太陽にほえろ! 1973・第45話「怒れ!マカロニ」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第45話「怒れ!マカロニ」(1973. 5.25 脚本・永原秀一、峯尾基三 監督・山本迪夫)
高岡健二さんゲストによる、久々のマカロニ回。高岡健二さんは、元々、加橋かつみさんが脱退したザ・タイガースのオーディションに落ちて、「あの日渚で」で歌手デビューするもヒット曲が出ずに引退を考えていた。ちょうど渡辺プロダクションが「ドラマ部」を設立することになり、マネージャーのすすめで俳優に転向。俳優デビュー作が、この「怒れ!マカロニ」だった。
新宿、ゴールデン街近く都電の線路跡で男の遺体が発見される。竜神会の幹部・水上吾郎(吉中正一・NC)である。ドスによる出血死。考えられるのは梶田組の仕業だった。「縄張り争いなんて、今時流行りませんね」とマカロニ。「シマあってのヤクザだ。今も昔も変わりはせんよ」とボス。山さんとゴリさんが梶田組を洗う。一方、梶田組の事務所ではチンピラの早川清(高岡健二)が兄貴分から、犯行の仔細を聞いている。「化け物でも見たみたいにぶったまげたんですね」自首した清は、自慢げに教わった通りのことを自供する。
七曲署。ボスがマカロニ「お前、早川清って男知っているか?」吾郎殺しの容疑者・清はマカロニの中学時代の同級生だったのだ。取調室で再会する同級生。山さんはマカロニに早川を任せる。鑑識によると早川が持ってきたドスが被害者の血液と一致。しかしスラスラと自供する早川に、山さんは疑問を持つ。ボスは「身代わりって線でも」調べるように指示する。
マカロニに「こう見えたって俺は梶田組の看板を背負っているんだぜ」と嘯く清。「俺はこれでやっと一人前の男になれるんだ」という清に怒りを隠せないマカロニは、清のアパートへ。そこには清と暮らしている、原田由美(井上れい子)がいた。
井上れい子さんは、ファッション・モデル出身。昭和44年、フジテレビ「ズバリ当てましょう」の司会・泉助さんのアシスタント(先代は加山雄三夫人となる松本めぐみさん)となる。テレビでは「スター誕生!」(NTV)で番組開始の昭和47(1972)年から昭和55(1980)年まで、萩本欽一さんのアシスタントをしていた女の子。そして昭和48年4月7日公開の市川崑監督『股旅』で、ショーケンと共演。これが映画デビューとなった。なので、その直後に再び、本作でショーケンと再共演したことになる。この後、市川崑監督『吾輩は猫である』(1975年)にも出演することになる。
小田急線沿線のアパートは、綺麗に片付いていて、清と由美の暮らしが伺える。部屋には「妊娠から出産まで」の本がある。など由美に、清との関係を聞くマカロニ。由美は食堂のウエイトレスをしている。深夜1時に帰ってき由美れい子は、一晩中泣いていたという。中学時代を知っているマカロニは、清が人殺しなどできないと信じている。「子供が生まれるんだろ?」「子供なんて作れるわけないじゃない。あれ、姉の本なの」。
原田由美の務める中華料理店で、彼女の履歴書を見るマカロニ。「姉さんなんていないじゃないか」。新宿西口公園。れい子がマカロニを呼び出し「清は人殺しなんかしていません。信じてください」と本当のことを告白するれい子。犯行時刻にはアパートで由美と一緒にいたという。「もう一度聞きます。あなたに子供ができたことを奴は知っているのですか?」。
「清は知らないわ。言えばどうせ堕ろせっていうでしょうし。私、どうしても清の赤ちゃんを産みたいんだ」「また連絡します」。取調室で清は「自分がやった」と、山さんと根比べ。そこへマカロニからの報告。「昨夜、水上五郎が殺された11時から12時の間、お前、自分のアパートにいたそうじゃないか」と山さん。
