お願いです。あたしと兄と二人だけで話をさせて。あたしよく話してみます。きっとあたし、兄を自首させます。だから、お願い、一人で行かせて、お願いです」。

 殿下、いつもこういう美人の一言に弱いね。「愛の殺意」でも「この仕事が好きだから」でも、つい情に絆されてしまったのに。

 病院。診察室には大坪と医師(片山滉)。そこに有紀がやってくる。大坪嬉しそうに「有紀!」「お兄ちゃん」「今先生に話していたところだ、すぐ手術してくれるそうだぞ」。医師、立ち上がり「きっと見えるようにしてあげるからね」。

 「それよりも私、お兄ちゃんい話があるの」と病院の外へ。殿下、二人を尾行しようとするが、立ち止まる。その様子をじっとみている、パチンコ屋の店員・矢部(中井啓輔)と高木(金井進二)。

 喫茶店ロシュ。有紀が大坪に「お兄ちゃん、お願い、自首して」「自首?おかしなこと言うなよ、俺は自首するようなことはしてないぜ」「知ってるのよ、島さんという刑事からみんな聞いたのよ、だから、もう隠さなくてもいいのよ」「有紀、俺はな」「わかってる。あたしのためでしょ、あたしの眼を治してくれるためでしょ、だけどもういいの、手術なんかしなくてもいいのよ、だって、あたしにはお兄ちゃんがいるんだもの、あたしの手も引いてくれるし、なんだってしてくれるんだもの、それだけで幸せよ、だから、ね、お兄ちゃん」。

 その時「大坪修司さま、お電話です」とアナウンス。結構大きい喫茶店なのか。電話に出る大坪。「俺だ。病院だろうって勘が当たったわけさ。ぐずぐずしてねえで早く逃げろ、デカが張ってるんだぞ」と矢部だった。

 店の外に出る大坪。クルマの中の殿下と目が合う。裏口に周り逃げる大坪を殿下が追う。大通り、大坪は信号無視をして横断するが、殿下は足止めを食ってしまい、逃げられてしまう。これは大失態。またボスに怒られるぞ!

 喫茶店ロシュに戻ってくる殿下。有紀に「お兄さんはどこへ逃げたんです?」「島さん、あなたは私と兄を二人きりにしてくれると約束したはず、それなのにあたしの目が見えないことをいいことにして、約束破ったのよ」「そんな・・・」「どこに逃げたかわからないわ、あたしにはわからない」「探しますよ、きっと」と殿下、出ていく。

 殿下、大坪を探して、街中を歩く、歩く、歩く。覆面車の警察無線が鳴っている。「大坪修司が殺された。現場は多摩川の第二水門だ。すぐ行け」とボス。

 多摩川第二水門近く、鑑識が現場検証をしている。白い手袋を嵌めながら殿下が走ってくる。大坪の亡骸に縋って号泣する有紀。殿下「山さん」「射殺だ、背後から撃たれている」「犯人は?」「おそらく仲間割れだろう」。悔しがる殿下の目線に、悲しみにくれる有紀。

 「お兄ちゃん!」「有紀さん」。殿下の手を振り払って、運ばれていく兄の遺体にしがみつこうとする。「犯人はきっと逮捕します、ですからもう、帰りましょう」「あなたのせいよ!あの時、あなたが約束さえ守ってくれれば、兄は自首したんです、そうすればこんなことにならなかった、あなたのせいよ!兄を返して!」泣き崩れる有紀。山さん、ゴリさん、長さんも見守ることしかできない。「返して!」。俯瞰のロングショット。

 捜査第一係。聞き込みを終えたジーパンが帰ってくるが、目撃者はいなかった。殿下は浮かない顔。「彼女に言われたことをまだ気にしているのか?あの場合、俺だって張り込みをするよ、刑事として当然じゃないのか?」と長さん。「だけど大坪を逮捕しとけば、こんなことにはならなかったんです」と殿下。

「その通りだ殿下。どうして病院から出てきた時、逮捕しなかった」ボスが叱責する。「お前が甘すぎたんだ、しかし今、こんな泣き言言ったってはじまらん、そんな暇があるなら歩け!草の根を分けても犯人を探し出すんだ!」。

ゴリさんが戻ってきて「ボス、大坪が病院に120万、預けてました。手術費に入院費、それで余った分は有紀に渡してくれてって言ってたそうです」「スーパーで奪われた金額と一致するな」と山さん。ジーパンが得心する「そうか、つまり大坪は奪った金を独り占めしようとして、殺されたってわけですね?」。殿下、少し考えて「有紀はどうしました?」「アパート送ったよ」とゴリさん。

「有紀が危ないですよ、大坪が金を独り占めしたとすると、犯人は有紀を襲う恐れがあります」「よし、殿下行け!」。もう少し早く気付かないと、少なくともゴリさんはそこまで読まないとね。殿下、慌てて出ていく。

