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太陽にほえろ! 1974・第79話 「鶴が飛んだ日」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

鶴が飛んだ日」(1974.1.18 脚本・長野洋 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
中尾(深江章喜)
柚木麻江(有吉ひとみ)
高沢紀子(北島マヤ)
高橋(中井啓輔)
中尾の部下(団巌)
麻薬取締官(西田昭市)
伊東(大宮幸悦)
中尾の部下(戸塚孝)
岡本隆
草間璋夫
江崎純也
伊藤健


予告編の小林恭治さんのナレーション。
「麻薬組織は島刑事を新たな密告者にするため、罠を張り、彼を監禁し、彼を麻薬中毒患者に陥れた。日に日に、彼の身体は麻薬の毒牙に侵されていった。しかしその中で、願いを込めて、彼女は鶴を折り続けた。次回「鶴が飛んだ日」にご期待ください。」

 殿下・島公之刑事(小野寺昭)が、麻薬組織の罠にかかり、中毒患者になってしまう。初放映時、小学四年生だった僕は、後半の禁断症状のシーンの恐ろしさに慄いた。「麻薬は怖い」キャンペーンでの企画だろうが、トラウマになるほど怖かったので「ナマハゲ効果」はあったと思う。殿下の恋人・柚木麻江(有吉ひとみ)が再登場。

 今回もこの恋人たちはとんだ災難に遭う。クライマックス、麻江の折り鶴と殿下の折り鶴がシンクロするシーンなど、竹林進監督の正攻法の演出もいい。また、殿下を罠に陥れる喫茶店のママ・紀子に、北島マヤさん。TBSで円谷一さん演出の「煙の王様」(1962年)のバンビ役で出演。NTVの「青春とはなんだ」(1965〜66年)の生徒・君江役、竜雷太主演「これが青春だ」(1966年)の生徒・ゆり役でお茶の間にはお馴染み。特撮的にはTBS「怪奇大作戦」第14話「オヤスミナサイ」(1968年)の杉江ユキ役で知られている。

 また、日活の悪役・名バイプレイヤーの深江章喜さんが、麻薬組織のボス・中尾を憎々しげに好演。今回は頭に少しパーマを当てているのが新鮮(笑)。この人がいなかったら、裕次郎映画や日本のアクション映画、ドラマは、これほどまでに発展したのか?と思ってしまうほど、アイコニックな悪役を演じ続けた。

 早朝の京浜急行日ノ出町駅近くの高架下。ジーパンが佇み、山さん、長さんが水道工事の作業員に扮装して張り込みをしている。ゴリさん、殿下はチンピラ風の格好。やはり扮装した麻薬取締官とすれ違う。「BAR黒猫」の裏に回るゴリさんと殿下。ボスのクルマが日の出町の路地の前に停車する。ボスが腕のローレックスを見る。6時ちょうど。捜査員全員が時計を見る。ボスの合図で一斉に「BAR黒猫」へ。

 カウンターの裏の隠し部屋への入り口を見つける山さん。ジーパンが壁を壊し、隠し部屋に入るが、もぬけの殻。悔しがる麻薬取締官(西田昭市)。苦労を重ねてようやく精製所を見つけたのに、必ずひと足違いで逃げられてしまう。「これは一体どういうことなんだ!」と取締官。山さん「ハトがいるんじゃないんすか?」。誰かが情報を流しているというのだ。

 しかし麻薬取締官は、自分たちの中に密告者がいるとは思えない。「考えすぎだよ、君!」「そうでしょうかねぇ」とボス。一度や二度ではなく、三回も裏をかかれたとなると、山さんの考えに賛成せざるを得ないとボス。山さん、挙動不審の捜査官・伊東(大宮幸悦)の腕を見て「いい時計ですな、舶来ですか?これ高かったでしょう?」。その捜査官の腕を捲ると、注射の跡が!伊東は麻薬中毒にされて、組織の密告者になっていたのだ。

 逃げる伊東を、ジーパン、ゴリさん、山さん、殿下が追う。横浜ロケの迫力ある映像。その姿をアパートの二階から見ている不審な男たち。

 しばらくして、日の出町の大岡川沿い。川で伊東の遺体が発見される。溺死かと思われたが、首の骨を何者かに折られていた。ボス「殺しとなると、いよいよ本格的に俺たちの出番だな」。