「殺ったのは誰なんだ? 代理に立てと言ったのは誰なんだ?」黙秘する清。「お前がムショでの務めを終えて出てくる頃には、お前の子供は小学生か」「なんのことだよ」「お前、知らなかったのか?」由美の妊娠を告げる山さん。「俺の子供、俺の赤ん坊・・・」心が動く清。
ホシの見当はついていると山さん。「本当に見当ついているのかよ?」「お前が考えているほど、警察は間抜けじゃないんだよ」。清、少し考えて「刑事さん・・・」と真実を話しだす。一方、梶田組では、マカロニ、長さん、ごりさんが手入れ。植松(木村博人)が水上吾郎殺しの容疑で逮捕される。釈放される清。
ボスに「とりあえず、この街を出ろ」と言われる清。梶田組は自白した清を狙っている。マカロニがボディガード役を命ぜられる。さらにボスは「長さん、頼むよ」とお目付役を依頼。七曲署に、清を迎えにきている由美。しかし清は「俺はもう釈放されたんだ。自由なんだ」と、「街を出ていけ」というマカロニの言葉を聞かない。
孕っている由美を気遣う清。「まさか組に戻るつもりじゃないだろう?」とマカロニ。しかし清は詫びを入れたら許してもらえる、と信じている。甘いねえ。そんな清たちを髭の怪しい男が付けている。マカロニが気づいて、喫茶店に入る三人。BGMはチェリッシュの「ひまわりの小径」。清によれば、髭の男は梶田組の山中。何かを思いついたマカロニ。清に「お前、詫びを入れたら組が許してくれるって、言っただろ。試してみようじゃないか」。
喫茶店から出てくる三人を山中がつける。マカロニが別方向へ。そのタイミングで「待ちな、清!」「事務所へくるんだ。その前にちょっと痛い思いをしてもらうぞ」。しかし清の白いジャケットを着ていたのはマカロニだった。山中とマカロニの格闘。そこへ長さん「もう、気が済んだだろ」。山中を逮捕する。「清、見ただろ、これがやくざだよ」「清、街を出よう。やくざの世界から足を洗うチャンスじゃない!」。
うなづく清。国鉄・新宿駅から故郷へ。「やくざなんかなるなよ」「ああ、ガキが出来るからな、いつまでもヤクザなんかしちゃいられないよ」幸せそうな二人を、ホームまでマカロニが送ろうとする。そこへ梶田組の連中が現れ、三人にナイフを突きつける。トイレに連れ込まれ、ボコボコにされるマカロニ。
清と由美は? ああ、これは渡哲也さんの「無頼シリーズ」でよくあったパターン。映画だと大抵二人は、駅で殺されてしまうけど。今回、永原&峯尾脚本は、その若い二人の行方まできちんと描いていく。テレビ映画を通して、僕らはやくざ映画や日活ニューアクションの残り香を体験していたんだなぁ。
さて、マカロニは手錠を嵌められて便所の中で気を失っている。気づいて抜け出すマカロニ。新宿駅でのロケーションはリアル。安本英さんのキャメラは生々しく、当時の新宿の空気を切り取っている。
梶田組の事務所では、清が幹部の工藤(和崎俊也)に「責任とって指をつめろ」と迫られている。拒む清。「そんなことしちゃダメよ」と由美。しかし清は、自ら小指に刃物をかけようとする。そこへ工藤が親切ごかしに「待ちなよ。お前の指なんか貰っても、俺は嬉しかない」「じゃ、どうすれば?」。足を洗って由美と故郷に帰るのも止めない。その代わりに一つだけ頼みがある。ほらキタキタ。工藤を演じている和崎俊也さんは、東映京都でデビュー『武士道残酷物語』(1963年)などに出演、松竹に移籍して『宇宙大怪獣ギララ』(1967年)の主演を果たす。
「なんでもやります」と清。工藤は、竜神会の大貸・田所(田中浩)を「殺ってこい」と命令する。反対する由美に手を掛けるやくざ。田中浩さんは三船プロに所属し、映画テレビに出演。「太陽にほえろ!」でも5回ほどゲスト出演している。また梶田組のやくざ役で、「宇宙猿人ゴリ」(CX)の遠矢孝信さんも出演している、
