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『クレージーの殴り込み清水港』(1970年1月15日・東宝・坪島孝)

深夜の娯楽映画研究所シアターは、東宝クレージー映画全30作(プラスα)連続視聴。

26『クレージーの殴り込み清水港』(1970年1月15日・東宝・坪島孝)

5月6日(金)は、NHK文化センター「クレイジーキャッツの音楽史」第2回「戦後ジャズ・ブームと7人の猫たち」講座を終えて帰宅後、久しぶりに『クレージーの無責任清水港』(1970年・坪島孝)をアマプラの東宝チャンネルでスクリーン投影。昭和41(1966)年の正月映画『無責任清水港』(坪島孝)から4年後に作られた完全な続篇。数あるクレージー映画でも、明確な続篇は珍しい。

「人類の進歩と調和」の日本万国博覧会開催を前にしたこの時期に、なぜアナクロな清水港? と思うが、実は1969年の秋に、浅草国際劇場での「浪曲大会」のステージを観た、渡辺プロダクションの社長・渡辺晋さんの鶴の一声「クレージーの清水港をもう一度やろう!」で製作された。

半裁ポスター

坪島孝監督としては『クレージーメキシコ大作戦』(1968年4月27日)以来、一年半ぶりのクレージー映画となる。大作『クレージー黄金作戦』(1967年)、『〜メキシコ大作戦』で苦労したご褒美で、谷啓さんと暖めていた企画『奇々怪々俺は誰だ?!』(1969年9月27日)があるので、久しぶりということでもないが。坪島監督によれば「なるべく前作とキャスティングは同じにしたくて」大政=平田昭彦さん、法印大五郎=石田茂樹さん、増川仙右衛門=当銀長太郎さんは、前作のまま。斜陽の映画界を考えれば、これも大変だったろう。

ここで『無責任清水港』『殴り込み清水港』の配役を比べてみよう。

植木等=追分三五郎(両作とも)
谷啓=森の石松(両作とも)
ハナ肇=清水次郎長(両作とも)
桜井センリ=紋太(無責任)・小政(殴り込み)
安田伸=新助(無責任)・長太(殴り込み)
石橋エータロー=清次(無責任)・清吉(殴り込み)
犬塚弘=追分三四郎(無責任)・船頭(殴り込み)

さて、ハナ肇さんは清水次郎長役がお気に入りで、『無責任清水港』から半年後のお盆映画『てなもんや東海道』(1966年8月14日・松林宗恵)でも次郎長を演じていた。『てなもんや東海道』は、「てなもんや三度笠」(ABC)の世界にクレイジーキャッツの「次郎長一家」が登場するので、これもカウントすると「クレージーの清水港」三部作ということになる。この時は、大政=藤木悠さん、小政=なべおさみさん、石松=長沢純さん、吉良の仁吉=犬塚弘さん、早川の佐太郎=谷啓さん、神戸の長吉=石橋エータローさんというキャスティングだった。

なので『無責任清水港』→『てなもんや三度笠』→『殴り込み清水港』を三部作として観ると楽しい。クレイジーの時代劇という点では、梅田コマスタジアムや東京宝塚劇場でのクレイジーキャッツの舞台公演の雰囲気を「遅れてきた世代」にも味合わせてくれる。

今回のヒロインは、東宝フレッシュ・アイドルの内藤洋子さん。木曽の下張戸(ゲバルト)村の”正しき親分”仏の友吉(北沢彪)の娘で男まさりのゲバルト娘・葉子の役を楽しそうに演じている。植木等さんや谷啓さんのエスカレートする芝居に、時々、吹き出しそうになったり、目が笑っていたり。なかなか可愛い。しかも初登場のシーンでは次郎長一家で、早口で仁義を切る。当時は任侠映画全盛時代、また渥美清さんの「男はつらいよ」シリーズがスタートして大ヒットしていた時なので、内藤洋子さんの「仁義」は観客に大受けしたことだろう。

また、斜陽とはいえ、戦前からのベテラン俳優・北沢彪さんをキャスティングしたのも坪島孝監督のこだわりが窺える。また敵対する悪徳親分・鮫造には日活アクションでお馴染みのバイプレイヤー・高品格さん。日活を辞めてフリーになっての出演だが、東宝映画に日活俳優が出てくる「違和感」も含めて時代の変節を感じる。高品さんはこの後もクレージー映画に出演することになる。