スナック。有紀、ギターをつま弾いている。その表情は悲しみに満ちている。歌うはフォー・セインツの「小さな日記」(作詞・原田晴子 作曲・落合和徳)。

 スナックのドアを開けて、矢部(中井啓輔)と高木(金井進二)が入ってくる。カウンターに座る二人。有紀の歌は続いている。

 殿下、覆面車でアパートへ。遅い!ボスも、応援をよこしなさい。部屋には不在。有紀、スナックの帰り、バスに乗っている。向かいには矢部と高木が座っている。やがてバス停で、白杖をついて有紀が降りてくる。夜も遅くなっている。矢部と高木、有紀をつけてくる。

 夜道、黄色いワンピースの有紀が心細そうに歩いている。有紀、つけられていることに気づく。大木の影に隠れる有紀。足音が消えたので安心して歩き出す。しかし再び足音が聞こえて、慌てて、転んでしまい、白杖を手放してしまう。「声を出すんじゃねえ」と矢部。

 倉庫、矢部と高木、有紀を責めている。「大坪はどこへ金を隠した?」と矢部。「あなたたち、誰?」「そんなことはどうでもいい、金はどこだ?」「あなたたちね?兄を殺したのは!兄を返して、返して!」「ええい、静かにしろ」と矢部が有紀を突き飛ばす。

 夜道を走る殿下。有紀を探している。今回も、ちょっと間抜けな展開。もう少しオードリー・ヘップバーンの「暗くなるまで待って」みたいにすればよかったのに。「この仕事が好きだから」同様、構成のムリを感じる。勿体無いなあ。

先ほど、有紀が転んだ大木のところで、有紀を探す殿下。

倉庫では矢部が有紀に往復ビンタ。知性がないなぁ、こんなチンピラに捜査が手こずっているのか?七曲署しっかりしろ!と言いたい(笑)

やがて、茂みのなかで白杖を見つける殿下。

 矢部は由紀の額に拳銃を突きつける。その前に病院に行って確かめればすぐにわかるのに・・・「さあ、金の隠し場所を言うんだ。ただの脅しだと思ったら、大きな間違いだぞ、おめえの兄貴もこれでやったんだ、え?言わなきゃおめえも撃つ」って、そしたら元も子もないじゃないか! 痺れを切らした矢部、高木を促して殴らせる。「金はどこなんだ!」。

 そこへ殿下「拳銃を捨てろ!」と銃口を向ける。よくわかったね、この倉庫だと。今回、かなりご都合主義。ヒーローもののように殿下、颯爽と救出に現れ、発砲する。慌てる犯人たち。「有紀さん、今のうちだ!逃げろ!」と殿下。「島さん!」「真っ暗だ、奴らには見えない!早く!」。ああ、ここから『暗くなるまで待って』になるんだ。暗闇で銃撃戦が展開するなか、有紀は手探りで進む。缶を倒してしまい、その音の方向に犯人が銃を撃つ!ゆっくり這いながら逃げる有紀。

 殿下、暗闇のなか、犯人と暗闘。絶妙のタイミングで矢部の拳銃を撃ち飛ばし、乱闘となる。木下監督はあえて、音楽を入れずに緊迫感のあるシーンを創出。高木を殴る殿下。パンチ、パンチ、パンチ。襲いかかってくる矢部にも怒りのパンチをぶちまける!チョップでダメージを与えて逮捕!

その瞬間、そばで立ち尽くしている有紀。ここでテーマ音楽。

 捜査第一係。山さんと殿下が戻ってくる。「矢部と高木がスーパーの強盗殺人並びに、大坪修司殺しを自供しました。矢部が主犯で大坪を仲間に引っ張り込んだようですな」山さんがボスに報告。長さん「よくやったな殿下」「・・・」「どうしたんだよ殿下?」。

「事件なんか解決しても、大坪有紀の眼が見えるようにはなりませんからね、却って心まで暗くなってしまったんです」と殿下。

 ボス、立ち上がって「俺の友達におかしな医者がいてな、自分の気に入らない患者には見向きもしないんだが、気に入った患者となると、治療費も取らずに夢中になってしまうんだ。おかげで貧乏で、女房にだって逃げられてしまった。そいつは眼科でな、大坪有紀を連れてこい、って言うんだ」。ボスの友人って「赤ひげ」の?三船敏郎さんか?(笑)

 殿下にっこりして「ボス」「おい殿下、わかったら有紀をすぐに連れて行け!」。みんなも笑顔で「行ってこい!」「はい!」張り切って出ていく。ボス「おい、殿下!場所も聞かずに行くのか?」「どこですか?」一同大笑い。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。