「やめろ、その女の腹の中には俺の子供がいるんだ」。そんなこと言っちゃダメだよ。「殺るのか殺らねえのか」と工藤。由美を人質に取られてしまった清は「殺ればいいんでしょう?」ああバカだねぇ。梶田組は竜神会との抗争のコマに清を利用しているだけ。工藤が組事務所に戻ると、マカロニが待っていた。「由美と清?そんなものは知りませんね」と工藤。マカロニはチンピラを銃刀訃報所持でしょっぴく。清と由美のことを言わないチンピラにドスを突きつけ「清はどこなの? おい、デカだって刺したいときは刺すんだ」と脅す。ダーティ刑事だね。
ビビったチンピラは「竜神会の代貸の田所を殺りに行った」。田所は、1丁目のゴルフ練習場と聞いて走るマカロニ。練習を追え、田所がトイレに入ると、そこへドスを持った清が現れる。もみあう田所と清。ドスを持ったまま、田所を追う清。田所は車で逃走。そこへマカロニが到着するが、清は逃げ去る。一方、梶田組では、このタイミングで竜神会と「和睦」を結ぼうと、工藤が田所と会う。
「生命を狙われるっていうのは、気分のいいもんじゃない」この調子で抗争を続けていたら「俺たちはいつか共倒れになる。この辺り手を打とうじゃないか」と田所。「肝心のシマはどうなる」と工藤。2年前の取り決め通り、竜神会は西口から手を引いて梶田組のものに。「あのガキはいい度胸だった。まいったよ」と田所。
清は工藤が始末をすると田所に約束する。その交渉の場に張り込んでいたマカロニにボスは「署に戻ってこい」と。しかし、そこへ清が現れる・・・。一方、ボスは梶田組と竜神会が手打ちをすれば由美が危ないと、ゴリさんに梶田組から由美を連れ出してこいと命じる。
清はマカロニに「どうなっているのか?わからなくなった」と戸惑いを隠せない。マカロニは清に工藤に電話しさせて、向こうの出方をみようとする。工藤は清に「竜神会の事務所の近くにいます。今から奴を殺ります」と伝える。しかし工藤は「竜神会とは話がついた。お前にも辛い思いをさせたな。女を返してやるぜ。お前を小幹部にしてやる」。それにまた喜ぶ清。ダメな奴だなぁ。
工藤は「川っぷちの第三倉庫」で由美が待っていると清に告げる。「お前本気で工藤を信じているのか?」「あったりまえだろ」。やくざの汚さを伝えるマカロニ、「工藤さんだけは違う」と清。「違うか違わないか。ついて来い!」とマカロニ。一方、ゴリさんは梶田組のやくざを助手席に手錠で繋ぎ、クルマを急発進、急停車を繰り返す。ついにチンピラは恐怖に耐えかねて、由美の居場所を吐く。ゴリさん、かなりのダーティ刑事だね。
第三倉庫。清「工藤さん。由美は?」。大笑いする工藤たち「お前はどこまでオメデタく出来ているんだ」と、清と由美を殺すと告げる。そこにマカロニがあらわれるが、裏切られた清は拳銃を構えて「俺は工藤を殺す」。「由美と新生活を始めるんだろう?」とマカロニ。
「やくざなんてそんなに甘いもんじゃねえ。一度足を突っ込んだら、堅気になんか慣れやしねえんだ。どこへ逃げたって追っかけてきて、足を引っ張ろうとする。そう言ったのはお前じゃねえか!」と清。マカロニに言われたセリフのリフレインである。「どうせパクられたって、何ヶ月かすればこいつ(工藤)は出されてしまうんだよ。だから、足を洗おうと思うんなら、こいつを殺すしかねえんだよ」。
マカロニの銃口は清に向けられている。悲しい目のマカロニ。諦めの飄々で、拳銃を降ろして「好きにやってくれよ」とその場をどく。工藤は「よせ、清。撃たないでくれ。頼むよ。俺は死にたかねえんだ。俺が悪かった。謝る。どんなことしてでも謝るから」と懇願する。情けないね。
そこへ「清!」と由美の声。由美をちらりと見て、振り切るように工藤に銃口を向ける。「やめろ!早川」ボスの声。「生まれてくる子供のことを考えろ」。清の顔。マカロニの顔。近づくボス。次第に拳銃をおろす清。ゴリさん、長さんが梶田組の男たちを逮捕する。
清に寄り添う由美は、深くマカロニに頭を下げる。「殺させてやりたかったっすよ」マカロニ、ボスに言う。黙って、マカロニを小突くボス。ひとり残るマカロニ。味わい深いラストである。