 日の出町駅の界隈。聞き込みをする山さん。ゴリさんと殿下も映画館の脇で女の子から聞き込み。

 マンションの階下にあるTEA ROOM「紀子の店 コーヒーショップ」。殿下と、恋人・柚木麻江(有吉ひとみ)がデートしている。話題はゴリさんの大食いの話。ゴリさんがおやつ代わりのラーメンを食べている間、殿下はコーヒーを飲んでいる、などと他愛のない会話。そこへママ・高沢紀子(北島マヤ)が水を注ぎにくる。「どうぞごゆっくり」。思わせぶりな表情をする。麻江は、このところ疲れ気味の殿下の体調を心配して「一度、お医者さまに診てもらったら?」「大丈だよ」。麻江は先に「時間だから」と出ていく。殿下も、店を出ようと立ち上がったところで目眩いがして倒れる。

 殿下、気がつくと紀子の部屋のソファーに横になっている。医者と思われる男に腕に注射をされる。「救急車を呼ぼうかと思ったんだけど、あまり大袈裟でしょう?」そこで、マンションの階上の紀子の部屋に運んで、掛かり付け医・高橋(中井啓輔)に来てもらったと説明する。「疲れから来た貧血ですな、栄養剤を射って起きましたから、しばらく続けられた方がいいと思いますよ」「じゃ、先生の病院へ通ったら?」。どう見ても医者だけど、どう見ても怪しい。ママ・紀子は何かについて殿下の面倒を見る。「ママさん、親切なんだね」。

 殿下はテーブルの上にあった紀子のアルバムを何気なく手にとる。紀子の子供の頃からのスナップである。ページをめくっていた殿下は驚く。なんと自分の小学校の遠足の記念写真があったのだ。殿下の隣の女の子が「あなたと同級生の高沢紀子」だったのだ。

 日の出町、大岡川付近。ゴリさんと殿下が捜査に来ている。突然、倒れそうになる殿下。「おい、どうした殿下?」「いや、なんでもないっすよ」。

 殿下、高橋医院を訪ねる。目眩が続く殿下に「今日から薬を変えてみましょう」と高橋医師。注射器を殿下の腕に刺す。高橋の不気味な顔のアップ。もうこれだけで、小学生でも殿下が麻薬を打たれていることがわかる。このわかりやすさは、テレビ映画では大事なこと。朦朧とする殿下、いたずらに時間が過ぎていく。「なんだか変だ。どうしたんだろう?」。

 病院を出て、自分の身体の異常に気づく殿下。「おかしい、やっぱりおかしい」。木枯らしが吹きすさぶ。これは殿下の心象風景だろう。「一体、どういうことだ?」。

 再び高橋医院のベッドで目が覚める殿下。「どうしました?」「また眠ってしまったような」「まさ、たった今、注射を射ったばかりですよ」。病院を出て時計を見る。「どうもおかしい、あのなんとも言えない空白の時間。まさか、まさかこの身体に麻薬を?」。目の前に山さんが立っている。「お茶でも飲むか?」と山さんは歩き出す。

 TEA ROOM「紀子の店 コーヒーショップ」。医者にかかっているというと、みんなに心配かけてしまうと思って」と殿下。しかし山さん「それだけか? なあ、殿下、俺は身の上相談を受ける柄じゃないが、何か胸に溜まっていることがあったら、いっそ吐き出してしまった方がスッキリするんじゃないか?」。殿下、告白しようとしたところに、紀子が水を注ぎに。「小学校の同級生なんです」と紀子を紹介する。その時、殿下は紀子が怪しいことに気づく。「まさか、昔の同級生の彼女が? もしそうだとしたら・・・」と殿下の心の声。

 一係。殿下はボスに休暇を申請する。「一度、大学病院に入って、精密検査を受けてみようと思いまして」「いいだろう。今度の山は長期戦になりそうだ。この際、徹底的にオーバーホールするんだな」。

