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『脅迫の影』(1959年4月22日・日活・若杉光夫)

若杉光夫監督『脅迫の影』(1959年4月22日・日活)。61分のSP映画で、ワンアイデア、全員悪人のピカレスク・ノワール。原作の門雪男「劉は生きている」のタイトル通りの展開。

 横浜。野毛あたりの連れ込みホテルの工事現場に、闇ドルブローカーのフランク・劉(清水将夫)を、彼の手先だったバーテン・島(青山恭二)が案内してくる。そこには、ドル買いの下回りに嫌気が差していた、仙田(山内明)、中村(大町文夫)、工藤(黒野信男)が待ち構えていて、劉を襲ってキャッシュの入ったカバンを奪う。劉の止めを指したのは主犯格の仙田。カバンにはドルが入っていず、現金120万円のみだったが、それを四人で分けて、それぞれの暮らしに戻る。といった滑り出し。

山内明が少しふっくらしているが、それが悪党ヅラをさらに悪く見せている。博打好きの工藤は、早速賭場で派手に負けてしまう。その賭場のシーンに、若き日の米倉斉加年が登場。さすが劇団民藝の映画! 子供を四人抱えて生活苦の中村は、なんとかこの金で屋台を再開させて生活を立て直そうとする。それぞれの事情。

主人公の青山恭二は、恋人・幸子(高田敏江)とアパートを借りて束の間の幸せを得る。しかも、劉に「お前は信用できる」と多額のドルが隠されている隠し金庫の鍵を預かっていた。一万ドルもの現金を独り占めして、幸子との将来はこれで安泰と思ったのも束の間。工藤は車に轢き殺され、中村も不審死、さらには主犯の仙田も殺されてしまう。

しかも劉の死体は、冒頭のホテルの殺害現場から消えていた…果たして劉は生きているのか? 次々と届く脅迫のメッセージ。登場人物全員が悪人なので、ヒロインの高田敏江も金に目が眩んで、もしも劉が生きていたら、殺してしまえばいい、と恐ろしい提案まで…

若杉光夫といえば青春映画や、清く正くつましく生きる庶民の映画、というイメージがあるが、これは鈴木英夫の『悪の階段』(1965年・東宝)のようなタイプの金に目が眩んだ男と女のピカレスク・ノワール。低予算のSP映画なので、かえってロケーションが効果的。あー、面白いと楽しんでいるうちに、予想通りの「破滅」が待っているけど、これまた見事な幕切れ!やっぱり、映画は見てみないと、わからない(笑)


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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