そしてもう一人のヒロインに、東宝クレージー映画は『クレージーだよ奇想天外』(1966年5月29日・坪島孝)以来の星由里子さん。下張戸(ゲバルト)村の居酒屋の女将・お雪を演じている。無一文となった三五郎が、石松になりすまして飲まず食わずでお雪の店に入って、無銭飲食をする時の文句は『無責任清水港』のリフレイン。こうした前作を意識したギャグは、観ていて楽しい。

次郎長の女房・お蝶には、前作の団令子さんから夏圭子さんにバトンタッチ。俳優座養成所の”花の十三期生”の一人である。映画版の『若者たち』(1968年・森川時久)と『若者は行く-続若者たち-』(1969年・同)の町子役が印象的だった。面差しが、スリムになった頃の団令子さんに似ているので、あまり違和感がない。ディティールにこだわる坪島監督は、この「違和感のなさ」をかなり意識している。

ある日、清水港の次郎長一家に、木曽山中の下張戸(ゲバルト)村から、かつて次郎長が世話になった親分・仏の友吉(北沢彪)の娘・お葉(内藤洋子)が駆け込んでくる。聞けば、友吉の縄張りを狙っている悪徳親分・鮫造(高品格)からの借金のカタに、お葉を差し出せと脅かされている。借金返済のために百五十両を貸して欲しいと次郎長に頼む。しかし次郎長一家も火の車、その場では工面することができずに、石松(谷啓)が届けることに。

旅の途中、無頼の浪人・荒船五十郎(内田良平)に絡まれて絶体絶命のピンチを救ったのは、追分三五郎(植木等)。久しぶりの再会で酒を酌み交わす二人。無一文の三五郎は、石松の懐の百五十両を拝借して、石松の着物を来て遁走。石松になりすまして木曽路へ。そこで旅の女・お銀(北あけみ)に鼻の下を伸ばした三五郎。まんまと百五十両をスラれてしまう。事情を知らない三五郎は、下張戸村へやってくるが、そこではお葉がピンチに…

ここからの展開は、良い意味で「パターン通り」の時代劇。鮫造の代貸役で睦五郎さんが、例によって凄みを利かせているが、その名前が為五郎! 前年の秋にスタートした「巨泉前武ゲバゲバ90分」(NTV)で、ハナ肇さんがコマーシャル・タイムで、ヒッピー姿で叫ぶ「アッと驚く!為五郎」が流行語となっていた。年末にはクレイジーとしては久々の新曲「アッと驚く為五郎」がリリースされてヒット中。そこで、睦五郎さんの「為五郎」である。観客は、いつハナ肇さんが、この流行語を言うか、待ち構えていたことだろう。もちろん、映画の一番いいところ、ラストシーンに、清水次郎長がカメラ目線で、たっぷりのタメを利かせてから「アッと驚く為五郎〜」と叫んでくれる。さすが坪島監督、わかってらっしゃる!

布施明さんが、内藤洋子さんをゲットする二枚目の侍・結城一平太役で登場。歌は歌わないが、ヒロインを攫ってしまう二枚目としては『〜メキシコ大作戦』の沢田研二さんの役回り。布施さんのキャラクターは、テレビのコントのようなサムライスタイルで微笑ましい。

また、天本英世さんが奇怪な盲目の刺客・座頭吉を怪演。座頭市のパロディというより幽明の境を彷徨うような不気味なキャラクター。クライマックス、内田良平さんの荒船五十郎と共に三五郎の生命を狙うが、三五郎が「二人が戦って勝った方と勝負をつける」と提案。ここで天本英世VS内田良平の一騎打ちが楽しめる。これもパターンの相打ちなのだけど、二人の怪演が素晴らしく、また植木さんの無責任ぶりがおかしいので、なかなかの名場面となっている。

植木さんが歌う挿入歌「旅の空」(作詞:塚田茂 作曲:萩原哲晶)は、「めんどうみたよ」「たそがれ忠治」の流れを汲む股旅ソング。残念ながらレコード発売されなかったが、のちにサントラがCD化。その際に谷啓さんが歌った未使用テイクも音源化された。そして、植木等さんと谷啓さんのデュエットで、久しぶりの「馬鹿は死んでも直らない」(作詞:塚田茂 作曲:萩原哲晶)も楽しい。

なお、石橋エータローさんは、この年の大晦日にクレイジーキャッツを脱退(心臓病のため)料理研究家に転身したため、クレイジー7人組の出演は本作が最後となる。なお、同時上映は、森繁久彌さんのシリーズ最終作の前篇『社長学ABC』(松林宗恵)。昭和30年代から40年代前半に駆け抜けた人気シリーズが最終コーナーに入っていた。


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