 殿下、紀子のマンションを訪ねる。この前の御礼に紀子を食事に誘う殿下。「嬉しいわ、でもあの人に叱られないかしら?」「いいんだよ」。殿下には狙いがあるのだ。紀子が着替えている間に、部屋を調べる殿下。受話器をあげると、紀子が誰かに指示を仰いでいる声が聞こえる。有線電話の時代、子機の会話は親機で聞くことができた。紀子、部屋から出てきて、出かけるより、いっそ、ここで食事をしましょうと提案する。

 ゴリさんとジーパン。麻薬の受け渡しをコインロッカーでしている運び屋を逮捕する。ロッカーからは得意先の電話番号を記したメモ帳が押収される。

 紀子のマンション。腕によりをかけた割には、普通のサラダを出す紀子。その時、手が震えて、グラスを倒してしまう。慌てて部屋に入る紀子。殿下が部屋のドアを破って入ると、紀子が注射器を手にしている。彼女も麻薬中毒だったのだ。「よせ!」「はなしてよ!」。揉み合う二人。禁断症状となる紀子。

 一係。運び屋の手帳を見て、片っぱしから電話をかけるジーパンとゴリさん。相手が出ない番号を、電話局に問い合わせる山さん。

 紀子のマンション。「お願い、クスリ頂戴!」と殿下に懇願する紀子。この禁断症状の描写は、小学生の時は本当に恐ろしかった。

 一係。ボス「偽医者? あの高橋ってのは本当の医者じゃなかったのか?」。シンコは不審に思い、医師会で調べたところ判明したのだ。長さんはそのまま高橋医院に張り込んでいる。電話局に問い合わせている山さん「高沢紀子ですか?」と電話を切る。「どっかで聞いたような名前だ・・・」。

 紀子のマンション。殿下、注射器を手にしている。結局、紀子に射ってやったようだ。「ごめんなさい。あなたには悪いことしてしまったわ」。それよりも、あの医者を使って、自分に麻薬を打たせた訳を教えて欲しいと殿下。

「やっぱり気がついていたのね」
「なぜだ? なぜ俺を?」

 紀子は手のひらの小さな石を殿下に見せる。小学校一年生の遠足の時、河原で殿下が紀子に拾ってあげた小石を、今でも大事にしていたのだ。「ほら、きれいだろ、君にあげるよ、って」。殿下、小学生の時からモテたんだね。「君は・・・」。殿下が何か言いかけたところへ、中尾の部下(団巌)が背後から殿下を殴打して、連れ去る。

 一係。山さん、ようやく思い出す。「あの女だ!」

 紀子のマンション。山さんとシンコがやってくるが、誰もいない。山さん、ベッドサイドの注射器を見つける。シンコは、殿下のネクタイピンを拾う。「殿下のです。あたし、見覚えがあります」。

 麻薬組織のアジト。組織のボス・中尾(深江章喜)、その部下(団巌)、そして紀子。殿下はベッドに縛り付けられている。抵抗する殿下に「暴れても無駄ですよ」と中尾。部下(戸塚孝)が覚醒剤を水に溶いている。殿下が気を失っている間に、クスリを「タップリと射たしてもらったんでね」と注射器を見せる。ああ、怖いね。「やっぱり、そうだったのか!死んだ伊東の代わりに、俺を密告者に仕立てるつもりだったんだな?」「あいにくだったな、いくらそんなものを射ったって、俺は伊東のようにはならんさ」「なるさ」と中尾。「あんたもデカなら、一度ヤクに溺れた人間がどうなるか、知っている筈だ」。殿下をクスリ漬けにして「ヤクがないと生きられない身体に」しようとしているのだ。部下が、さらに注射を射つ。思わず顔をそむける紀子。

 一係。ボスは「殿下は組織の連中に誘拐された。だが、殺す気なら、危険を冒す必要はない。問題は、奴らのアジトがどこか、ということだ」。偽医者の高橋を逮捕して吐かせても、下手したら殿下の生命が危なくなる。紀子も消えてしまった今、偽医者・高橋だけが手がかりだ。ゴリさんとジーパンは、長さんを助けて、高橋を徹底的にマークすることに。山さんは、逮捕した売人の運び屋をもう一度締め上げることに。シンコは、殿下の恋人・麻江に状況を伝えにいく。

幼稚園。シンコの話を聞いて、ショックのあまり気を失う麻江。
高橋医院を張り込む長さん、ゴリさん、ジーパン。
取調室。運び屋は、ただ頼まれてコインロッカーに行っただけで、何も知らないと言い張る。
一係。沈鬱な表情のボス。

