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『反逆のメロディー』(1970年・澤田幸弘)


 “アクション王国”を築いてきた日活も、1960年代末、ハリウッドのニューシネマや、音楽を中心とする若者の嗜好の多様化の中で、大きな転機を迎えていた。主人公も勧善懲悪のヒーローからアウトローへと変貌を遂げ、バイオレンスやセックスなど、よりビジュアルも刺激的なものになってきた。

 それが、日活ニューアクションの、一つの先駆けとなったのが昭和44(1968)年、舛田利雄監督、渡哲也主演の「無頼より大幹部」(1968年)を第一作とする「無頼」シリーズ全六作や、長谷部安春監督、小林旭主演の「縄張はもらった」(1968年)だろう。いずれも当時流行のやくざ映画でありながら、主人公は体制に反発するアウトロー。彼らが自分自身のアイデンティティーのために戦うが、やがてそれは破滅に向かって行く。というスタイルは、 1960年代末の「時代の気分」をビビットに反映していた。それは任俠アクションに限らず、 1970年になると無軌道な若者たちのやり場のないエネルギーの発露を描く「野良猫ロック」シリーズ全五作が登場。日活ニューアクションが繚乱することになる。

 渡哲也の「無頼」シリーズで、舛田利雄、小澤啓一監督の助監督を務めていた澤田幸弘監督は、昭和45(1970)年3月公開、渡哲也主演の『斬り込み』で監督デビューを果たしている。その監督二作目となるのが『反逆のメロディー』 。主演の原田芳雄は、俳優座の若手として活躍していたが、映画では1968年の俳優座制作「復讐の歌が聞こえる」(松竹配給・貞永芳久、山根成之)に主演していたものの、この頃主にテレビで活躍していた。

 hotwax vol 2(ウルトラヴァイブ)所載の梶芽衣子インタビューや、「野良猫ロックコンプリートDVD-BOX 」収録の原田芳雄インタビューによると、本作での原田芳雄起用は、梶芽衣子の澤田監督の推薦によるものだと言う。テレビ「五番目の刑事」(69.70年NET)で、ジープを疾駆させるはみだし刑事を好演しており、そうした系で原田は日活のオーディションを受けることとなった。 

 しかし、当の原田自身も、ヤクザ映画の出演には抵抗もあり、あえて素肌にGジャンと言う、およそヤクザ映画のイメージとかけ離れたスタイルで日活での面接に臨んだという。落とされることを見越してのGジャン・スタイルが、かえって水の江瀧子プロデューサーや、澤田監督の目に留まり、ユニークなアウトローが誕生した。

 佐治乾と蘇武道夫によるシナリオは、この頃のオーソドックスな現代ヤクザ映画のフォーマット。地方都市を舞台に、地元ヤクザの縄張りを狙って、関西の暴力団が乗り込んでくる。それに抵抗する主人公たちの戦いを描くというもの。ところが、素肌にGジャン・スタイルの主人公・塚田哲のアウトローぶり。そして弟分的存在となる若者・ゲバ作(佐藤蛾次郎)のユニークな存在。そして、この映画における「体制」である関西の大組織に、敢然と挑戦する星野(地井武男)、亜紀(梶芽衣子) 、滝川(藤竜也)の(野良猫ロック)チーム! 藤竜也、地井武男、梶芽衣子の魅力はもちろん、なんといっても素晴らしいのが、原田芳雄と佐藤蛾次郎の絶妙なコンビネーション!

 この頃、 1969年にスタートした「男はつらいよ」シリーズで、柴又題経寺の寺男・源吉を演じていたが、アフロヘアに口ひげと言うスタイルは本作のほうが早い。当時、澤田監督は「男はつらいよ」のファンで、後の松田優作主演の「あばよダチ公」(1974年)でも蛾次郎を起用、「男はつらいよ「へのオマージュをこめている。ゲバ作が、バイクにドイツ兵のヘルメットをぶら下げているが、これはテレビ「男はつらいよ」で、渥美清が弟分の蛾次郎につけた「ドイツの鉄かぶと」というニックネームに由来する。地井武男がパトカーの警官に「よ!ご苦労さん」と声をかける口ぶりが、寅さん的なのもおかしい。

 やくざでもないドロップアウトした若者・ゲバ作が、若いヤクザを焚き付けて行動を喚起するシーンのアナーキズム。「おもしれえか?」「おもしろくねぇ! 」それが破壊の衝動となる。このやり場のない若者のエネルギー課日活ニューアクションを支えていた原動力でもある。ゲバ作が歌う「♩もずが枯れ木で」の哀愁。その場面で子犬を抱いた藤竜也のリリカルさ。そして蛾次郎と若者たちによるフォーク「♩あしたのために」は。この時代の気分を見事に切り取っている。

 関西の一大勢力の大ボス・淡野大次郎(須賀不二夫)の憎々しさ! 阿漕な手を使って侵略を続ける彼らに反発する、若者達のエネルギー。古い仁義と兄弟の絆、それに裏切られ、真実の仲間おける主人公だが、その時に仲間たちが壮絶な死を遂げる。ヤクザvs野良猫ロックという図式になっているのが、1970年の日活ニューアクションならではだろう。

 ラスト、青木義朗扮するダーティな刑事が率いる狙撃隊が主人公狙うが、これは1970年5月に起きた「瀬戸内シージャック事件」の犯人射殺ニュースの衝撃を再現するため、予定を変更して現場で撮影したものだという。

日活公式サイト

web京都電視電影公司



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