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『忍びの者 新・霧隠才蔵』(1966年2月12日・大映京都・森一生)

 市川雷蔵主演、忍者映画シリーズ第7作。第4作『霧隠才蔵』(1964年・田中徳三)からの「霧隠才蔵篇」としては4本目となる。第6作『伊賀屋敷』(1965年・森一生)では、息子・才助(雷蔵)が二代目を演じたが、今回は第4作のラストでも描かれた「大阪夏の陣」で千姫(小村雪子)が、祖父・家康(小沢栄太郎)に夫・豊臣秀頼を助けて欲しいと懇願するところから始まる。脚本は第5作まで手がけ、シリーズのテイストを作ってきた高岩肇。

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 つまり、第4作『霧隠才蔵』のクライマックスから分岐した物語。第5作『続・霧隠才蔵』(1964年・池広一夫)での才蔵は、「大阪夏の陣」で自刃せずに生き延びた真田幸村(城健三朗)と息子・大助(小林勝彦)と薩摩に逃れ、島津藩の島津家久(五味龍太郎)の庇護を受け、徳川家康(小沢栄太郎)への復讐の時を待つ。しかし、本作では史実通り、幸村は「大阪夏の陣」で秀頼と共に亡くなっている。家康による忍者狩りはますます厳しく、かろうじて生き残った伊賀忍者たちは、音羽弥藤次(内田朝雄)を首領に、駿府に潜伏、家康暗殺の機会を狙っていた。そこへ霧隠才蔵が加わる。しかし、家康は、伊賀の宿敵でもある甲賀の流れを汲む、風魔一族の風魔大十郎(田村高廣)たちを箱根から呼び寄せて、伊賀忍者を迎え撃つ。

 第4作『霧隠才蔵』からこの第7作『続・霧隠才蔵』へジャンプして観ても、話の展開は納得できる。MCU『スパイダーマン:ノー・ウエイ・ホーム』(2021年)ではないが、「忍びの者」もマルチバースなのである。徳川家康役は、第4作の小沢栄太郎さんに戻っているし、島津家久役は第5作と同じ、五味龍太郎が演じている。

 これまでは歴史の中の「忍びの者」という切り口で、巨大な権力に抗い、単身、豊臣秀吉や徳川家康といった「巨大な悪」に挑む雷蔵の忍者が描かれていた。今回は、空前の忍者ブームをリードしていたシリーズにふさわしく、最初から最後まで「伊賀忍者V S風魔一族」の忍者たちの壮絶な闘いが、それこそ何ラウンドも繰り広げられる。それを眺めているだけで、血湧き肉躍る。当時、年少観客も、この映画には夢中になっただろう。白戸三平の「忍者武芸帖」「サスケ」や、横山光輝の「伊賀の影丸」などの忍者漫画のヴィジュアルさながらに、忍者たちが、空を跳梁し、手裏剣を投げ、九字を切り、火遁、土遁の術を次々と繰り出す。伊賀忍者に紅一点、藤村志保演じるくノ一、茜がいて、彼女がまたカッコいい。いつもは悪役の千波丈太郎が才蔵の相棒的な鴉左源太、伊達三郎が鈴鹿の陣太、木村玄が竜口の黒造と、才蔵をサポートする。

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 一方、徳川家康は、齢75歳となり、自分の死が近いことを察して、徳川幕府を磐石にするための手を次々と打つ。参勤交代による人質政策、自分の子供たちや孫たちを、諸国の大名に嫁がせて、姻戚関係を結んで、大名たちを支配する。二代将軍・徳川秀忠(南条新太郎)の裏で、着々と体制固めを強化していた。1番の腹心・天海僧正(佐々木孝丸)は、密かに伊賀忍者に間者=スパイを送り込み、彼らの動静を逐一探っていた。果たして間者は誰なのか?

 前半、駿府城に忍び込んだ才蔵たちが、家康の寝間を狙うが、城内にはさまざまなトラップが仕掛けてある。鶯板が貼ってある廊下、槍衾、釣天井などなど、しかも風魔一族が伊賀忍者たちを迎え撃つための準備を万端にしている。才蔵の仲間は殺され、風魔にダメージを与えたものの、必死になって逃げたのが千姫の侍女・弥生(楠侑子)の部屋。弥生は、長宗我部盛親の姪で“家康憎し”だったために、家康暗殺を目論む才蔵に協力を申し出る。

 伊賀忍者も、大阪城以来千姫(小村雪子)の侍女を務め、現在は駿府城にいる弥生(楠侑子)から、家康の動向を常に確認していた。弥生は自らスパイとなっていたのだ。さらに茜も、酌婦として駿府城の御用人から情報を聞き出し、それが前述の駿府城への忍び込みに繋がった。こうした「諜報戦」は、この頃、雷蔵が主演していた「陸軍中野学校」シリーズ同様「007映画」の大ヒットによるスパイ映画ブームを反映している。

 伊賀忍者の地下の隠れ家が風魔一族に急襲され、リーダーの音羽弥藤次が絶命。死に際に「くの一は忍者でなかった」の言葉を残して・・・ 才蔵の仲間たちが1人、また1人殺されて、ついには三人だけになってしまう。果たして間者は誰か? 鴉左源太はくノ一・茜が怪しいと睨む。しかし茜は身の潔白を証明するため、駿府へ向かう秀忠の行列に単身乗り込んでいく。第1作と第2作で石川五右衛門(雷蔵)が愛した女性・マキを演じた藤村志保の、キリリとした“くノ一”ぶりがカッコいい。女として才蔵に惚れ抜き、忍者としての使命も全うしようとする。

 風魔一族の猛攻により、伊賀忍者は、才蔵と茜の2人になってしまう。しかも家康は病死。自分たちの目的は果たしたと茜は、才蔵との平穏は日々を望む。しかし才蔵は、徳川家を根絶やしにするのが自分の宿命だと、闘いを続けることを表明。茜に「幸せな人生を送って欲しい」と(いつものように)優しい言葉を残して、箱根の風魔一族の本拠地に乗り込む。

 クライマックス、雪が降る隠れ里での霧隠才蔵V S風魔一族のバトル・アクションが。とにかくカッコいい。全ての忍者を倒して、いよいよボス・風魔大十郎との一騎打ちとなる。互角の力を持つ、才蔵と大十郎の闘いは、これまでのシリーズのなかで最も「忍者映画」らしいヴィジュアルが展開される。

 娯楽映画研究所シアタースクリーンに投影したが、幼き日、忍者に夢中になったことを思い出しながら大興奮!


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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