 中尾のアジト。「決心はついたかね、刑事さん?」強情な殿下に対して「飯でも食って元気をつけろ。その後に、またいい夢でも見させてやるさ」と嘯く。中尾の部下、殿下のロープをナイフ切って食事を出す。「これでもな、この女が真心込めて作った飯だよ」。そのタイミングで殿下、食事を部下の顔に叩きつけて、紀子に先程のナイフを近づけて「動くな!動くとこの女を殺す」と、彼女を人質に取る。しかし中尾「いいだろ、やりたきゃやんな。今となっては邪魔なだけの女だ」「貴様って奴は!」「だがな、これ以上、強情張ると、もう一人の可愛い女も死ぬぜ」。麻江のことである、

 幼稚園の園庭。オルガンを弾く麻江の周りをお遊戯する園児たち。その様子を見ているシンコ。殿下に恋する気持ちがよく分かるんだね。

 一係。運び屋から「BAR黒猫」を引き上げる時に、中尾が運転手に「石山町まではどれくらいかかるか?」と聞いたのを覚えていたことを、山さんは聞き出すことに成功。石山町は工場の多いところだと、ボス。山さんは「とにかく、行ってきます」。ボスは無線で「ゴリとジーパン、かかってくれ」。

 高橋医院。ジーパンとゴリさん、中尾の部下のふりをして「迎えに来たんだよ」「あんたの周りにもサツの目が光り出したんでね。消えてもらいたいんですよ」と脅かす。慌てる高橋。「約束が違う。中尾さんは私の安全は保証すると言った筈だ」「その中尾さんの命令でね」とゴリさん。ジーパンは受話器を上げて「嘘だと思ったなら、自分で電話して確かめてみな!」。まんまと罠にハマって中尾に電話する高橋。受話器を取り上げて切るジーパン。「番号覚えたな」とゴリさん、警察手帳を差し出す。

 中尾のアジト。殿下、禁断症状に見舞われている。中尾の部下、殿下に注射をする。

 幼稚園。シンコ、麻江を手伝って、園児たちと千羽鶴を折っている。「あと5日でこの子たちの発表会なんです」。麻江は殿下への想いを込めて丁寧に鶴を折り続けている。

 中尾のアジト。殿下も折り鶴を作っている。麻江とのシンクロニシティー、通い合う二人の心。地下室を見上げると、天井のガラスからわずかな陽が差している。わずかな希望、一縷の望みを感じさせてくれる。思い立った殿下。少しだけ空く窓を開き、鶴を外へ投げる。風に舞う折り鶴。

 一係。「ボス、電話の場所がわかりました」と長さん。中尾が経営する店の番号だったが、殿下を隠す場所はない。しかし中尾は最近、石山町の工場を買っていることが判明。「そこだ」とボス、立ち上がる。

 石山町の廃工場。山さんがやってくる。その足元に、風に舞って折り鶴が・・・。それに気づいた山さん、鶴を広げると、覚醒剤が入っていた。ここだ!と確信する山さん。そのタイミングで、ジーパンとゴリさんが覆面パトカーで到着。手分けして工場に入る三人。ジーパンは地下室の窓を見つける。そこへ中尾の部下(団巌)があらわれ、ジーパンと格闘。その音を聞いた、アジトの中尾たち。「サツだ!」「デカ、見張ってろ」と中尾。殿下は部下が入ってきたタイミングで、ケリをお見舞いして、地下室から逃げ出す。しかし別の部下が立ちはだかる。「そうは行かないぜ」。その背後から、改心した紀子が襲いかかる。「逃げて!早く!」と紀子が手引きをしてくれる。「君も一緒に逃げるんだ!」。

 ゴリさん、山さん、ジーパンが、次々と一味を倒すが、紀子は中尾の拳銃で撃たれてしまう。中尾は逮捕されるが、紀子は殿下の腕の中で絶命。その手のひらから、想い出の小石が落ちる。

 ジーパン、一味を相手に大暴れ。久しぶりの空手アクション。部下(団巌)を逮捕する。そこへボスが駆けつける。「殿下はどうした?」。

 その頃殿下は、禁断症状に見舞われ、アジトの麻薬に手を出そうとしている。そこへ山さんがやってくる。「苦しいか?」「・・・」「射てば楽になる。だがその後は地獄だぞ」「わかってます。しかし・・・しかし、僕はもうダメなんです。この身体は、もうクスリなしには生きていけないんです。それだけじゃない。僕は、僕は、たったひとりの女性さえ、助けることができなかった」。

「違うな、確かに高沢紀子は一度はお前を罠に嵌めようとした。お前をこんな身体にした原因は、あの女だ。だが、土壇場で女はお前を救おうとした。生命を張って、助けようとしたんだ。その気持ちを無駄にしてもいいのか!」

 山さんの激しい言葉に殿下は、目が覚めて、注射器を捨て「山さん、僕を縛ってください。禁断症状が終わるまで、僕を縛って、監禁してください!」。山さんと殿下の苦しい戦いがここから始まる。殿下と自分を手錠で繋ぐ山さん。「俺も付き合ってやる。長い夜になるだろうからな」「山さん・・」。扉の向こうで、その様子を聞いているボス。静かに地下室の階段を上がっていく。

 殿下の禁断症状のシーンは、少年時代、かなり衝撃的だった。麻薬の怖さを目の当たりにして、言葉を失ってしまった。工場の外で、ボスは静かにその時を待っている。ゴリさん、ジーパンも、苦しみにのたうち回る殿下の叫びを耳にする。痙攣する殿下。黙って、力づくで抑える山さんの腕はちぎれそう。小野寺昭さん、迫真の演技。工場に、シンコが麻江を連れてくる。殿下の叫び声に、思わず耳をふさぐシンコ。中へ入りたい麻江を抱いてボスは「殿下は今晩がヤマだ。それさえ乗り切れば、あとは大丈夫だ。今は山さんに任せよう」と、麻江をうながし歩き出す。ゴリさん、ジーパンも引き上げる。

 「クスリ、クスリ、クスリ!」辛抱たまらず殿下が叫ぶ。それを抑えながら山さんは「殿下、苦しいのはお前だけじゃないんだぞ!ボスも、みんなも、そして麻江さんも、同じように苦しんでいるんだ!頑張れ、頑張れ、頑張るんだ!」。山さんも殿下も、手錠の腕から血を流している。

一係。麻江はいても立ってもいられない。シンコ、その麻江を優しく座らせる。ボスも心が痛い。麻江の祈るような気持ち。

地下室、殿下と山さんの苦しい戦いは続いている。

一係。無言のまま、じっと時を待つ仲間たち。

地下室。殿下、苦しさに耐えかねて大暴れする。その頬を叩く山さん。「殿下、頑張るんだ!」。

 やがて夜が明ける。ボス、麻江、シンコがやってくる。ボスが「山さん」と声をかける。そっとドアを明けて、静かにうなづく山さん。殿下は見事に乗り切り、今はゆっくり眠っている。麻江は「島さん!」と声をかける。目に涙をいっぱい溜めた山さんは「やりましたよ。彼は立派に頑張り抜いたんです」。麻江の表情には、殿下への愛で満ち溢れている。この二人には永遠に幸せになって欲しいと思ったのに、この後、麻江を待ち受けている過酷な運命を思うと胸が痛む。

 ボスは「もう大丈夫ですよ」と麻江を、殿下のそばに・・・。シンコは、血だらけの山さんの手首の手当をする。朝日を浴びて長さん、ゴリさん、ジーーパンが工場の外で、山さんを迎える。その隣にはシンコがいる。ゴリさん、山さんにタバコを差し出し、長さんが火を付ける。この時代、タバコは男たちの重要なコミニュケーション・ツールであり、心情の共感のアイテムでもあった。うまそうにタバコを吸う山さん。

 殿下の枕元には麻江が付き添っている。「よかった・・・よかったわね」涙を流す麻江。それをじっと見つめるボスも泣いている。

 工場の外にボスが出てくる。長さん、シンコ、ゴリさん、山さん。一係の仲間たち。ジーパンは「島さん、立ち直れるでしょうか?」「立ち直るさ、あいつには家族がいる。恋人がいる。そして俺たちがいる」とボス。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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